8月28日 水曜日
【アメリカ】 ラスベガス ~ ロサンゼルス
「金丸さーん、朝ですよー。そろそろ起きてくださーい。」
目を開けると、そこにはお姫様がいた。
もうすでにお化粧も綺麗に出来上がっている鳥取のお嬢様。
え?アメリカってスターバックスがあるんですか!?
なんて可愛くてしょうがないことを言う純朴さが日本の空気を思い出させる。
あへえええ!!チューしよおおおおあ!!!
と抱きつきたくなるのを我慢して、すぐにシャワーを浴びて仕度を整える。
まだ4時間くらいしか寝ていない。
ゆうべも、その前もろくに寝ていない。
バスキングしないオフの日のほうがハードに動き回ってるな。
今日も予定がいっぱいだ。
清純すぎる鳥取のお姫様と、旅人丸出しの3人でホテルをチェックアウト。
グレイハウンドのバスターミナルへと向かい、お昼のロサンゼルス行きのバスに乗り込む。
ひらひらのスカートにセレブなハット。
日焼け防止の袖を腕につけ、清楚にチョコンとシートに座っている。
そんな姫には似つかわしくない貧乏人だらけのグレイハウンドバスが走り出した。
荒野の中を走るバス。
サボテンと岩山がどこまでも続き、窓の外を眺めているだけでも全然飽きない。
5時間のドライブで、バスはロサンゼルスに到着した。
西海岸の大都会、ロサンゼルス。
ハリウッドとビバリーヒルズ、数々のイーストコーストミュージックの街。
一体どんなとこだろうな。
カッピーの情報では、このグレイハウンドのターミナルがあるエリアはかなり治安が悪いらしく、車で信号待ちをしてるだけで銃強盗にあうような危険な場所らしい。
そんなとことっとと出てしまうぞ。
危険地帯にお姫様の上品っぷりがまぶしい。
6ドルの1日パスを買って市バス乗り込む。
バスと地下鉄を乗り継いで目的地へ。
地下鉄だって!!
ニューヨークぶりの都会だ!!!
そんな久しぶりの地下鉄でやってきたのは、ハリウッド。
ハリウッド?ハリウッドって映画のとこ?
そう、映画のあの場所。
お金持ちたちの街、ビバリーヒルズってのもこの隣にある。
東京の中の渋谷とか田園調布とか、そんな感じかな。
ロサンゼルスにはエリアごとに色んな顔を持った街があるみたいだ。
ハリウッドの駅を出ると、そこはもうただの観光地。
うじゃうじゃと観光客がひしめいて、通りのお店もツーリスト向けの派手なものばかり。
バスケットボールのジャグラーや、お決まりの銅像など、ストリートパフォーマーも分かりやすいありきたりな人たち。
このハリウッドには何があるのか、一切知らない。
そんな俺たちの目的は………
これ!!
冗談です(^-^)/
ウェイン・ショーター80歳誕生日、記念ライブ。
ウェイン・ショーターって誰かなー(^-^)/
知らねぇのかこのチンカス!!
ただのサックスの神だぞ!!
という声が聞こえてきそう(´Д` )
だってジャズ全然知らないんだもん。
その神様とやらの誕生日を祝うべく数々のミュージシャンが出演するそうですね。
ハービー・ハンコックとかエスペランサ・スポルビンとか。
他にもたくさん。
贅沢すぎる!!
「これはねぇ!!歴史的なライブなんだよ!!それに立ち会えるなんて奇跡でしかないんだから!!」
鼻息を荒く語るカッピーとユージン君。
キョトン顔の俺とお姫様。
ロック界で言ったらニール・ヤングのライブにビリー・ジョエルとクラプトンとアブリルラビーンがゲスト参加するようなもんかな。
そりゃすげえ。
しかもウェイン・ショーターは御歳80。
もう次には観られないかもしれない。
そう言った意味でも、この日にロサンゼルスに来れたこと自体俺たちはついてる。
ハリウッドボウルというコンサート会場にやってきた。
すでにたくさんの人たちで賑わっている。
日本だったらジャズライブなんてオメカシした教養ありそうな人たちが来そうなもんだけど、アメリカではみんなとてもラフな格好だ。
巨大な荷物を持った俺たち。
荷物チェックのゲートで引っかかってしまい、セキュリティルームに連れていかれる。
でもそこで無事に荷物を預かってもらえた。
「音楽しながら世界を旅してるの!?素敵ね。ショーを楽しんで。」
楽器を持った俺たち。
さしずめネコ娘ちゃんはボーカリストってとこか。
そして西海岸の人たちの英語は聞き取りやすい綺麗な英語だ。
夕闇迫る会場に入ると、そこはヨーロッパで見てきたローマ劇場の遺跡のような、円形の巨大な客席に囲まれた野外ステージだった。
すでに演奏は始まっており、ものすごい数の観客がジャズに酔いしれていた。
トランペット、サックス、ウッドベース、ピアノ、ドラム。
音響が素晴らしく、全ての楽器が鮮明に聴き取れ、夜空に響き渡る。
初秋の優しい夜風が吹き抜ける。
肌寒い星空が新しい季節にいざなう。
もう2ヶ月近くもアメリカを旅してるんだな。
そして、ああ、気がついたら俺たち、アメリカを横断したんだな。
色んなことがあったなぁ………
いろいろあったなぁ。
このお気楽メンバーでよくここまでたどり着けたもんだ。
でもこのカッピーとユージン君だったからこそ、あんなにたくさんのイカした出来事に出会えたんだよな。
ウェイン・ショーターが出てきた。
ソプラノサックスの甘い音色がアメリカ横断の思い出を蘇らせる。
ニューヨークから始まって、南部を通り抜け、西部の荒野、ラスベガス、そしてついに反対側の海まで。
かつて新天地を求めて人々が開拓を進めたルートで太平洋までたどり着いたのか。
もはやボストンやマンハッタンが懐かしい。
目の前で繰り広げられる巨匠たちのジャズ。
アメリカ音楽旅の最後を締めくくるに相応しいライブだ。
演奏が終わった。
はっきり言って俺には難解すぎたけど、それでも素晴らしい音楽を聞かせてもらったな。
ウェイン・ショーターがマイクを持った。
「ドウモアリガトウゴザイマス。」
ええぇ?!!なんで日本語!?
なんで今日本語!?
よくわかんないけど、とりあえずウェイン・ショーターすげえ(´Д` )
ここはロサンゼルス、自分の80歳の誕生日記念ライブを終えて一言目の言葉がドウモアリガトウゴザイマスという謎。
「完全に俺たちに言ったね。」
「うん、完全に俺たちだね。」
「でもチケット代1000円しか払ってないけどね。」
満場の喝采はいつまでも鳴りやまなかった。
会場を後にして、夜中のハリウッドを歩く。
最近マクドナルドとカップラーメンとポテトチップしか食べてなかったので、アメリカ横断のお祝いだということで少し奮発した晩ご飯を食べた。
と言っても15ドルくらいだけどね。
それでも久しぶりのマトモな食事は感動的に美味しかった。
夜中のハリウッドはあまり治安はよくなさそうだ。
ホームレスや物乞い、柄の悪そうな連中がたむろしていて、とてもお姫様を連れて歩いていい雰囲気ではない。
ハリウッド名物の、地面に押された映画俳優の手形を少し見てから、空港に向かうバス停にやってきた。
明日の朝イチの便で我らがお姫様は日本に帰る。
ハチャメチャな5日間だったけど、普通の観光客にはできない旅を案内してあげられたと思う。
「金丸さんの歌、まだ聞いてないっちゃー。聞きたいけぇ。」
こんなハチャメチャな旅に付き合ってくれたお姫様に俺たちができること。
高級なレストラン?
オシャレなお土産屋さん?
いや、音楽でしかない。
疲れ切った体で、声は全然出ない。
でも俺たちにできることを全部やってあげたい。
お姫様のお望みのままにだ。
寝静まったハリウッドの街の中、ギターを鳴らした。
人っ子1人いない通りにギターとハーモニカが響いた。
昔作った大好きな曲を歌った。
涙を流してくれたお姫様。
少しはいい思い出になってくれたなら本望だ。
通りの向こうからバスのヘッドライトが近づいてきた。