3月2日 土曜日
【エジプト】 ダハブ
寝袋から出た。
遮るものなにひとつない一面の青の中にいた。
遠近感もなにもなく、目は、ただ青を認識するためのものでしかなかった。
見ているのか、感じているのか、途方もない空間で思い切り色を吸い込んだ。
体に漲る新鮮な力。
風邪はもうどっか行ったぞ。
今日もいつもの屋上メンバーがやってきて、みんなでトランプをしながらノンビリとお話。
こうした会話の中に、旅の有益な情報が飛び交う。
まぁ、ただグータラしてるだけだけどね!!
ウッヒョウ!!!
ああ、時間が飛び去って行く。
この素晴らしい天気の下、あまりにも無防備な心をさらけ出す。
いつもなら、歌わなければ、稼がなければ、進まなければ、安全な寝床を探さなければ、とたくさんのやるべきことに思考を支配される毎日。
なにも考えず、この屋上に吹き渡る風に身を任せる。
夜になるとダイビングのメンバーがワラワラとやってきた。
インストラクターのご夫婦も。
俺はダイビングをやっていない。
ていうか宿に泊まりもしていない。
従って一言も口をきいたことがないし、風邪で動いてなかったので、顔もほとんど知らない人たちばかり。
そんな総勢12人のパーティーが始まる。
今日は1ヶ月沈没していた山さんの送別会。
他にも仲のよかったメンバーが明日宿を出て行く。
ママが腕をふるってたくさんの料理を作ってくれた。
テーブルに並ぶ大皿の料理。
いただきますの合図はインストラクターの方が。
「はい、では手を合わせて下さーい。いいですかー。シェア飯はバトルだー!!いただきます!!」
「いただきまーす!!!」
その瞬間、みんなものすごい勢いで料理に襲いかかり、箸を持った手を絡ませながら奪い合い。
ていうか………シェア飯ってなに?
これただのママが作ってくれたレストランの料理だよな?
旅人たちの専門用語というのはたくさんあるけど、シェア飯ってのもその代表的なもの。
バッグパッカーが安宿に泊まった時に、お金出し合って食材を買いみんなで作る料理のこと。
宿によっては毎日作るとこもあるらしく、シェア飯を食べないと仲間はずれみたいな扱いを受けるところもあるそう。
めんどくせ。
シェア飯はバトルだ!!
なんかそういう林間学校的な雰囲気に若干違和感を覚えてしまう。
まぁでもそれなりに楽しく食べ、飲み、ママ特製の鳥鍋も大好評で、縁もたけなわってとこで久しぶりにギターを取りだした。
ここ数日一緒に遊んだ山さん、そしてメンバーたちのこれからのイカした旅を願って、一匹狼の遠吠えを歌った。
ほっつき歩いて
ほっつき歩いて
飯を探してほっつき歩いて
ほっつき歩いて
歩き疲れ
寝転んでまた月をかじる
病み上がりでヒドイ声だった。
まだまだ全快には程遠い。
それでも、ここにいるのは全員旅人。
この歌の気持ちを理解してもらえたかな。
やってきたフランス人、スーダン人、たくさんの外国人たちも混ざり、みんなで夜遅くまで飲んだ。