6月22日 土曜日
【カナダ】 ハミルトン
「フミ、僕は悔しいよ。君がケーキを買うなんて。もちろん!!感謝しているよ!!本当に本当にありがとう。でも、ああ、うまく言えないけど悔しいんだ。君を助けたくて家に呼んだのに、僕が助けられるなんて………」
情けをかけてもらった、と彼は苦悩していた。
勝手なことをしたのはわかっている。
トーマスの親父としてのメンツは少しは格好がついたと思う。
でもトーマスのプライドが傷ついたのも確かみたいだ。
俺もたくさんの人に日々助けてもらいながら旅している。
助けてもらいすぎて、助けてもらうことに免疫ができて、これくらいなら大したことない、とかそんな風になるのか?
そんなわけない。
1円のお金でも、家に泊めてもらうことも、俺の大きな荷物を見てドアをサッと開けてくれることも、平等とは言えないけどすべてに苦しくなるくらい感謝している。
そこにトーマスみたいな苦悩はないのか。
トーマスほどはないかもしれないな。
助けてもらって当たり前だなんて思わないけど、恩を次に回すというサイクル、ユイマールをみんなが実行しているのだと思えば、受けた優しさはしっかり受け止めていつか必ず次に回していきたいと思える。
トーマス、人ってほんの少しのヘルプが必要なときってあるやん。
そんな時は素直に受けて、ありがとうって言うだけでいいと思うぜ。
「トーマス、そろそろ行くよ。いろいろお世話になって、本当にありがとう。」
「フミ、君の旅に神のご加護があることを祈っているよ。あ、そうだ、フミはまだこのゲームを見てなかったよね?少しだけだから、ちょっと待ってね。これは本当に世界でトップ3に素晴らしいゲームなんだぜ。難易度が5種類あるんだうんたらかんたら………」
いつまでも出られそうにないので、強引に部屋を出ようとすると、お、怒ってるのかい?俺何か悪いことしたかな……?と悲しそうな顔して言うので、後味悪いいいいいいい(´Д` )
ハグをして、トーマスに背を向けて振り向かずに歩いた。
トーマス、これからも子供たちといい関係でいられるといいね。
ていうか部屋でインターネットとギターばっかり弾いてないで仕事探しなよ。
サンキュー、トーマス!!
さてとー、今日は土曜日。
次の目的地、ナイアガラの滝は土曜・日曜はものすごい観光客でごった返すと予想される。
世界中から観光客が来るんだろうな!!
ゆまちゃんみたいな愛のあるチョメチョメをする日本人の女子大生が3人くらいで旅行に来てたりするんだろうな!!!
大自然のパワーで解放的になってるかもしれないな!!
歌ってて女子大生に声かけられて仲良くなって夜に滝を見に行って、俺のカナディアンロッキーをナイアガラの滝にいいいいい!!!!!!
毎回、意気込みだけは大したもんなんだけどなぁ………
ゆまちゃん、元気になること祈ってるから。
そんな女子大生目当てで今日からナイアガラに向かう予定だったんだけど、トーマスのとこでちょっと時間をくってしまったので、今日までハミルトンで路上して、夜にヒッチハイクしてナイアガラに向かうとしよう。
そしてそんな不純なことばかり考えているから、天罰でギターケースが崩壊する。
ヒィィィィイイイイ!!!!(´Д` )
ヤメテクレエエエエエ(´Д` )
チャックがぶち壊れて閉まらなくなってしまったので、とりあえずショルダーのストラップでグルグル巻きにして、フックを破れてた穴に引っ掛けたらなんとか持ち運べる状態に。
こんなギター持ち歩いてる人、見たことありませんね。
渋い。
今日もいつものジャクソンスクエアの前でギターを鳴らす。
順調に入っていくお金。
折り鶴もキッチリ渡していく。
みんな笑顔になってくれて嬉しい。
でも不思議なことに、カナダの親たちは、なぜかみんな自分の子供の写真を撮られるのを嫌がるんだよなぁ。
ヨーロッパでは、折り鶴を渡した後でお子さんの写真撮っていいですかってお願いしたとき、断る人はいなかった。
カナダでは半分以上断られる。
なんかネットで悪用されるんじゃないかと思ってるんだろうなぁ。
そんなところも北米だなぁと思う。
今日のあがりは56カナダドル。
「おいおい、いい歌うたってるじゃないか。俺もギターとハーモニカで歌うんだよ。旅してるのかい!?どうだい?今夜うちでセッションしようよ!!」
これまたテンションの高いおじさんが話しかけてきた。
ほらほら、吸いな!!とタバコを差し出してくる。
「いやー!!すごいよ!!是非一緒に演奏しようよ!!この出会いを大切にしたいんだ。だってこの出会いは一生に一回のみのチャンスだぜ?今このタイミングしかないんだ。」
おお、なんてイカしたこと言うおっちゃんだ。
ニコニコして嬉しそうで、こっちまでハッピーになってくる。
すごく愛に満ち溢れているのが一瞬で見て取れる。
最近出会いの流れがとどまることを知らないな。
素晴らしいことだ。
というわけでバスに乗って彼の家に向かった。
閑静で緑豊かな住宅地の中に彼、マーシャルの家はあった。
「さぁ入って入って!!テキーラがいいかい?ウォッカがいいかい?先にシャワー浴びる?あ、着替えを出してあげる!!汚れ物あったら洗濯機は下にあるから!!」
興奮して、バタバタ家の中を走り回ってるマーシャル。
「いやー、嬉しいよ。旅してるシンガーが来てくれるなんてね!!」
マーシャルは50歳。
10代のころから音楽をやっている、筋金入りのフォーク世代。
日本でいうかぐや姫とか拓郎が大好きなおっちゃんだ。
バカルディで乾杯し、マーシャルが彼の曲を披露してくれた。
お、おおお、こりゃカッケェ。
まさに70年代のフォークロック。
渋い声と、シンプルで愛に満ち溢れた歌詞。
一発でマーシャルの曲が好きになった。
俺もそれにギターを乗っけてハモってみた。
気持ちよく音が重なる。
マーシャルの正統派なフォークロック。
ディラン、バーズ、ジョン・デンバー、その他諸々。
大好きな音楽。
2人の声が重なると、マーシャルは大興奮してバディ!!と言って抱きしめてくれた。
「フミ、この世界中のすべての人が、同時に30秒間、喋るのをやめたらどうなると思う?すごいパワーが生まれると思わないかい?同時にだぜ。」
ピザを食べながら熱く語るマーシャル。
世界中の人が同時に黙るなんて、そんなことできるわけない。
インターネット社会だから、情報を回すことは出来るかもしれない。
でもほとんどの人が、どうせ無理だよって言って、諦めとともに実行しないだろう。
その価値を想像しないだろう。
俺もそう思う。
「そうだよね。誰もがそんなこと不可能だと言うよ。でも例えば、10年前、フミが日本にいるとき、誰かがギターと6千円だけ持って世界一周しろと言ったら君はそんなこと無理だと言っただろう。でも今君はやっている。不可能だと決めるのは自分の心なんだよ。」
俺は打算的で、いつも勝算のある小さな目標を目の前に据えては、それを着実に実行し、進んできた。
それはとてもいいことだと思う。
でも冒険心がないとも思う。
自分の身の丈を超えるような、とんでもないデカイことにぶつかる勇気はない。
やろうとも思わない。
いつも勝算のあることを的にしてきた。
そんな俺の前で、50歳のカナダ人のオッさんが、目をキラキラさせながら、とんでもなくデカイことを言っている。
気持ちは分かる。
俺も愛を信じる。
彼は素晴らしい心を持っていて、きっとそれに呼応する心もたくさんあるだろう。
でも俺にはそこまで考えられない。
どうせ無理だから無駄だと思ってしまう。
ふと気づく。
自分ができないから人の夢を否定する。
今までさんざん、さんざん、こんな大人たちに立ち向かってきた。
やらねーウチから賢そうな理由並べて諦めてんじゃねぇよバカ!!っていつも思いながらガムシャラにやってきた。
気づけば俺も今、マーシャルの途轍もない夢物語をハナから否定していた。
マジでビックリした。
あんなに嫌いだった否定ばかりする大人に、見事おれもなっていることに気づいた。
「フミ、俺の爺ちゃんが言ってたんだ。でかい夢も小さい夢も値段は同じだって。だったらでかい夢のほうがいいだろ?」
ニッコリ笑って言うマーシャル。
すべてをわかった上での笑顔のよう。
今日もまた素晴らしい人に出会えた。
さて、酔っ払ってて音はずしまくりだけど、マーシャルの曲が良いから載せときます。
マーシャルも俺と一緒で、毎回演奏ごとにキメとか尺が変わるんだよな(´Д` )
いつも合わせてもらう側なので、苦労がわかりました………
みんないつもありがとう。
ていうか、2人ともなんて楽しそうに弾いてやがるんだ(´Д` )
i love you all, that’s true!!!