8月13日 火曜日
【アメリカ】 メンフィス ~ ニューオリンズ
バスは南に向けて走る。
メンフィスの町を抜けたバスはすぐにテネシーの州境を越え、ミシシッピ州に入った。
どこまでも続くトウモロコシ畑。
ポツポツとたまに見える民家の廃墟や農場のサイロ。
ミシシッピはイメージ通りに何もない田舎だ。
グレイハウンドバスには当たり外れがあって、今回のバスにはコンセントがなければWi-Fiもない。
いつもあるんだけど。
何もないバスの中でやることと言ったらもう寝ることだけ。
寝袋にくるまって、日記を書いては居眠りし、起きて日記を書いては居眠り。
窓の外の景色はトウモロコシ畑から変わることなくどこまでも続いている。
まだアメリカでワイルドターキーは飲んでない。
人肌恋しい。
別にそこまで寂しいわけではない。
仲間や、毎日の出会いがあるので孤独に打ちひしがれることもない。
でもそれとは別に女の体がくれる安らぎが欲しい。
あの柔らかい感触、肌の匂い。
チョメチョメなんかどうでもよく、女の体に抱かれて眠りたい。
心の底から安堵できる、あの時間。
今1番必要だと思う。
見渡す限りの地平線の中を走り抜けるバスの中、寝袋と固いシートの感触ではどうしても心が乾いてしまう。
ミシシッピも南部にさしかかったころ、雨が車体を叩き始め、車内が一気に暗くなった。
分厚い雲に覆われ、まだ夕方前なのにすでに夜のように暗い。
時たま、雲のふところに閃光が現れ、暗澹とした荒野に雷鳴を轟かせる。
パッと明るくなる車内。
みな黙りこくっていた。
11時間のドライブはあっという間に過ぎ、バスはニューオリンズに到着した。
土砂降りの中、荷物を受け取りターミナルの中へ。
楽器を持ってる人の姿が多い。
そうだ、ここはアメリカでも1番の音楽の街。
ミュージシャンなら誰もが憧れるブラックミュージックの聖地。
City of Newolinsが頭の中で繰り返されている。
さて、まずはこの土砂降りの街で今夜の寝床を探さないといけない。
もちろん第1候補は空港。
ただダウンタウンから12kmほど離れているため、空港行きのバスがどこから出ているのか、インターネットに引っかからない。
この土砂降りだ。外は歩きたくない。
最悪このグレイハウンドのターミナルで寝るか、と思っていたら警備のおばさんがやってきてターミナルは22時で閉まるわよと言ってきた。
く、やばいな。
「ねぇ、これどうかな?いいんじゃない?」
するとユージン君がブッキングドットコムでなにやら激安のホテルを見つけた。
RVパーク。
キャンピングカーの後ろにくっついてるトレーラーが空き地にズラッと並んんでおり、それが部屋となっている宿泊施設だ。
アメリカの田舎ではモーテルと同じく、よく見る。
なんと値段が30ドル。
1人10ドル。
決まり!!!
久しぶりにシャワー浴びれる!!
そうと決まればさっさと向かうぞ。
走ってターミナルの前から出ている路面電車の乗り場へ。
時間はもう22時前。
路面電車も本数が少なくてなかなか来ない。
一緒に待っていたおばちゃんが、まだ来ないの!?なめてんのかボケ!!!?とキレている。
「あんたたちもそう思わないかい!?どれだけ待たせるのよ!!」
ぼ、僕ら今着いたばかりなので………
やっとこさやってきた路面電車に乗りこんでも運転手さんにひたすらキレてるおばちゃん。
「ほんとにどうなってるのよ!!この雨の中であんなに待たせて!!あ!!この子たちどこどこで降りるから止まってあげなさいよ!!」
キレながらお節介を焼いてくれるおばちゃんにバイバイして、今度はバスに乗り換えて郊外へ向かう。
そうしてやってきたRVパーク。
受け付けでチェックイン。
すでにオンラインで予約していたので、簡単にキーをもらう。
ゲートを越えて中に入ると、ずらーっとたくさんのトレーラーが並んでいる。
敷地の真ん中にシャワー、トイレ、ランドリーが入った小屋があり、芝生のとこにはベンチテーブルが置いてある。
うわー!!これめちゃいいやん!!アメリカの旅っぽい!!
昼間から上半身裸でベンチでのんびりビール飲んで、他の宿泊客の旅行者とお話しして………
しかしいくら探してもキーのナンバーのトレーラーがない。
どういうことだ?
隣の方に綺麗なアパートみたいな建物があったので一応チェックしてみた。
鍵が開いた。
「どひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおぉ!!!!!」
「あひゃああああああああああああああああああ!!!!!」
「べべべ、べ、ベッドだああああああああああああ!!!!!!!」
「シャワーと浴槽がアルウウウウウウウウウリリリリリリイイイイィィィィィィィ!!!!」
「れい、れい、れ、冷房があああ!!!」
「冷蔵庫と電子レンジ!!」
「て、て、テレビをつけろー!!今すぐつけろおぉぉ!!」
「はい!!つけます!!」
「よし!!ここ沈没!!」
BBキングに会った時くらい興奮してはしゃぎ回る。
これで1人10ドルでほんとにいいんですか?
あああ、部屋ってなんて素晴らしいんだあぁぁ………
今夜は宴だ!!と飯を買いに近くのガソリンスタンドへ。
夜中になるとスタンドのお店はドアを閉じるが、小窓からドライブスルーのように店員さんに注文することができる。
残念ながら0時を過ぎていたのでお酒は買えなかったが、かろうじて食い物はゲットできそう。
黒人の兄ちゃんにたずねる。
「何か食べ物ください。」
「チキンがあるよ。でも朝作ったやつなんだ。どうする?」
「もちろん大丈夫です。いくらですか?」
「1本1ドルだよ。」
「じゃあ3本ください。それからコーラとカップラーメンも。」
お店の中から商品を集めてくる兄さん。
お会計をして受け取りトレーに商品を入れて、こちらにスライドしてくる。
すると、そこにポテトチップスを2つ入れた兄さん。
あれ?ポテトチップスなんて言ってないぞ?
顔を見ると兄さんウィンクした。
はい、ニューオリンズ好き。
こんな小さなことだけど、これで充分。
あったかい気持ちでモーテルに戻り、早速チキンの入れ物を開けると、3本注文したのに6本入ってた。
はい、ニューオリンズ大好き。
うんめぇ!!!
この手羽先のから揚げ、マジやっべぇ!!!
こんなやつ!!
ご、ごめんなさい……うますぎて一瞬でこうなった(´Д` )
お腹いっぱいになり、今度は待ちに待ったシャワー。
ああ!!
この灼熱の真夏に毎日だっくだくに汗かきまくりながら10日間もシャワーに入ってなかったんだもん!!
やっと体を洗える!!
「あああ!!テンガより気持ちいい!!!」
ユージン君の顔が仏のような表情になってる。
俺もここぞとばかりに全部やった。
ヒゲをそって、眉毛を整えて、ここ最近ひどくなってきてたアトピーにしっかりリンデロンを塗って。
ビフォー
アフター
あああ、気持ちいい………
清潔ってなんて素晴らしいことなんだろう!!
体の垢を落としてピカピカになると、なんだか人間に戻ったみたいな感覚だ。
生まれ変わったような爽快さ。
あー、こんなに綺麗になったんだから女の腕で眠りたいなぁ。
彼女とお風呂入りたいなぁ。
女の人とお風呂に入るのが大好き。
体を洗い合ったり、狭い浴槽に一緒に入るのが大好き。
とにかくシャワー後のベッドとか犯罪的に気持ちいいいいいいいいいいい!!!!!!
あああ……普段の生活の中に当たり前にあるものが、いかに人間の生活を快適にしているものなのか、とことん実感するなぁ。
あああ、このモーテル最高だなぁ。
このまま3泊くらいしてしまおうか。
明日は荷物を置いて身軽になって、ニューオリンズの街に攻め込むぞ!!
雨止んでくれ!!
おやすみ!!