12月21日 土曜日
【コロンビア】 メデジン
目が覚めると、カオリさんの願いもむなしく蝶々が羽化していた。
「びえええええええええええんんん!!!!!かえっちゃったよおおおお!!!!プレゼントに出来ないよおおおおおお!!!!」
この世の終わりみたいに嘆いているカオリさん。
すごいな、あんな小さなサナギからちゃんと蝶々になるんだ。
しかも生まれたてからこんなに鮮やかな色彩だなんて、生物の神秘を感じずにはいられない。
「ああああ………やっぱり冷蔵庫に入れとくべきだったぁ………」
ゴロゴロ転がりながら悲しんでるカオリさん。
だから冷蔵庫入れたら死にます(´Д` )
あ、ここにも蝶々が。
サナギ。
羽化。
朝からこんなに貴重なものを見られて、今日はいい事がありそうな気がする。
でも問題なのは歌えないこと。
こんなにいい街なのにことごとく歌えない。
あー、アメリカの南部でもずっとこんなストレスを感じてたな。
でもやらなきゃいけない。
カオリさんの家ではご飯を作ることが俺たち宿泊者のルール。
宿代はかからなくても毎晩の食費は確実にかかっていく。
これ以上お金を減らすわけにはいかない。
先日、市役所に許可をもらいに行ったときに、ライセンスはもう定員になっているけど土曜日のイベントでは自由にやっていいわよという情報をもらっていた。
指くわえているわけにはいかない。
やらないと。
みんなでタクシーに乗り、セントロにある公園にやってきた。
暖かな日差しの中、公園には無数の露店が並ぶフリーマーケットのような催し物が行われていた。
骨董品、アクセサリー、木の工芸品、編み物などなど、様々なお店がひしめき、たくさんの人で賑わっている。
ギターを弾いてパフォーマンスしている人もいる。
ドレッドにアジアンな服を着た欧米人ヒッピーたちも編み物を売りながらマリファナを自由に吸っていたりする。
よし、ここならやり放題だぞ。
公園の目の前には、先日注意された歩行者天国のショッピングストリートがある。
今日もものすごくたくさんの人が歩いており、路上にこれ以上ないくらいピッタリの空気。
ここではライセンスが必要なのは分かっている。
でもバザーの影響もあり、セキュリティもゆるそうになっている。
ちょこっとだけここでやってみようかな。
スパパッと路上でギターを取り出し、ハーモニカを構える。
もうこの時点でかなりの人だかりが出来上がる。
セキュリティの人たちもチラチラとこっちを見ている。
ええい、やっちまえ。
道を塞ぐほどの人だかり。
絶え間無く入るお金。
稼げる。
半端じゃなく稼げる。
でも分かってますよ。
セキュリティの人がずっと人だかりに混じって見ていること(´Д` )
知らないフリをして、お金を入れてくれた子供に折り鶴を渡して微笑ましい空間を作りつづける。
無害な男なのです、コロンビアマジ大好きですオーラを出しまくってセキュリティの人たちにアピールし続け、それが功を奏したのか、セキュリティの人たちも微笑んでお金を入れてくれて、君はここでいつでもやっていいわ。問題ないわよと言われてイヤッホウ!!…………
まぁならないですよね。
止められてしまった。
セキュリティの人たちも、歌を聴いてくれてる人だかりの手前、演奏ストップは言いづらそう。
だからこそすぐに止めずに1時間の猶予をくれたのかな。
「あと2曲で終わりにしてね。」
申し訳なさそうに言ってくれるお姉さん。
時間くれてありがとうございました。
2曲ガッツリ歌って、わずか1時間で4万ペソは超えるあがりが足元にたまった。
1時間で20ドル。
コロンビアは稼げる。
場所さえ良ければだけど。
チクショー、ライセンス取れてればなぁ…………
仕方なくフリーマーケットをやってる公園に戻り、出店の隙間で演奏再開。
人だかりはできるがお金の入りはボチボチ。
でもここではなんぼやっても何も注意されない。
これまで場所をずっと探してたからなぁ。セキュリティを気にせず自由に歌えるということがたまらなく解き放たれた気分だ。
カオリさんやサキちゃん、ケータ君もナオコちゃんも見に来てくれ、話したがりのおじちゃんとかの相手をみんなにしてもらいながら日が暮れるまで歌い続けた。
歌い疲れてギターをしまっていると、1人の男の子が何かを持ってやってきた。
最初からずっと聞いてくれていた男の子だ。
何かを差し出してきた。
それは木で作ったオシャレなお香立てだった。
とまどう俺にニッコリ笑って差し出してくる。
どうやらこの男の子は、すぐ向こうで木工の露店を出していた家族の子。
公園での演奏中、ずっと近くで歌を聴いてくれていた。
これはどう見ても売り物。
それを俺に渡そうとしている。
でもこれを荷物として持ち歩くのはきつい。買うことはできない。
戸惑っていると、その子の家族がやってきた。
「あの、これいくらですか?」
「何言ってるのよ。プレゼントよ。たくさん歌を聴かせてもらったからね。」
男の子は恥ずかしそうに、でも人懐こく近づいてくる。
その瞳がたまらなく可愛くて、小さな体を抱きしめた。
そんな様子を微笑みながら見ているお母さんやお姉ちゃん。
子供は周りを幸せにする。
その存在自体が宝物だ。
カオリさんの家に帰ると、サキちゃんが晩ご飯を作ってくれていた。
おお、なんていい女だ。
アボガドのクリームパスタ、鳥の甘辛煮、スープ。
もうね、惚れるしか出来ない。
可愛いだけじゃなくて気配り上手な上に料理もめちゃ美味い。
こんな旅女子見たことないよ。
美味しいものをたくさん食べて、久しぶりに喉が枯れるまで歌いまくって、今日のあがりは、
91000ペソ。48ドル。
はぁ………やったぞ。
久しぶりにちゃんと稼げたぞ。
でもこれは今日がフリーマーケットだったから。
明日は何もない。
この稼ぎを毎日叩き出さないといけないんだけどなぁ………
明日は日曜。
お店はほとんど閉まるので歌えないかな。
とにかく今日は充実した1日にできた。
そのことに感謝しよう。
蝶々のおかげかな。
小さなサナギがあんなに美しい蝶々に生まれ変わるという自然の節理。
解放という羽化。
では人間としての羽化は何に当てはまるのかな。
そんなことまだわかんないな。
きっと誰でも美しい羽を持っていると思いたい。
んー、ちょっと大げさかな。
寝よ寝よ。