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あの街明かりが………

4月18日 土曜日
【フランス】 バイヨンヌ ~ パリ








朝、ホンソワの部屋に荷物を置かせてもらって、ミユキさんと町を歩いた。

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雨がパラついて、石畳か濡れて光っている。

まだお店はどこも閉まっている、穏やかな朝の風景。

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旧市街の中、坂道を登っていくと、すぐに大きなカテドラルが現れた。


昨日電車の窓から見た、2つの塔が立っている教会だ。

中に入った。







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静寂の堂内に、静かに流れる賛美歌。

ステンドグラスから光が差し込み、キリストの像を照らしている。

体に染み入るような神聖で穏やかな空気。

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ベンチに座ってぼーっと天井を眺めた。














この数日、慌ただしく飛ばしてきた。
毎日毎日、歌って移動して野宿して、歌って移動して…………

通り過ぎた町の名前もよく覚えていない。

1日たりとも立ち止まることの許されないミッションだったなぁ。


そして俺は今、こうしてフランスの田舎町、教会のベンチに座ってぼーっと賛美歌を聞いている。


やり過ごした出会い、だからこその出会い。
ミユキさんがいなかったらこんなに頑張れなかったかもしれないな。












ギターだけ取りに帰って路上に出た。

パリ前の最後の路上だ。

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バスクの田舎町に歌声を響かせる。

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約束までの1時間で、15ユーロゲット。















「フミ、パリはとても美しい街だ。でも北側には行かないことだよ。パリには20のパートがあるんだけど、18区19区20区のあたりは黒人とアラブ人が多くて治安が悪いんだ。ミユキ、君は女性だから特に気をつけるんだよ。夜にはできる限り地下鉄ではなくタクシーに乗るんだ。」



俺たちのことを心配してたくさん忠告をしてくれるホンソワ。





パリ。

世界屈指の大都市。

世界屈指の有名な街。

治安の悪さもヨーロッパ屈指。






東京と同じような感覚を覚える。

田舎の人がみな、東京に羨望を抱くように、フランス人にとってパリは憧れであり誇りなんだろうな。

会話をしていて、そういったものがなんとなく読み取れる。



ついにパリに行くんだ。
















感謝を告げてホンソワの部屋を出る。
別れ際にミユキさんが、ホンソワに折り紙で作った風船をプレゼントした。

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また雨の降り出した中、駅に向かって歩く。



途中でサンドイッチを食べる。
3ユーロ。


フランスに入ってから、さらに物価が上がった印象を受ける。

スペインは西欧でも安い国だったのかもしれないな。















駅に着いた。

約束の時間は14時半。


聞いている情報は、25歳のドイツ人サーファー、ジャスパー。
車の色は青。


それだけ。
どういう流れで彼の車に相乗りさせてもらうことになったのかもわからないまま、駅で青いサーファーっぽい車がやってくるのを待つ。


危険はないだろうが、心配なのは間がもつかというところ。

狭い車の中で8時間のドライブだ。

会話がもつか?



もし気難しい奴だったら、堪え難い8時間なる。


ヒッチハイクでたまにそういう状況になるけど、あの時間は30分でも拷問並みに気をすり減らすんだよなー。


まぁミユキさんがいるのは心強い。
1人じゃないことは頼もしい。












仕事人間なドイツ人の性格を象徴するかのように、14時半、寸分の狂いもなく時間通りにやってきた青い車。

屋根にサーフボードがくくりつけてある。

間違いない。






「ハイ!調子はどうだい!パリまでよろしくね!!」



運転手のジャスパーは、それはそれは爽やかな好青年だった。

なんの気兼ねもなく車に乗り込み、リラックスしながらドライブが始まった。










「ところでホンソワとはどうやって知り合ったの?」


「ホンソワ?あー、昨日電話したフランス人かい?僕は彼を知らないよ。」






どうやらこの車、カーシェアってやつで、インターネットを利用した募集だったみたい。


インターネットのサイトに、


「何日にどこどこまで走ります。行く人いれば乗せてきますよ?」


って書いとく。
そこに電話をかけて交渉するってわけだ。


ジャスパーはサーフィン休暇を終えてこれからドイツに帰るところ。


どうせ走るんだから誰かを格安で乗せていけば、ガソリン代と高速代金が浮く。

ていうかむしろ儲かるって寸法。

乗る人は3分の1の値段で行けるのでめちゃハッピー。





「ヨーロッパじゃ誰でもやってることだぜ。」



なるほどなー。
日本でもこれが流行ってれば、もっともっと日本のライブツアーが楽に出来たなー。
ガソリン代いらないんだから。













車は南部の大都市、ボルドーの中心部に入った。

旧市街の中を走って行く。石畳でガタガタと揺れる。

建物が密集した旧市街の中に古びた教会のある広場があり、そこでまたさらに2人を拾った。

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フランス人の女の子
チュニジア人の男



また2人ともフレンドリーないい奴ら!!





途中、今夜お邪魔するカッピーとナナちゃんにお土産としてボルドーのワインを買うため、酒屋さんに寄ってもらった。


「ボルドーワインってどんなやつがいいの?」


「そりゃあ、2005年か2009年だよ。それなら間違いないから。」




さすがはワインの聖地、ボルドー。
ここらの人はみんなワインの出来がよかった年ってやつをわかってるんだ。

生活の一部なんだな。







「さーて、みんなパリまでかっ飛ばすぜ!!わが国の科学力は世界イチイイィィィィィィ!!!!」



ドイツ男と高速道路。


俺とゆまちゃんの組み合わせくらい速い。なんの話ですか?






ドイツ人、フランス人、チュニジア人、日本人2人。


カトリック、ムスリム、仏教徒。


バカンスの帰り、仕事、規制、友達との約束、それを見るため、






様々な理由、様々な人種、

混ぜこぜのこの車が向かう先は、花の都、パリ。



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最初は大盛り上がりだったけど、次第に口数の減っていく車内。

チュニジア男は首を後ろに倒して眠りこけている。

窓の外を流れる同じような景色。


エンジン音だけの車の中でミユキさんがポツリと言った。



「もうパリに着いちゃうね………なんだったんだろう、この数日。夢だったなぁ。」



そうだね、と俺もつぶやいた。












「ヘイ、ガイズ、あれがパリだぜ。」


ずっと黙ってハンドルを握っていたジャスパーが窓の外を指差した。


真っ暗な夜空を赤い光が焦がしていた。

その下に広がっているであろう、ヨーロッパ最高の大都市、パリ。


「イエーイ!!パリスーー!!」


「ヒェエエエエイ!!セボーン!!」


「トレビアーン!!!」




ブッブッブー!!!




大盛り上がりの車内。
ジャスパーが景気づけにクラクションを鳴らす。


5人を乗せた車はパリの中に滑りこんだ。
















車は市内の少しはずれにある地下鉄の駅の前で止まった。
大きな建物が林立し、車や人がせわしなく行き交っている。

ここはもうパリだ。

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「フミ、ミユキ、元気でな。ハンブルグに来たら連絡するんだぜ。」


ジャスパーやみんなと別れ、俺たちは急いで地下鉄を降りる。


時間はすでに0時を過ぎている。
最終が何時かもわからないので、とにかく急いで改札へ。

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1.7ユーロの切符を買い、7番線の地下鉄に飛び乗った。

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この駅の近くに、あのカッピーとナナちゃんの滞在している家がある。

しかし、そこまでの行き方を見るためにはWi-FiをつないでFacebookのメッセージを開かないといけない。





パリだしねー!!
駅の周りならカフェとかあるから大丈夫ー!!









って思ってたのに…………




















7番線の終わりに近い駅で電車を降りた。

階段を上がり地上に出ると、駅の周りは静まり返っていた。



ど、どこも開いてねぇ(´Д` )



や、やべえ、どうしよう。


どっかに野良Wi-Fiが落ちてることに願いをたくして、2人で夜中の住宅地を歩き回る。


しかし、見つからない。



iPhoneをWi-Fi画面にしてひたすら歩く。


静寂の街。


冷たい風がビュービュー吹く。




ミユキさんは何も言わずについてきてくれる。


疲れ切っているはずだろうに。










大きな道路を越え、ビル街を抜け、チャイナタウンを抜け、歩き回るが、一向にWi-Fiを拾えない。




とんでもないミスだ。

ゆうべのうちにカッピーから送ってもらった、駅からの道順をコピーしてメモ帳に貼っておけばよかっただけのこと。



それをしなかったために、こんなわけのわからない彷徨をしている。




「大丈夫だよ、私は平気だから、Wi-Fi見つけよう。大丈夫大丈夫。」


大きなバッグパックを背負いながら力なく笑うミユキさん。

思えばずっと俺の無計画な旅についてきてくれたな。
最後までこんなで本当に申し訳なかった。



「あ、ホテルに行けばいいんじゃない?多分Wi-Fi使わせてくれるよ。」




そっか、そうだよな。
ホテルだよ!!

なんでそんなことに気づかなかったんだよ。





すぐにそこら辺にあったホテルへ。



しかし、ホテルは閉まっていた。



入口に締め出しを食ってる韓国人旅行者の兄ちゃんがいた。

泊まりたいんだけど、開いてないんだよと困っている。


彼にWi-Fiが欲しいんだよ、と話すと、俺の貸してあげるよと、自分のスマートフォンの電波をWi-Fiにして分けてくれた。


おかげでFacebookを開け、そこにある駅からの道順をゲット。
これでもう大丈夫だ。



「君たちは泊まるとこがあるんだね………でも大丈夫だよ。朝になれば友達に会えるから問題ないよ。」


そう力なく笑う韓国人の兄ちゃん。
一緒に行くかい?と誘ってあげたい。


俺が泊まるのはカッピーとナナちゃんの家。
しかしこの家。
本当は伊藤さんという年配の画家さんの借りている家で、そこにカッピーたちがお世話になっているという形。

そこに見知らぬ汚い俺が行くわけだ。


さらにそんな見知らぬ旅人が女の子まで連れて行く。


ミユキさんだけでギリギリなのに、その上そこで知り合ってほっとけなかったからってこの韓国人まで連れて行くのはさすがに無理だ。


ほんとにほんとにゴメン、力になれないよ、と何度も謝り、俺とミユキさんだけで歩き出した。

















数十分歩いて、最初の地下鉄の駅に戻ってきた。


すでに時間は深夜の2時を過ぎている。


メモ帳を見ながら、静まり返った町を歩く。







わずか3分で着いた。







こ、こ、これか?

立派で新しい鉄の門。


こんなとこなのかよ?


横にあるインターフォンにセキュリティナンバーを入力して門を開ける。


敷地内はリッチでモダンな建物が並び、綺麗に整備されている。



なんだなんだ?

その大家の画家さんって一体何者なんだ?

















疲れきった体。



脇目も振らずに飛ばしまくった2週間の旅のゴール。


そしてミユキさんとのハチャメチャな2人旅のゴール。


もう目の前だ。

もうすぐだ。
















敷地の奥に家が見えた。

明かりがついている。

まだ起きてくれている。


呼び鈴を鳴らした。

ドアを開けた。












「フミくーーーーーーーーーんんん!!!!!!遅いよおおおおおおおおおお!!!!!」




バイオリン弾きのナナちゃんが最高の笑顔で飛びついてきた。




疲れた…………



着いた………

着いたぞおおー…………






へたへたとベッドに倒れこんですぐに爆睡………

































なわけねええええええええええええ!!!!!!!!!!





朝の6時までひたすら飲みまくって、大笑いしまくった。


ここはパリ!!

でもノリはエジプトのダハブとまったく一緒!!!


なんたってカッピーとナナちゃんだもん!!
気が許せるどころの話じゃねえくらい大好きな2人。

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さらにそんな彼らの師匠である画家の伊藤さん!!

御ん歳73!!

なのに朝まで飲みまくるという鉄人。

そして話が面白いんだわ!!

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まぁ、とにかく!!!!!!!






なんだかんだありまくりで!!!








約束の他、パリ!!



到着!!!!!

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