7月16日 火曜日
【アメリカ】 プロビデンス ~ ボストン
木漏れ日がテントの幕に揺れる。
上半身裸で、テントの中に大の字になって寝ていた。
この季節は日陰にテントを張ることがとても大事になってくるな。
たまらなくシャワーを浴びたい。
日曜日にクニさんのとこで浴びたけど、たったの2日で極限に気持ち悪い。
今まで、よく1ヶ月もシャワー浴びないでいられますね?とか言われてきたけど、それはヨーロッパが涼しい場所だったから。
俺だって普通の人間。
こんなに暑かったらさすがに毎日シャワーが欲しい。
さて………ここはどこだっけ?
毎日毎日動きまくっていると、今どこの町にいるのかふとわからなくなる。
ここは日本ではなくアメリカ。
その意識は未だ抜けない。
ゆうべ、てっちゃんの運転する車で、ボストンから南に1時間ほど走ったところにあるプロビデンスという町にやってきたのが夜中の話。
どこにでもある地方都市で、用事がなければ行くことなどまずない町らしく、歩くウィキペディアのてっちゃんでさえどんなとこなのかサッパリわからないそう。
でもそういう町にこそ行ってみたかった。
「稼ぎが悪そうだったらまた拾いにくるから連絡してね。」
テントを張れる場所を見つけて、てっちゃんはボストンに帰って行った。
そのまま俺たちは川沿いの木の下にテントを張って眠った。
テントをたたんで町に向かう。
割れたアスファルトや雑草の生えた縁石。
一応ダウンタウンにはビルが立ち並んでいる。
しかし町中にはいたるところに廃墟の建物が放置されており、ベニヤ板でエントランスを塞がれたお店が目立つ。
通りにはまったくもって人が歩いておらず、車がまばらに走るのみ。
どこがメインストリートなのかわからず、歩いている爺さんに道をたずねてみた。
「ああ?メインストリート?これがそうだよ。」
そう言って足元を指差す爺さん。
こ、このまったく人が歩いていない通りがそうなんですか………
やべえ………カナダに引き続き、また町のチョイスを間違ってしまったか。
てっちゃんが言ってた。
アメリカはニューヨークやボストン、シカゴ、ロサンゼルスといった大都会以外はみんなガレージトゥガレージなんだよ、って。
車庫から車庫まで車移動。
町を歩く人なんていない車社会っていう意味をここで実感する。
でも!!ここまで来た以上、路上しないで引き下がるわけにはいかない。
町の人に、人がたくさん集まる場所をたずねて回る。
その結果、ダウンタウンの真ん中にあるバスターミナルが1番人が集まる場所とのこと。
早速行ってみると、なるほど、確かにここだけ人の姿が多い。
たくさんの人たちがバス待ちをしており、日陰で太陽をしのいでいる。
しかしよく見ると、ここにいる人たち、みんな仕事をしてなさそうなオッさんや、ガラの悪い奴らばかり。
ただの暇人の溜まり場みたいな状況。
とにかく、やるだけやってみようと楽器を出す。
ワラワラと集まってくる暇人たち。
どこの町でもそうだけど、この暇人たちはまずお金を入れない。
そしてマナーも悪い。
お、なんかやってやがるぜ、みたいな感じで近づいて来て、演奏途中だろうがなんだろうが話しかけてきたり、楽譜を無遠慮にのぞいてきたり。
やはりここでもそうだった。
ユージン君なんてヒドイ写真撮影大会をされてる。
撮るだけ撮って全然お金入れないし。
モーセも来るし。
今日は3人体制でやったんだけど、俺はまったく稼げない。
目の前で聴くだけ聴いて、去っていく。
しかしそんなキツイ状況でも、カッピー&ユージン君はなんとか少しずつでも稼いでいる。
3時間ほどやって、最終的にギターケースの中には30ドルのあがり。
3人体制でやっていたので、1人10ドルの配当だ。
しかしほとんどがカッピーたちが稼いだ金。
心苦しい。というか悔しい。
カッピーとユージン君は上手い。
このコンビならどこでも稼げると思う。
その2人におんぶされながら旅するなんて絶対に許されない。
俺は俺で確実に稼がないと。
17時になっててっちゃんかやってきた。
「全然ダメだった?マジかー。ごめん、俺のせいだわ。俺がこの町のことよく知らなかったらいけないんだ。」
そう言いながら買ってきてくれたサンドイッチを渡してくる。
アンタ、どこまで出来すぎなんだよ。
町を移動する?とてっちゃんは聞いてくるけど、さっき路上してる時にお巡りさんが来て、向こうにいい通りがあって、そっちの方が稼げるぞと教えてくれていた。
最後にそっちでやって、全然ダメだったら移動することに。
お巡りさんに言われた通りに行ってみると、丘の上に雰囲気のあるレストラン街があった。
もうカッピーたちに頼るわけにはいかない。
自分で稼がないと。
そして2時間やって、あがりは………
35ドル。
まぁまぁ。
お昼のバスターミナルでは、全くもって稼げなかったのに、ここでは面白いくらいにみんな足を止めてくれた。
俺とカッピーたちでは音楽のジャンルがまったく違う。
なので路上でも、得意な立地や得意な客層が異なる。
路上は見せ方やムードがとても大事。
自分のパフォーマンスが活きる場所を選ばないといけない。
このチョイスをミスらなければ、俺もカッピーたちに負けることはないぞ。
今夜のカッピーたちのあがりは40ドルってとこ。
「最近の旅人はみんな旅イベントに行って、色んな人と出会って、情報を集めてから世界一周に行くんだよ。」
ボストンに帰る車の中、話題は旅イベントの話に。
てっちゃんはブログ村の世界一周旅行者たちとたくさん交流を持っている。
俺がランキングに参加するずっと前からの上位ランカーたちとも仲がいい。
そんな世界一周を終えた旅行者たち、特にブログランキングで上位にいた人たちがほぼ全員と言っていいほど参加してるのが、旅イベントってやつ。
旅イベント?
なんだそれ?
俺も長いこと旅してるけど、そんなの行ったこともなければ聞いたこともなかった。
最近、このブログランキングの人たちがこぞってその宣伝をしていたけど、その内容としては、実際に世界一周をした旅行者を集め、トークライブをしてもらい、世界各国の料理ブースを出店させ、交流タイムを設けて、これから旅を始めたいという人同士が繋がり、世界旅行へ関心を持ってもらい、情報を交換し合うネットワーク作りの場にしよう、というものみたい。
ふーん。
旅をしたい。
でも不安だし怖い。
だから旅イベントに行って、同じ心境の人たちと交流して仲間を作って旅に臨むってわけか。
はっきり言って行く必要ゼロだな。
旅に出る前から出会うってどういうことだ?
どれだけ情報や知識を詰め込めば不安はなくなるのか?
俺は日本にいる時、世界の旅情報のテレビとか一切見なかった。
地球の歩き方も手にとったことすらない。
日本の旅仲間から世界の話を聞いた時も、質問することはなかった。
それは世界に対する純粋なイメージや憧れを汚さないため。
もし、世界に出る前にこのブログランキングのことを知っていたら、一気に熱が冷めただろうなぁって思う。
こんなに楽勝で世界一周って出来てしまうものなんだって。
世界に出る前の不安は計り知れない。
とてつもなく怖い。
でもそれがあるからこそ、行く価値がある。
それを薄めてはいけないと思う。
誰もがやってるような、観光本どおりの旅なんてクソつまらない。
日本人はレールが好きだ。
学校行って、仕事して、結婚して、子ども作って。
みんなそのレールからはみ出ないように生きていく。
もしはみ出たら周りから白い目で見られる。
旅人たちはそんなつまらない社会から飛び出したくて、新しい自分だけのものを見つけたくて旅に出る。
なのにだ、そんなレールを取っ払った生き方を求めるアウトローたちでさえ、旅イベントなんてものに行って、正しい旅、というレールにはまろうとする。
つまらないな。
初めてのものに出会う時の新鮮さ、驚きの純度を薄めてはいけないよ。
みんなが旅イベントに熱くなる中で俺だけこんなこと言ったらまたなんかウダウダ言われそうだけど、だからこそ違う考えを持った奴がいないと面白くない。
まぁ食わず嫌いというということで。
ドリフトアウェイ。
漂流を恐れてはいけない。
「よし!!じゃあ俺たちも旅イベントやろうぜ。旅イベントという名の盛大な合コン。」
「よし、タビジュンさんとか呼ぼう。モテるから。」
タビジュンさん、その節はよろしくお願いします!!