7月28日 日曜日
【アメリカ】 シャーロット
ゆうべ、ヨシキさんとヨシキさんのお友達が運転する車に便乗してやってきたのは、ノースカロライナの真ん中あたりあるシャーロットという街。
話ではノースカロライナで1番大きな街みたい。
真夜中の街に到着し、適当に公園におろしてもらい、静寂の芝生の上にテントを張った。
ヨシキさん、贅沢な食事とお酒、感謝の言葉もありません。
地元の友達の家みたいにゆっくりとくつろぐことができました。
これからもイカしたビートをたくさん作って名前売ってください。
俺も頑張ります。
あとジャンクフードばかりでなく、鍋ブタで野菜たくさん食べてくださいね!!
「ヘイ、ヘーイ、ヘーイ!!起きろー!!起きるんだー!!」
テントの外からの声に飛び起きた。
入り口を開けると、そこには作業員のおじさんが立っていた。
「ここはキャンプしたらダメだよ。動いてくれ。」
そう言っておじさんはカートに乗って仕事に戻っていった。
まだ朝霧が煙る早朝の公園。
ランニングする人の姿もない。
3時間くらいしか寝てない。
頭がボーッとして、片付けなきゃと思いながらいつの間にか眠ってしまっていた。
「おい………おい!!おいコラ!!起きろー!!」
飛び起きた。やば!!
テントを開けるとさっきと別のおじさんが顔をしかめて立っていた。
「なんでまだいるんだ?移動しろと言っただろ。なぜ2回言わせるんだ?」
「すみません……つい眠くて………」
「いますぐテントをたたむんだ。早くしろ。」
寝ぼけ眼をこすってテントを片付ける。
ベンチに座ってボーッとタバコを吸った。
うう………体が重い。
でも歌わなきゃ。
とりあえず2ドルの市バスに乗ってダウンタウンへ。
ノースカロライナで1番大きな街だよな。
どれくらい都会なのかな。
ボストンくらいかな。
はい、全然人歩いてねぇ。
大丈夫。想定内だよ。
車社会のアメリカだもんね。
ガレージトゥガレージですよね。
もはやこのシチュエーションは俺にとってもうなんの問題でもない。
市バスに乗り込み、郊外にある大型スーパーマーケットにやってきた。
広大な駐車場。
そこらに放置してあるショッピングカートに、荷物を山盛り積みこんでガラガラと押していく。
いやー、楽チン。
早速バスキング開始!!
のその前に腹ごしらえ。
ギトギトのチキンにマカロニのマヨネーズ和えという最強に油っこいお昼ご飯を食べながら、今後の予定について話し合った。
「フミ君の計画としてはどんな感じなの?」
「えーっとね、まずこのノースカロライナからナッシュビル、メンフィス、そこから南に下ってミシシッピ、ニューオリンズ、テキサス、オクラホマ。悩んでたけどせっかくならグランドキャニオンはやっぱり見ときたいかなぁ。」
「それを全部ヒッチハイクで行くつもりなの?」
「なんとかなるよ、たぶん。」
「あー、怖いよー、この人の言ってること怖いよー。」
「じゃあせっかくならラスベガスも行こうよ。それで南米費用を散財しよう。」
「3万円しか持ってねーやつが何言ってんだ。」
「じゃあもういっそのことロスアンゼルスまで行こうよ。」
「ロスに行って何かあると?」
「なんも知らんけどさ。」
という後先何も考えいない話し合いの結果がこちらになります。
え?何これ?馬鹿なの?
馬鹿がテキトーに引いた線ですか?
頭悪い人なの?
「こ、こうして地図にして見てみるとなかなかの無謀さやね………」
「だからフミ君はいつも無謀すぎるんだって。」
「まぁ、でもなんとかなるんじゃない?」
「そうだよ、何とかなるよ。」
そう言って2人はさっさと眠ってしまった。
アメリカ横断ヒッチハイクか………
行きたい町を繋いだらこうなっただけで、別にたいしたチャレンジのつもりはない。
まぁなんとかなるか。
この度胸のある、というかお気楽なメンバーと一緒で嬉しいぜ。
さて、寝てる2人をほったらかして俺はスーパーの入り口でギターを取り出す。
暑い日差しがジリジリと肌に食い込む中で思いっきり歌った。
もはやお客さんは黒人しかいない。
白人は1割りってとこか。
でもみんながみんな、素敵すぎる笑顔でさっとお金を入れていく。
黒人は貧しいからお金がないし、そのせいで盗みを働いたり乱暴な性格をしている?
誰が言ったそんなこと?
みんな言ってる。
俺の中の俺も言ってる。
ヒップホップをガンガン流した車から身体中タトゥーだらけの黒人が上半身裸でゾロゾロおりてきたら、間違いなくぶち殺されそうな気分になる。
でもそんなギャングみたいな兄ちゃんが肩でリズムを刻みながら歩いてきて、グッジョブメーンといって5ドル札を置いていく。
突き出してきた拳に俺も拳をコツンとあわせる。
「おい!!お前!!」
ヒィ!!
調子良く歌っていると、熊みたいなシェリフがやってきて俺の前に立ちはだかった。
「おい!!」
「は、はひ………」
「いい声してるじゃねぇかコノヤロウ。」
そう言って乱暴に肩を抱いてくれる。
細っこい俺にはその力強さがとても頼もしい。
「あなたは熊みたいですね。」
「ばっはっはっはー!!コノヤロウ!!面白いじゃねぇか!!」
お店の人もみんなお金を入れてくれる。
親指を立て、優しい声をかけてくれる。
なんてフレンドリーなとこだよ、アメリカ南部。
黒人たちに囲まれながらそんな楽しすぎる路上を3時間。
あがりは106ドル!!
よっしゃあ!!!
それからカッピーとユージン君にバトンタッチ。
2人も人だかりを作ってスィングしまくり、ガンガン稼ぐがあまりにも調子良くやっていたのでついにお店からストップがかかった。
2人のあがりは80ドル。
「お前ら!!お前らはいいミュージシャンだ!!ここよりもシャーロットのダウンタウンでやったらもっと稼げるぞ!!俺がいい場所を知ってるから連れてってやる!!」
ずっと演奏を聴いてたおじさんが鼻息荒く声をかけてきた。
俺はもう満足だったけど、そのおじさんがめちゃくちゃ強引に街に行くんだ~!!と言ってくれるので、ノリで車に乗りこんだ。
ガタンガキン!!と今にも分解しそうなバンに荷物を積みこんでダウンタウンにやってきた。
うん、確かに朝よりかは人の通りは多いな。
「ほら!!そこ!!あそこの角!!向こうの交差点のとろこにもよくパフォーマーがいるんだ!!よし!!ここが最高のポイントだからここで歌え!!さぁ、頑張ってな!!」
おじさんは俺たちを降ろして嵐のように去っていった。
雨も小雨だし、俺はもう100ドル稼いでるのでやめとくかな。
でもカッピーたちは同じ100ドル稼いでも2人で折半なので、俺の倍稼がないと割りがあわない。
街路樹の下のベンチでジャズを響かせるカッピーたちを少し離れたところから日記を書きながら見守った。
すると突如、ギターとサックスの音にハーモニカの音色が加わった。
なんだ?
見にいってみると、2人の前に黒人のおじさんが座ってハーモニカを合わせていた。
ただの通りすがりのオッさん。
なのにとっても情感豊かなハーモニカを吹く。
2人のテンションを飲み込むようにソロを吹き上げるおじさん。
なんだなんだ、面白すぎるぜアメリカ南部。
さすがはディープな音楽の土地。
音楽を聴けば黙ってられないって人がそこらじゅうにいる。
そして、通行人もみんな楽しそうに腰を揺らしてお金を入れていく。
俺もたまらず下手くそな英語で即興で歌を合わせた。
街灯が光るシャーロットの街角に、イカしたセッションが響き渡った。
あがりは20ドル。
さて、もうアメリカ横断の旅は始まってしまっている。
もう泊まる場所はない。
自分たちで毎日見つけていかないといけない綱渡りの日々だ。
ゆうべの公園はもう泊まることはできない。
明日からヒッチハイクの移動が始まるので、出来れば街の中心部から外れた郊外まで出ておきたい。
グーグルマップを見ながら眠れそうな場所を探す。
まぁこんな田舎だから街から出てしまえばどこでも眠る場所はあるだろう。
市バスがどこまで行っても2ドルなので、行けるところまで行ってしまおうと乗り込んだ。
終点に着いた。
空港です。
「う、うわぁ!!ここは天国かぁー!!」
「トイレがある!!Wi-Fiもある!!」
「床がカーペットだー!!」
飛行機に乗らないのに空港泊。
渋い。
そこらじゅうのベンチや、隅っこのほうで飛行機待ちの旅行者たちがゴロゴロと寝っ転がっているので、荷物をたくさん持った俺たちもまったく違和感なくマットを敷ける。
エアコンも効いてるし、虫に怖がることもない。
なんて快適な無料宿泊施設なんだ!!
巡回している黒人の警備員さんが、ハーイ、と笑顔で声をかけてくれる。
こっそり寝酒のラムを飲んで寝袋に包まった。
ようやくホーボーの旅らしくなってきたアメリカ。
これからずっとこんな綱渡りの日々が続く。
スーパーマーケット、空港、ありとあらゆるものを利用しながら、危険を回避して進んでいくぞ。
もちろん、自分の中にある恥ずかしくない良識を信じつつ。
まぁ、今のところ危険なんて微塵も感じていないけどね。
黒人は怖い?
ホント、ひいき目なしで、今まで訪れた国の中でもトップ3に入るほど優しい人たちばかりの土地だよ、アメリカ南部。
旅をしていると、弾かれているのを感じる場所もあれば、心から抱きしめられているのを感じる場所がある。
心の中で恐れている感情を裏切られているというものあるかもしれないけど、本当に黒人の笑顔はマジで最高に優しい。
サザンホスピタリティに抱かれながら眠ろう。
これからの果てしないアメリカンホーボーの道程を夢見ながら。