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君はいつも俺のすべてだった

8月9日 金曜日
【アメリカ】 メンフィス






グレイハウンドのバスが異常なほどエアコンが効いてて極寒地獄になることは先刻承知。

ちゃんと寝袋を持って入っていたので、あとは寝ていれば勝手にメンフィス到着ってわけだ。








朝の7時。
3時間半の移動であっという間にメンフィスに着いてしまった。

バスターミナルからバスターミナルへ。
なんとも味気のない移動。
これじゃ飛行機と大差ない。





朝のターミナルは人でごった返していた。
大きな荷物を持った人々の長蛇の列が何本もロビーにできている。

そして隅っこのほうではバッグを枕にして床に寝転がる若者の姿。

俺もとにかく眠い。

空いているスペースを見つけ、躊躇の欠片もなく即座にマットを敷き、俺たちも床に寝転がった。








少しして、カッピーたちが濡れて生乾きで臭くなってしまっている衣類や寝袋を洗濯しにランドリーに行くというので、俺はそのままターミナルで2人の荷物番をして待つことに。

少し眠り、ターミナルのお掃除おばさんに起こされ、日記を書いたり彼女とスカイプしたりして待つ。



早く進めとお怒りの彼女。


ご、ごめんなさい………

ここからまた飛ばして行くからね。




すでに旅のタイムリミットまで1年を切っている。
あと10ヶ月しかない。
あと10ヶ月で中米、南米、オセアニア、アジアか。

余裕かましてしまってるけど、実際こいつはかなり厳しいよな。
すでにヒッチハイク横断が終わってしまった今、有効にバスを利用して時間のロスを減らしていかないとな。










と、そんなことを思っていてふと気づく。

時計は12時を回っている。

カッピーたちがランドリーに出かけて行ってからすでに2時間が経過している。

ちょっと時間かかりすぎじゃないか?

洗濯と乾燥機、両方やったとして1時間もあれば終わるはず。
2時間くらいで帰って来れるはず。
Facebookをチェックしてもまだなんの連絡もない。

なんだか不安になってきた。

カッピーのことだから、遅くなるならちゃんと連絡をしてくるはず。

バスターミナルの中は暇そうなバス待ちの人々やホームレスっぽいおじさんがベンチでうなだれている。
清掃のおばさんがのんびり床を拭いている。



なんだか本当に不安になってきたぞ。

Facebookでてっちゃんに連絡をとり、カッピーに電話をかけてもらう。
すぐにてっちゃんからメールが来る。


「ダメだー。出ないよー。」


不安の影がドンドン大きくなっていく。

ここは南部。
そしてネット上ではメンフィスは治安の悪い場所だと書かれていた。


まさか何かトラブルに巻き込まれたのか。
襲われて拉致されたんじゃないのか?
もしくは車にでもはねられて病院に運ばれたのか?








出て行ってから3時間経ってしまった。

もうヤバイ。
ターミナルの警備室に相談に行こう。




すると向こうからニコニコ笑いながら2人が戻ってきた。


「ごめんごめんー。ユージンが彼女のスカイプしててさー。」


「そっちだって女子大生と楽しそうにメールしてただろー。」







……………まぁ無事でよかった。














エアコンの効いたターミナルのドアを開けると、むわっとものすごい熱風が体を包んだ。

焼けるような日差しがアスファルトを溶かす勢いで降り注いでいる。

あ、あちぃ………
なんだこれ………暑いにもほどがあるぞ。

photo:01




一瞬にして汗が滝のように流れ出し、服がびしょ濡れになってしまった。

毎日毎日汗だくになって、すでに1週間くらいシャワーを浴びていない。

3人に体臭がないのが救いだな。









うら寂しい道をトボトボと歩く。
タイヤがぶっ壊れたキャリーバッグをガリガリと引きずる腕がちぎれそうだ。

photo:02




太陽が容赦無く降り注ぐ。
南部の熱風が砂埃をおこすので目がしばしばする。

言葉もなく歩く3人。


ようやくたどり着いたひと気のないバス停から、ある場所へ向かうバスに乗り込んだ。
1.75ドル。












「ここで降りな。向こうに歩いたら見えて来るよ。」

黒人のおっちゃんドライバーに言われ、町外れの大きな通りに降りた。


ここかよ……
こんなところにあるのか?


ふとギラギラした空を見上げた。
そこには俺の興奮をマックスに引き上げるこんな看板があった。

photo:03













さて、今日の目的地は一体どこなのか。


まず僕がテネシー州に入った時点で行くとわかっていた人。
100点です。


次にメンフィスに入った時点でわかった人。
80点。


この看板でわかった人。
30点。





答えは………












あ、ところで最近南部の人に優しくされすぎて顔つきがとても穏やかになってきたと感じています。

日本を出た頃からだいぶ変わったんじゃないかな。


ほらこんなふうに。












photo:04




うん、穏やか。





photo:05




グレースランド。

やってきた。
エルビスプレスリーが生涯住んだ家。
そしてエルビスが生涯を終えた家。

photo:06




いやったああああああああああ!!!!!

嬉しすぎるううううううううううううううううううううう!!!!!!




ビートルズファンがリバプールにビートルズを感じるように!!


オリバがマリアのハンカチにマリアを感じるように!!


エルビスがここで生きたという事実、それだけで興奮が止まらない!!!

photo:07





アメリカに入ってポール・マッカートニー、BBキング、ドゥービーブラザーズと、数々の神に会ってきたけど、やはりロックの神といえばこの人をおいて他にはいない。


エルビスがこの道を走ったんだ。
エルビスがこの風景を見ていたんだ。
エルビスがこの太陽を暑いと感じたんだ。

エルビスがあああああああ!!!

photo:08




トロールもエルビスファン!!











photo:09




グレースランドというのは、とても広大な敷地を持つお屋敷の名前。
もともとはこの地域を牛耳っていた農場主が建てた屋敷らしいんだけど、エルビスがそれを5000万円で買い取ったんだそう。

5000万円ってたいした金額じゃないみたいだけど、これは60年くらい前の話。
今のお金だったらとんでもない金額。

photo:11




photo:10





そしてそれを買った時のエルビスの年齢。
たったの22歳。
すでに売れに売れてたスーパースターだ。

photo:12





そんなエルビス。
42歳の時に心臓発作をおこしてバスルームで死ぬまで、ここで両親や家族、友人たちと穏やかに暮らしたんだそう。

エルビスはまぁ変わったというか彼一流のセンスの持ち主。
ピンクキャデラックなんてことする人だから、この自分の屋敷も彼なりに改装をしまくった。

例えば屋敷の中に滝を作ったり。

他にも様々な装飾を凝らし、ちょっとしたテーマパークみたいになっているそう。


彼の死後、このグレースランドは博物館として公開される。

すでにその存在は時代を超え、アイコンになり、偉大なロックンローラーとして歴史に刻まれた。

アメリカの心であり、アメリカンミュージックの父だ。


今でも、多い日には1日に4万人もの人々がこのグレースランドを訪れるそう。


誰もが異論なく彼を愛している。

photo:13




photo:14











もちろん俺も!!
エルビスのカントリーとブルースをミックスさせ、ロックンロールという高みに昇華させた音楽性はもちろんだけど、それよりも、すでにエルビスは神としてすべての人を魅了する存在だ。


土産物屋さんが楽しすぎて楽しすぎてオシッコ漏らしそおおおおおおおおお!!!!!

エルビスかっけえええええええええ!!!!!

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そ、そうだ!!

俺ばっかり楽しんだらいけないから、彼女のお土産買おうかな!!

よし!!これはどうかな!!

photo:16




エルビス、ピンクセット!!




彼女のキレた顔しか浮かばないからやめました。








グレースランドは博物館となっているので入場料がいる。
グレードによって3種類のチケットがあって、高いやつが70ドルくらい。
安いやつが30ドルくらいかな。

高いので無理。


グレースランドの周りにはたくさんのお土産物屋さんがあり、それらを見て回るだけでもかなり楽しめます。

photo:17





さらに広場ではエルビスのソックリさんがエルビスにしか聞こえないめちゃくちゃソックリな歌を披露している。

もっとディズニーランドくらいのハイクオリティで商売っけたっぷりな場所なんだろうな、と想像していたんだけど、その地元の人たちで管理しているようなローカルな雰囲気がとても微笑ましい。

photo:18






エルビスの歌マネをしてるおじさんを、エルビスのモノマネをしてるおじさんが写真に撮る図。

photo:19








南部の熱風がむわりと吹き抜ける。
周りにはのどかな田舎の風景が広がるのみ。
割れたアスファルトの道路、綺麗に刈り込まれた芝生、寂れた建物。

こんな何もない場所にエルビスは住んでいたのか。

それがなんだか寂しげにも思え、そしてテネシーという土地の懐の深さなのかなとも思った。


photo:20




ちょっ、おま、手に持ってるものが不謹慎(´Д` )


「ラブミーテンガーっていい曲だよね。」

テンダーね。














荷物をかつぎあげ、グレースランドを後にする。

近くにスーパーマーケットがあったので、そのままお店の前でギターを抱えた。

エルビスの家のすぐそばでバスキングなんてめちゃ怖い。

このメンフィス南部の郊外は完全に黒人たちの地域みたいで、白人の姿はまったくない。

しかし怖さなんてすでに微塵も感じない。

お金を入れてくれる黒人のみんなは、驚異的なほどフレンドリーで優しい笑顔をしている。

お店のセキュリティの人も店員さんも、わざわざ外に見に来て、親指を立ててくれる。

ようやく気づいたけど、今まですぐに注意されてしまっていたのは白人のスーパーマーケットだった。
黒人経営のお店では何も言われたことがない。
彼らのノリの良さってのは、人種の違いってだけではなさそうな気がする。

もっとその理由を見つけたいな。


「よぉ、兄ちゃん!!BBキングはできるかい!?」


「ご、ごめんなさい……出来ません。」


「そうかい!!こうやって歌うんだぜ!!」


そう言ってしみじみとブルースを歌ったおじさん。
下手くそだけど、感情のこめ方が信じられないくらいうまい。

いや、うまいという表現は違った。
彼らのブルースは、心の底から出てきてるものだから、感情を乗せるということが技術でもなんでもなく自然に滲み出ているだけのことだった。

2時間ほどやってあがりは35ドル。

photo:22







その後、マクドナルドにいたカッピーたちがやってきて交代し、2人も1時間ほどやって20ドルゲット。

夕闇の迫るスーパーマーケットの駐車場にサックスとギターが響いた。

photo:21














メンフィスの市バスはちょっと高くて、1.75ドル。
しかも乗り換えのたびに払わないといけないので、地味に痛い。


そんな市バスに揺られてメンフィスの空港にやってきた。

メンフィス国際空港、という大きな看板が8分音符をモチーフにされてる。

ここは音楽の町なんだよな。









今日も空港泊。
ひと気のないロビーで床磨きの機械を押している清掃のおじさん。

そんなおじさんのおかげでピカピカの床にマットを敷いた。

photo:23





早く進んでしまいたい。
なかなか思うように進めず、足踏みをしている状況が歯がゆくて仕方ない。

メンフィスのダウンタウンはもうスルーして明日から次の町へヒッチハイクしてしまうか?

それともやっぱりブルースの生まれ故郷であるメンフィスは見ておくべきか。

photo:24











アメリカで1番治安の悪い場所ってどこかわかる?

ニューヨーク?

違う。


デトロイトだ。
車産業が破綻し、町は廃墟と化し、窓の割れたビルばかりとなり、家が1ドルとかで売られているという話はデトロイト在住のサチさんから前に聞いた。

絶対行かない(^-^)/



では2位は?


このメンフィスだ。

貧しい労働者階級の黒人たちが多く、それが治安を悪化させる一因となっているそう。

いくら黒人は優しいとはいっても、やはり野宿は避けなければいけないか。


とにかく、今日は神の魂に触れ、そして民衆の魂に触れた。
それだけで俺の音楽にとても価値のある日になったと思う。


音楽とは魂の叫びなんだ。





10代のころから歌ってきた大好きなエルビスの曲。

you were always on my mind

歌うたびに失った人のことを思い出して苦しくなる。
これもきっと魂の声。
長い人生、もっともっといい歌を歌えるようになっていきたいな。

photo:25
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