8月30日 金曜日
【アメリカ】 ロサンゼルス
目を覚ますと………
そこには白と青しかなかった。
広々とした砂浜。どこまでも広がる青空。
パームツリーが風に揺れ、その下をブロンドの女の子が歩いている。
パラソル、駆け回る犬、サーフボードを持ったビーチボーイズ。
空には広告をはためかせた小型飛行機が飛び、ブーンという音と共に浜辺と並行して飛んでいく。
暖かい風。
でも暑すぎない。
なんて過ごしやすい場所だ。
ここは楽園でしかない。
ロサンゼルス、ベニスビーチ。
パンツ1枚になり、テクテク歩いてトイレへ。
そこについているシャワーで体を洗う。
パンツを履いたままパンツも石鹸で洗えばそれで洗濯完了だ。
俺の横ではこの浜に住んでいるであろうおばちゃんホームレスが服を着たまま石鹸で体を洗っていて、ハーイと陽気に笑顔を向けてくれる。
ボンキュッボンにも程があるかわいすぎるブロンドガールも色っぽく体を流している。
ついでに汚れに汚れていた服を全部水洗いした。
黒い水が流れ出る。
力を込めて洗うとうっすらと汗が流れてくる。
汗が出ればまたそのままシャワーを浴びればいいだけのこと。
洗い終わったらカラッとした太陽がすぐに体とパンツを乾かしてくれる。
誰もが笑顔で歩いている。
幸せそうなカップルが波打ち際でじゃれ合っている。
それを砂浜に座ってのんびりと眺める。
昨日のダンスグループの最初のパフォーマンスが始まった。
今日もノリノリのマイクパフォーマンスですぐに人だかりができて、歓声があがる。
なんだそのケツは!!なめてんのか!!なめさせろ!!
ビーチで譜面を起こすユージン君。
ああ……なんて自由な場所なんだ。
開放感に空まで飛んでいけそうだ。
座っていたらカップルに写真を撮ってとお願いされた。
海が入るように撮ってと言われ、ゴミ箱の上に上がって綺麗に撮ってあげた。
パンツ1枚でね。
パンイチの男が笑顔のカップルの写真を撮る図。
それもここカリフォルニアなら許される。
服も乾いてきたところでいつものサブウェイにご飯を食べに行き、早速路上だ。
ダンスグループがいるメインの交差点はとてもうるさいので、昨日と同じ少し離れた遊歩道にやってきた。
気持ちよすぎる空気。少し汗をかくくらいだけど、すぐに秋のひやりとした風が乾かしてくれる。
向かいのアパートからおじさんが出てきて冷えたお水の差し入れをしてくれた。
昨日よりはお金の入りは遅い。
でもあまりに気持ち良くてずっとのんびりと歌った。
「おーい、フミ君ー。」
そこにカッピーとユージン君がやってきた。
女の子を連れて。
お!!ナンパして来やがったなコノヤロウ!!!
よし!!今夜はパイもみ祭りだ!!
ていうのは冗談で、一緒にやってきた旅人オーラ丸出しのこの女の子は、エジプトのダハブで一度ご飯を食べに行ったことのある世界一周中の旅人、アイちゃん。
カッピーとはダハブとイスラエルで会っており今回が三回目みたい。
ちょうどつい先日、南米から登ってきたところだと言う。
日に焼けた肌、旅人っぽいストール、輝く笑顔はバッグパッカーの証。
「南米なんて楽勝楽勝!!3ヶ月じゃ全然足りないね。やっぱり旅は危険なところの方が面白いよね!!」
差(´Д` )
この前までいた姫との差(´Д` )
やっぱ旅人はたくましい。
「いやー、来週からグランドキャニオン行くんだけど、一緒に行こうよ!!ね!あー!飲みてー!!ゲロ飲んだくれてー!!(言ってない)」
ていうか行かねぇ(´Д` )
もう充分でございます。
せっかくの再会だったのに、これから近くに3泊でキャンプに行くということで、爽やかな笑顔を残してさっさと帰って行った。
いやー、こうして再会するのって不思議だなぁ。
こんなにでかい星の上なのに。
アイちゃん、またどっかで会ったらそん時はゲロ飲もうね!!
よーし、この飲みたくなった気持ちをエネルギーにしてどうにか日本人観光客の女子大生をつかまえて砂浜の上で俺のグランドキャニオンを女子大生のモニュメントにバレーさせて………
ふとカッピーたちを見たら、向こうの方でアメリカ人の兄さんと話が盛り上がってる。
楽しそうだなと思ってたら、カッピーが手を振った。
「フミ君ー、この人面白いよー。」
「イヤー、ワタシニホンゴトカゼンゼンシャベレマヘンネン。」
な、なんだこのお笑いキャラは?!
それからもしばらく兄さんと話していたカッピーたち。
ユージン君が兄さんに連れていかれた。
「今日ご飯一緒に食べようって。なんか大阪に住んでた人みたいだよ。」
こりゃ面白い感じになったぞ。
夜に彼の家に行くことになった。
それまで歌いまくるぞ。
前のアパートに住んでるスティーブンとベーデンが今日も聞きにきてくれる。
近所の方達が犬の散歩の間に話しかけてくる。
このあたりに住んでる人はみんなある程度リッチな人たちなのかな。
みなさんとても上品で、物腰が柔らかく、知的だ。
たくさんの人たちと交流しながら歌い続ける。
パームツリーの木にもたれながら歌ってるんだけど、次第に木の影がのびていく。
後ろを振り向くと、目を疑うような真っ赤な夕陽が海を焦がしていた。
毎日毎日、決して飽きることのない素晴らしい夕陽。
世界でも屈指の夕陽スポットだと思う。
美しすぎる夕焼けに、みなカメラを向けて写真を撮っている。
このロマンチックなムードの中、ポロポロとギターを鳴らす。
すると日中まではイマイチだったお金の入りが、いきなりすごいことになってきた。
やっぱり路上はムードを演出することが大事ってことだよな。
夕焼け空が色を失い、夕闇に変わる頃にギターを置いた。
今日のあがりは76ドル。
少し離れたところで演奏していたカッピーたちと合流し、さっき声をかけて下さったお笑いキャラの兄さんの家に向かった。
ビーチから歩いて3分。
古めかしい住宅が並ぶ一角に兄さんの家があった。
インターフォンを鳴らすと、すぐに兄さんが出てきてくれた。
「ハーイ、ヨウコソヨウコソー!!ウェルカムデスカラネー!!」
家の中に入ると…………
ただの豪邸。
デザイナーの家ですか?みたいなセンスある家具が並び、広々としたリビングには巨大な液晶テレビが置いてある。
暖色のライトとクラプトンのアンプラグドが流れている。
「ハーイ、ガイズ。よく来てくれたわね。ご飯を作るからゆっくりしててね。」
優しさが滲み出る可愛らしい奥さん、ケリー。
シャイだけど素直でイケメンの息子、ジュニア。
早速バドワイザーを手渡され、ルーフに上がった。
そこにはベニスの美しい夜景が広がっていた。
なぜここがイタリアのベニスと同じ名前なのか?
それは町全体に水路が張り巡らされているからだそう。
古い町並み、緑の垣根、その間を流れる水路。運河。
明日になればここから見渡せるだろうな。
「15年前に大阪に住んでて働いていたんだ。ラジオのDJをやっていたんだよ。」
彼の名前はマックス。
15年前、京都FM、ユーモラスなトーク。
これでピンと来る人っているかな。
まだ時代は江口洋介とかのロン毛の髪型が流行っていたときに、3年間ほど京都FMでリクエストガーデンっていう番組のDJをやっていたというマックス。
知ってる人は知ってるんじゃないかな。
現在はここラスベガスでテレビディレクターをやっているそう。
おいおい、アメリカ横断最後にこれまたすごいとこに転がりこんでしまったな。
「よーし、今夜はカリフォルニアスタイルの晩ご飯をご馳走するよ!!あと奥さんのケリーはニューオリンズ出身だからニューオリンズの家庭料理もね!!まずはこれ。」
よく冷えたキュウリに塩コショウを振り、そこにレモンを絞ったアペリティフ。
メキシカンビールにはレモンと塩を入れる。
爽やかな味わいが開放感に拍車をかける。
焼きパイナップル、ホイル焼きのサーモン、オニオンとパプリカの甘酢和え。
美味すぎる!!!!!
「昔、日本を旅したときに、お寺に泊まらせてもらいながら旅したんだ。その時に日本人は、泊まったその部屋をとても綺麗に掃除して、まるでそこに誰もいなかったかのように去っていく。来た時よりも美しくというのを日本人から学んだんだ。」
ルーフをひやりとした秋風が吹き渡る。
グラスの中には真っ赤なカリフォルニアワイン。
ずっと飲みたいと思っていたカリフォルニアワインをこんな最高のシチュエーションで楽しめているなんて。
「マックスは歳のわりにはすごく若く見えますね。」
「そうさ、だってここはカリフォルニアだからね!!」
だってカリフォルニア。
なんて説得力のあるフレーズなんだろう。
みんなこの自由の楽園を心から愛して、誇りに思っていると感じる。
誰もが人生を謳歌しているように見える。
「明日は俺の友達のメキシコのNo.1ギタリストを呼ぶよ。セッションしてパーティーしよう!!」
「で、でもここで大きな音を出したら近所迷惑になりませんか?」
「大丈夫大丈夫!!みんなルーフに聴きに出てくるよ。何も心配しなくていい。だってここはカリフォルニアだからね!!」
ここからパーティーの日々の幕開けだ。