8月29日 木曜日
【アメリカ】 ロサンゼルス
「金丸さん………金丸さん………」
空港のベンチの上。
目を開けるとお姫様が立ってた。
泣いてる。
「うう………楽しかったけぇ……寂しいです………元気で旅してください……ありがとうございました………」
「あああ……ネコ娘ちゃんも元気でね………帰ったら鳥取遊びに行くからラッキョウサラダ食べようね………」
眠すぎて記憶があんまりない(´Д` )
寝っ転がったまま握手した手をプラプラ揺らしてバイバイした気がする(´Д` )
いやああああ!!!ごめんなさいお姫様!!
今思い返したらなんて失礼なことを!!
でも疲れが限界で眠くてたまらなかったんだもん………
朝の6時とかだし。フライト。
というわけで次に目が覚めた時にはもうお姫様は俺たちのパーティーからいなくなっていた。
いつものカッピーとユージン君が隣のベンチでぐーすかぴーしている。
ああ……なんか癒しがなくなってしまったなぁ。
あの可憐な存在が、俺たちの殺伐とした旅に潤いを与えていたなぁ。
もう一度隣のベンチを見る。
悩みなんかひとつもなさそうな顔で気持ち良さそうに爆睡してるアジア人。
これもなかなか癒しの存在かな。
いつもの旅に戻っただけだ。
さぁ、アメリカ横断は終わったけども、まだすぐには出国しないぞ。
しばらくこのロサンゼルスにガッツリと腰を据えて稼がないと、南米に下ることができない。
2ヶ月アメリカを回ってきて、厳しい中央アメリカから西を目指す時、ロサンゼルスはどこか過酷な旅路の果てに開かれる自由の楽園のようなそんなイメージだった。
荒涼とした原野の先に、輝く水平線を思い描いて突き進んできた。
自由の楽園、ロサンゼルス。
と同時にこの新天地を舞台にした数々のギャング映画を見てきたので、ちょっと怖いイメージもあるかな。
これからのロサンゼルス編、一体どんなことが待ち受けているのか。
アメリカもラストスパートだ。
そのまま空港で寝続けようと思ったんだけど、どうやらロサンゼルスの空港は厳しい。
ターミナル内にいる人に警備員が手あたり次第にチケットを見せろと確認している。
無論俺たちは持っていない。
出ていかないといけない。
ずっと空港泊だったアメリカで初めてこんなチケットチェックなんかされたな。
まぁこれが普通なんだよな。
空港を追い出された俺たちは仕方なく市バスに乗り込む。
途中巨大なハンバーガーを食べつつ、向かったのはロサンゼルスで有名なビーチ。
ロサンゼルスのバスキングスポットといえばここ、という場所らしい。
ビーチなんかでバスキングができるのか?
半信半疑のまま、バスはベニスという海沿いの町に着いた。
古めかしい住宅地を抜け、ささやかな土産物屋さんやレストランが並ぶ通りを歩いて行くと、海が見えてきた。
へー、ここかー、とパッと視界が開けた瞬間、
テンションめちゃ上がった。
遠くはるか向こうまで放物線を描く美しいビーチ。
その海岸に沿ってどこまでも、賑やかなショッピングストリートがのびていた。
服屋さん、アクセサリー屋さん、お土産物、カフェやバーがずらーーーーーーーーっと果てしなく続いている。
海の家みたいな簡易的なお店だけど、それがまた雰囲気がある。
人通りもハンパじゃない!!!
さらに路上にもアクセサリー売りや、ヘナタトゥー屋さん、ジュース屋さん、もちろん数々の大道芸人、ミュージシャンなどがごった返し、これ以上ない活気に満ち溢れている。
すぐそこがビーチなのでみんな水着姿で裸足で歩いている。
スケボーで颯爽と駆け抜けていく若者たち。
テニスをする人。サッカーをする人。芝生にマットを敷いて寝転んで本を読んでる人。
う、うわ、うわー!!
なんだここはー!!!!
自由の楽園でしかない!!!
嬉しくて嬉しくて、芝生の上に大の字になって寝転がった。
真っ青な空にパームツリーが風に揺れる。
暑すぎない、とても気持ちのいい気温。
横を歩く人がハーイと笑顔で手を上げてくる。
疲れた体はすぐに眠りに落ちた。
目を覚ますと、ビーチが赤く染まっていた。
びっくりするくらいの赤。
吸い寄せられるように立ち上がって、カッピーたちを残して海沿いを歩いた。
絞ったばかりの夕陽の赤が水平線からもれている、なんて詩がピッタリ来るような、ぼうっと燃える太陽が海の上で光っている。
オレンジ色の波間にサーファーたちの影が浮かんでいる。
砂浜の凹凸に影の模様をつける。
砂浜を裸足で歩く。
久しぶりの砂浜は足が沈んで歩きにくい。
空は刻一刻と色を変えていく。
青い空が茜に染まり、紫色のグラデーションが雲を燃やしている。
海が輝く。あまりに強く輝いているからその光の中にいる人の姿が消えてしまう。
ぼーっと水平線を眺めた。
ニューヨークから始まったアメリカの旅。
最初はアメリカなんてさっさと回ってしまおう、こんな先進国、旅っぽくないとかなんとか思っていたのに、気づけばもう2ヶ月。
色んなことがあったなぁ………
アメリカってやつはとことんエンターテイメントの国だよ。
長い長い旅路の果てに、こんなこの世のものとは思えないような夕陽を見せてくれるんだもん。
日が沈む。
今日がまた終わっていく。
今日は何をした?
何か新しいものを手にいれたか?
少しでも積み上げたか?
太陽の沈む速度は早い。
あっという間に1日は終わっていく。
人々の願いと共に燃え尽きるように。
最高の夕陽を見せてもらった。
ここは西海岸なんだよな。
俺はもう西海岸まで来たんだ。
この海の向こうはついに日本。
一直線で進んで来た。
だから後ろにあるはずの日本なのに、なぜか今遠く目の前にある。
離れるということが近づくことだったんだ。
不思議だな。一周してしまうって結構すごいことかもしれないな。
カッピーたちのとこに戻った。
まだ寝てる。
「おーい、2人ともー、夕陽すごいよー。絶対見た方がいいってー。マジやばいから。こんなにすごいのなかなか見られないよ。」
「う……うん?………あ、ああそうだね………むにゃむにゃ………」
ちょ、寝袋にキチンと入るな(´Д` )
寝る気マンマンじゃねぇか。
今日はもう路上は休もうかと思ってたんだけど、夕陽を見たら歌ってみたくなった。
この美しいシチュエーションでギターを弾きたい。
パフォーマーやお店がごった返すど真ん中のあたりはとてもやかましいので、少し離れた静かなところまで歩いた。
ビーチ沿いにどこまでも遊歩道がのびているので、歌う場所はいくらでもあるようだ。
雰囲気のいい外灯があったので、その暖色の光の下でポロポロとギターを鳴らした。
夕陽はすっかり沈み、空はもう暗い。
外灯がギター弾きの姿を浮かび上がらせる。
すぐに目の前にカップルが座った。
3曲ほど聴いてくれ、10ドルを入れた。
話してみると、この後ろのアパートに住んでるご夫婦だった。
紳士と美女のとてもお似合いのご夫婦。スティーブンとベーデン。
笑顔がとても素敵だ。
明日も聴きにくるから、と2人はディナーを食べに歩いて行った。
それからも静かにムーディーに歌っていたら、向こうから歩いて来たカップルが、俺の前で抱き合って踊り始めた。
とてもいい雰囲気。
ゆらゆらと揺れながら、甘い表情で踊っている。
いやいや、これが歌い手の仕事だ。
気持ちよく踊ってもらわないと。
すると反対側から歩いて来た若いカップルが、そこに混じって踊り始めた。
さらに向こうからやってきたカップルが踊り始める。
まるでこの海沿いの遊歩道が、外灯ひとつのダンスホールみたいになった。
もう少しやりたかったが、カッピーたちが待ってるといけないので、1時間で切り上げて元の場所に戻った。
あがりは30ドル。
ここは稼げる!!!
芝生に戻ると、まだ2人は寝ていた。
まぁここのところ毎日3~4時間くらいしか寝てなかったからな。体ボロボロになっているだろな。
カッピーを起こして、ユージン君に荷物を見てもらい、このベニスの探検に出かけた。
まずはサブウェイを発見。
ここでご飯はOK。
バンクオブベニスというバーでWi-Fi発見。
ここでブログ更新はOK。
5分ほど歩いたところに酒屋さん発見。
ビールOK。
15分ほど歩いたところにファーマシー発見。
細々した日用品OK。
あああ!!!
生活基盤が整っていく!!
沈没要素が揃っていく!!
しかもビーチなので公衆トイレの横にシャワーがついてる。
バスキングして、ビール飲んで、夜中に海で泳いで、シャワー浴びて、砂浜に寝袋敷いて星空の下で爆睡して、目が覚めたら水平線。
ぎゃああああああああああああ!!!!!!!
楽園以外の何物でもねえええええええええええ!!!!!!!!!!
よ、よし!!ビーチで解放的になってる女の子とかいっぱいいたからな!!
日焼けした小麦色の肌、ブロンド髪のめちゃ可愛い女の子が世界中から集まってるんだから、バスキングしてナンパして、テントに誘い込んで………!!!
そしてリトルトーキョーなんていう日本人街もあるくらいなので、日本人もめちゃたくさんいたんだよな。
フレンドリーに話しかけて今夜一緒に浜辺で星空を眺めながら飲みませんか?って誘っちゃおうかな!!
まぁ日本人は警戒心めちゃ強いから、なんだこの危険人物は?みたいな顔で無視されるのが目に見えてる(´Д` )
というわけで日本人のみなさん、ベニスビーチでお待ちしております(^-^)/
とはいってもアメリカでは野外でアルコールを飲むのは禁止されていますからね。
もちろんビーチでも飲んじゃダメです。
一通り散策して浜辺に戻り、ひと気のない砂の上にテントの床部分だけ広げて、その上にマットを敷いた。
そして、コッソリとビールを取り出し、1本だけの乾杯。
自由の楽園にたどり着いたご褒美。
星空と潮騒。
これだけでも最高のご褒美だ。