11月2日 土曜日
【メキシコ】 オアハカ
「もー、2人とも夜中に帰ってきてうるさかったんだからねー。三河屋でーす!とか言って。」
深夜に酔っ払いに叩き起こされて、さぞかし俺たちと同じ部屋になったことを後悔してらっしゃることでしょう………申し訳ないフミちゃん………
洗濯物ありがとうね………
うう………体がダルい………
やっと風邪が治りかけてたのにあんなにバカ騒ぎしてしまった………
「あああ……気持ち悪いっちゃー……頭ガンガンするー………」
ケータ君もフラフラしながらシャワーを浴びに行っている。
もうお昼前だ。
俺もシャワー浴びて歌いに行かないと。
あ、そういえば昨日、Gのハーモニカの調子が悪かったんだよな。
チェックしてみると、
はい壊れてる。
またかよおおおおおお!!!!!
音が出なくなってるとこと、半音近く狂ってるとこがある。
なんなんだよチクショウ!!
これこの前、ロサンゼルスでケンジさんと買いに行ったやつだぞ!!
すぐ壊れるの嫌なんですって言ってちょっと高めのやつを買ったのに!!!
まだ2ヶ月くらいしか経ってねぇぞボケがああああああ!!!!
はぁ………
いくら自分で修理しようとしても余計に音が出なくなるだけなので、仕方なく楽器屋さんにハーモニカ買いに行きました。
いくらくらいするかなぁ……チックショー………
そしてお祭り期間なのでもちろん閉まってますよね。
うん、知ってます。
……………
宿に戻ってゴミ箱の中にダンクシュートしていたハーモニカを取り出して、組み立て直し、だましだまし使うことに。
新しいの手に入るまでこれでなんとかやるか。
早くどっかで買わないとな。
酒と風邪と連日の路上の疲れでヘロヘロになっているけど、歌いに行こうか………
今日がフェスティバルのメインの日なんだけど、お昼のうちはまだまだ静かなもの。
みんな夜のためにエネルギーを温存してるかのようだ。
市場の食堂で食べたモーレという料理。25ペソ、190円くらい。
そんな町で演奏開始。
やべぇ、全然声が出ねぇ。高音を出そうとして声が裏返ってしまう。
根性、根性で微調整しながら歌い続ける。
しかし、もうやめとけと言わんばかりにいきなりのスコールが降ってきた。
分かりました、もうやめときます。
あがりは1時間で226ペソ。1700円てとこか。
宿に戻り、大人しく日記を書いているとフミちゃんが帰ってきた。
明日カンクンに向かうというフミちゃん。
パタパタとパソコンと格闘している。
外からは賑やかな日本人たちの声。
いやー!!キャー!!と女の子たちがはしゃいでいる。
フミちゃんはそこには混ざろうとはしない。
「金丸さーん!!やりましょうよー!!」
「そうですよー!!楽しいですよー!!」
顔中にペイントをしてるケータ君がやってきた。
美女軍団もテンションが上がってウキウキしてる。
本当はこんなに誘われてるならやるべきだとも思う。
別に顔に塗りたくることが恥ずかしいわけでもない。
人づきあいが面倒なわけでもない。
ただ人と同じことをするのが嫌いなだけ。
赤信号みんなで渡れば怖くないみたいになることを、団体の一員になることをずっと避けてきた。
そのせいで、金丸君ってなに考えるかわからなくて怖い、みたいに言われることが学生のころからよくあった。
今でこそ、ある程度の社交性は身についたと思うけど、根本は変わっていない。
ヒトミちゃんたちのことは好きだけど遠慮させてもらった。
ノリ悪くてごめんね。
みんなが出かけた後、1人宿を出た。
広場に向かって行くにつれ、ドンドンと人ごみが増えて行き、ソカロに到着するとそこはすでにドンチャン騒ぎのものすごい活気に溢れかえっていた。
ブラスバンドの賑やかだけど、どこか哀愁に満ちたメロディ。
それにあわせて踊る人々。
おじさんもおばさんも顔を白く塗り、年季の入った衣装を着てステップを踏む。
教会の塔 石壁の冷たさ
通り過ぎていったいくつもの時代
染みついた哀愁と今夜の盛り
肌にうっすらと汗を浮かべながら
メインストリートは人ごみで埋め尽くされていた。
もはやライブのモッシュができるくらいの人口密度だ。
その間をかき分けながら奥の教会を目指す。
誰もが笑っている。
それとも悲しんでいるのか。
俺はどんな顔に見えているのか。
ペイントしてしてしまえば、誰にもわからなくなる。
この夜は誰のものでもないのに、手のひらの砂のように隙間から夜の黒が垂れていく。
そこに残るために、俺は人ごみを掻き分ける。
教会が見えてきた。
人ごみの中にひときわ背の高いアジア人がいた。
「おーい!こりゃすごいね!!」
松岡さんだ。
「こんな混雑になるんですねー!!」
「少し歩こうかー!!」
楽しげな人々の中、俺たちも紛れ込んで歩いた。
昨日のバーに行き、通りに面したテラスの席で人混みを見下ろしながら乾杯。
洪水のような人波が眼下の通りを流れていく。
この前松岡さんがとても興味深いことをおっしゃっていた。
「人々の生活は表面的に見ると、とても楽しげに見える。しかしそれが日常化していくとそこに嫌悪が生まれる。その嫌悪の先にこそ本当の暮らしがあり、人間のリアルがある。」
ジム・ジュームッシュからの引用らしいけど、松岡さんのように10代のころから世界中を旅し、国籍人種を超えた生き方をしてる人には、きっと俺なんかよりもはるかに深い人間の生活が見えているんだろう。
俺のような旅は表面をなでるだけでしかない。
しかし、そこで暮らしてみればまったく違う色の表情が見えてくるはず。
湖の水面と水中では見えるものは別世界であるように。
松岡さんはさらに続ける。
フェアではないと。
松岡さんはインターネットの世界で仕事をしている。
パソコンひとつで世界どこでも生きていける人だ。
しかしそこに暮らしている人は、そこを離れることはできない。
どれほど馴染んだとしても、暮らしという檻の中で生きる人たちと一緒の檻の中に入ることはできない。
それではやはり同じ景色を見ることは永遠に不可能なんだ。
「もっとこうね、もっとニュートラルな、真っさらな視線で見るところから始まっていくものなんだよな。お、サルサだ。ちょっと行ってくる。」
ビールをグイと傾けて席を立ち、女の人の手を取って踊り始める松岡さん。
メキシコで松岡さんに会えてよかったな。
こういう感覚の研ぎ澄まされた方と時間をともにすると、色んなインスピレーションをもらえる。
それから松岡さんの友達のメキシコ人とペルー人の女性がやってきて、遅れて美女軍団と遊んでいたケータ君もやってきた。
多いに盛り上がり、今夜もしたたか飲んだ。
お店を出ると、深夜の通りはさっきまでの人ごみがすっかり消えて、外灯が寂しげに石畳を照らしていた。
これで長かった松岡さんとの日々も終わり。
俺たちはここでお別れになる。
「まぁ、年明けくらいにブエノスアイレスにいるからタイミングが合ったら向こうで会おう。タンゴのクラブに連れてってあげるよ。」
松岡さん、本当にありがとうございました!!!
松岡さんのおかげで、ラテンアメリカの楽しみ方をほんの少し理解できた気がします!!
「ねぇ~、お兄さん遊ばない~?」
せっかくの真面目なお別れの場面に乱入してくるおばさん立ちんぼ。
俺たちがいい雰囲気で話してるのにずっと真横でね~ね~言ってる(´Д` )
「ったくしょうがねぇなぁ。まぁ楽しかったよこの数日。また会おう!!」
颯爽と夜の町に消えて行った松岡さん。
松岡さん、楽しかったです。
そしてとても刺激になりました。
世界で生きるということの本当の意味を垣間見させてもらった気がします。
世界一周は動物園巡りではない。
自分と違うものをほうほうと眺めているなんて寂しすぎる。
しかし本当の意味の暮らしの檻の中に入ることは、俺たちには出来ない。
だからこそ、地球に生きる俺たちは人との出会いを大切にして、自分の人生に活かしていかないといけない。
旅なんてしてるうちはまだまだってこったな。
「金丸さんー、話が難しいっちゃー。」
「んー、まぁタコスでも食べて帰ろうか。」
ケータ君と2人、寝静まった町を宿に帰った。
http://youtu.be/ZBpEOw9ee9Q
死者の日の盛り上がりのワンシーンを撮ったので、お時間ある時に見てみてください^_^