3月17日 日曜日
【モロッコ】 マラケシュ
泥のように眠った。
心身共に疲れ果てていた。
あまりにもたくさんのことがあった昨日。
もう、ずっと眠っていたかった。
パッと目を覚ました。
もう昼を過ぎているだろうと時計を見ると、まだ8時を過ぎたところだった。
もう一度寝ようとしてみたが頭が冴えている。
心がリラックスできていない。
仕方なく部屋を出た。
モロッコはタイルが有名みたいで、どの建物にも色とりどりのタイルでモザイクの柄が描かれており、それがアフリカとヨーロッパの文化の交流地であるモロッコのエキゾチックな雰囲気を演出している。
このホテルもそう。
口の字になった建物は中央が吹き抜けの中庭になっており、周りにドアが並んでいる。
青や白などの鮮やかなタイルが模様を描き、まるで秘密の隠れ家のような趣がある。
荷物を置いて外に出た。
迷路の中を歩き回り、やっとのことでゆうべのあの賑やかな広場に出た。
ここはジャマルフナ広場というらしく、有名な観光地として名高い。
ごちゃごちゃしたイスラムの国にしては珍しく、広大な敷地のこの広場はヨーロッパを思い起こさせる。
まだiPhoneが諦めきれない。
しかし諦めて前を向かないといけない。
つまり新しいiPhoneを買うということ。
金はまだある。
そんなに高いものは買えないが、安いiPhoneならなんとかなる。
ショッピングストリートの中を歩く。
たくさんある携帯屋さん。
路上に並べられたガラクタみたいな携帯屋もある。
中古品や盗品だろう。
ていうかお店に並んでる新品だってどこまで信用できるかわかったもんじゃない。
普段は、見向きもしない路上販売に目を光らせる。
「ハーイ、コニチハー!!ゲンキデスカー!!サバクサバク!!チープチープ!!」
歩いていると、たくさんのツアー会社の呼び込みに声をかけられる。
モロッコは砂漠が有名。
日本人はみなこの砂漠ツアーに参加するため、彼らも挨拶程度の日本語で声をかけてくる。
ウザい。
「ハーイ!!サバクサバク!!ニホンジンスキデス!!」
そんな呼び込みの中の1人に、話をしてみた。
これもまたiPhoneを無くした喪失感と寂しさがやらせたことだったと思う。
「フレンド、そこのカフェに座ろう。ゆっくり話そう。」
彼の名前はウサマ。30歳のいまどきなアラブ男性。
カフェに座って、丸1日ぶりの食事である小さなクレープにかじりつきながら、iPhoneの話をした。
「フミ、わかるよ。俺もこの間iPhone5をなくしたんだ。1週間泣いたよ。大事な家族の写真もメモリーも全部なくなったんだ。痛いほどわかるよ。」
これが嘘かは分からない。でもこの時の俺にはそれがスッと信じられた。
「でもフミ、諦めるのはまだ早いよ。GPSがあるじゃないか。もし誰かが今インターネットにつないでいたら場所を特定できるはずだよ。俺はこの町の人間だ。プロを知っている。一緒に探そう。」
それからウサマと携帯ショップを周り、GPSによる探索を試みた。
しかしどこでやっても反応はなかった。
「まだだ、俺はフミの気持ちがわかる。警察に行ってみよう。力になってくれるかもしれない。」
なんていいヤツだ、ウサマ。
こんなに必死に探し回ってくれるなんて。
一緒に歩いてる間も、彼とは色んな話をした。家族のことや恋人のこと。
今のこの弱り切った心に彼の優しさがしみる。
「言っとくけどフミ。これは君からお金が欲しくてやってることじゃないんだからね。困ってる人がいたら助けるのがムスリムなんだ。お金なんかいらない。ホラ、このおでこの傷を見てみて。これは交通事故で負ったものなんだけど20日以上俺は病院で目を覚まさなかった。奇跡的に今生きてるんだ。俺はアッラーを心から信じている。だから俺を信じてくれ。」
この誰も信じられない町の中でウサマという男に出会い、すっかり信用した俺は彼と一緒に行動することに。
警察署で協力を得られなかった俺たちは、今度はインターネットカフェへ。
ソフトバンクのカスタマーサポートで何か活路が見出せないかと踏んだわけだが、電話するにはやはり金がかかる。
しかし、ソフトバンクの携帯からなら無料だと書いてある。
「よし、フミ。日本人が泊まってる宿を探して電話をかりよう。」
2人の不思議なコンビによる、マラケシュの冒険。
日本人はどこだ?
その時、パッと思いついた。
そうだ!!
実はこの時、高校生の時からの女友達が3人でモロッコに来ていたのだ。
おとといFacebookで、会えたらお茶でもしようと話していたんだけど、彼女たちも初日はマラケシュに行くと言っていた。
もしかしたら今このあたりにいるかもしれない。
なんとかして探し出したい。
iPhoneの解決策もだけど、今のこの心細さが心許せる友達を欲している。
彼女たちの居場所はわからない。
でもこの近くにいるはず。
ホテルに戻ってギターを持ってきた。
そして、この人でごった返すマジャルフナ広場でギターを抱える。
とても歌えるような精神状態じゃないが、それでも気力を振り絞る。
俺を見つけてくれ。
思いっきり声を張り上げて歌った。
人々が足を止め、人だかりが膨れ上がる。
いいぞ、ドンドン大きくなれ。
そして目立って俺を見つけやすくしてくれ。
が……………
やっぱりイスラム国で路上はダメだ………
すぐに警察が来て止められてしまった。
もう、勘弁してくれよ…………
くそ……全然上手くいかねえよ………
場所をかえてやったが、そこでもやっぱりすぐに止められた。
ていうか10分くらいしかやってないのに、100ディルハムも入った。1000円。
早くヨーロッパに戻って、思う存分歌いたい。
ウサマと一緒に広場の有名なカフェへ。
たくさんの観光客で賑わっており、目の前の通りを人々が歩いている。
テラスに座ってコーヒーを飲みながら、歩いてる人々に目をこらす。
日本人はどこだ………
たくさんの物乞いや物売りがやって来ては、テーブルを回って声をかけている。
楽器を弾きながら回ってくるやつもいる。
中には、いきなりテラスの目の前で中国雑技団みたいな組み体操を始めるグループまで。
強制的に見させて、見物料をせびって回る。
ここは観光都市、マラケシュ。
人ごみの中にたまに日本人を見つけて、そのたびに走って行って、宿に3人組の日本人の女の子はいないか尋ねる。
が、彼らの反応は冷たい。
「は?……あ……いえ、知りません………」
ヨーロッパでもそうだったけど、観光地で会う日本人って、なんでこんなによそよそしいんだろう?
はぁ、迷惑です、みたいな感じで、足を止めもしない。
同じ日本人同志なのに。
カフェに戻ると、ウサマの友達がいた。
ハリードという、これまた好青年の彼。
なんとついこの前まで埼玉と表参道に住んでいたという大の親日家。
日本語もなかなか上手だ。
「フミさん、僕のiPadでメッセージ送っていいですよ。」
ハリードにiPadをかりて、彼女たちにFacebookでメッセージを送る。
Wi-Fiのあるところにいればいいんだけど。
すぐに返事がきた。
なんとすぐ横のカフェにいた。
ダッシュで屋上のテラスへ。
「ユイーーーーー!!!!!」
「あーーーー!!!フミちゃんーーーーーーーー!!!!!」
懐かしの顔ぶれがあった。
高校の同級生であるユイちゃん。
ユイちゃんの大学の同級であるメグとヨウコちゃん。
あああああああ、嬉しい…………
この心細い時に、こんな昔なじみと会えるなんて………
しかもユイちゃんとは7年ぶり。
メグとヨウコちゃんとは9年ぶりの再会。
それがモロッコだなんて………
積もる話は置いといて、ことの次第を説明して、ヨウコちゃんにiPhoneをかりた。
そしてソフトバンクのカスタマーサポートへ電話をかけた。
日本人の電話対応のきめ細かさ(´Д` )
泣けるくらい丁寧(´Д` )
が、しかしこれといった解決策は見つからず。
もう本当に諦めるしかないか………
ユイちゃんたちの高校の時となんにも変わんない笑顔に、一気に心の緊張がほぐれて、iPhoneのことも忘れられそうな気がしてきた。
新しいの買うか。
「よし!!今日は俺、フミたちの再会を祝ってみんなのためにタジン鍋を作るよ!!観光客向けじゃない、本物のタジン鍋を作ってあげる!!今夜はパーティだ!!」
日本から帰ってきたばかりのハリード。たくさんの日本人に会ってテンションが上がっている。
俺ももう吹っ切れた。
ユイちゃんたちは一度ホテルに戻り、カフェで待ち合わせして、俺はウサマとハリードとiPhoneをゲットしに。
まずは値段を聞いて回る。
ウサマが交渉して回ってくれる。
俺の条件は、
★iPhone4以上
★容量32GB
その結果、3000ディルハムが最安だった。
3万円。
中古品になりそうだが、仕方ない。
新品だったら5万円はするという。
ホテルにお金を取りに戻り、ノルウエークローナを両替。
震える手で3000ディルハムをゲット。
「よし、フミ。3000ディルハムを渡して。」
ん?何言ってるんだ?
金を俺に渡せというウサマ。
どうしてだ?一緒に買いに行くんじゃないのか?
「フミ、ここはツーリスティックシティーだ。アジア人である君が買いに行ったら法外な値段を請求される。だから俺が1人で買いに行く。俺ならモロッコ人値段で買えるからね。じゃ、ここで待ってるんだ。」
そう言って人ごみの中に消えて行ったウサマ。
迂闊だとは思わなかった。
おそらくウサマはちゃんと手にいれて来てくれる。
しかし一抹の猜疑心が首をもたげ始めたのもこの時だった。
3万円という大きすぎるお金を今日出会ったばかりのモロッコ人に託した俺をバカだと人は言うだろう。
でも俺はウサマを信じたかった。
今まで出会ってきた素晴らしい人たちとの思い出に誓って、俺は俺の判断を信じたかった。
そしてしばらくしてウサマは懐に何かを隠して戻ってきた。
彼はコッソリそれを出した。
それはiPhone3だった。
「なんとか予算内で見つけられたよ。32GBのiPhone。これお釣り。」
そう言って彼は200ディルハムを返してきた。
操作してみた。
確かにiPhoneだ。
しかし、これまで4Sを使っていた俺には型落ちも型落ち、使いづらいことこの上ない時代遅れなシロモノだった。
さらにトップ画面には、以前の持ち主がダウンロードしたであろう数々のアプリがズラリと並んでいる気味悪さ。
探し出した自分の仕事に満足げな表情のウサマ。
よかったね!!と喜んでいるハリード。
確かに格安。
これで満足しなければいけないのか。
しかし、決定的にダメなところを発見。
Wi-Fiにはとりあえずつなげられるようだが、インターネットに接続しようとすると、サーバーを認証できませんという表示が出て先に進めなくなるのだ。
こりゃまったくダメだ。
本体自体、傷が入りまくりだし、カメラも使い物にならない画質。
やっぱり中古品なんかアテにしたらいけないのか………
スペインに行って、多少高くてもアップルストアーで買うべきかな………
申し訳ないがウサマにその旨を伝える。
返品してお金を返してもらいたいと。
そうか、わかった。ちょっと待っててとウサマはそのボロいiPhoneを持って、また人ごみに消えて行った。
そして彼はすぐに帰ってきた。
彼の手にはほぼ新品に近い、iPhone4が握られていた。
「なんとか手にいれてきたよ。じゃあさっきの200ディルハム、いいかな?払わないといけない。」
200を渡すと、彼はまたどこかへ消えていった。
最初にあんなボロボロの使い物にならないものを掴ませようとしたこと、俺を同行させないこと、すぐに質のいいものを手に入れてきたこと、
もはや彼への信頼は地に落ちていた。
おそらく3000ディルハムのうちのかなりの額を懐に入れてるだろう。
200ディルハムをお釣りで返してきたのも、最後まで油断させないための単純だが狡猾なやり口。
しかしだ。もしかしたら、もしかしたら、本当なのかもしれない。
本当に、俺が観光客だから着いてこさせず、モロッコ人の値段で頑張って買ってきてくれたのかもしれない。
今までもずっと、警戒しすぎて人を信じなければ、あまりにも大きな尊いものをやり過ごしてきたはず。
信じることでたくさんのものを手にいれてきた。
だから今回も、まだ望みを捨てなかった。
新しいiPhoneは快調だった。
インターネットも使え、カメラも同じ。
アプリはまたダウンロードし直せばいい。
大変だけど、時間をかければ元通りに戻せるはず。
「よし!!それじゃ僕の家に行こう!!美味しいタジン鍋を作るよ!!レシピを覚えて日本で友達に作ってあげるといいよ!!」
ユイちゃんたちと合流して、ハリードの家に行くためタクシーに乗り込む。
ハリードとウサマには前もって忠告をしておいた。
「日本人の女の子は体を触られることを嫌がるんだ。ムスリムの女性と一緒でね。ハリード、日本に住んでた君ならわかるだろ?そこだけ注意してね。」
「もちろん!!僕は日本人の女の子のこと知ってるから!!紳士でいるから大丈夫!!」
タクシーは走る。
街を抜けて郊外へ郊外へ。
ドンドン建物がなくなり荒野に日が沈んでいく。
「……これ、大丈夫かな……こんなに遠くに行くんだ………」
表情がこわばっているユイちゃんたち。
軽率だったか。
そんな思いが頭を支配する。
俺だけだったら、こんなローカルな出会いやお招き、喜んで着いて行く。いつものように。
しかし、今回はバックパッカーでさえない観光旅行の女の子3人と一緒。
こんなわけのわからないところに連れて来るべきじゃなかったか…………
タクシーは大きな道を曲がり、田舎の集落に着いた。
廃墟のようなコンクリの建物が並び、舗装なんかされていない土の上で子供が遊んでいる。
ヤギを連れたじいさんが通る。
外国人なんてまず来ないであろう集落に夕闇が訪れた。
外灯もほとんどなく、道は真っ暗。
そんな集落の中を怯えながら歩く俺たち。
現地の人たちの視線が突き刺さる。
こいつは………何かあったら命がけで守らなきゃいけないぞ。
しかし、日本を愛しているというハリードを信じる気持ちはまだある。
こいつはいい奴だ。大丈夫。
途中、野菜を買い、肉を買う。
もちろん俺やユイちゃんたちがお金を出しあって買う。
さっきのタクシー代もだ。
たどり着いたハリードの家は、まるで倉庫のような、いや、馬小屋と言ってもいいかもしれない。
小さな家だった。
「入って入って。」
家の中には女の人がいた。
兄弟の中の1人の奥さんだった。
少し安心。
真っ暗な部屋の中、ひとつの電球を移動させながら野菜を切る。
こんな貧しい郊外の集落に電気が来てるだけでもありがたいと思える。
水は洗面台などなく、汚いぼっとん便所の中にある水道のみ。
あああああ、綺麗なホテルに泊まって、レストランでご飯食べて、ツアーを回るユイちゃんたちに、なんでこんな苦行みたいな試練をさせてしまっているのか………
それでも明るく振舞ってくれる3人。
怖さを隠すためにそうしてくれたんだろう。
そしてハリードも、態度が豹変することなどなく、紳士にユーモラスに明るく場を盛り上げてくれる。
遅れてウサマがやってきた。
お酒を買ってから来てくれたのだ。
と言ってもこの酒代も俺が出したものだが。
タジン鍋も完成し、みんなで囲んでいただいた。
うめえ!!!!
さっきの手順を見てなければ、そこらのレストランよりよっぽどうめえ!!
話もそれなりに盛り上がるが、やはりユイちゃんたちの警戒心がほぐれることはない。
ビールを一気にあおり、早く切り上げてユイちゃんたちをホテルに送り返すために、持ってきたギターで思いっきり歌った。
彼らを満足させなければいけない。
最近で1番ハードルの高い演奏だった。
「そろそろ行くよ。ありがとう。ハリード、通りまで着いて来てくれる?」
「もちろんさ!!」
「フミ、明日はホテルを出て、ここに泊まればいいよ!!ここなら無料だ。金はかからない!!」
真っ暗でひと気のない集落の中を歩く。
「僕、いつか日本に住みたいんだ。そして六本木でモロッコ料理のレストランをやるんだ。だから日本語の勉強をしてるんだよ。」
そう言うハリード。
彼にもともと襲う気なんてなかった。
怖かったけど、無事に帰ることが出来た。
いつか日本に来たら心からおもてなしするからね。
しかし、この気持ちはこの数分後に霧散する。
通りに出ると、ちょうど暗闇の向こうからタクシーがやってきた。
ハリードが街まで行ってあげてとドライバーに説明する。
ユイちゃんたちがタクシーに乗り込む。
おれも乗り込もうとした、その時、ハリードが俺を呼んだ。
そしてコッソリこう言った。
「フミ、チップをまだもらってないよ。」
耳を疑った。
と、同時にやっぱりか、とも思った。
そして物凄く悲しくなった。
やっぱりお前もなんだね、ハリード。
「どうしてだい?野菜やお肉、お酒も僕らが買った。ここへのタクシー代もだよ………」
「料理へのチップだよ。彼女たちには言ってないのかい?」
「そんなこと言えないよ………友達としてのパーティーじゃなかったのかよ………いくら欲しいんだよ。」
「300ディルハム。」
はぁ………
1食10ディルハムで飯が食える国で300て………
300ディルハムあったら4人で綺麗なレストランでタジン鍋を食べられるよ。
ここへのタクシー代も食材代も酒代もあわせたら、かなり豪勢な食事ができる。
ハリードは日本で3ヶ月暮らしていた。
3ヶ月いれば日本がどういう国かだいたいわかるはずだ。
しかし彼の目には、日本の豊かさだけが焼きついているんだろうな。
もう何も言う気にならなかった。
持っていた40ディルハムを彼に渡してタクシーに乗り込んだ。
別れ際に彼は、残りは明日ね、と言った。
タクシーは走る。
車内は無言だった。
やりきれない虚しさに言葉もなかった。
結局彼らは俺を、俺たちを、金を引っ張り出せる裕福な旅行者としか見てない。
これまで出会ってきた、無償の信頼関係なんて、ここじゃ夢のまた夢なんだと思い知らされた。
悲しくてしょうがなかった。
もう、明日朝早くこの街を出よう。
ここにいたら頭がおかしくなってしまう。
タクシーが街に着き、地図を見ながらユイちゃんたちのホテルへ急ぐ。
すでに23時。早く送り届けないと。
迷路のオールドシティーは、本当に道がわからない。
今来た道を自分1人で帰れるかも不安になるほどの迷路。
夜になると通りのお店が閉まって目印がなくなってしまうので、なおさら迷路のレベルが上がる。
なんとかホテルに到達。
よかった………ちゃんと送り届けられた………
「怖かったけど、ちゃんと帰れてよかったよ。」
「フミちゃんの歌も聴けたしね!!」
明るく振舞ってくれるみんな。
本当はめちゃくちゃ怖かったはず。
ゴメンね…………
俺の放浪旅の感覚で付き合わせちゃって…………
みんなを送り届けられれば、後はもうどうだってなる。
ホテルへの道なんてもはやまったくわからねぇ。
俺1人ならいくら迷子になったってなんとかなるさ。
オールドシティーの巨大迷路の中を歩く。
何度も何度も同じ道を行ったり来たり。
金目当てのやつらが、ホテルまで連れてってあげるよ!!と言ってくるが、肝心のホテルの名前さえわからないんだから、彼らも案内のしようがない。
暗がりの中をさまよい歩く。
もう何時間歩いたか。
どんどん奥へと入り込んで行く。
ここも確かさっき通った道。
気味悪いほどの静寂の路地裏。
危険アラームはなかなかの音量で鳴っている。
道端にたむろしている若者たちに何度も絡まれた。
危なそうなやつら。
でもギターを持っててよかった。
歌を歌えば、彼らは一気に友達になった。
心は荒れきっている。
もうどうにでもなれ。
路地裏の若者たちの歓声とともに、真夜中の迷路にホテルカリフォルニアを響かせた。
あなたはこの迷路からチェックアウトすることはできても
抜け出すことはできないんだ