1月25日 金曜日
【キプロス】 レメソル
「…………ヘイ………ヘイ………ヘイ!!」
叩き起こされ寝袋から顔を出すと、真っ暗闇の中におじさんが立っていた。
やばっ!と身構える。
が、おじさんはただの警備員さん。
ここで寝たらいけないよ、とのこと。
まだ夜中の1時じゃねぇかよ………
しぶしぶ荷物をまとめ、寝静まった街を歩き、ようやく見つけた公園でもう一度眠りについた。
「……………ヘイ!!!ウェイクアップ!!!!」
しばらくしてまた叩き起こされた………
勘弁してくれよ………
またおじさんが、ここで寝るなと言っている。
つーかてめー誰だよ。
警備員さんなんだろうけど、俺を叩き起こす権利があるのか?
寝起きで、しかも二度目だったのでかなり機嫌が悪くなってしまい、はいはい出ていけばいいんでしょ、はいはい、と目も合わさないでおっさんに背を向けて歩いた。
うわー、感じ悪いよな………
野宿なんて見栄えの良くないことしてんだから、せめて紳士でいないといけないのに。
やっぱり寝起きは機嫌が悪いです。
水平線がわずかに明るくなり始めている海岸をぼんやりと歩いた。
コールタールの海
明星はいまだ高く
早暁の空にひたりながら歩いていると、浜辺でうひょおおおおおおお!!!!!と白人たちが泳ぎまくってました。
日の出前から(´Д` )
ていうか1月(´Д` )
白人元気ですよね。
みんなおっさんおばさんだし。
まだ開いてないかなぁと思いつつ、いつものカフェへ。
お、開店準備してる!!
まだ7時。仕事熱心!!
さて、昨日イスラエルまで180ユーロという驚愕の値段を突きつけられ、ショックすぎるところなんだけど、凹んじゃいられないので新しいルートを考えないといけない。
ネットで周辺国の入国条件について調べてみた。
トルコに戻ってイランに抜けてUAEからサウジアラビア回りでヨルダンに戻ってくるルートはどうだろう。
なかなか魅力的なルートだ。
なになに。
イランの入国条件
「トルコ出国前に大使館でビザを取得しないといけない。」
「発行までに1週間かかります。」
「入国税が5~6000円。」
ものすごい勢いでホームボタン連打。
じゃあサウジアラビアは………
メッカ行きたいし………
「商用じゃないと入れません。」
「航空会社が催行するツアーに参加しないと入れません。」
「観光地じゃないので外国人を狙った過激派により襲撃されます。」
ホームボタン連打。
もう!!なんなの中東!!!
ビザとか入国税とかテロとかキモい!!!
イマジンしてよ!!国境とか宗教のない世界!!
はぁ、こりゃダメだ………
おとなしくイスラエルに渡ってスタンプ捺されてイスラム国に入れないようになって傷だらけのパスポートになんてなりたいと思わない。傷口を太陽にかざして唇噛み締めた君の明日を守りたい。
インフィックス懐かしい。
もうわけわかんないけど、とにかく歌わないと。
今持ち金は80ユーロ。
この経済破綻した国で稼げるか?
相変わらず人通りのないショッピングストリートでギターを鳴らす。
聴いてくれてるのは暇そうなお店の人たちと、タクシーの運転手。
3時間気合いで歌って、あがりは31ユーロ。
それから昨日1番対応のよかった代理店にもう一度行ってみた。
「イスラエルはね、入国の時に税金で50ユーロ払わないといけないわよ。」
「イスラエルは飛行機で渡ったら帰りのチケットも必要なのよ。」
コッ……!!
なんなんだよー!!
もうそういうのいい!!
そういうネガティブな情報で脅さないでくれ!!!
「ヨルダンには行かないの?ヨルダンなら………あ、ヨルダンも同じ値段ね。180ユーロ。入国税が28ユーロね。」
お、ヨルダンか。
そうだな………どうせイスラエルの後に行く国だし………
ノースタンプももらいやすいし………
うん、ヨルダンに先に行くか。
ヨルダンからイスラエルに入って、またヨルダンに戻って、南下してエジプト入りってルートにするか。
よし!!決めた!!
ヨルダンに行きます!!って金が足りねえええ!!!
「飛行機は水曜日ね。他の日は200ユーロを超えるわ。月曜日にお金払ってくれればいいから。」
賽は投げられた。
月曜日までにあと70ユーロ。
水曜日までにヨルダンでの入国税やら含めて40ユーロ。
もうチケット予約してしまったからな。
タイムリミット付きだ。
なんとしてもこいつを稼がないと。
というわけで、余裕はかませない。
今日は金曜日。
夜になってからカフェ街に行き、また路上。
人通りはまばらだが、2時間歌ってなんとか20ユーロ稼いだ。
あと50ユーロ。
ああ、今日はよく歌った。
人通りのない場所で歌うとすごく疲れる。
疲労困憊した体で夜の町を歩き回る。
もう公園では眠れない。
また警備員に叩き起こされるから。
ゆっくり眠れる場所はどこだろう。
静まり返った町の中、さまよった。
お月さんが綺麗だな。
きっと大丈夫。
俺ならやれるさ。