3月9日 土曜日
【エジプト】 ダハブ ~ シャルムエルシェイク
話し声で目を覚ました。
寝袋の隙間から太陽が差し込んでいる。
顔を出すと、目の前のベンチでショウゴ君とカッピーが笑っていた。
ビール片手に(´Д` )
「あ、フミさん、ビール飲む?もう明日にしちゃいましょっかー。出発。」
「あ、いいね、出発明日にしちゃおっかなー。ビール、だめえええ!!!旅させてええええええ!!今日行かないと本当にクソ野郎になる。」
きらめく水平線。
この嘘みたいな素晴らしい景色ともこれでおさらばか。
荷物をまとめてディープブルーにナナちゃんを迎えに行った。
準備万端のナナちゃん。そしてもう1人。
4人で荷物を担ぐ。
ディープブルーのメンバー、みんなが降りてきて見送ってくれた。
さて!!
これで本当にダハブともバイバイ。
カッピー、ナナちゃんたちはここから北上し、ヌエバからフェリーに乗ってヨルダンへ向かう。
俺は南下してシナイ半島南部の町、シャルムエルシェイクへ。
どちらに行くにもまずはバスステーションへ行かないといけないんだが、ダハブの町からバスステーションまでは歩くと30分はかかるそうなので、タクシーを捕まえる。
タクシーと言ってもトラックみたいなもんで、荷台に荷物ごと乗り込むスタイル。
1人5ポンドだよぉ、と懇願してくる運ちゃんに1人3ポンドでよろしく!!と強引に値引きして、交渉成立。
荷台に乗り込む。
1人取り残されたショウゴ君。
悲しそうな顔で俺たちを見てる。
「みんながいなくなったら、俺誰とビール飲めばいいんだっぺやー。下ネタが通じる人がいないと会話できねっぺよぉー。」
ショウゴ君、楽しかったよ。
ここから彼はアジアに飛ぶ。
もうこの旅中では会うこともないだろう。
こんなに一緒にいて気兼ねなく過ごせる奴と海外で出会えるなんてなー。
地元の仲間みたいに気の許せる、信頼できる男だった。
ダメ加減とかも最高だったし(^-^)/
「俺、親がどっちも茨城出身じゃないから方言ほとんど出ないんすよ。だっぺよとか言わないのに、ブログにあんな風に書くからなー。まぁいいですけどね。元気で行くんだっぺよぉー!!」
ホント、楽しい奴だった。
一緒に遊んでくれてありがとな!!
可愛い子とダイビングのバディ組めるといいね。
バイバイ、ショウゴ。
荷台で心地よい風を受けながら走り、バスステーションに到着。
切符売り場で値段を尋ねるナナちゃん。
「ヌエバまではいくらですか?」
「……30ポンドだよ。」
「30ポンド?!高くない!?すみません、15ポンドって聞いてたんだけど。」
「あー、15ポンドでいいよ。」
なんだそれ!?
とりあえず倍の値段を言ってみるエジプト人。
無事、ナナちゃんたちはヌエバまで15ポンド。
俺はシャルムエルシェイクまで20ポンドでチケットを購入。
そして別れの時。
「フミ君、パリで待ってるから。」
「フミさ~ん、フランスで会いましょうね~。」
彼らはこれから中東をめぐり、ドバイで予定されているライブをやり、それからフランスに行き知り合いのギャラリーで演奏するそう。
フランスで会おう、なんてイカしてるぜ。
カッピー、下ネタばっかりで最高に楽しかったよ。
ナナちゃん、太ももで目の保養させてくれてありがとう!!
またセッションしようね!!
うっとおしいタクシーの客引きを無視しながらベンチで日記をかき、12時にやってきたバスに乗りこむ。
わずか1時間ほどでバスはシナイ半島南部の町、シャルムエルシェイクに到着した。
お金持ちたちのリゾート地、ってな話だけど、一体どれほどのものなのか。
ていうかシャルムエルシェイクって書こうとしたら、シャルム、の時点で予測変換でシャルムエルシェイクって出てくることにまずビックリ。
そんなに一般的に有名なところなんだな。全然知らなかったけど。
このシャルムエルシェイクのバスステーション。
ダハブと同じで、町の中心からかなり離れた郊外にある。
歩いて行くには遠そう。
バスステーションを出たところに、トラックが待ち構えていたので町まで行くか聞いてみる。
「町の中心まで行きたいです。いくらですか?」
「オーケー!!マイフレンド!!10ポンドだよ!!」
「さようなら。」
「ノオオォォォ!!5ポンドですううぅぅぅぅ!!!5ポンドアォォォォ!!!」
半額になるまでの時間、0.2秒。
本当に町の中心まで行くのか?と聞いても、オーケー!!オーケー!!ノープロブレム!!マイフレンド!!と完璧に理解してねーことを顔に丸出しにしながら俺の荷物を荷台に放り込みやがる。
「シティーセンターに行きたいんだよ!!大丈夫!!!?」
「シティセンタル!!マイフレンド!!ノープロブレム!!」
アラブ人はRの巻き方はすごい。
何度も念を押して荷台に乗りこみ、風を浴びながら荒野の中を疾走。
さーて、町に着いたらすぐに歌うかー?
と思ってたら………
案の定、わけのわからないところで降ろされる。
「てめー、ここがシティーセンターか?ただの町外れの道路沿いじゃねえか?」
「ピラミッドピラミッド、ナイル?」
こうなったらもう英語完璧わかりません攻撃。アラブ人のキョトン顔、マジでムカつく。
行き先とかまったく理解してねーくせにとにかく乗せればいいだろうという考え。
無駄に5ポンド払い、ムカついたので歩いて町に向かうことに。
しかし……
地図もインターネットもない状態で、この荒野を開発したようなまばらな町の中心部を探すのは神業並み。
虚しくさまようのみ。
トボトボ歩いている俺の横にタクシーが滑り込んできて、ひたすら叫びまくってくる。
20ポンドでいいよ!!
15ポンドでいいよ!!
10ポンドでいいよ!!
ここから8kmあるから歩けないよ!!
6kmもあるんだぜ!!
みんな好きなことを言ってくる。
「お金ないんです、英語わからないんです、お願いです、道を教えて下さい、お願いです、どうしたらいいですか?ねぇ、あ!!行かないで!!ねぇ!!どうしたらいいの!!インシャアッラアァァァァァァ!!!」
日本語でまくしたてると、何言ってんだこいつ!!と怒って走り去って行くドライバー。
しつこいバカにはバカの振りしてしつこくまくし立ててやるのが効果的だ。
でも中には、よし!!お金ないのか!!お金いらないよ!!乗りな!!と男気ホスピタリティを出してくるタクシーのオッサンがいて、それはそれで戸惑う(´Д` )
タダより怖いものはない。
特にイスラム国で。
人に道を聞いても誰も理解してくれず、理解してないのにテキトーにあっちだよ、向こうだよって嘘つくのでドンドンわけのわからない方に歩いてしまう。
数時間歩いても、町の影すら見えない。
廃墟と原野がどこまでも続くのみ。
もう、どうしよう………
途方に暮れる。バカ………
いくら道を聞いても意味がないので、ヤマカンで歩く。
乾いた風が砂埃を巻き上げ、顔を打つ。髪の毛はギシギシにきしんでいる。
一端の旅人の気分。
数時間して、なんとなく町っぽくなってきた。
派手な看板や土産物屋が見えてきた。
ここはマーナベイという地域みたい。
ここがシャルムエルシェイクの中心地だ。
奥に進んで行くと、もうーすごい。
でかくて綺麗なカフェ、レストランがズラリとどこまでも続いている。
ケンタッキー、マクドナルド、ハードロックカフェ、
ただのスーパー観光地。
歩いているのは金持ってそうな白人観光客ばかり。
ロシア人が多い。
そして客引きの数も歌舞伎町並み。
「コンニチハ!!ジャッキーチェン!!」
「ハローマダム!!私のハートを受け取って下さい!!」
世界中の言葉を駆使して呼び込みしているエジプト人たち。
ウゼエ!!
歩き回ってみると、そんな綺麗な通りが何本もある。
めちゃくちゃリゾート地。
こいつはすげえや。
ダハブの町を5倍にしたような感じだな。
まぁ俺がここに来たのはゆったりするためでも観光でもなく、
金稼ぎだ。
こんだけ金持ち観光客だらけだもん!!!
めちゃくちゃ稼いでやるからああああ!!!!!
と、その前にとりあえず腹ごしらえ。
ケバブみたいなファストフードの値段を聞いてみる。
「25ポンドだよ。」
くそ。
クソ高え。
他の食べ物も全部クソ高え
もう、全部。
ちなみに、マーケットのビールが15ポンド。210円。
ダハブでは8ポンドだった。
さすが金持ちリゾート地。
物価が高え。
仕方なくケンタッキーで35ポンドのセットをむさぼり食って、張り切って路上へ。
たくさんの人が通るレストラン通りでギターを構える。
まぁ、ここはいつものアラブ国。
俺がギターを地面に置いた時点で暇な奴らがドンドン群がってくる。
ギターを肩にかけた時点ですでに30人ほどの人だかり。
身動きがとれないほど囲まれる。
もちろん全員エジプト人。
白人はみんな、遠巻きから、あら何かしら?と見るだけ。
なんなんだよ、マジで。こいつら。
もうこの時点で結構イライラ。
そして人だかりがすごすぎて、まだ1曲も歌ってないのに苦情が入ってここでやるなと言われてしまった。
イライラが膨れ上がりながら荷物を片づけようとしてると、
「俺いいとこ知ってるから俺に着いて来な!!」
「俺のオフィス!!カモン!!」
と、わけわからない英語で、俺の荷物を勝手に担いで歩いて行こうとしやがる。
なんだなんだ?と人だかりはさらに増える一方。
荷物を片づける俺の極限まで近づいて、
ジロジロジロジロジロジロジロジロジロジロジロジロジロジロ
「ああぁぁぁぁぁあああ!!!!!!もうやめてくれ!!!!どっか行ってくれ!!!!!散らばれええええ!!!!!」
我慢の限界が来てヒステリーを起こしてしまう。
それをニヤニヤしながら見ているエジプト人。
輪を突き破って走って逃げた。
しかし逃げられない。
どこまでもついてきやがる。
「マイフレンド!!ここで歌っていいよ!!俺が守るから!!」
「チャイナ!!俺の土産物屋の前で歌ってくれ!!」
無視して少し動いたところに、いい広場を発見。
すぐさまそこでギターを抱える。
奈良公園の鹿のようにソッコーで集まってくるエジプト人たち。
奴らが話しかけてくる前にすぐに演奏開始。
白人たちからポツポツとお金が入る。
そのお金を盗んで歩いて行くジョークをアホのように繰り返すエジプト人。
なんだこの戦いは。
たかが路上でなんでこんなに苦労しなきゃいけねーんだよ。
すると今度は警察がやってきた。
この町では路上演奏は禁止されているという。
はぁ………
はいはい、わかりました。
やめますよ。
ベンチに座って、うなだれる。
あがりはわずかに2ポンド。コーラも買えねぇ。
そんな俺をニヤニヤ見ているエジプト人。
このアホども………やってらんねぇ……!!!あああ!!イライラする!!!!
「マイフレンド、いい通りを知ってるんだ。向こうに静かで綺麗な通りがあるから、そこなら大丈夫。警察なんてほっとけばいいんだよ!!」
片言の英語で一生懸命言ってくるオッサン。
よーし、もうとことんやってやろうじゃねえか。
このままじゃ気が済まねぇ。
オッサンについて歩いて行くと、海辺の小洒落た遊歩道に出た。
波打ち際に広がる南国ムードのカフェ。
整備された道をリラックスした白人たちが歩いている。
静かで落ち着いたこの通りで、ギターを鳴らす。
またもや群がってくるエジプト人たち。
真横で何曲もガン見しているが、彼らがお金を入れることはまずない。
ガン見の仕方が異常。
視線を外してくれない。
エジプト人の人だかりは増えていく。
そして………
警察来ますよね。
「ふーん、そう。さっき注意したところだよね。何で歌ってるの?」
ヤバ………
警察かなり怒ってる。
よ、よし、俺をここに連れて来たオッサン。
ちゃんとフォローしてくれよ。
責任とって弁護してくれよ。
ね、弁護……おい、ちょ、お前どこ行くの?ちょっと、おい!!
おいーーーーー…………
オッサンとんずら。
さすがエジプト人。
「さ、署まで行こうか。」
5人の警察に取り囲まれて、綺麗なレストラン街を歩く。
そしてボロい建物に連れて行かれて、足元が水浸しの薄汚い個室に監禁。
もういらないそんなの!!
ダハブという天国を出た瞬間、警察署に監禁とかそんなネタいらない!!
罰金とられるかな……と結構不安だったけど、それはかろうじてまぬがれ、2時間後にようやく解放された。
「次見つけたらブタ箱行きだからな。」
「そうですか。インシャアッラー。」
警察署を出ると、外はすごいことになっていた。
きらびやかなネオンが昼間のようにまたたき、ダンスミュージックが爆音で鳴り渡っている。
白人たちは踊り狂い、エジプト人たちがそれに群がる。
すげえな………毎晩こんななんだろうな………
天国のようだけど、狂気にも見えた。
稼げない以上、もうこの町に用はない。
イカれた町に背を向けて荒野に向かう。
タクシーがクラクションを鳴らしながら突進してくるが、お金がないと言うと無言で走り去って行く。
見渡す限りの荒野の中。
空を見上げると満天の星空。
乾いた夜風が吹きつける。
お腹空いたなぁ………
暑い……
バスステーションってどこだっけ?
たぶん2時間も歩けば着くだろう。
荷物が肩に食い込む。
腕の感覚がなくなる。
あぁ、ダハブ出た瞬間、警察署監禁&真夜中の彷徨とかそんなネタいらねーよ………
あぁ、でもなぁ、これはネタじゃねぇんだよなぁ。
これが俺の旅なんだよなぁ。
ダハブでなまってしまってるだけだよな。
これからもずっとこうやって戦いながら少しずつ進んでいかないといけない。
戦う相手は、エジプト人ではなく、もちろん警察でもなく、あらゆる状況において己の心だということは、もう嫌というほどわかっている。
逃げるのも、言い訳してセコイことするのも、すべて自分だとわかっている。
ダサいことしたら、心かドンドンダサくなっていくんだ。
戦いの相手は自分自身でしかないんだ。
あああ!!!
肩いてええええ!!!!!
バスステーションどこだあうああああおおおらああああああああ!!!!