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ピストルとヒッチハイク 後編

ホンジュラスはなかなか大きい国だけど、このエルサルバドルとニカラグアの間にはほんの少しだけかぶっているだけなので、すぐに抜けられる。



途中にチョルテカっていう町があるみたいなので、そこ乗り換えで次の国境まで行けるだろう。



って真面目に考えてるそばから、ニカラグア国境ー!!って叫んでる人がいるので楽なもんだ。

バスの客引きに聞くと、ここから次のニカラグア国境まで、ダイレクトのバンだと6ドル。
チョルテカ乗り換えのローカルバスだと、チョルテカまでが1.5ドル。
そこから国境までが1.5ドル、計3ドルってわけだ。時間は1時間。


もちろんローカルバスで行こうかい。


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すでに待機していたボロボロのバスに乗り込んだ。















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開け放たれた窓から密林の風が吹き込む。

そのジャングルの中にポツポツと見えるバラック小屋には洗濯物が干してあり、外で裸の子供が遊んでいる。


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もはやここが21世紀なのかよくわからなくなる光景が窓の外に飛び去っていく。
彼らの目には、日本の暮らしはどう映るんだろうな。

貧しさなんて、通貨というものが作り出す幻想でしかないのかもしれない。
だって彼らは自然に抱かれて生きてるんだもん。

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そんな窓の外を眺めていると、バスの集金係が国境までなら今3ドル払っといて、と言ってくるので、お、乗り換えしないでいいんだ、楽じゃんと3ドルを渡したんだけど、これがいけなかった。

チョルテカに到着してから、あそこから国境行き出てるからじゃあね、と素知らぬ顔で逃げようとしてきた 。


「おい、てめー国境までで3ドルって言ったじゃねえか?」


「え?ナンノコトデスカ?フジヤマ、ハラキリ、ギブミーチョコレート。」


そうしらばっくれながらブーンと走り去って行った。








……………いいんだよ、たった150円ぼってきただけだから。
たった150円だもん。
痛くも痒くもないよ、そんなの。

おのれチクショオオアアアアア!!!
コケにしくさったなアンニャロウ!!!



と怒り狂っていると、チーノが怒ってるぞ!!チーノチーノ!!チョンチンチュン!!アチョーアチョー!!とアホな奴らが冷やかしてくるけど、アホだからしょうがない。

仕方ないのでそこらへんのバンに国境までいくら?と聞くと、ちょっと間があいて3.5ドルと言ってくる。

完全に乗せてやがる。
わかりやしいんだよコノヤロウ!!


警察がいたので国境どうやって行けばいいですか?2ドルしかないんですと言うと、一緒にバスを探してくれた。

警察基本優しいですね。


そしてお巡りさんが見つけてくれたバスに2ドル?と聞くと、そうだよー!!ホラ!!早く荷物を積んで!!と急かされ、急いで乗り込んで走り出してから3ドルでございますると言ってくる。


あははー、もう聞き間違いとかしないもんねー、最近現地人としか話してないからスペイン語も少し慣れてるんだよねー、ドスとトレスくらい聞き分けられるわ!!なめんな!!と言うと、2ドルでいいよ、と言ってくる。


え?何その折れてあげた感じ(´・_・`)



ホンジュラス、エルサルバドルと違っていきなりボッタクリ大好きですのでご注意。

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ボッタクリ、カッコワルイ。








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30分で2ドルのバスはあっという間にホンジュラスとニカラグアの国境、ワサウラという町に到着。

その頃にはすでに太陽が背後に傾いていた。

崩壊したバッグをこれ以上引きずるとバッグの意味をなさないくらい穴が開いてしまうので、頑張って担ぎ上げた。



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馬が家の前につながれ、道で火が燃えているカオスにもほどがある道を歩きホンジュラスのカスタムへ。
ホンジュラスの出国税なし。

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ここから先はまた橋になっており、国の境となっている川の上を歩いていく。

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橋にかかっている看板が目にとまる。
あれ?なんで日の丸が記載してあるんだろう。

こんな山奥のローカルな国境で日の丸?

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橋の欄干にこんなプレートがはめられていた。

スペイン語なので読めない。
もしかしたらこの橋の建設に日本が携わったのかな。
だとしたらすごいもんだ。

日本は世界中になにかしらの支援をしているという話は少し知っていたけど、こうして実際に見てみると、日本の先進国としての勤勉ぶりが誇らしく思える。

でもここらに暮らしてる人たちはジャパニーズとチーノの違いもわかってないけどね。

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橋の上から見渡す密林と、赤く燃える山々の連なりが旅情をかきたてる。
ずいぶん遠くまで来たなぁって思える。

ふと牧水の歌が浮かぶ。



いく山河 越えさりゆけば 寂しさの
果てなむくにぞ 今日も旅する

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ニカラグア側に到着。
よく分かりづらい建物の中に入っていき、イミグレーションにやってきた。


「はい、入国税20ドルねー。」


スーパー愛想のないオッさんがテキトーにそんなことを言ってくる。
20ドルだと!?んなわけあるか!?


「本当に20ドルですか?」


「あ?20ドルったら20ドルなんだよ。払わんならどいて。」


そう言って後ろのおばさんのパスポートをチェックしだすオッさん。


すると隣の窓口で手続きしていたおじさんが俺にこっそりジェスチャーをしてきた。

指で11というふうに言っている。

そして今度は9を作り、その手を懐に入れる仕草をした。

なるほどね。
じゃあ11ドル払おうか。


いや、この警察のオッさん、今俺に20ドルだと言った手前、それを変更させたら彼の面子を潰すことになる。
国境警察を敵に回していいことなんてひとつもない。

ここは大人しく言われた通りにするか。







そして窓口にそっと11ドルを出した。


「なんだこれは?20だって言っただろう?」


「そこのおじさんが11ドルだと教えてくれました。」


「…………ふん、あと1ドルだ。12ドルでいいよ。」


12ドルで交渉成立。
あれ?ここイミグレーションですよね?
警察ですらこれ。



という感じで無事南下3ヶ月目、ニカラグアに入国!!

まぁまぁ広い国で、ここからだと北から南まで国を走破しないと抜けられない。


辺りはもう真っ暗。

普通ならバスの客引きや物売りが突進してくるところだけど、すでに人の姿はほとんどない。

ジャングルの中なので蚊がものすごい勢いで群がってくる。
周りには町はないので、今夜はもうこのあたりで野宿をかますしかないか。








「おーい、どこに行くんだー?」


その時、英語で誰かが声をかけてきた。
見てみると、それはトラックのドライバーだった。
ここは国境なので、たくさんのトラックがチェック待ちの列を作っている。


「首都のマナグアまで行きたいです。」


「おー、行くところだから乗せてってやろうかー。」



「マジですか!!イヤッホウ!!」


「そこのゲートでチェックを受けるから、ゲートの向こう側で待っててくれよー。ところでお前は奥さんはいるのか?」


「いや、奥さんじゃなくて彼女がいます。」


「ふーん、そうかー。空手は出来るのかい?」


「いや、出来ません。」


「そうかそうか、日本人でもみんなが出来るわけじゃないんだなー。ところでお前イミグレーションで20ドル取られただろ?あいつらやりすぎだよなぁ。あれ嘘だからな。ヒドイ話だよ。」


「いや、12ドルで通してくれましたよ。」


「お、本当か!やるなお前!!」



人の良さそうなおじさん。
まだ国に入ったばかりで何もわからない中、夜のヒッチハイクは結構怖いけれど、彼なら大丈夫だろう。

ただ奥さんの存在を聞いてきたことで、もしかしたら同性愛者かな?とふと思った。













言われた通りゲートの外まで歩き、道端で待っていると、20分くらいしておじさんのトラックがやってきた。

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巨大なトラックはゆっくりとスピードを落として道路脇に止まった。



「よーし、乗りなー。」


俺の大きな荷物を上から引き上げてくれ、トラックに乗り込む。
広いスペースで、運転席の後ろには彼のベッドがあり、ちょっとしたホテルみたいに設備が整っている。
日本のトラックもこんな感じだったな。


「荷物は後ろな。でベッドに座ってくれ。前に座るとセキュリティがうるさい時があるからな。」


そんなもんかと思いながら、外からあまり見えないように後ろのベッドに座る。





すると何やらおじさん、窓から外の誰かと話をしている。

スペイン語なので内容はわからない。

すると次の瞬間、1人の男がトラックに乗り込んできた。


え?と焦った。
緊張が体を走った。




(強盗…………)



一瞬にしてその言葉が頭に浮かんだ。

これ、マズイかもしれない。
仲間かもしれない。

こういう話どこかで聞いたことある。



ヤバいと思った時、なんとさらにもう1人、ガラの悪そうな男が上がってきて、俺の横にどさりと座った。


「彼らもマナグアに行きたいんだってさー。よし、じゃあ行こうかー。」


やっぱり降りますという言葉を躊躇しているうちに、トラックは走り出した。








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体がこわばる。

トラックはすでにジャングルの中の民家もないような暗闇の中を走っている。

対向車もほとんどない。


もしかしたら、あの20分の間にカモを捕まえたぞとおじさんが電話をかけ、この2人を呼んだのかもしれない。

今襲われたらひとたまりもない。




後ろの見えないところに座るんだ。

空手をやってるか。




あの時の質問も、全てがツジツマが合っている。
悪いイメージが頭を支配する。



大丈夫、彼らはそんな人たちじゃない。
ドライバーのおじさんもいい人じゃんか。


そう自分に言い聞かせる。

でもすぐに動けるように周りの物の位置に目を配りながら、さとられないように彼らの楽しそうな会話に愛想よく相づちを打っていた。






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大声で会話してる彼ら。
盛り上がって笑っているが、俺は何を言ってるかわからないし、緊張でそれどころではない。

これがあと3時間ほど続くのかと思うととてつもなく長く感じた。

トラックのエンジン音が低くうなりを上げる。









すると、助手席の男がみんなに何かを見せ始めた。

ライトで照らして見せると、アハハー、と他の2人が笑った。



暗くてよく見えない。

ライトにキラリと光る何か。

なんだ、あれ?





するとその助手席の男は俺にそれを向けた。


ピストルだった。


ライトにキラリと光っていたのは開いた弾倉に装填された6発の弾丸だった。

カチリと弾倉を戻す男。









全身から汗が噴き出す。

頭が痺れて後頭部を殴られたみたいな衝撃が手足まで走った。




「え、あ、あ、な、なんでそんなのも、も、ももももも、持ってるの?」


「へへへー、この辺りじゃ普通のことさ。初めて見たのかい?」


「へへへへ…………」




男はピストルをケースに入れてバッグの中にしまった。




終わった。

終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった終わった


殺される。

金もiPhoneも全部とられる。

最悪撃たれてそこらへんのジャングルに捨てられるかもしれない。

日本人旅行者行方不明の新聞の見出しが、リアルに頭に浮かぶ。

銀色の弾が体に食い込むイメージが思考を支配する。



このままさらにひと気のないところに連れていかれ、隣にピタリと座っている男に羽交い締めにされてベッドに押しつけられる。

もしかしたら同性愛者だということも本当で犯されて殺されるかもしれない。



暑くないのに額から汗が流れる。
手汗と足汗でビショビショになる。


それでも悟られないように、盛り上がってる彼らの話に必死の思いで愛想笑いを作るしかない。


俺には腕力なんかない。
あるのは愛想くらいだ。


なんとかしないと、なんとかしないと、なんとかしないと。



笑い声が響く和やかな車内。
でも俺は今にも吐きそうだった。
動悸が止まらず、トラックに乗り込んだ迂闊だった行動を後悔するにようやく至った。

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しばらくしてトラックがスピードを落とした。

きた!!!

ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!

金だけで許してもらわないと!!なんとか命だけは!!!



トラックはゆっくりとバックし、広い駐車場の中に止まった。
どうやら道路脇のトラック用のパーキングエリアだった。


駐車場にはたくさんの人がいた。

隣に音楽を爆音で流してる店がある。

そしてウロウロと歩いている肌を露出した女たち。

そうか、彼女たちはトラックドライバーを狙った娼婦たちか。

外灯に照らされた砂利のパーキングエリアに治安の悪そうな空気が充満している。



「き、休憩するのかい?」


「今夜はここまでだ。サンホセには明日の朝に着かないといけない。ここで寝て早朝に出発さ。」


ひとまずこの閉塞感から逃れるためにトラックを降りて煙草に火をつけた。

深く吸い込んで吐き出した。

どんな状況だこれ。



「チーノ、あそこにホテルがある。8ドルさ。あそこに泊まって朝の3時にここに来て一緒に出発するか、それともこの中で寝るか?2段ベッドだからお前の寝る場所もあるぞ。」



考えるまでもない。


「わかりました。2段ベッドで寝させてください。」


「わかった。じゃあ俺はそこでシャワー浴びて飯食ってくるからテキトーに待っててくれ。」


おじさんは寝巻きに着替えてパーキングエリアの奥の建物に歩いて行った。

他に乗ってた男たちもハンモックやらなんやらを取り出して、トラックの荷台に入って行った。








深く吸い込んで吐き出す。

赤道が近づき、湿気を含んだ夜の空気が肌にまとわりつく。

今朝ファビオの家でシャワーを浴びる時間がなかったので、もう4日間、この熱帯の真夏の中を駆け抜けてきた。

新鮮な汗の臭いが体を包む。

怪しい危険な雰囲気が中米の夜を包む。


もう心はだいぶ落ち着いていた。

彼らがやる気なら、もうとっくにやっている。
逃げるチャンスを与えてくれたり、ホテルを教えてくれたり、こんなに人の多いところまで来た時点で彼らは物盗りではない。






「おー!!チーノチーノ!!チーノだぞー!!」


爆音を流しているお店から酔っ払った男たちが出てきて取り囲まれた。

何かをわめいているが敵意はなさそう。

すると男たちが娼婦たちを呼んだ。


「さぁ!!どれがいい!!くわえてくれるぞ!!チーノだって好きなんだろう!!たった8ドルだぜ!!」


「ほら!!こいつなんていいオッパイだろう!!触ってみな!!」


「アハハハハー!!」


ケバい化粧にこれでもかと言うほど体を露出した女が俺の体をいやらしくなでてくる。

それを見てニヤニヤ笑っている他の娼婦たち。

娼婦と酔っ払いに囲まれ、普段ならもう少し楽しめてもいいシチュエーションなんだけど、今はそんな気分じゃない。


お腹空いたから、と酔っ払いをなんとか振り払ってトラックの中に逃げ込んだ。











暗い中、バッグから朝買ったパンとポテトチップスを取り出した。

朝から何も食べてなかったのに、緊張で空腹も感じていなかった。

暑い車内でパンにかじりつく。





大丈夫、俺は不死身だから!!

って今まで口ぐせみたいに言ってきたけど……………






今回だけはマジで死ぬかと思ったぁ…………

ケータ君、ヒッチハイクで中米を下るって言ってたけど、Wi-Fiが手に入ったらすぐにメール送ろう。

絶対やめとけって。





蒸し暑いトラックの中、2段ベッドの上に体を横たえた。






【中米ローカルバス南下】 4日目


★サンミゲル~サンタロサリマ
1ドル 30分



★サンタロサリマ~フロンテーラ
1ドル 20分



★フロンテーラ~チョルテカ
1.5ドル 騙されて3ドル 1時間



★チョルテカ~ワサウラフロンテーラ
2ドル 30分



★フロンテーラ~6キロ先の町まで
1ドル 10分



★6キロ先の町~マナグア
5ドル 4時間


でもトラックヒッチハイクでフロンテーラからマナグアまで3ドル




小計 10ドル

合計 24.5ドル


国際バス 126ドル





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