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人生を踊ろう

5月8日 水曜日
【ベルギー】 ブリュッセル






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はぁー、歌えねーから暇ー。


暇すぎるー。



こんな良い街なのに、それを目の前にして歌えないなんて生殺しもいいとこだよ。

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今日の予定は夜に大島さんの舞台公演があるだけで、日中は激暇。


とりあえずグランプラスの中を歩き回り、ワッフル食べに行きました。

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ここ、200年くらいの歴史を誇るクッキー屋さんです。

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ブリュッセルはクッキーも有名です。


とにかく甘いお菓子が好きな国民なんでしょうね。


そんでこのお店のワッフルが人気みたいです。

ちゃんと調べてるんですよ。
無駄にマクドナルドで気配消してるわけじゃないです。



これです。

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2ユーロです。

昨日食べた1ユーロのワッフルと寸分も味の違いありません。



本当は大きな違いがあるのかもしれませんが、僕のチンケな舌では感じることはできません。


どうぞみなさん、気取らずにそこらへんの安っぽい観光客向けのワッフル屋で1ユーロのやつを食べましょう。

















はい、やること終了。


もうどうしようもないので、夜20時半から開演の大島さんの舞台の会場に向かう。






市内中心部から西に向かって歩き、橋をこえて行くと、ドンドン落書きの量が増えてきて、歩いてる人のほとんどが黒人になり始めた。

大島さんが治安の悪い地域だから気をつけてねと言っていたんだよな。

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路上に散らかるゴミが一気に増え、落書きだらけの壁の前にボロボロの車が止まったりしている。

たむろしている黒人たちのグループがこっちを見てくる。

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そんな黒人たちに道をたずねながら、公演会場である建物の前にやってきた。


















普通の住宅地の中にあって、一見劇場のようには見えないただの古い建物。

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でも中はしっかり現代的なコミュニティホールとなっており、置いてあったプログラムを見てみると、びっしりとアートのイベントが並んでいる。








まだ早いので近くのカフェでWi-Fiをつなぐ。


あー暇だなー。







そこで気づく。




あ、


今日、


日本から、


来てる、


旅行者の、


人から、


折り紙、


受け取る、


約束、


してた、


チンチン、


縮小。














やっべえええええ!!!!!


今日会いましょうね、いつでもメールいただけたらそこに飛んでいきますから!!とか抜かしといて、今メールボックスを見たら3件もメールが来てる。






ガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガク(´Д` )





ブログで大々的に折り紙ください!!とかほざいといて、最初の受け渡し人との約束を忘れていたというチンチンギロチン並みの犯罪。






「今日のお昼にバスクール駅の近くのカルフールってスーパーマーケットの前にいますね。」


「急だったでしょうか?申し訳ありません。12時半くらいにしましょう。」


「場所はわかりますか?今店内にいるので着いたら連絡ください。」



最後のメールが2時間前。








カスカス!!カスウウウ!!!




「ごめんなさい!!責任とって丸坊主にします!!すぐに行きます!!」


「申し訳ありません……もうカルフールを出ちゃいました。今夜は予定があり、明日も朝早くに出る予定です……難しいですね………」













なにやってんだ俺ええええ(´Д` )(´Д` )


せっかく日本から持ってきて下さったのに…………




「とにかくその駅前に行きます。夜19時くらいまでそこで待ってるのでお時間ありましたら寄って下さい。」










目的地のバスクール駅は街の反対側。

クソ遠い。



ダッシュで黒人だらけのスラムの中を疾風のごとく駆けぬける。


黒人たちが、なんだなんだ?と俺を見ている。


とにかくダッシュ!!







大人しくトラムに乗ります。

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3本乗り換えてようやくバスクールのトラム駅に到着。


近くにあったマクドナルドからメールを送り、ひたすら待ち続けた。








お届け人の名前は上田さん。

この近くにあるメゾンかなざわという日本人のご夫婦が経営されるホステルに泊まっているそう。


こちらがメゾンかなざわ。

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楽しいベルギー旅行の最中にわざわざ貴重なお時間を割いて待ち合わせしてくれてたというのに俺ってやつはなんてことしちまったんだ。





上田さんが今日来られるかどうかわからない。

俺も大島さんの公演に遅れるわけにはいかない。

19時になったらまた戻らなければいけない。

もし間に合わなければ彼女の好意を無駄にしてしまうことになる。


ああああ、馬鹿野郎…………






















19時前。

もう無理かな、と思ったところだった。




「あ、金丸さんですか?」


顔をあげたら上品そうな日本人の方が立っていた。


「上田さんー!!!ごめんなさい!!!」


「いえいえー、こちらこそ遠くまで来ていただいて申し訳ありません。」



この上田さん。

実は僕のブログの読者さんではなく、人に頼まれて折り紙を持ってきて下さった方。



その依頼主は…………















植松さん。


そう大阪のパティシエ社長、パリでのサプライズにご協力いただいたあの浪花節社長の植松さんだ。


上田さんは植松さんのお知り合いで、ちょうどブリュッセルに行くことを知り植松さんが今回の話を持ちかけて下さったのだ。




渡された紙袋の中には、綺麗な和柄の折り紙がたくさん入っていた。


上田さんは以前あのチョーヤで働いていたらしく、チョーヤの梅酒が入っていた。



梅酒ううう!!





さらにさらに!!!



「あ、これは植松さんから渡されたものです。」


そう言って紙袋の中から出てきたのは………





マーチンのライト弦2セット。
高級ギター弦エリクサーのセット。












植松のオジキイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!





ほんと、弦の予備が底をついていて、ついさっき楽器屋さんで弦を見てて、マーチンのセットが7ユーロとかして高くて買わなかった数時間後にこれ。





しかも、弦や折り紙が雨に濡れてダメにならないように、密封できるジップロックのビニール袋まで同封しているという大人力。







ああああ………これうっかりしてましたで受け取らずにスルーしていたら、マジでチンギロの刑だった。








ブログに折り鶴のことを書いてからわずか8日で、日本からベルギーに折り紙が届いてしまった。


さらにはヨーロッパの各地に住んでらっしゃる方々からも届けたいというご連絡をいただき、ヨーロッパに旅行に来られる方々、日本からも送るから旅程を教えてくれと、本当にたくさんの人にお問い合わせをもらいました。


感謝の言葉もありません。




上田さん!!本当にありがとうございます!!!

しっかり配りまくって世界中の子供たちの輝く笑顔をブログをあげていきますね!!


そして植松さん、いつも心のこもったサポートありがとうございます。

まだお店にも行ったことないというのに…………



みんな!!大阪のお菓子屋さん、フラワーに行ってみてくださいね!!!

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時間は19時10分!!!

よし!!間に合う!!


スーパーダッシュでトラムに飛び乗る!!

突然降り出したバケツひっくり返したような土砂降り雨の中、黒人のオッちゃんに案内してもらいながら近くの駅に到着!!

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雨の中、牛追い祭り並みにダッシュしているとすごいものが目に飛びこんだ!!

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うお………なんだこの虹………

端から端までこんなにクッキリと完璧な虹見たの初めてだ。

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すげー……しかも二重になってるよ。



よく見ると虹の足元にある高層ビル、あのビルの手前から虹が上空にのびている。


こんな虹見たことないな。



まるで日本とベルギーで優しさの架け橋がつながったことをお祝いしてるみたいだった。

臭え(´Д` )

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ちなみに僕は写真の加工は一切しません。















なんとか会場に到着。


薄暗い小ホールの中では、すでにたくさんの人がシートに座っていた。




ここでどんなダンスが繰り広げられるんだろう。

コンテンポラリーダンス。
現代ダンス。


ダンスなんて言ったら白鳥の湖みたいなバレエとか、サルサとか社交ダンスとか、そんなイメージくらい。


たまにライブハウスで前衛的なダンスを見たことあるけど、あんな感じなのかな。

あれをガッチリ作品として作り上げてるんだよな。


楽しみすぎる。














暗闇の中、音楽が鳴り始める。


不思議なリズムの太鼓の音がトランスのように鳴り響く。




そして暗闇の舞台の上に、明るいライトが光った。

闇を切り裂く光に浮かび上がった人間のシルエット。

手に持てるハンドライトくらいのもの。


摩訶不思議な衣装と動きで、影が移動し、様々な形にゆがむ。


光が消えては浮かび、消えては浮かぶ。


そのたびに、まるで洞窟の奥で繰り広げられるような奇妙な人間の動き。


トランス音はしだいに激しさを増し、照明が少しずつ舞台の全容を明らかにしていく。



舞台の上には複数のダンサーが規則性のない動きで、ゆっくりと体をくねらせ、走り、微動だにしないでいる。


上半身裸で胸を露わにした女性ダンサーが狂ったように暴れる。






まさにダリ。
アンダルシアの犬のような、超現実主義の、理解の範疇を遥かに超える構成。

光と闇と音が計算されつくした角度と勢いで迫っては遠ざかる。







意味を見出そうとしてはいけない。

意味を捨て、型を壊し、脳内に直接アクセスしてくるこの、感覚の波動を感じるんだ。


これが現代アートの先端なんだ。













1時間にわたる、奇妙な夢の中のような光景は幕を閉じた。


鳴り止まない拍手。


今日の公演は内部公開というもので、明日から始まる本公演に向けてのお客さんを前にした最終リハーサルといったもの。


5日間の公演なのだが、すでにすべての日程がソールドアウトしているそう。





ヨーロッパすげえ。

日本でこれやってどれだけのお客さんが入る?


トリエンナーレとか、デザインフェスとか、日本でもアートイベントはたくさんあるけど、そんなもん比較にならないくらいヨーロッパではアートが生活に馴染んでいるように見える。

日本人はアートなんていうと、お高い、インテリなものってイメージだよな。


こんな優れた創作物を日常的に観て、常にビンビンに脳を刺激していれば、マジで感性豊かになると思う。


日本でアイドルの音楽やバラエティ番組しか見ないで育った若者に、物事を深く、そして斜めから見ることの出来る感性が培われるだろうか。





あー、頭冴えまくりだぜ。

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「おーい!金丸君、元気だったかい!?」


他のお客さんたちが帰って行く中、客席に残って頭グルグル回転させているところに、大島さんがやってきてくれた。

相変わらずメガネにボサボサの髪の毛、白いTシャツを着た明治の文豪ファッションの大島さん。


その飾らない、というさファッションにまったくこだわっていないとも見える姿は、まるでアートのこと以外にはまったく気を使っていないよう。



「いやー、嬉しいよ。よし、向こうのラウンジで飲もうか。」


会場の横に併設してあるバーカウンターでは今夜のお客さんたちがみなグラスを片手に談笑していた。

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うーん、セレブ。





「本当はもっと照明を仕込んで毛穴まで飛ばすくらいの光量でやろうって提案したんだけど却下されちゃってね。なかなか言葉の壁ってのは大きいよ。」



今回の舞台上のあの奇妙な夢の中のような空間を演出したのは、まさに大島さんの仕事。

音楽や照明、空間を作り出すのが美術舞台監督の役割だ。



「ブリュッセルってのはダンスのメッカなんだ。こんな小さな劇場ってのがブリュッセルの街中には無数に存在するんだよ。そしてそれぞれで常にイベントが開催されていてほとんど満席ってのが普通なんだ。」

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そんな芸術の街で、己の感性のみを武器にバリバリに創作プロジェクトを打ちまくっている大島さん。


やっぱこの人すごい。
そしてその穏やかな笑顔の下に見える鋭い目線に背筋がただされる。



















大島さんの奥さんはオーストリア人。

奥さんや姪っ子さんやそのお友達たちも一緒にみんなでブリュッセルの夜に飲みに繰り出した。




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賑やかな市内中心部にはたくさんのバーがひしめいていて、昼間の上品な街の雰囲気から一変して、大都会の夜の空気が漂っている。



「こことか、あそこのバーは昔ダンサーたちのたまり場でね。僕が若い頃はみんなで夜中まで飲んで盛り上がったりしてたんだ。まぁほとんどホモなんだよねー。ダンサーって同性愛者がすごく多いんだ。」

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歴史あるアートの街、ブリュッセルの繁華街を、ブリュッセル名物のフライドポテトをつまみながら歩くと俺も一端のアーティスト気取り。

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夜のグランプラスも圧巻の美しさ。

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大島さんに連れられて入ったバーでベルギービールで乾杯。


「そこのオレンジの服を着たおばさん。あの人あんな感じだけど、ダンスの業界では誰もが飛び上がって驚くような有名人だよ。ほら、あそこの兄ちゃん。彼はジョン・ポール。今じゃパリコレとかバンバンやってる超売れっ子だよ。彼が今回の僕たちの舞台の衣装を手がけてくれてるんだ。」



「ヘイ、ユージ。シルブプレシルブプレ~。」


「ヘイ、ジョン、シルブプレボナペティー。」




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ダンス業界の著名人たちが集まるこのバーでも、大島ユージさんは顔の知れた存在。

みんなが彼に声をかける。
大島さんも流暢なフランス語で応える。


大島さんに出会わなければ、俺なんか絶対こんな華やかな場所来ることはなかった。


面白くて仕方ないよ。






「俺たちアーティストの仕事はどれだけフォーマットを外せるかなんだ。左右対称を崩したり、あらゆるすでにあるものを越えなければいけない。もちろんきちんとコンセプトを持ってね。」




日本人はとにかくなんでもフォーマットにはめたがる。
フォーマットに安心感を覚える。

明確さが好きで、根性論が好きだ。


でもヨーロッパにいると、もちろんそういう部分もあるんだけど、それ以上に個性を持つことを楽しんでいるように見える。

ファッションでも考え方でも、みんな自由に表現をしている。

人と違うことってのは素晴らしいことなんだよな。








俺たちは1人の人間。


似た人はいるけど、まったく同じ人間なんてこの地球上探しても120パーセント存在しない。


俺は俺でしかない。

誰にもなれないし、誰も俺にはなれない。


ならばその自分にしかない個性を楽しんで、磨いていかないとな。

それがきっと誇りになるんだし。








賑やかなバーの中。

周りには個性を磨きに磨いた人生を謳歌するアーティストたち。


小汚い格好をした俺。

でも人生の謳歌っぷりなら誰にも負けねえぞ。


苦くて味のあるベルギービールを飲み干した。

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