4月17日 金曜日
【スペイン】 サン・セバスチャン
~ 【フランス】 バイヨンヌ
テントを開けると最高の景色ーーーー!!!!!
水平線にもやがかかり、向こう側の陸地がかんでいる。
どこまでも広がる海原!!
快晴!!!
いやー、爽快!!!
さぁー、歌って稼いで、ドンドン進まないと、マジでパリまで結構遠い(´Д` )
やべえ(´Д` )
路上に出る前に、とりあえず電車の駅に行ってパリまでの電車の値段を聞いてみた。
80ユーロくらいで行けるといいんだけど………
「120ユーロだよ。」
こ………!!
なにかの間違いだ。
俺の耳が悪いんだよ。
そうだそうだ。
すると駅員さん、この猿は英語もわからねぇのかと紙に「120€」と書いてくれた。
聞きたくないいいいい!!!!
そんな言葉聞きたくないいいいい!!!!
もはや完全に手持ちを上回る金額。
どげんすればよかとですかーーー!!!!!
と、と、とにかく歌いに行こう!!
昨日移動だけで歌わなかったから、喉も結構回復している。
急いで旧市街の路地裏に向かう。
まぁ、オシャレな街だわ、ここ。
小さなパンケーキふたつで6.5ユーロとか言われて死のうかなと思いましたね。
ゆうべ小さなバーと酔っ払いで溢れかえっていた旧市街の中は、まぁそれはそれはオシャレなショップとカフェが並ぶ、明るく楽しい迷路。
観光客の姿はまばら。
しかし、アレだな。
このサン・セバスチャン。
金持ちの街だわ。
歩いてる人の身なり、街の雰囲気、そして物価がめちゃ高い。
普通カプチーノって0.65ユーロくらいのもんなのに、この街では1.2ユーロとかそんなもん。
ケバブもレストランか?ってくらい高い。
そんな金持ちの街で早速ギターを鳴らす。
稼げるはず!!
なんだけど、渋い!!
全然入らねえ!!
こんなんじゃパリ行けねえよ!!
焦れば焦るほどお金の入りは渋くなるばかり。
結局、人通りがなくなる15時までやって19ユーロ。
「ダメだ、もうフランス行こう!!フランス行けばすごいことになるかもしれない!!」
「うん、フランス行こうか。」
「よし、フランス行こう。」
フランス行こう、でフランスに行けるってのがすげすぎる(´Д` )
そう、ここは国境の街。
電車で少し行けば、そこはもうフランスだ。
フランスだって!!
世界トップの先進国だ!!!
行くとこありすぎて頭こんがらがりそうだけど、今の俺にはパリしか見えていない。
フランスに入れば、何か安いキャンペーンの高速バスとかあるかもしれない!!
いや、あるはず!!
フランスに行くぞ!!!
電車は国境を越え、静かに走っていく。
窓の外に見える、ヨーロッパらしい景色に胸が踊る。
そこに巨大な塔が見えた。
うおー!!でけえ!!
なんだあの塔!!
フランスだよフランス!!
ここはフランスなんだよな!!
とうとうフランスに入ったぞ………
そして到着したのが、さっきの巨大な塔が街の真ん中にある、バイヨンヌというところ。
寂れた地方都市だけど、このあたりでは1番大きな街だ。
ここなら格安バスとかがあるはず。
サン・セバスチャンからここまで10ユーロだったから、110ユーロ以下だったら得したことになる。
駅員さんにバスステーションの場所をたずねた。
「え?バス?ないよ。この町からのバスはない。シルブプレ。」
「え!!じゃ、じゃあ電車だといくらでパリまで行けますか?」
「えーっとね………125ユーロだね。シルブプレ。」
あが、あが、あが、あが、あが、あがってる気がする。
スペインからよりあがってる気がする気がする。
10ユーロでスペインから国境越えてきたはずなのに。
距離縮まってるはずなのにあがってる気がする。
もう世の中わからない。
い、いやあああああああああ!!!!!!!
もうどうすればいいかわかんないいいいいいい!!!!!!
駅を出て、町に向かって急いで歩く!!
ま、まだ18時半。歌おうと思えばまだいける!!
風が吹き荒れる橋の上、大きな川を越える。
帽子が吹っ飛びそうになりながら、2人で歩く。
もう、毎日移動しすぎでわけわかんねえええええ!!!!
えええええ?!?ここどこだっけ!!!??
なんでこんな意味不明な地方都市にいるんだっけ?!
あの大きな教会の塔ってなんだっけ?!
俺の生きる意味ってなんだっけ?!壮大。
わけもわからないまま、ささやかな旧市街に辿り着き、田舎の可愛らしいショッピングストリートの真ん中で、即ギターを構える。
そして人通りもまばらな通りに歌を響かせる。
寂しすぎる。
こんなことしか出来ねえ。
でもこれが俺に出来る1番の近道。
これがパリへ行く唯一の手段。
大事な友達との、大事な約束のため、俺にできる最高の歌を歌うため。
フランスだからな、みんなオシャレでモダンなところだよな。
ボロボロでもいい。
カッコ悪くてもいい。
諦めるという選択肢なんて1mmもないぞ。
「君たちはここで何をしているんだ?」
その時、ひと組の上品そうな夫婦が話しかけてきた。
絵に描いたような紳士と美人のフランス夫婦。
やば、怒られるかな………
「旅をしてるのか。どこに泊まるんだ。」
「あ、え、あ、いつもキャンプをしています。」
「そうか。」
奥さんと2人でフランス語で話している旦那さん。
フランス語の響きって好きだな。
流麗で、可愛らしくて、映画の中で聞いていた、あの柔らかい響き。
「よし、今夜はうちに泊まればいい。彼女は家内と一緒にスーパーに買い物に行ってきな。ワインは赤と白どっちが好きだい?」
「あ、え、ど、どちらでも。」
「よし、メリアン、あれを買ってきてあげて。」
「ウィ。」
ショッピングストリートに面した建物のドアを開け、階段を上がり、アパートのドアを開けた。
そこには小走りしないといけないほどの長い廊下がのび、その奥には雑誌や映画にそのまま出てきそうなほどセンスのいい部屋があった。
「荷物はそこに置いて。ビールは好きかい?」
そう言ってグラスにハイネケンをついでくれる、清潔感と知的さをオーラのようにまとった紳士。
なんだこれ…………
フランス入国から2時間経たないうちに、なぜか人の家でビールを飲んでいる。
さっきまで路上で這いつくばっていたのに、
さっきまでここがどこかもわからずめまぐるしく動き回っていたのに、
なんだこれ?
少ししてミユキさんと奥さんが食材を持って帰ってきた。
すぐに料理にとりかかるみんな。
旦那さんが手際良く野菜を切り、奥さんがフライパンでベーコンを炒めている。
旦那さんがキッチンで料理をしていることがとても自然な光景だ。
また、キッチンも洒落てる!!
そして今日の朝、八百屋さんの前を通って野菜を見ながら、料理したいよねー、でもホテル泊まらないとできないもんねー、って話していたのに、今、ウキウキでオシャレなキッチンで料理をしているミユキさん。
「ヘイ、フミ、君たちはこのあとどこに行くんだい?」
「あ!そうだ!!ホンソワ、パリに行く1番安い方法を知ってる?」
「それは電車だろうね。でもフランスの電車は高いんだよ。ちょっと待ってて。」
インターネットをパタパタ触りながら、バスや電車の値段を調べてくれるホンソワ。
そして、なんと75ユーロというバスを発見。
110ユーロ以下だったら得だったのに、一気に大幅ダウン!!
すると今度はどこかに電話をかけはじめたホンソワ。
フランス語で誰かと話している。
「よし、フミ。明日のお昼すぎ、ここからパリに向かうやつがいるからその車にシェアして乗って行くといい。40ユーロだ。」
なんてこった………
どうやってそんな都合よくパリ行きの車を見つけたんだろう。
とにかく120ユーロかかるはずだったパリ行きが、40ユーロになってしまった。
そして無事に車に乗れれば、明日18日の夜に、ついにパリに到着する。
あまりにもでき過ぎた展開に、いまだにキツネにつままれたような感覚。
さっきまでどうするか、途方に暮れていたのに、一瞬で全てが解決してしまった。
そして目の前には、豪勢な食事。
オシャレなお皿やトング。
ワイングラスにつがれる赤い液体。
憧れていたバスク地方でいきなり地元の人の家にお泊まりするということになり、ミユキさんは若干放心状態みたいな顔をしている。
涙もろいミユキさん。
ワインを飲むと、あまりの感激に目に涙をためている。
「ハハハ、なぜ泣くんだい?こんなこと普通のことだよ。フランスの田舎ではね、食事の時に必ず空いたお皿をテーブルに置いておくんだ。1人分の席を作っておくんだよ。誰かがいつでも来ていいようにね。それくらいフランス人はお客さんと食事をすることを楽しむんだよ。まぁ今ではほとんどなくなった習慣だけどね。」
食事を終え、シャワーを浴び、用意してくれた部屋に入る。
息子の部屋だけど、今外に泊まりに行ってるから自由に使っていいよとのこと。
枕元にナルトとワンピースの漫画が並んでいる。
ふき出しの文字はもちろんフランス語だ。
「ああぁー、信じらんないなぁー。ヒッチハイクしたり、テントで寝たり、フランス人の家で寝たり………一体私になにが起きてるんだろう。夢みたいだ。」
折り紙をしながら言うミユキさん。
壁に貼られたポスターにはフランスの漫画イラストが描かれている。
電気を消してベッドに入る。
「もうすぐ夢も終わりだな………」
寂しそうにミユキさんがつぶやいた。
ボニー&クライドみたいな俺たちの旅。
その終着点は、マシンガンではなくて、花の都パリ。
パリから先はお互い、それぞれの旅に戻る。
今までの旅に戻るだけ。
ほんの少しの間、旅の孤独を分けあっただけのこと。
明日、とうとうパリだ。
約束の街。
そして2人旅の終わりの街。