8月16日 金曜日
【アメリカ】 ニューオリンズ
ニューオリンズといえば音楽の街。
ジャズ発祥の地。
そして何より、俺たちにとって最大の関心であるバスカーの聖地でもある。
路上パフォーマーなら誰でも一度はニューオリンズでパフォーマンスすることを夢見る。
と同時に恐れる。
世界中から凄腕のパフォーマーが集結してるわけだから、生半可な演奏じゃ見向きもされずに打ち砕かれて逃げ帰ることになる。
これまで、どれだけ言われてきたことか。
「路上やってるんならニューオリンズに行くんだ。スゴイやつらがゴロゴロいるから。」
って。
怖えええええ!!!!
そんな凄腕パフォーマーたちが銃撃戦を繰り広げてる最前線になんか飛び込んだりしたくねえええええ!!!!!(´Д` )
ズタボロの蜂の巣にされてゴミのようにポイ捨てされるのが目に浮かぶ。
怖いけどここで逃げるわけにはいかん。張り切ってダウンタウンへ!!
こんなふうにバッグを引きずって歩いていたら、道ゆく人が、え!?って顔で見てきます。表で?!!って。
腕が限界なので新しいの買いました。
40ドル。
フランスで中国人の兄さんにもらったこのキャリーバッグ。
3ヶ月くらいの命だったけど、この恩は絶対に忘れない。
シンロン、ありがとう!!
よっしゃ、来たぞバーボンストリートオオオオオオ!!!!!
はぁぁ、ドキドキする……
どんなヤバイやつらがひしめいてるんだ?
この前きた時は雨だったから誰もいなかったけど、今日は最高の天気の上に金曜日。
観光客もわんさか歩いてるし、バスカーたちにとったら稼ぎ時でしかない!!
さぁー……バーボンストリートには…………
誰もいない。
そうだよ、この前呼び込みのおじちゃんが言ってたけど、バーボンストリートは終日バスキング禁止なんだ。
隣のロイヤルストリートなら大丈夫だよと言っていたがそっちはどうだ…………?
やっべ。
マジやっべ。
パフォーマーおりすぎ。
しかも全員、うめえ。
下手くそがいない。
ジャズばっかりかなぁと思っていたけど、ブルースもカントリーもファンクもなんでもあり。
もちろんディキシージャズっていう遊び心たっぷりのウキウキしてくるような黒人バンドもいる。
とにかくうめえ!!
場所を探して回っていると、今朝空港から同じバスに乗ってやってきたおのぼりさんみたいな白人のギターを持った女の子を見つけた。
路上でギターを取り出してはいるもののタジタジしながら演奏を始められないでいる。
みんなこうしてニューオリンズに夢を抱いてやってくるんだな。
そして!!!
今までで最強の銅像パフォーマー発見!!
リビングスタチューってやつ。
顔に色を塗って街角でピタリと止まって動かないパフォーマンス。
まぁ世界中に腐る程いて、腐る程見てきた。
下手くそはすぐ動くし、マスクとか手袋とかして全然肌に色を塗ってなかったりするし、めちゃ本気の人はマジで横を通り過ぎても気づかないくらいクオリティが高かったりする。
いっぱい見てきたけど、ここに最強発見。
これ。
マジでピクリとも動かない。
こんなきつそうな体勢で。
表情までキマっており、見ていて蝋人形か?ってくらい動かない。
すげすげる!!!
あたり一帯、全ての通り、全ての角にパフォーマーが陣取っており、もはや戦場でしかない。
観光客もそんなバスキング飽和状態だから、風景の一部となっており、あまりお金を入れないようだ。
かなり上手いのに全然稼げてない人もいる。
そんな、観光客にとっては楽しい街、バスカーにとっては恐怖の街というニューオリンズなのだが、気になるのは昨日のカッピーとユージン君の稼ぎ。
この2人がこの街でいくら稼げたのか。
32ドルだ。
この2人が本腰いれてやったのにこのあがり。
しかし色んな出会いはあったみたいで、ニューオリンズには路上で絵を描いてる人がたくさんいるんだけど、その中の1人にこんな絵を描いてもらっていた。
演奏をしていたら勝手に描いてくれてたんだって。
いい演奏をしたからこそ、描いてもらえたものだよな。
この色使いや自由で陽気な筆はこびがまさに路上の絵描きって感じだし、ニューオリンズっぽい。
日本のテレビ局の撮影隊とかも来てたみたいだし。
そんなニューオリンズ。
怖えけど、やらずに逃げはしないぞ。
ズタボロになってもいいからかましてやる!!
カッピーたちと別れて、1人歩いていい場所を探す。
場所選びもバスカーの技量のひとつ。
自分の色が活きるストリート、雰囲気を演出しないといけない。
管楽器や鳴り物がドンチャンやってる近くでは太刀打ちできないので、少し離れた、でも人通りの多い土産屋さん通りを見つけた。
目の前が車道なので結構うるさいけど、まずはここでいってみるか。
世界に出る前の最後の挨拶周りで日本のライブハウスを回ってるときも、マスターたちから、是非行けと言われてきたニューオリンズ。
そこらでプロ級のやつらがバンバンやってるから自分を試して来いと言われていたニューオリンズ。
今までの全部出してやる。
ギターを取り出して思いっきり歌った。
1時間後。
足元にあるのは、
1.25ドル。
125ドルじゃなくて1.25ドル。
厳しいのはわかっていたけど、ここまでとは…………
喉の調子はいい。むしろ好調といってもいい。
みんな耳を傾けてはくれる。
でもお金を入れてくれない。
虚しくなってギターを置いた。
ぐ、ぐおお………
俺の力量不足なのはわかってるけど、かなり凹む。
まったく通用しねぇ。
力なく歩く。
この激戦区では俺なんかどこにでもいるちょっと歌えるだけの兄ちゃんでしかない。
くそ……悔しい。
でもまだ諦めん。
もう一回だけやろう。
歩いていたら、人通りは少ないけど静かでアコースティック向きの雰囲気のいい通りを見つけた。
周りの建物も古くて、ニューオリンズらしいストリート。
ライバルもいない。
ここでポロポロとやろうか。
ギターを取り出す。
建物に響いて気持ちよく音が広がった。
ギターにあわせて静かに、でも感情をこめる。
歌は語るように、語りは歌うように。
どこでだったか忘れたけど、昔教えてもらったこの言葉は今もしっかり胸の中にある。
言葉を大事に。誰かに話しかけるように。
ギターはテクニカルじゃなくていい。音が乗ればそれでいい。
とても気持ちよく歌えた。
ああ、俺ってなかなかうまいよなぁ。
久しぶりに自分でも納得いく歌が歌えた。
曲を終えると、向こうの方のお店からおじさんが出てきてこっちに一直線に歩いてきた。
やべ、止められるかな………
目の前までやってきたおじさん。
足元に10ドル札を置いた。
「アメイジングな声してやがる。もっとやってくれ。店で聴いてるから。」
おじさんはそう言って戻って行った。
そこから大フィーバーだった。
1ドル札がほとんど入らない。
ほとんど5ドル札か10ドル札。
「あなたの歌には心があるわ。あなたの声を神が守ってくれる。」
「長いことここでストリートシンガーを見てるけど久しぶりにいいシンガーに会えたよ。」
20ドル札も立て続けに入る。
なんだよ、やっぱり俺だって捨てたもんじゃないよな。
「いえーい!!ホラ!!これ飲んで!!一気よ!!」
そう言って向こうのバーからノリノリの女の子たちが出てきて、グラスになみなみ注がれたワイルドターキーを渡してきた。
思い切って口に流し込んだ。
うげぇ!!きつ!!高校生じゃねぇんだからこんな飲み方するもんじゃねぇ!!
それでもコップを傾け続けた。
飲み干してやる。
情けなさも、虚しさも、嬉しさも、今まで歌で紡いだたくさんの出会いを飲み干すんだ。
それからもしばらく歌っていたが、ターキーが効いてきて演奏が雑になってきたのでギターを置いた。
そしてフラフラ歩いてカッピーたちのとこに戻った。
「おーい、どうだーい?」
「うーん、まぁまぁかなぁ。50ドルくらい。フミ君は?」
「110ドルいったよ。」
「うそ!?マジで!?ニューオリンズで2時間110ドルはすげえよ!!」
薄暗くなってきたニューオリンズの街。
夜になって人出がドンドン増えてきた。
カッピーたちが場所を変えて演奏続行。
そこに居合わせた黒人のおっさんがトロンボーンで入ってきた。
一瞬で入ってくる。
楽器を取り出して音を出すまでのためらいのなさ。
汚いTシャツとジーンズ。
でも音は底抜けに陽気でひょうきんで、そして最高にジャズだ。
これこそジャズ。
民衆が思いっきり手癖で奏でる、その人間の性格がそのまんま音になる。
なんてイカした音楽なんだ。
なんか変なの来た!!
バーボンの優しい酔いに楽しくなってきて、カッピーたちを置いてメインのバーボンストリートに行ってみた。
そこではとんでもないお祭り騒ぎが繰り広げられていた。
通りのお店全部が窓全開でライブをやっていて、路上を人々が埋め尽くし、ネオンがきらめく。
みんな思い思いに体を動かし、踊り、歌っている。
アメリカでは外での飲酒は禁止なんだけど、ここバーボンストリートでは治外法権なのか、みんなそれぞれのお店の個性的な形のコップに入れたアルコールを飲みながら歩いている。
古典的な正統派ジャズのお店の隣ではヒップホップのラッパーがステージで観客をあおり、その向かいではACDCのハードロックに人々は頭を降っている。
それがホールライブなんかじゃなくて、50人規模の小さなお店で繰り広げられる生ライブだ。
もう楽しくて楽しくて、子どもみたいにはしゃぎまわった。
こっちを覗けばイカしたライブ、こっちを覗けばイカしたライブ。
なんなんだニューオリンズ!!
こんなに楽しい街があっていいのか!!!
音楽とは音我苦、と高校生の俺に言った人がいた。
確かにそう。
創作や表現にはいつも葛藤がつきまとう。
苦しんで悩んで、ない答えをいつも探そうと模索し続ける。
なんでこんな辛いことやってんだって思うことなんてしょっちゅうだ。
会社勤めしてたほうがはるかに楽に稼げると思う。
でも、いい曲が作れた時、いいライブができた時の充実感っていったら何ものにもかえがたい喜びがある。
だから音楽をやっている。
そして今、こんなにも音楽を最高に楽しんでる人たちの中に俺はいる。
音楽やっててよかった。
ニューオリンズは怖い街。
でも、もし受け入れてもらえたら、もし心を開くことができたなら、そこは音楽をやるものにとってこれ以上ない楽園だ。
ニューオリンズ、アメリカで1番好きな街になったよ。