10月19日 土曜日
【メキシコ】 メキシコシティー
部屋の人と仲良くなった。
日焼けした、精悍なおじさん旅人。
彼はアメリカからバスでメキシコシティーまで降りてきたらしいんだけど、乗ってきたバスに面白いマークが描いてあったんだそう。
まずアメリカからの国境が、ティファナやメヒカリなどのようなメジャーなボーダーではなく、ちょうど真ん中あたりの、絶対にそこからは行くな、近づくなと言われていた超危険地帯のボーダーをチョイスしてます。
この時点でもうおかしい(´Д` )
そして乗ってたバスに描かれてた絵なんだけど、長距離バスってそのバスのオプションを表示するマークがバスの車体に描かれています。
Wi-Fi有り、トイレ有り、リクライニング有り、とかそんなマーク。
そのマークの中に、このバスは防弾ですっていう絵が描いてあったらしいです。
おーおー、そいつは安心だね!!これならピストルでもマシンガンでも平気だね!! ナイスオプション!!
ってなるか!!!逆に絶対乗りたくねぇわそんなバス!!
これから先、北斗の拳みたいな無法地帯がいっぱいあるんだろうなぁ。
中南米を旅する人たちは、ガンガン危険地帯に飛び込むイカれた人たちが多いけど、俺は絶対にそんな危ないとこには行かないぞ。
ちゃんと情報を集めて、安全なルートを選ばないと。
さて、今日は土曜日。
松岡さんと通っているサルサ教室は月曜日の夜、水曜日の夜、そして土曜日のお昼となっている。
土曜日は来る人が少ないらしいんだけど、少しでも覚えたいので今日も行くことに。
ギターを持って、大混雑のメトロバスに乗り込むと、向こうの車両に頭ひとつ飛び抜けたアジア人が。
松岡さんだ。
同じバスになるなんて気が合うなぁ。
「土曜日はあんまり人が集まらないんだよねー。誰も来てない可能性もあるなぁ。」
なんて話しながら教室に到着。
中に入ると、案の定誰も来てなかった。
そのうち誰か来るだろうと思いながら、仕方ないので松岡さんにサルサのステップを教えてもらって2人で練習。
笑顔をなくした女性、アリシア先生は向こうでデスクワークをしている。
「もう今日は誰も来ないね。帰ろうか。」
帰ろうとしたらアリシア先生が声をかけてきた。
「あんたはなかなか筋がいい。いつメキシコシティーを出るの?それまでちゃんとクラスを取ればいいでしょ。」
ちゃんと有料クラスに入ると、なかなか授業料は高い。
でも筋がいいって言われたのは嬉しいな。
もう彼女に笑わせないぞ!!
おだやかな土曜日の並木道。
木漏れ日が気持ちいい。
松岡さんと歩いて、日本食品のスーパーマーケット、ミカサにやってきた。
「週末だけ表で屋台が出るんだよね。このうどん、なかなか美味しいんだよ。」
メキシコシティーには日本人や日系人がかなり多く住んでいるようで、このミカサは有名なスーパーマーケット。
まぁ日本の食品がなんでも売ってる。
ただし激高。
カップラーメンが65ペソ、500円。
ご飯ですよに至っては100ペソ、800円くらいする。
メキシコで800円とかめちゃくちゃ高級品だよ。
そんなマーケットの前で、日本食の屋台が週末だけ出店される。
すでにたくさんの人でごった返しており、座るスペースもないくらい。
メニューはまぁ全部注文したくなるようなものばかり。
シャケの焼きおにぎり、焼き鳥、アスパラベーコン、などなど。
そして、うどん!!
ここのかき揚げうどん、マジでスーパー美味い。
この旅の中で食べた感動的な日本食ランキング、
カナダのナオトさんのカツ丼、
ニューヨークの天上人さんの手料理
に並んでTOP3に入った。
最近飲みすぎでガタガタになっていた体に、濃いめのダシが染み渡っていく。
これが週末だけじゃなかったら毎日食べたいところだ。
かき揚げうどん35ペソ。280円。
さて腹ごしらえもしたし、歌いに出かけるぞ。
松岡さんと分かれて、コヨアカンへ向かった。
今日は夜にリックの友達の家でのハロウィンパーティーに誘われている。
コヨアカンで路上をやってそのまま向かおう。
てなわけでいつもの地下鉄の通路にやってきた。
のだが、前回やった時はなかったのに、スピーカーから通路に音楽が流されていた。
これじゃ演奏が出来ない。
仕方なく、もう少し中に入って改札の近くで強行突破してやろうと演奏開始。
一瞬で人だかりが出来て、まだ1曲目の1番も歌い切ってないのに10ペソ以上が足元にたまった。
うおっしゃ、これならめちゃ稼げるぞ!!!
はい警察。
まぁ分かってますよ。
そうです分かってます。
「ここでやったらダメよー。地上でやんなさいー。」
すごすごと地下鉄から出て、コヨアカンの街をさまよう。
どこか歌えるところはないかなぁ。
路地裏、映画館、モールの周りをグルグル回るが、良さそうな場所はどこにもない。
しばらくすると、パラパラと雨が降り出した。
そしてわずか3分もしないうちにスコールになった。
凄まじい大雨。
メキシコシティーは夕方になると雨が降り出すとは聞いていたけど、こういうことか。
建物の影に逃げ込み、通行人みんなで雨宿り。
道路はあっという間に冠水し、かなりの水たまりができている。
そこをタクシーが滝のように水をはねながら走っていく。
ドガーン!!という雷鳴が光りと時差なく轟き、みんなヒャア!!と声をあげる。
なんだよ、この天気。
勘弁してくれ(´Д` )
結局雨は止むことなく、ダッシュで近くのスターバックスに駆け込んだ。
ああ、今日も路上が出来なかった。
土曜日だってのに!!!
夜の待ち合わせ時間になると、松岡さんが濡れながらスターバックスにやってきた。
「いやー、ひどい雨だね。これじよぁパーティーもほとんど人来ないんじゃない?」
きっとそうだろうなぁ。
俺もギター持ってるし、一瞬もういいかなって思ってしまったけど、いやいや、約束は約束。
どんな状況だろうが、約束は可能な限り守らないと。
実はもう1人このスターバックスで待ち合わせをしている。
彼は日本人。
俺は初めて会う人。
松岡さんのお友達でもない。
ではなぜ知り合いなのか?
一体何者なのか?
それは………
それはですね………
あ!!来た!!!
日本人が入ってきた!!
この人です!!!!
苦情は受け付けません!!
ヒントはランキングの中の誰かです。
TOP10の門番、タビジュンさんの壁がなかなか越えられない男です。
「はじめまして!!」
「はじめましてー!!金丸さん」
「ハロウィンなので仮装の道具は持ってきましたか?」
「これ、さっき買ってきたとです。」
ルチャリブレのマスク(´Д` )
考えること一瞬(´Д` )
さて、タクシーに乗って3人でリックの友達の家へ。
雨の住宅街はひと気もなく、雨音以外聞こえない。
街路樹の下、走る影。
「ここだよね?」
「はい、多分この家だと思うんですけど。」
「でもこの格好で家間違えたらてげヤベェっちゃねぇと?」
雨の夜、家の前をウロウロする謎のルチャリブレ2人と190cmを超える巨人。
どっからどう見てもただの強盗団。
もし間違ってたら警察に通報される!!と思いながらドキドキで家の呼び鈴を鳴らす。
ギギギ……とドアが開く。
そして出てきたのは…………
もう中には無数のイカれた人たち。
赤い照明、ゆらめくロウソクの灯り、怪しい音楽が爆音で流れるそこは個人の家だった。
ゾンビメイクやフランケンシュタイン、バンパイアなど、クールにキメた人たちがフラフラと体を揺らしてグラスを傾けている。
変なマスクをかぶった人がいきなら抱きついてきた。
リックだった。
「ハイ、フミ、来てくれて嬉しいよ。主催者を紹介するよ。ビー、彼は日本の友達なんだ。」
「OK、こっちへ来て。お酒を作りましょう。あなたにはメイクが必要みたいね。」
クルクルとミラーボールが回る。
煙がその光で染まる。
ゾンビたちの影がゆらめく。
意識がドンドンと深い谷に落ちていく。
まどろんで、まどろんで、
そこから先はあまり覚えてない。