4月13日 月曜日
【スペイン】 サンティアゴ・デ・コンポステーラ
ミユキさんはカオルさんみたいに鍋やフライパンは持っていないけど、裁縫道具を持っている。
破れていた寝袋をちょちょいと縫ってくれた。
女の人すげえ。
「アフリカのチルドレンホームで子供たちの服を縫ってあげてたからねー。」
女と男の生まれもったポテンシャルってあると思う。
育ちの中で培ったものとかもあわせたら、もう完全にナイトと白魔法使いくらい役割違う。
どちらもパーティーには必ず必要なジョブだよな。
賢者すげえ。
パパッとテントをたたんで、早速オールドシティーへ向かう。
丘から見渡せば、すぐそこに郊外の緑が広がるようなのどかな田舎町であるこのサンティアゴ。
古めかしい町の中にはいくつもの教会が立ち、いたるところに銅像やキリスト教のモニュメントを見ることができ、聖地としての雰囲気が色濃く漂っている。
1ヶ月の巡礼の果てにたどり着いたのならば、感慨もひとしおだろうな。
車の入れない細い路地が入り組む旧市街の中に足を踏み入れると、地元の人々に混じって巡礼者らしき人たちの姿を見ることができる。
その姿は四国お遍路みたいに白装束に編笠といったような宗教色の強いものではなく、いたってスポーティー。
みんなカッコいいアウトドアウェアに身を包んでおり、ぱっと見ではすぐに見分けがつかない。
そんな巡礼者たちのトレードマークみたいなものがこれ。
杖。
お遍路もあるよね。
同行二人の杖。
でもこのカミーノの巡礼の杖には、なぜかヒョウタンとホタテの貝殻がぶら下げてある。
ヒョウタンは水を入れてたんだろうけど、このホタテはなんだろうな?
わからないけど面白い風習だな。
年間数十万人が巡礼するこのカミーノ。
スロバキアでこの巡礼をした人に写真を見せてもらったことがあるんだけど、それはそれは綺麗な風景ばかりだった。
四国お遍路みたいに山の中の獣道とか寂しげな海沿いとかはあまりなく、どこまでも広がる広大な牧草地の中の一本道や小さな村々など、とても牧歌的なものだった。
話を聞いてみると、面白い話がいろいろある。
このカミーノ。
巡礼の証明書みたいなものをもらえるんだけど、これをもらうためには、徒歩で100km以上、自転車で300kmを進むことが条件となっている。
逆にいえば全てを歩かなくてももらえるわけだ。
証明書というステータスだけを望む人はそれだけをパッと歩いたりするみたい。
四国お遍路では全行程徒歩じゃないとくれなかったな。
そしてその証明書があると、レストランで無料でご飯が食べられたり、ここサンティアゴからの航空券や電車代が割り引きになるという。
四国そんなのなかったぞ!!
さらにサンティアゴの旧市街の中を歩くと、聖地なだけあって物乞いの姿が他の町に比べて多く見られるんだけど、その中に混じって完全に物乞いの格好ではない、綺麗な服を着たおじさんなんかが道端でお金をもらっている。
これもおそらく、門付けを行うお遍路と同様に恵みの金で巡礼をしているということなんだろう。
四国お遍路にたくさん似たところがある、このカミーノの巡礼。
宗教の中から生まれた民族性や風習が土地のものと芳醇に混ざり合った文化こそ人類の失ってはいけない遺産だ。
そんな世界中から巡礼者と観光客が押し寄せる場所なもんだから、町の規模の割りにストリートパフォーマーがめちゃくちゃ多い。
そっこらじゅうにギター弾きやオペラ歌手やらが陣取って、石畳に音楽を響かせている。
これもまた参詣道の道中にいた大道芸人みたいな伝統的な光景だろう。
そんな場所に来ればうずいて仕方ないのがパフォーマーのサガ。
観光は後回しにして、路地裏の教会の前で早速ギターを鳴らす。
ポツリポツリとお金が入り、2時間で22ユーロのあがり。
ここはスペイン。
南部と同様、昼下がりはお店が閉まって閑散とする。
ひと気がなくなるこの時間帯は、ちょうどいい休憩&観光タイムだ。
路地裏の中を歩いていくと、土産物屋さんがたくさん並ぶ通りを見つけた。
ホタテ貝をバッグパックからぶら下げた巡礼者たちが、わらわら歩いている。
みんな明るい、解き放たれたような表情だ。
そうだよな。ここは長い長い巡礼の旅の終わりの地だもんな。
しかもそれがあの陽気なスペイン人。
もうテンションの上がり方がおかしなことになっていて、人目も気にせず踊りまくってるおばちゃんとか普通。
イヤッホーイ!!
ライラライラリ~~!!!!
もう、スペイン人、大好き(^-^)/
路地を抜けると、大きな広場に出た。
たくさんの人々が地面に寝転がっている。
その頭上には……………
やべー。
巡礼してねーけど、すげーやべー。
サンティアゴ大聖堂。
苔むした石像、いたるところから草がのび、のどかに風に揺れている。
千年以上変わっていないであろうその姿。
その迫力と美しさは今まで見た大聖堂でTOP3。
地面に座ってぼんやり見上げた。
流れる雲が飛びさる。
ラピュタ。
スポーティーな若者、おじさんおばさん、ボーイスカウトの子供たち、
みんな広場の中で喜びの声をあげていた。
こりゃ、達成感が湧き上がって仕方ない光景だよ。
聖堂内部も無料で見学ができ、聖ヤコブの遺骸であろう棺も見ることができたりと、巡礼者でなくとも有り難みが身に沁みる。
毎日数回ミサが行われているようで、それがなかなかの迫力だそうだが、別に見なくてもいいかと思えるほどに素晴らしい充実感を与えてくれる聖堂だな。
表の広場に座りこんでボンヤリとするだけで心が解き放たれるようだ。
観光といっても見所はこの大聖堂くらいのもの。
夕方になり人通りが増えてきた。
夜の部の路上スタート。
大聖堂の周りに広がる旧市街の路地。
そこに歌とギターが響く。
たくさんの人が足を止めてくれ、拍手が起きる。
子供も、大人も、女も男も、爺ちゃんも婆ちゃんも、車椅子の人も、ダウン症の人も、ホームレスも、赤ちゃんも。
みんなが笑顔でウィンクし、親指をたてお金を置いてくれる。
何度もグラシアスと言った。
人ごみの中に混じって、ニコニコしながらそれを見ているミユキさん。
今日はいい路上ができた。
あがりは30ユーロ。
合計52ユーロ!!
よっしゃあ!!!
昨日会ったダイスケ君もやってきて3人でご飯を食べに。
今朝、いいカフェバーを見つけたんだけど、俺もミユキさんも一度いいお店を見つけたらそこばっかり行く性格。
気が合うから楽だね。
夜もそのカフェに行き、お昼と同じメニュー。
これ。
ミートソーススパゲッティ。
うめええええ(´Д` )
落ち着くー。
パスタじゃなくてスパゲッティってのがいいです。
あとスペイン、ポルトガルでは、パンのことをブレッドとは言わず、パンと言います。
そんなパンがついて3.5ユーロ。
野菜食え、俺。
「粘土を持って山に入って、獣道にその粘土を広げて置いとくんです。1週間くらいして取りにいくと、そこに動物の足跡が残ってるんですよね。足跡の大きさや粘土の凹み具合でその動物の大きさや歩き方、習性とかも読み取れるんです。」
陶器などの焼き物、造形を主に専攻してるアーティストのダイスケ君。
前衛的な作品が多く、グループ展なんかもやってるとのこと。
動物の足跡の採取には、その土地に生きる人々や動物たちとの関わり合い、自然とともに生きる知恵、土着的な風俗など、様々なものを表現したいという狙いがあるそうだ。
「旅しながら日本のことしか考えてないですからね。あははははー。」
やっぱり1人旅人は面白いやつが多いわ。
これから次の街に移動するというダイスケ君をバスステーションまで送っていき、俺たちはゆうべと同じ公園へ。
スペインでは日が沈むのがめちゃくちゃ遅く、21時を過ぎてからようやく夕焼けになっていく。
そのせいで時間の感覚が狂って、さてスーパーに買い物行こうかというとすでに閉店ってパターンが多い。
今日もそれでビールを買いそびれてしまった。
酒好きの2人。
なんとしてもビールを手に入れたくて商店を探し回るが、どこにも見つからない。
こりゃもうダメか、今夜はビール抜きかなと思っていたら、ミユキさんがどこかへ歩いていき、ニコニコしながら戻ってきたら手にビールを2本持っていた。
バーで売ってもらってきたよう。
酒好きの相棒でよかった。
同じ芝生の上にテントを張り、ビールを飲みながらギターを取り出す。
パリに向けて川田君の曲、東京タワーを練習しなければいけない。
静かな夜の公園。
狭いテントの中で曲を頭に浮かべながらコードを探す。
それを見ているミユキさん。
外灯の明かりがテントの中を淡く照らす。
このロマンティックで、優しく、切ない曲。
2人の物語を思い描きながらポロポロとギターを鳴らす。
するとミユキさんがボロボロ泣きだした。
「ぶえええぇぇぇぇ、いい曲だよおおおおおおお………胸が苦しいよおおおおお………」
涙もろいミユキさん。
バッグパックに突っ伏して泣いている。
精神的に弱いところがあるんだろうな。
どんな人生を送ってきたかなんて俺にはわからないけど、きっと辛いことがいっぱいあったはず。
それを乗り越えるための旅なのか。
それから逃げるための旅なのか。
旅に出る理由なんてなんだっていい。
涙を流すのはいいとこだ。
たくさん泣いて、涙で心を洗えばいい。
テントの中、泣きじゃくるミユキさん。
俺はギターをポロポロと鳴らした。