9月28日 土曜日
【メキシコ】 エンセナダ
よっしゃ髪切るぞおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!
自分で見ても気持ち悪ぃ!!!
髪切ってもてまくってやる!!!
てなわけでインターネットの髪型カタログで入念なるイメージトレーニング。
そしてiPhoneに画像を保存。
これにしてください!!とお願いすればバッチリだろう。
昨日町歩きでだいたいこの町のことは頭に入った。
海沿いのハーバー、それと一本入った裏通りが観光客用のエリアになるんだけど、この辺りはまぁ土産物屋さんやちょっとお高めのレストランしかない。
建物もまぁまぁ綺麗。
そんでここから内陸の方に歩いて行くと、いきなり建物がボロくなり、道の舗装も割れまくった現地人のエリアになる。
タコスやホットドッグなどの安い屋台が道に並び、激安の衣料品店もある。
昨日ここでズボンを買った。
200ペソ。1500円。
廃墟みたいな建物が並び、そこに色んな小さなお店が入っている。
中でもビリヤード台のあるプールバーがめちゃくちゃ多く、カラオケもみんな好きみたいだ。
どっちもゆるキャラ。
スーパーマーケットの雰囲気がただのスーパー玉出。
アラブ圏を思い出すなぁ。
うーん、懐かしい。
熱気がビシビシ肌にくる。
そんな地元エリアの中に散髪屋さんが並ぶ通りを見つけたんだけど、だいたい値段は40~50ペソ。
500円いかない。
アメリカでは1500円が最安値くらいだったから、そろそろいったろうと踏み切ったわけだ怖えええええええ!!!!(´Д` )
髪切るの怖ええええええええ
!!!!!!
だってモデルこれだよ?
全員カリアゲ。
この写真のひとつひとつの違いがわかんねぇよ!!!
やっぱりカリアゲも突き詰めると、この微妙な違いが天と地の差があるのかな。
おい!!俺はこのカリアゲにしたいのにこのもみあげのカリアゲ方が俺の求めるカリアゲと違う違うじゃねぇか!!もっとカリアガッてねぇとカリがアガリきらねぇじゃねぇか!!
まぁそうカリカリしないで。
みたいな喧嘩するのかな。
カリアゲしたくねぇ(´Д` )
「これでフミ君も首なしカットで首なし族の仲間入りやな!!」
ニヤニヤしてるジェニファーさん。
人の髪だと思って!!!
ううう………怖い。
もう2年くらい切ってないし、あんまりお店で切らないから信用できない。
しかもメキシコだし。
もう一度恐る恐る店内をのぞいてみる。
ほらぁぁぁぁぁああああ!!!!!!
カリアゲだしいいいいい!!!!!
なんだこのモデルは!!!
なめてんのか!!!
気持ち悪いわ!!!
カリアゲの違いが全然わからねぇ!!!
でも並んでるお店の中には、オシャレなカリスマ美容師がいるような、お店もある。
よし……ここにしようかな………
「なにゆうてんねん。アカンやろ。ここはこっちで切らなアカンで。」
ジェニファーさんが隣のお店を指差す。
なめんのか?
カリアゲ専門店じゃねぇか?
でも海外で髪を切るというネタとしてはこっちのほうが…………
「大丈夫やで。ホラ見てみ。おばちゃん首ないやろ。優しさの証やで。ここは首なし美容室なんやで。首なしカットしてもろうてフミ君も優しくなろか。」
ついに店に足を踏み入れる。
日本の田舎にある散髪屋って雰囲気。
先客が席につく。
おい坊主?
その頭でこれ以上何を切るというんだ?
頭から下にカバーをかけると、実物大てるてる坊主にしか見えない。
可愛すぎる。
や、やめてくれ!!
そんな悲しそうな顔をしないでくれ!!
腹がよじれるやろが!!
躊躇なくバリカンを入れていくおばちゃん。
されるがままの坊主。
おばちゃんはバリカンの種類を変えながら頭をカリアゲていく。
ていうか隣のおじちゃんもずっとバリカンしか使っていない。
彼らはハサミを使うことがあるのだろうか。
バリカンマスター。
そして!!
坊主に最後の仕上げがほどこされていく!!
すげえ!!髪の毛の生え際を寸分の狂いもなく直線に刈りそろえていくおばちゃん!!
てるてるウォーズマンだ!!!
さらに泡を生え際に塗り、カミソリで入念に剃り上げ、カクカクとした直線を形成していく。
嫌だあああああああ!!!!!!
カリアゲウォーズマンになりたくねぇええええ!!!!
「タコス。デスペラード。」
坊主の頭が仕上がり、空いた席が俺に向けらる。
おばちゃんが俺を見る。
震えながらビニールの固めのシートに座った。
おい!!切りながら爆笑しないでくれ!!
そして…………
なかなか悪くないね。
2年ぶりくらいの散髪。
あー、さっぱりした。
おばちゃんありがとう!!
やっぱり首の短さと優しさは比例する!!
よーし!!!!
気分も一新!!!
今日は土曜日の夜!!
メキシコ初の路上いってみようか!!!!
ギターを持って夜の町にくりだす。
俺の路上を生で見られるとウキウキしているジェニファーさん。
ジェニファーさんからしたら、俺に会いに来てくれたのは、俺とおしゃべりをするためでもなく、放浪旅を味わうためでもなく、もちろん歌を聞くのが1番の目的だよな。
下手な歌は歌えない。
カッコイイとこ見せないと。
土曜日の夜の観光通りはたくさんのネオンが光り、アメリカ人の観光客の姿もまぁまぁある。
歩き回りながら歌えそうなポイントを吟味していく。
あまり中心部に近づくとクラブが爆音を流しているので無理なので、少し離れた場所を探してみるが、なかなかいいポイントを決めきらない。
ニコニコと期待しながらついてきてくれるジェニファーさん。
ぶっちゃけなかなかのプレッシャーだ。
久しぶりの脱欧米。
久しぶりの脱英語圏。
久しぶりの熱気溢れる後進国。
ここで俺の歌が受け入れられるか、このドキドキ感がギターを持つ手に汗をかかせる。
のんびり歌えていたあの空気がいかに楽だったことか。
アラブ圏では野次馬がものすごい人だかりを作って、まったく歌を聴かずにガヤガヤ騒いで、ちょっかい出されて、あがりを盗まれ、とんでもない目に遭ってきた。
そしてここはメキシコ。マリアッチの国だ。
四六時中、ギターを持った流しがハンターのように獲物を探してウロウロしている国なので、誰もがギター弾き語りを空気のように扱う可能性がある。
そしてそんなマリアッチたちの激戦区なので、彼らの組合かなんかがあって、よそ者が歌えないような決まりがあってもおかしくない。
金が稼げるのか、それは今はどうでもいい。
とにかく、この新しい国で、欧米文化とまったく違う中米という場所で、俺の歌が受け入れられるか、それが最重要。
受け入れられなかったら、これからの中南米旅がかなり過酷なことになる。
というか絶望と言ってもいい。
なんとしても活路を見出さなければ。
そして、人通りのまぁまぁある一角でギターを取り出す。
うおおお、緊張するぜ………
でもやらないと。
やらないと旅できないどころか生きていけねぇんだ。
全身全霊で歌を歌った。
これが日本のマリアッチだ!!!
心配は一瞬にして消え去った。
すぐに人だかりが出来、拍手が起こる。
しかしアラブ圏のような暇な野次馬ではなく、みんなしっかりと歌を聴いてくれているのがとてもよく分かる。
周りの邪魔にならないように気を配りながら足を止めてくれ、キチンと歌を聴き、曲が終わって拍手をしてお金を入れ、素晴らしい声ねとお褒めの言葉をくれてからサッと去っていく。
盛り上がり方もすごい!!
ノリがやばい!!
でも下品なものではなく、歌というものに対する敬意をしっかり持っているのがうかがえる。
これがマリアッチの国なんだ!!
「ここでこうしてバスキングしてる人を初めて見たわ。それが日本人だなんて!!」
「マリアッチの人たちがたくさんいるから誰も足を止めてくれないと思ってました。」
「彼らは彼らの音楽をやってるわ。伝統的なスパニッシュよ。あなたのとは違うわ。それにあなたは素晴らしい声を持ってるわ。メキシコ人は歌が大好きなのよ!!」
みんなニッコニコで歌を聴いて、体を揺らし、ブラボー!!と歓声を上げてくれる。
あ!!向こうからマリアッチのバンドがやってきた!!
やべぇ!!なんか言われるかも!!!
俺の前にやってきたマリアッチたち。
しかし、文句などまったく言わない。
みんな、おー!!珍しいね!!とニコニコしながらお金を入れてくれた。
首のないオッちゃんもオバちゃんも、みんなニッコニコだ。
ああああーーーー!!!!!
メキシカン!!なんて愛すべき人たちなんだ!!!
そんでもって、そんなお客さんたちの相手をしてくれるのが、会話の達人、ジェニファーさん。
誰とでもすぐに仲良くなって、俺と現地の方々の通訳をしてくれる。
しかも見た通りの美人さんなので、オッちゃんたちもすぐにご機嫌になる。
そんでもって近寄ってくる薔薇売りのオッちゃんからバラを買ってはジェニファーさんにプレゼントしている。
女の人にバラをプレゼントする。
このキザだけど、キザになりきれない純粋で不器用ですぐ緊張するメキシコ男性が可愛らしくてたまらない。
オッちゃんがジェニファーさんにバラをプレゼントする。
それを俺が子供たちにあげるという構図が出来上がり、バラ売りのオッちゃんとのナイスコンビネーションが完成。
「アカン!!首なしのオッちゃんら可愛いすぎるわ!!みんなバラをくれる時、ちょっと震えてんねん!!緊張して照れてんねん!!あああ!!もう思いっきり抱きしめたいわぁ!!」
そんな楽しすぎる路上なのだが、目の前の通りを音楽ガンガン流した車や、エンジン音のものすごいトラックが走るもんだから、かなりうるさい。
負けじと声を張り上げてしまうので、ずっと静かなビーチで歌っていた喉にすごい負担になってしまう。
こりゃこの辺で切り上げるかな。
「よし!!よかったら晩ご飯をご馳走したいんだけど。」
荷物を片付けようとしていたら、ずっと歌を聴いてくれていたオッちゃんが話しかけてきた。
オッちゃんと言っても35歳だけどね。
「タコスしか食べてない?ノーノー、本当のメキシコ料理を食べさせてあげるよ。」
ちょうどお腹が空いていたところ。嬉しいお誘いに甘えさせてもらうことに。
2時間やって24ドルと549ペソ。
計69ドル。
そこにもう1人いた英語ペラペラの若者エドガルも加わり、4人で彼らのオススメの地元の方たちの食堂にやってきた。
何も言ってないのにビールがやってくる。メキシコで多分1番メジャーなビール、テカテ。
「さあ、どれがいい?肉?野菜?豆?甘いの?しょっぱいの?」
このマリオとエドガルはかなり英語が喋れる。
メキシコに入ってまだ数日だけど、これまでの後進国のように人々はほとんど英語が喋れない。というかまったく喋れない。
そんなメキシカンの中でも2人の英語力は珍しい。
キチンと学校で教育を受けてきており、ある程度裕福な家庭で育ったんだろうな。
「フミ、たくさん食べるんだ。全部食べちまえ。メキシコの諺でな、食える時に食っとけ。明日はわからんぞ、ってのがあるんだ。」
メキシコのマジの一般的な料理は、かなりクセがある。
慣れるまで時間がかかりそうだ。
今はなかなか口が受け付けないな。
でも慣れたらきっとハマるはず。
「フミ、あの店員さんに、トゥエレスエルモサって言ってみな。」
「え?どういう意味?」
「いいからいいから!!言ってみて!!」
「トゥエレスエルモサ。」
「ダーハッハッハッハーー!!!!」
「あひょひょひょひょ!!」
ニッコリ笑う店員さんの女の人。
可愛いです、大好きですって意味だった。
このいつものやり取り。懐かしい!!
全員ご機嫌になり、お店でビールを飲み、閉店したら駐車場で飲み、さらにエドガルの家に行って、庭でさらにビールで乾杯。
「ハァハァ………あー、おかしい。マリオ、僕はメキシコに入る前、結構不安だったんだ。メキシコは危険なところだってみんなが言ってたから。」
「そうだな。確かに危険だよ。でもみんなここで生きてるんだ。うん……そう………上手く言えない………上手く言えないけど、メキシコは、俺は本当にラブリープレイスだと思ってる。それを分かって欲しいんだ。」
そう言ってマリオは俺とジェニファーさんをその大きな腕で抱きしめた。
力強さと柔らかさと温もりが、マリオの体から伝わって、ふと目頭が熱くなる。
人間って優しい。
その優しさを溢れんばかりに持っているメキシコ人の愛が、心の底まで染み渡った。
涙がこぼれそうになる。
ジェニファーさんはすでにボロ泣きしている。
メキシコ、危険なところとさんざん言われた。
冷血で野蛮な人種とアメリカ人たちは言っていた。
それはおそらくテレビニュースからのイメージだろう。
日本人も中国人に対して、野蛮で反日感情を持った人々と思っている人が大半だと思う。
本当はそんなこと、きっとないんだろう。少なくとも俺が今までに会った中国人はみんなイカした愛に溢れた人たちだった。
今の俺のメキシコ人に対するイメージ。
最強に愛すべき人種。