6月7日 金曜日
【カナダ】 トロント ~ ピーターボロ
目を覚ましてナオトさんの部屋を出ると、ドアの外にポツリと袋が置いてあった。
なんだこれ?
袋に何か書いてる。
あ、てぃちゃんからの手紙だ。
袋の中には、風邪が治りかけの俺のためにのど飴、そして折り紙が入っていた。
そして懐かしのハッピーターンも。
ああ、てぃちゃん、本当にありがとう。
岩手、震災の影響はまだまだ大変だろうけど、てぃちゃんみたいに優しくて明るい女の子がいるところだもん。
助け合いながら復興に向かっていることだろうな。
俺も頑張って喉を治していい歌うたって、そして折り紙でみんなを笑顔にする。
サンキュー。
ナオトさんと夕方に待ち合わせの約束をしてから、ゆうべ寝袋の件でここに行くといいよと教えてくれた場所に向かってみた。
どういうとこなんだろ?
寝袋が手に入るかもしれないって、何かのフリーマーケット的な場所なのかな?
トロントの中華街、スパダイナは、それはそれは巨大なコミュニティ。
横浜の中華街並みかな。
ただ英語の国に漢字だらけの地域が現れるのはとても異様だ。
歩いてる人たちはもちろんほぼ中国人。
中国語が飛び交う。
こんな異国の地で、しっかりと根を張ってみんなたくましく生きている。
住所のメモを見ながらスパダイナの通りを歩いて行くと、とある建物の前に着いた。
建物の前に汚れた格好をしたおじさんたちがたむろしている。
すぐわかった。
ここか。
中に入って、ことの次第を説明した。
「盗まれたのかい。それは残念だな。よし、ちょっと待ってなさい。あ、ご飯は食べるかい?」
どうやらこの場所でも無料で食事を提供しているみたい。
せっかくなのでお言葉に甘えることに。
ホントにカナダはこうした団体が多いな。
待ち合いスペースではキリスト教の音楽が流れ、たくさんの椅子におじさんたちが座っている。
ここには女性の姿もある。
そして11時半になり、スタッフの人が前に出てきて、神への感謝の祈りの合図をする。
この食事で僕は生きられる。
感謝します。
でもぺちゃくちゃ喋ってるオッさんたちや、うわの空の人たちばかりだった。
ご飯の提供。
さらに大きなカゴが運ばれてきて、みんなその中からパンを取り、バッグの中に入れる。
晩ご飯になるのかな。
他にも、希望者には缶詰めなどの配給もしていた。
俺は食事を終えて受付の横で呼ばれるのを待った。
しばらくしておばさんが大きな布団を抱えてやってきた。
「このブランケットでいいかしら?」
で、でけぇ(´Д` )
俺のキャリーバッグよりでけぇ(´Д` )
ものすごくありがたいんだけど、とてもじゃないけど持ち運びできない。
仕方ない、どっかで買うしかないか…………
「大きすぎるわね。んー、ちょっと待ってて。他の見てくるわ。」
すると別の部屋に入って行ったおばさん。
すぐに戻ってきた。
小綺麗なバッグを持って。
「これならいいでしょ。盗まれたのはホントにゴメンね。高いものではないけど、夜は過ごせるでしょ。」
バッグの中には新品の寝袋が入っていた。
すごい!!!
確かに今まで使ってたダックの羽毛の寝袋みたいに良いものではない。
大きくて重い。
濡れたら乾きにくいだろう。
でもそんなこと問題じゃない。
これは外で寝る者のための配給品。
その想いが詰まったものだ。
大事に使わせてもらいます。
それから路上に出かけた。
体のダルさはなくなったけど、まだ咳が止まらない。
でももうこれ以上休めない。
アメリカの入国審査のために少しでも所持金を増やさないといけない。
いつものヤング・クイーンの交差点地下の通路でギターを鳴らす。
声出るかな…………
いや、出さないといけないんだ。
歌って楽しいな。
4日ぶりの路上はものすごく気持ちのいいものだった。
中には親指を下に向けてくる黒人もいた。
全員には届かないさ。
悔しいけど。
喉はまだ本調子じゃなく、2時間歌ったらガラガラになってしまった。
しかしあがりは驚きの66カナダドル。
いい歌が歌えてると自分でわかる時には、あがりもいいもんだ。
トロント、いいね!!
路上を終えてダンダスのスクエアでナオトさんと待ち合わせ。
そこに車でやってきたナオトさん。
ナオトさんはこれからお友達と5人でモントリオールの方に遊びに行く。
あっちの東側の街のことをフレンチカナダって言うそう。
フランスによって作られた街みたいで、ノートルダム大聖堂なんかもあり、ヨーロッパらしい街並みが広がっているそう。
そしてビックリすることに、このトロントでもものすごくたくさんの日本人がいるというのに、モントリオールにはさらに大勢のの日本人が暮らしているんだそうだ。
俺が次に行きたかった場所は、バリーかピーターボロ。
ピーターボロはモントリオール方面ということで、ナオトさんたちの車に便乗させてもらえることになった。
「そういえば航空券とれました?手助けできることがあったら何でも言ってくださいよ。」
「うーん、もしよかったら現金を渡すからナオト君のクレジットカードでチケット予約できないかな?」
「全然いいですよ。ていうかクレジットカードなしで海外とか自殺行為ですよ。」
そう言ってくれるナオト君。
ありがたい。
なんとかお礼しないとな。
家に戻って航空券の予約を試みるが、まぁネットで予約なんてしたことないから全然わからない。
アカウントをとったりなんだかんだやってるうちに時間がなくなってしまい、ナオト君たちの出発の時間になってしまった。
まぁまだ10日あるからな。
またトロントに戻ってきた時にやろうということで、車に乗りこんだ。
車に乗り込む時、どこか近くでパン!!という乾いた音がした。
その音は2~3回続いた。
「これ、銃声ですね。」
そうナオト君の友達が言った。
マジか?
でもつい先日、このあたりで銃による殺人事件も起きているそう。
珍しいことではないんだ。
カナダは銃の所持は厳しく規制されている。
でもやっぱりトロントもなんだかんだ、北アメリカなんだよな。
大都市での野宿はこれからできないな。
もうパン!とかパンパンパン!!とか下ネタ以外で使いたくない!!
ナオト君の友達たちもみんないい奴らばかり。
高校の時からずっとトロントに住んでる人、ワーホリで働いてる人、働きながらこっちの人とバンド組んでるパンク野郎。
男たちの会話なんて相場が決まってる。
「合コンしましょうよー!!誰かいないんですかー!!」
そんな日本を思い出す会話をしながら車を飛ばし、あっという間にピーターボロに着いた。
「じゃあ、金丸さん、またトロントで!!」
爽やかにそう言って彼らはモントリオールに向けて走っていった。
みんなありがとう!!
さーて、ピーターボロ。
どんな街かなー。
金曜の夜のメインストリート。
ポツポツとバーが開いており、ポツポツと人の姿。
こ、これは…………
この町のメインストリートわずか数100m
寂れた映画館とバーが5、6軒
ま、マネー………?!
なかなかの田舎ですね…………
大都会のトロントから来たから、田舎っぷりがすごい(´Д` )
建物が低い。
灯りが少ない。
ま、まぁ昼間だったらもう少し人も歩くだろう。
そんな田舎なおかげで寝床は一瞬にして見つかった。
橋の下に静かなスペースを発見。
蚊がいるのでテントを張った。
そして今日もらった寝袋を出してみた。
うおぉぉ…………
こいつはいいや。
重くて大きい分、中が広く分厚くて温かい。
この暖かさ、神に感謝しよう。
そして神の教えに従う、人間の美しい心に感謝。
久しぶりのテント泊。
夜の闇に溶け込む。
やっぱり外で寝るも好きだ。