2月6日 水曜日
【ヨルダン】 アンマーン
山の手のレインボーストリートで出会った高校生の女の子たちから、ゆうべメールが来ていた。
ソフィエってところに私たちの知ってるカフェがあるんだけど、そこで今夜歌わない?とのこと。
もちろん行くさ。
レセプションのルアイに聞くと、どうやらそのソフィエという地域はお金持ちたちのエリアらしく、高級なお店が並ぶ綺麗なショッピングストリートがあるという。
この汚いダウンタウンに住む人たちとは無縁の場所なんだろうな。
アンマーンはたったの130万人の町なんだけど、色んな地域が点在していてなかなか面白い町だ。
0.5ジュディー、60円のバスに乗ってそのリッチプレイスに向かう。
結構走ったところで、バスを降りた。
チクショウ、雨が降り出しやがった。
しかもいきなり深い霧が出て来て、みるみるうちに町を覆い隠してしまった。
道もわからず適当に歩く。
道路を流れる真っ黒な水。
建物の間から泥水が流れ出て、歩道に沢を作っている。
リッチプレイスといってもそんなに大差ないな。
ウロウロしていると大きなホコ天のショッピングストリートを見つけた。
これかー。いいじゃんいいじゃん。
ダウンタウンみたいにアホのクラクションが鳴り響いていないし、お店もみんな綺麗でモダン。
稼げる匂いプンプンじゃねぇか。
人が歩いていればね………
全然人いねぇ(´Д` )
ていうか霧が濃すぎて何も見えねぇ(´Д` )
仕方なく路上は諦めてカフェに行くことに。
店の場所を通行人にたずねてみた。
さすが裕福な人たちの地域なだけあって、みんな英語がしゃべれる。
そんなに完璧じゃないけどね。
「ヘリウムってカフェ知ってますか?」
「レビラナ?」
「ノーノー、ヘ・リ・ウ・ム。」
「マベレネ?」
おまっ!!
お前ワザと言ってるだろ?(´Д` )
母音も違うじゃねぇか(´Д` )
言語の違いってすごいなぁ。
こんだけ変換されて聞こえてるんだもん。
なんとか通じると、お店自体有名なところらしく、簡単に見つけることができた。
広くて綺麗なカフェレストラン。
そこでネスカフェを飲みながら女の子たちを待った。
夕方くらいにみんながやってきた。
家族や友達たちをたくさん引き連れてきている。
みんなフミのために来たんだからね!!
ってプレッシャー………
歌う前に、みんなでお喋りしていると、1人の兄ちゃんが水タバコやりたいかい?と言ってきた。
お!!やりたいやりたい!!
試したいって思ってたんだよ。
ヨーロッパのカフェでもよく見ていた水タバコ。
アラビアンな雰囲気の容器からのびたチューブをプカプカやってる姿がカッコ良くて、ずっとやりたかったんだよな。
底の部分に水の満たされたグラスがあり、その上にステンレスの装飾がそそり立つ。
そして1番上にフレイバーの入ったパーツをセットし、銀紙を巻き、その上に焼いた炭を乗せる。
これで完成。
フレイバーにはたくさんの種類があり、様々なフルーツの香りを楽しむことができる。
今回はレモン&ミント。
チューブをくわえて思いっきり肺に吸いこむ。
下の水がボコボコと音を立てる。
軽い。
タバコみたいに喉への負担がない。
そして煙を吐くときに鼻から出ていく香りがまさしくフルーツの香りで、まったくタバコとは別物って感じだな。
こりゃ女の子が好きそうだ。
実際、女の人もたくさんこの水タバコを楽しんでいる。
いいね。
また新しいことを学んだぞ。
ちなみに、水タバコのことを旅人たちはシーシャと言います。
ここでの値段は3ジュディーとか4ジュディーだったかな。
300円くらい。
1時間は楽しめます。
先端のパイプは使い捨てなので衛生面は大丈夫。
水タバコで軽く酔っ払ったところで、さぁ歌うぞ。
結構広い店内。マイクなしでガツンとギターを鳴らす。
が………きつい。
水タバコで気持ち悪くていい声が出ない。
最初は全員が聴いてくれ、拍手が巻き起こっていたんだけど、曲が進むにつれドンドン話し声が大きくなっていき、みんなの興味が離れていくのがわかる。
くそ………
きついぜ。
よくこういう状況になってしまう。
ノルウェーの悪夢はいまだ頭にこびりついている。
もし俺がもっともっと素晴らしい歌い手なら、きっと2時間でも彼らを惹きつけることが出来るだろう。
しかし今、この数十人いる店内で俺の歌を聴いているのは数人。
辛い。逃げ出したい。
そろそろ終わるよ、と言えば、簡単にここから帰ることができるだろう。
でもそれをやったら、それをやってしまったら、きっともっと大きなものを失ってしまうはず。
でもやっぱり、自分の無力さに打ちのめされてしまう。
根性で歌い続けた。
ガヤガヤと誰も聴いていない店の中で。
しばらくすると、声の調子も上がってきて、少しずつみんなも聴いてくれはじめた。
もちろん、まったく興味すら示してない人もいる。
嬉しいことに最後の曲の後には大きな拍手が起こり、ダメダメ!!もう1曲!!とアンコールまでもらえた。
マジでよかった………
ご飯をご馳走になり、人々から集まったチップもいただき、22時に店を出た。
あがりは30ジュディー。
2アメリカドル。
2サウジアラビアなんとか。
ドアを閉めた瞬間、ドッと疲れた。
はぁ………なんとか乗り切ったぞ………
みんなは、またここに戻ってきて歌わないといけないよ!!と言ってはくれたが、お世辞にも素晴らしいパフォーマンスではなかった。
ダメだな………
本当ダメだぜ……
全員を楽しませることは出来ないけど、それでも、それでも、もっとやらなきゃいけないんだよ。
金丸君って強いよね、なんでそんなに自分を信じられるの?と聞かれることがよくある。
そんなことない。ただの打たれ弱い男。
いつもいつも、今にも切れそうな細い糸の上を歩く毎日。
人はみんな好きなことを言い、その糸を切ろうとしてくる。
自分の天井はここなのか?それを決められるのは自分だけだけど、きっと俺はもっとやれると、いつもへこたれそうな自分に言い聞かせながらやってきた。
俺はきっともっとやれる。
必ずだ。
負けてたまるか。
クラクションのやかましい道路沿いを歩く。
数百回目の失望と奮起。