6月6日 木曜日
【カナダ】 トロント
ベッドの上で目を覚ます。
ここはシェルターか………?
いや、違う。
ここは昨日お誘いしてくれたナオトさんの部屋。
ううう………飲みすぎた………
気持ち悪い…………
いや、あんまり飲んでないんだけど久しぶりのアルコールだったからこんなに効いてしまっている………
うげええええ…………
1階に降りると、ナオトさんがシチューを温めてくれた。
ゲイのリックは今日も柔らかい笑顔。
「大丈夫ですか?金丸さん。まぁ今夜はゆっくり飲みましょう。」
ゆうべ何か食べたいものありますか?と聞かれ、俺の1番の好物、スキヤキと答えたんだけど、今夜スキヤキパーティーをしようということになった。
大好きな大好きなスキヤキ。
特別な日のメニュー。
それをこのトロントで食べられるとは。
ところで、ゆうべナオトさんから聞いたけど、矢口真里が浮気して離婚したそうですね。
旦那さんが仕事から帰ってきたら、自宅で他の男とシックスナインしてたらしいですね。
ウケますね。
ミニモニがシックスナイン。
ワイドショーとか興味ないけど、ここまでくると面白いですね。
チクショウ!!
羨ましい!!
ギターだけ持って街に出かけた。
連日の快晴から、久しぶりに雨が降っている。
薄暗い空の中、トラムに乗りこむ。
3ドル。
まず今日やるべきこと。
旅行代理店に行き、アメリカ出国用の航空券を買う。
それからシェルターに寝袋が見つかったか確認に行く。
時間があれば路上。
ナオトさんたちには20時に帰ると言っている。
泥酔して寝過ぎて、時間はすでに13時すぎ。
頭がボーッとする………
うー、気持ち悪い………
雨に濡れながら歩いてナオトさんが教えてくれた旅行代理店へ。
手数料いくらくらいかかるんだろう?
クレジットカードがあればこんな手間も省けるし、代理店に払う手数料も削減できるのになぁ。
入国前から出国のチケットがいる、だなんてそんなこと日本を出る前は全然知らなかった。
やって来たのはフライトセンターという結構大手の旅行代理店。
そこで狙っている9千円の航空券の予約…………
したいのに…………
その航空会社のチケットは取り扱ってないそう。
なんだよ、もう………
ピピって予約フォームに入力するだけじゃねぇのかよ………
仕方ない。
他の代理店を探すか。
その前に、先にシェルターに行ってみた。
寝袋、たぶん見つかってないだろうな。
盗んだやつはきっとここの入居者ではないはず。
ここにいる人たちはみんないい人たちだ。
週末に飯だけ食いに来てるやつらがいるんだけど、きっとあいつらだろう。
大切な寝袋。
自分で買ったものならまだ踏ん切りつくけど、あれは人からもったもの。
どうにかして取り戻したい。
シェルターに着いてスタッフの人に聞いてみた。
が、しかし首を横に振るだけ。
やっぱりな…………
無理か………
食堂に行き、スティーブにも聞いてみた。
「フミ、ゆうべ3階のやつが青い寝袋を使ってたぞ。あれは見た感じお前の寝袋だった。確かめるんだ。18時にベッドルームが開くからそれまで待っときな。」
でた。
ボケ。
使ってやがった。
よし、このまま張り込みしてベッドで寝袋使ってるところにパワーゲイザーを食らわす。
反撃してきたらギースの当て身で投げ殺す。
賑やかな食堂の中、殺意を隠しながら端っこに座って時間が18時になるのを待つ。
みんな晩ご飯の時間で、美味しそうにご飯を食べている。
俺も食べていいんだけど、今夜はナオトさんたちとスキヤキをしようということになっているので、空腹を我慢。
みんな美味しそうにハンバーグを食べている。
くそー………
絶対とっ捕まえてやる。
晩ご飯の時間が終わり、とうとうベッドルームが開いた。
ダッシュで3階へ。
オラァ!!
俺が一生懸命縫った、ていうかミユキさんも縫ってくれた大事な寝袋を使ってヌクヌク寝ているビチグソ野郎はどこだ!!!
ハンターの目でベッドルームの中を調べて回る。
なんだなんだ?と見てくるおっさんたち。
が、まだ18時になったばかりで、ほとんどの人が食堂でテレビを見てるのでベッドは空いたまま。
チクショウ。
みんなが寝る時間にならないとわからない。
食堂に降りてみんなを見渡すが、カードゲームやってたりチェスやってたり、誰が犯人かわからない。
大人しくみんながベッドルームに向かうのを待つ。
時間は20時を過ぎてしまった。
ナオトさんたちに20時には帰るからと言ってるのに………
電話番号を知らないから遅くなるとも言えず、早くみんなが寝るのを待ち続ける。
その後も待ち続け、時間はついに21時半を回ってしまった。
オッさんたちの消灯時間は22時。
まだかなりの人数が食堂でだべっている。
もうダメだ。
もう待てない。
ナオトさんたちがスキヤキを用意して待ちくたびれてるはずだ。
また明日来るか?
いや、明日にはトロントを出る。
今日しか取り返すチャンスはない。
どうする…………
と悩んでるところにスティーブがやってきた。
「ヘイ、フミ。ベッドに犯人が来ている。来るんだ。」
きた!!!!!
スティーブと一緒に受付へ。
ことの次第を説明するスティーブ。
スタッフも着いて行くと言う。
「フミ、気持ちはわかるがファイトはしてはいけないぞ。ちゃんと説明して取り返せばいい。」
ドキドキしながら3階のベッドの中を歩く。
ぎゃ、逆上して襲いかかってきたらどうしよう………
そ、そのときはギースの当て身投げを……………
そして、犯人のベッドに着いた。
ベッドで横になってるおじさん。
いきなり3人の男がベッドを囲んだので、なんだ?とビックリしている。
スタッフの兄さんが説明する。
「おーおー!!そうかい!!どうぞどうぞ!!いくらでも見てくれて構わないよ!!これが君のかどうかしっかり見なよ!!」
おじさんは、こいつは面白いといった感じで起き上がって、自分のロッカーの中から寝袋を引っ張り出した。
青い寝袋。
でもそれは一目で俺の物ではないとわかった。
違った…………
「どうだい?!これが君の寝袋かい?!そうだよなぁ、これは俺のだからなぁ。でも無くなったってのは残念なことだ。明日どこどこって所に行くといい。もしかしたら寝袋が手に入るかもしれない。」
冤罪をかけられたおじさん。
怒ってもいい所なのに、俺のために寝袋を手に入れる方法を丁寧に教えてくれた。
疑った俺に対して。
「すまない。こんな盗難って本当に珍しいケースなんだ。」
そう謝ってくれるスタッフの兄さん。
時間が遅くなったことでスティーブを責めはしない。
スティーブは俺の寝袋が青いってことしか知らない。
それでも俺のために探してくれていたんだ。
元はといえば洗濯中に目を離した俺がいけなかっただけのこと。
それなのにすべて盗ったやつのせいにするなんてまだまだ修業が足りないんだよな。
もう諦めがついた。
誰かがあの寝袋で、これから暖かい夜を過ごせるんだ。
俺は毎日使った。
たくさん使った。
もう元はとった。
破れて一生懸命縫ったのも、ここまで頑張ってくれた寝袋への最後の感謝だったということ。
そして1週間お世話になったこのシェルターへの寄付と思おう。
グッバイ、寝袋。
早苗さん、ごめんなさい!!
そしてありがとう!!
あれがあったから1年間、旅できたよ!!
気分はまだ曇っているが、シェルターの皆さんに挨拶。
「トロントでまた泊まるとこなくて野宿するんだったらここに来ればいいから。」
掃除くらいしたいところだったけど、今は時間がない。
みんなに頭を下げて、急いでシェルターを飛び出した。
走ってトラムに飛び乗る。
もう22時をすぎている。
2時間以上も待たされて、俺がナオトさんたちにパワーゲイザー食らわされてしまう。
せっかくスキヤキ作ってくれたのに…………
ダッシュで家に帰ると、てぃちゃんが待っててくれてた。
「あああああ!!金丸さん、大丈夫だっだがぁ?!心配しだはんでぇ。ナオトさん、金丸さんのこと探しにいっでもだんだぁ。」
マジか………
家の外で待っていたら、しばらくしてナオトさんが帰ってきた。
めっちゃ笑顔で。
「いや、何かあったのかと思ってシェルターに向かってました。」
「さ!!早ぐ入っでスキヤキ食べるべさ!!」
可愛いてぃちゃん。
男気溢れまくりのナオトさん。
お爺さんゲイのリック。
最高のメンバーだ、この家。
そして、そんなメンバーで囲んだスキヤキの味は…………
もう言うことなし。
これからの1年分の元気もらったよ。
さらにもう1人のルームメイトのカナコちゃんも一緒にスキヤキを食べた。
カナコちゃんも可愛い。
身長がミニモニなので、もはや矢口真里にしか見えなくて、もはやシックスナインしてるところしか想像でき…………
うそ!!カナコちゃん!!嘘!!
そんな目で見てたんじゃないから!!
シックスナインってやったことないです。
良いことと、悪いことが綺麗に同時にやってくる。
そんなもんかな。
スキヤキ最高でした!!!