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トゥモローイズアナザーデイ 前編

11月27日 水曜日
【グアテマラ】 サンクリストバル デラ フロンテーラ





朝方、いつの間にかウトウトしていた。

長い1日の疲れで、あんなことがあった夜なのに、体は眠りを欲していた。






外から話し声が聞こえる。

薄目を開けると、すでに外は明るくなっていた。

ボロボロの廃車の中で体を折り曲げて横になっていたので、節々が痛い。


汗まみれになっていたので、もはや汚い車の中でもあまり気にならなかった。








コンコンとドアをノックする音がした。

顔を向けると、そこにはグロスがいた。
彼は仕事をしていて、朝の7時に出勤すると言っていた。
俺も一緒に出なければいけない。


力なく笑顔を作り、グッドモーニングと言う。
英語が少し喋れるグロスもグッドモーニングと言う。


車を降りて、凝り固まった体を伸ばそうとした時、視界に信じられないものがうつった。


廃車が止めてある、ガレージの中に、ゆうべの腐れメッシが笑顔で立っていた。




は?


は!??


思考が一瞬ストップする。



そして次の瞬間にはボケメッシに飛びかかっていた。


「オラァ!!てめぇ俺のiPhoneどこにやったこの野郎おおお!!!」


力任せに突き飛ばすとメッシは壁にぶつかってよろめいた。

一晩中溜め込んだ怒りが一瞬にして爆発して、身体中の毛穴が開くような感覚。



「どこにやったか聞いてんだよコラアア!!??なめてんじゃねぇぞああああ!!!」


「て、テイキットイージー、テイキットイージー!!」


ゆうべたくさんの仲間がいて、さらに酒を飲んでいた腐れメッシ。
ふてぶてしくニヤついていたくせに、あの威勢はどこにいった?って気弱さ。


俺もあの大人数ではとても歯向かえないけど、こいつ1人だったらナイフくらい出されてもひるまないぞ。



「お前がやったってわかってんだよああああああ!!?!!ぶっ殺すぞコラアアア!!!!」


「ノーノー……知らない、知らない………」


まだ静まり返っている朝の町の中、もはや近所中を叩き起こすくらいの俺の怒鳴り声が響き渡る。


すると、廃虚みたいなブロック作りの家の中からグロスの家族が飛び出してきた。


母親と父親、そしてたくさんの小さな子供たち。

中学生くらいの男の子から、中にはまだ5歳くらいの女の子もいる。



すると母親が間に入ってきた。


怯えた顔をしながら俺を玄関の外に押し出そうとしてくる。

体が半分くらい外に出たところで、母親は扉を力任せに閉めようとしてきた。

腐れメッシもその影に隠れながら扉を押してくる。


「オラァァァァアアアア!!!!何逃げてんだコラアアアア!!!出てこいや!!?ああ!?出て来いやてめーよおおお!!!!」


でっぷりとした体格の母親が顔を歪めながら扉を押している。
その顔の真ん前で叫ぶ俺。


「お母さん!!こいつはね!!俺のiPhoneを盗んだんですよ?!さらにセロテと言いながらビールを投げつけたんです!!」


「び、ビールを………」



その瞬間、母親の押す力が緩んだ。

中に飛び込むとひるんだ顔をした腐れメッシ。


てめー、もう逃がさねぇぞ、と詰め寄ろうとしたその時、いきなり後ろで見ていたグロスが俺の前に立ちはだかった。


何邪魔してんだグロス!!と思った次の瞬間、グロスのパンチが腐れメッシの顔に放たれた。

クリーンヒットはしなかったが、お互いにヒートアップし、取っ組み合いになったところを母親が止めに入る。


小さな子供たちは放心状態でその様子を見ている。
父親は悲しそうにうつむいていた。




「フミ!!出よう!!もうここを出よう!!」


興奮して声が震えているグロス。
お前がそんなにキレることはないだろうと、一緒に玄関を出た。


「あのクソ野郎はいつも俺たちの家族をめちゃくちゃにしやがる。もう何度目かわからないよ!!」


「おい、グロス、ていうかなんであいつがお前の家にいるんだ?お前昨日あいつのこと知らないって言ったよな?」


「あの野郎は俺の母親と同じとこで働いてるんだ。だからたまに泊りに来るんだよ。チクショウめー………」


なんだか腑に落ちないところだらけだけど、怒り狂ってるグロスを見ると気の毒になってきた。


「フミ、とにかく今はバッグを見つけるためにバス会社に電話しよう。そこの公衆電話でかけてあげるよ。」


そう言ってグロスは自分のお金で電話をかけてくれ、事情を説明してくれる。


「11時には着くそうだよ………これからどうするんだい?ずっと待っとくの?」


「いや、あいつの居場所は分かった。今から警察に行って一緒に捕まえに行く。」


「フミ、やめた方がいい。警察は何もしてくれないよ。それに何度も行くとフミが目をつけられてしまうよ。」


「分かってる、でも黙ってるよりマシだ。」


「分かったよ……でも俺は仕事があるからこれでもう行かないと。」



グロスと握手をした。
いろいろと世話になったねと礼を言い、国境のゲートをくぐってエルサルバドルに仕事に出かけたグロスを見送った。









俺はその足で警察署へ。

昨日も来たこのオフィス。

暇そうなおじさんがデスクにいた。

事情を拙いスペイン語で説明する。





そして返ってきた返事はこう。



「俺たちは何もできない。」


犯人の家を知ってる、そいつはそこにいる。
何度も説明するが、軽くあしらわれるだけだった。

ガックリと肩を落としてオフィスを出る。
しかしそれと同時に闘志も湧いてくる。

腐った警察が何もしてくれないなら、俺が自分の手でやるしかない。

すぐにメッシの家に直行した。











朝8時の鋭い日差しがジリジリと照りつける。
11月も終わりだというのに季節は完全に夏だ。
去年のこの頃はユーゴスラビアあたりで雪にまみれて死にかけていたな………

そんなことを思いながら、メッシの家の前でひたすらあいつが出てくるのを待ち続けた。


建設途中みたいな簡素な家が並ぶ通りに立つ1人のアジア人。
アジア人なんてほとんど見たこともないこの村の人たちからしたら、不審者以外の何物でもない。

遠巻きからチラチラと見てくるおばさんやおじさん。



でも関係ねぇ。
この家の中に潜んでいるボケをとっ捕まえて白状させてやる。









しばらくすると、隣の家のおじさんが話しかけてきた。
人の良さそうな鼻ヒゲのおじさん。


「オラー、俺はギターが大好きなんだよー。ところでどうしたんだい?チーノ。」


「ここの家の人が僕の電話を盗んだんです。」


「むむむ……そうか、ちょっと待ってな。」



そう言っておじさんはメッシの家に入って行った。
すぐにドアが開いた。

メッシのママがいた。
さっき俺を締め出そうとしたママ。



中に入るやいなや、俺はそのまま家の中に走り込んだ。


「オラアアアアアア!!!どこに隠れてやがるボケエエエエ!!!出てこんかコラーーー!!!!」



ボロボロの家の中は窓もドアもないのに薄暗く、黒ずんだ布団がコンクリートの床に並べてある。
カビとか生活の様々な臭いが充満しており、不快さしかなかった。
はっきり言ってひどい暮らしだ。


ママが近寄ってきて、俺に何か言ってきた。
何を言ってるかわかない。
ジェスチャーをしてくれるが、ジェスチャーというものも、国が違うと変わるものなんだよな。



手の表と裏をパン!!と打ち合わせて見せるママ。

少ししてわかった。

もうここにはいないよとのことだった。


「どこにいったんですか?」


「メヒコ、メヒコ。」



逃げた!!逃げやがった!!
俺がグロスと家を離れた隙に逃げやがった!!
チクショウ!!!


メキシコだと………
もうどうしようもねぇじゃねぇか………












トボトボと歩いた。

身体中の力が出ていったみたいだ。

天気はとても良く、太陽がさんさんと輝き、ぬるい風が砂埃を巻き上げる。


昨日のバーの方に行ってみた。

バラック作りの小さな商店がいくつか並び、道路に並べられたテーブルでおばちゃんが何かを焼いている。

色は鮮やかなのに、まるで白黒映画の中にいるような、そんな田舎の村。






階段に座り込む。

iPhoneは消えた。
でもバッグはまだ可能性がある。

本当に俺のバッグなら、今日のお昼にここに来るはず。

それまで待たないといけない。











ぼーっと座り込んでいた。

こんな辺鄙な山村にアジア人が1人で座り込んでいる光景がよほど珍しいのか、人々がチラチラと見てくる。

でも話しかけてはこない。

よほど俺がイラついた顔をしていたのか。






「ヘーイ、どうしたんだいメーン?何か困ってるのかい?俺に話してみなよメーン?」


顔を上げると、そこには昨日の夜に声をかけてきたタンクトップの兄さんがいた。
ボブマーリーのドントウォーリービーハッピーを歌ってた陽気な兄さん。
名前をトト。


時間はいくらでもあるし、彼に話をしてみた。


「あー、今理解したぜメーン。そんなことがあったのか。やるべきことはやったのかいメーン?警察には話したかいメーン?」


昔アメリカに働きに行ってたことがあるトト。
まぁまぁ英語が話せるんだけど、語尾に必ずメーンをつける。
これがクールな英語だと思ってるみたい。


それからトトと警察に行った。


テキトーそうな外見とは違って、親身に、一生懸命説明してくれるトト。

でも警察は浮かない顔で首を横に振るだけ。


「トト、なんて言ってるの?」


「フミ、分かるかいメーン。フミはチーノさ。グアテマラ人じゃない。外国人の揉め事になんて関わってる暇はないってことさメーン。」


「でも一緒に探すくらいしてくれてもいいじゃないか。」


「今パトカーがないから何も出来ないってさメーン。こんな小さな村なのにパトカーがないと何も出来ないっていうふざけた話さメーン。行こう。」


トトと一緒にポリスオフィスを出ると、そこにはパトカーが止まっていた。

呆然とする俺。


「これがここの警察さメーン。」














「ホラ、ここに座りな。ここは俺の家族のお店だから好きなだけいていいからさメーン。」


トトの家族はこの村のメインストリートの真ん中にお店を構えている。
食事、バー、衣料品、日用品、なんでも置いてる。

トトのママがニッコリ笑ってくれる。



店先の崩れそうな木のベンチに座ってトトと話をする。


「は?メーン?今朝メッシを見つけてファイトしたのかいメーン?どこでだい?」


「グロスの家だよ。なんであのバカがグロスの家にいたのかわからないけど、グロスはママとメッシが一緒に仕事をしてるからって言ってたよ。」





その時、トトの口から信じられない言葉が飛び出した。







「はぁ?何言ってんだメーン?そこはメッシの家だぜメーン?」


「は?」


「メッシはママの息子さ。メッシとグロスは兄弟だぜメーン?知らなかったのか?」





全てがつながった。





後編へ。

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