10月12日 土曜日
【メキシコ】 バス移動 ~ メキシコシティー
こ、腰が…………
バキバキすぎる…………
ずっと地面を歩いてなかったから足がガクガクだ…………
いくら快適なバスでも40時間の移動はやっぱりキツイ。
このバスの中で2回目の朝日を拝み、よく眠れずに頭がボンヤリしてるうちにバスはメキシコシティーのターミナルに滑り込んだ。
おおおお………やっと着いた………
運転手さん、ご苦労様でした………
昼前11時のターミナルはガヤガヤととても賑やかだ。
荷物運びの人たちが群がってきて、運ばせてくれええええ!!と懇願してくるが、大丈夫ですとお断りする。
タクシーの呼び込みもやってくるが、ここの人たちはそれほどアグレッシブではない。
断ればサッと引いてくれるし、セントロまで行きたいんですと言えばカタコトの英語で丁寧に説明してくれる。
「タクシーだと120ペソだけど、バスだったら4ペソさ!!」
おじちゃんに地下鉄の場所を教えてもらい、駅にやってきた。
こ、これが世界でも屈指の大都会、メキシコシティーか………
ものすごい数の人たちが足早に行き交い、疲れてフラフラしてる俺を弾き飛ばす勢いで歩いている。
階段には物乞いのおばさんが座り込み、その横でオモチャとか生活用品とかの小物を売る人々。
大きな声で売り文句を叫び、その前を無表情のメキシコ人たちが通り過ぎている。
久しぶりの都会の雑踏が、息苦しくも心地いい。
普段ならこのせわしさに胸焼けを起こすところだけど、どうやらメキシコの空気はそんなに悪くないみたい。
この街にはどんな面白いことが待ってるかな。
旅らしくなってきた。
メヒカリで会ったリックからもらっていた地下鉄の切符を持って、プラットホームへ。
言葉は一切わからないが、身振り手振りで尋ねれば、みんなどの電車に乗ればいいかとても親切に教えてくれる。
田舎に比べるとみんな首はあるけど、みんな親切。
電車に乗り込んだ瞬間、いきなりものすごい爆音が聞こえた。
なんだなんだ!?
ふと見ると、車両の端から小さなテレビを持ったおじさんが、背中にスピーカーを背負って爆音で音楽を流しながら、チップを要求してまわってきた。
こ、これでお金要求するか。
電車の車内で演奏をする強引なバスキングはパリにたくさんいたけど、メキシコではただ音楽を流すだけ。爆音で。
チップをもらうには選曲命ってとこでしょうか。
オッさんもどうだい?ってDJ気分でドヤ顔でチップを要求してきます。
ちなみにこのおじさんの選曲、知りたいですか?
ヨーロッパのファイナルカウントダウンです。
ヤバすぎるでしょう。
電車入った瞬間、メキシカンのオッさんがドヤ顔でファイナルカウントダウンですからね。
マジで飲んでた水、ぶちまけるとこやった。
メキシコのレベル高すぎるわ。
これジェニファーさんがいたら、腹よじれるほど笑ってただろうなぁ。
さて、かたときも飽きさせてくれないメキシコ。
地下鉄を1本乗り換え、あっという間にセントロにやってきた。
あ、ちなみにセントロってのはセンターのこと。
スペイン語ではRの発音がルになるので、はっきりとセントロと言う。
地下鉄から上がるのにエレベーターやエスカレーターなんてのはもちろんなく、重たい荷物をかついで必死に階段を上がるんだけど…………
もう階段から始まっていた。
メキシコシティーの洗礼。
階段の両脇にズラリと並べられた売り物の数々。
ただでさえ狭い階段に、ただでさえものすごい数の人ゴミ。
みんなおしくらまんじゅうで階段を上がっていく。
俺こんな大荷物で入り込む隙間なんてない。
必死の思いで階段を上がって地上に出れば、そこはもう完全にあのエジプトの光景だった。
ごっちゃごちゃと露店がひしめき、まるで迷路のようになっており、その間を凄まじい数の人々が糞詰まりをおこしながら歩いている。
散乱するゴミ、ゴミ、ゴミ。
野良犬たちワン、ワン、ワン。
お腹壊したい人、この指止まれ!!みたいな屋台ではホットドッグが15ペソ、120円で売られてる。
あ、ホットドッグ3個で15ペソね。
人々の怒号のような客引きの声が飛び交い、お店からもスピーカーでガンガン音楽を流しているが、クラクションを鳴らさないところがアラブ人とは違うみたいだ。
熱気と活気が溢れかえり、どうにもソワソワして仕方ない。
楽しい街だ!!メキシコシティー!!
そんな気分にさせてくれるのは、メキシコ人たちの愛嬌のある顔だけではない。
街並みが綺麗なんだ。
いや、もちろん汚い。
とんでもなく汚いしボロボロなんだけど、作り自体は完全にスペインの、あのヨーロッパの石造りの豪壮で華麗なビル。
同じ背の高さの建物がズラーーーーっと一直線にのびるこの風景が、愛するヨーロッパを思い出させてくれる。
植民地時代の街並みを色濃く残すこのメキシコシティーは、地図を見ても懐かしいヨーロッパの作りをしている。
街の真ん中にあるセントロ。
その中心に大聖堂がドンと配置されており、周りに商店街が張り巡らされている。
だとしたら、北米でずっと見なかったあれがあるはず……………
人の流れに乗りながら歩き、角を曲がると、どーんと目に飛び込んだ。
人人人人人人!!!!
街の真ん中を貫く歩行者天国のショッピングストリートだ。
きたきたー!!
これだよ、路上をやるのに最適なこのショッピングストリート!!
ブランド店や化粧品店などの洒落たお店がズラリと並び、ボロい露店は一切出ていない。
とにかく人がすごい!!!
土曜日ってのもあるけど、この広い通りがどこまでも人垣で埋め尽くされている。
ここがメキシコの中心だ!!
つーか、メシイイイイイイイイ!!!!
マトモなメシ食わせてくれええええええ!!!!!
おとといの夕方にメヒカリで中華料理食べてから、もう丸2日、アラレ煎餅しか食べてない。
アホすぎる(´Д` )
よくこんなに元気でいられてんな俺。
というわけで45時間ぶりくらいにありついたハンバーガーとポテト。38ペソと書いてる。3ドル。
ペソはバス代で全部使っていたのでドルは使えない?と聞いてみる。
「ダラーダラー、ダラー。」
「タコスタコス、ナチョス。」
お店の人は英語は一切わかりません。
みんなキョトン顔で、ダラーダラー言ってる俺を猿を見るように眺めます。
ていうか隣の国なのに、ダラーぐらいはせめてわかるだろ?
必死にダラー?ドラー?って言ってたら、鬱陶しくなったみたいでノーノーって相手にされなくなる。
なので財布を出してドルを見せてダラーダラーと言う。
あー!!とパッと顔が明るくなる店員さんたち。
そんで飯にありつけた。
ダラーってなんて発音するんだろうな。
お腹もふくれて、さぁ歌ってみようか!!ってとこなんだが、ひとまず路上は置いといて、今日は行く場所がある。
メヒカリでライブに招待してくれたリック。
彼はメキシコシティーに住んでいる。
着いたらウチに来なよと言ってくれていたのだ。
セントロの中心にある大聖堂もひとまずおあずけ。
リックのとこに泊まれるかはわからないけど、寝床が決まったら荷物を置いてゆっくり散策しよう。
それからまた地下鉄を乗り継ぎ、やってきたのはコヨアカンという地区。
ゴミゴミしてることには変わりないが、駅前に巨大で豪華なショッピングモールがあるようなお金持ち地域みたい。
歩いてる人もみんな小綺麗だ。
ここからリックの家までは歩いて10分くらい。
よし、歌おうかな。
地上はやかましいし、露店だらけでスペースがないので、地下鉄の通路でやってみることに。
アメリカではまず確実に止められるか、許可証の提示を求められていた地下鉄路上。
しかしここはカオスメキシコ。
だいたい何やっても許される。
電車の車内でファイナルカウントダウン鳴らしながらチップをもらおうとする国だもん。
日本人の常識の範囲内なら、え?それがどうしたの?くらいのもんだ。
案の定、まったく注意されることもなく、自由に歌うことができた。
40時間のバス移動からそのまま街の散策、からの路上だからもう体がヘナヘナになってしまっているが、もう俺のポケットにはペソは全然入っていない。
やらなければいけない。
お金の入りはやはりとても渋い。
マジかよ………って凹むくらい悪いが………
まぁ、なかなか女の子にはモテます。
ラテンアメリカの女の子とアジア男子、結構相性いいかもね。
あがりは3時間やって236ペソ。
うん、鼻の下のばしてる場合じゃねぇなこりゃ…………
「ハイ、世界を旅してるのかい?すごい!!」
カタコトの英語で一生懸命話しかけてくれたのは、スケボーを持った18歳の若者だった。
俺の旅のことを興味津々で聞いてくる。
「俺さ、カリフォルニアに行きたいんだ。スケボーとロックが好きだから、カリフォルニアに行ってみたいんだ。」
メキシコから出たことのないという彼の名前はイバン。
荷物をまとめてマクドナルドに行き、しばらく一緒に話をした。
「メキシコはさ、最悪さ。ここを見てよ。このコヨアカンはリッチなエリアだよ。このモールもきらびやかだよね。でもこんなのほんの一部で、ほとんどの人がお金がなくてひどい仕事をしてるんだ。メキシコって国に怒りしかないよ。」
この若さに満ち溢れた将来を持った青年の純粋な瞳が、メキシコの現状をこれでもかというくらい物語っている。
ローカルに暮らしていたら、俺みたいな旅行者には見えないドロドロした部分を毎日のように見てきてるんだろう。
彼の怒りには諦めの色も含まれていた。
「フミ、俺もいつか旅して色んなところに行けるかな。ここにいても、きっと何も変わらないんだ。」
「イバン、志があるならば、実行あるのみ、だぜ。」
と、松陰先生の言葉を思いっきり使わせてもらった。
イバンはニコリと笑った。
「なぁ、もしよかったらウチに来ないかい?旅の話をもっと聞きたいんだ。英語も教えて欲しい。ママに泊めていいか聞くよ。」
そう誘ってくれるイバン。
この疲労困憊した体を一刻も早く休めたいところにすごく有難いお誘い。
でも今夜はリックの家に行く予定だ。
なのだが、実際リックの家に確実に泊まれるかはわからない。
どうしようかな………
悩んだ末、やっぱり最初に行くと言っていたリックの家に向かうことに。
「フミ、メキシコシティーにいるうちにまた必ず会おうね。約束だよ。」
再会を約束してイバンと別れた。
楽しい時間だったな。
イバンありがとう。
さーてと、ちょっと遅くなったけどリックの家に行くとするか。
住所はわかってるから直接向かおう。
途中、手土産にドーナツやらを買い込み、15分ほど歩いてリックのアパートに到着。
もうあたりは真っ暗。
お、Wi-Fi飛んでるじゃん。
着いたよーとメールしようとしたら、リックから連絡が来ていた。
「フミごめん。ちょっと今日疲れたから会うのは明日にしないかい?ホテルはとってるよね?ごめんな。」
………………………
「あ、ああ!!そうか!!そうだよね!!疲れてるとこに行くとか言ってこっちこそごめんね。ホステルに泊まるから大丈夫だよ!!」
「よかった。じゃあ明日にね。」
そっとiPhoneのホームボタンを押す。
こ、こけへほ………
しゃ、シャワーを浴びて、ご飯食べに行って、ビール飲んで、酔っ払って布団に横になって……………
びゅー
冷たい夜風が吹きすさぶ。
イバンの家に泊めてもらえばよかったああああああああああああ(´Д` )!!!!!!
あ、ああ………
倒れるかもしんない………
部屋で眠れると思ってたから、もう体力限界まで来てるのに………
アスファルトの上にへにゃへにゃとへたりこむ。
ど、どうしよう………
もう歩きたくない………
疲れたよぉ……………
気力を振り絞ってバッグを担ぎ上げる。
フラフラとよろめきながら歩く。
どっか、どっか横になれるとこは………
ていうか飯………
お昼のハンバーガーしか食べてない………
しかしもう時間は23時。
住宅地は静まり返っており、何にもない。
はぁ、もうダメだ………
そこらへんにあったベンチに横たわった。
疲れた、もうどんだけ起きてんだろ。
飯も全然食ってない。
寒くて寝袋を取り出して体にかけた。
そしてバッグからアラレ煎餅の残りを取り出して、ガリガリとかじった。
ここはコヨアカン。お金持ちたちのエリア。
なので治安は悪くないのでこの辺で寝ても襲われることはないだろう。
でもやっぱりここは一般的に治安が悪いと言われている国の首都。
体は極限まで疲れているけど、気が張って目が冴える。
眠ったらいけない。
眠ってしまってる時に、もしナイフを振り下ろされたら。
そんな悪いイメージが頭に浮かぶたびに眠気は消えてしまう。
そうだ。iPhoneにダウンロードしてる龍馬伝を見よう。
ずっと見ていればいいんだ。
イヤホンを耳にさし、周りに意識を張り巡らせながら龍馬伝を見る。
たまに人が通ると、iPhoneをサッと隠す。メキシコでiPhoneはとても高級品だから。
ああ………きつ。
お腹空いたな。
武市先生を見習わないと。
武士は食わねど高楊枝やき…………