1月5日 土曜日
【トルコ】 コンヤ
朝4時。
夜明け前の大きなバスステーションの中には、たくさんのベンチが並んでおり、ひとつに1人のオッサンが寝転がって夢の中。
この時間なのにたくさんの人たちが行き交っている。
ここはコンヤ。
トルコのちょうど真ん中にある都市。
今夜のコンヤ!!とか言いたくなった人!!
そこのあなた、わかりますよ、その気持ち(^-^)/
さて、ここはどんな町なのかなー。
トルコの観光情報を調べたところ、このコンヤの町はどこのサイトにも紹介されていない。
大きな都市ではあるみたいだけど、観光客が立ち寄る町ではないようだ。
なぜそんな町に来たのかと言うと、もちろん金のため。
あと150円しかない。
トルコではすべての町で歌うことが出来ないとお巡りさんが言っていた。
法律でそう決まってるんだと。
てことは、ひとつの町で歌うチャンスは1回こっきり。
お巡りさんに見つかるまでの短い間に稼げるだけ稼いで、注意を受けたら次の町、というやり方しかない。
ここからトルコのメイン観光地、カッパドキアに行くまでにあと2つは町がある。
カッパドキアではおそらく入場料で70トルコリラは必要になるだろうから、たどり着くまでに稼いでしまわないと。
徹夜明けじゃ気合い入れて歌えない。
俺もオッサンたちに混じってベンチに横になった。
しかしわずか1時間で警備員さんに起こされてしまった。
仕方なく町に向けて歩いた。
Wi-Fiがないのでマップの確認が出来ない。
なんとなくこっちかな、という方向に向かって1人トボトボ歩き続ける。
まぁ1時間も歩けばたどり着けるだろうと思っていたら、いきなり1台の車が横に止まって声をかけられた。
タクシーではない。
「ヘイ、マイフレンド、どこに行くんだい?」
「街の中心部に行きたいです。」
「よし、乗りな。」
「でも僕お金持ってません。」
「は?何言ってんだい。俺はタクシーじゃないよ。」
というわけで兄さんとドライブ。
結構な距離を走ったな。
歩いて行くには遠すぎた。
え?ていうかお金いらないの?
なにか要求してくるんじゃないの?
何か売りつけられるのかな………
「野宿しながら旅してる?クレイジーなジャパニーズだな。紅茶飲む?」
そう言いながら兄さんは、路上で歌うのにバッチリなショッピングストリートや、安くて美味しいファストフード屋さんと、行きたい場所すべてに連れて行ってくれた。
兄さんと一緒にカフェ朝食を食べる。
そして彼は、じゃあ気をつけてねとアッサリと車に乗って去って行った。
だよなぁ!!
これがトルコ人だよなぁ!!!!
歩いてるだけで車に乗せてくれるんだもん。
やっぱり嫌いになれないよ。
そしてこのコンヤの町。
ここから怒涛の出会いラッシュが始まるとは、この時は想像もしてなかった。
さぁー、稼がないと飯抜きだぞ。
ショッピングストリートに行き歌えそうな場所を探して歩き回る。
まだ昼前だけどたくさんの人たちが町を歩いている。
さっきのお兄さんが言うには100万人都市であるこのコンヤ。
今までユーゴスラビア圏で100万人都市ってほとんどなかったので、たかが地方都市でこれだけの人口がいるというトルコが改めて大きな国なんだなと実感する。
キョロキョロしながらショッピングストリートの真ん中に荷物をおろし、ギターを構える。
警察はいないぞ。
今しかない!!
きたきたきたーーー!!!!
あっという間にものすごい数の人だかりが出来上がり俺の周りを取り囲んだ。
50人はいたかな。
すげえ!!
もちろん、物珍しいということがかなり味方してくれてはいるんだろうけど、それにしてもこんな人だかりが出来るのは路上やってる人間としては嬉しいことだ。
運良く警察にも見つからず1時間ほど歌えた。
ひとまず一旦ここで逃げようとギターを置くと、そこから写真一緒に撮っていいですか?の嵐。
可愛いムスリムの女の子と写真撮れるの嬉しい!!
けど敬虔なイスラム教徒の彼女たちには絶対に触れてはいけないので、うっかり肩なんか組んじゃったら大変なことになる。
横に来られるだけで緊張するな。
「よかったらお茶しませんか?紅茶飲みたいですよね?」
たくさんの人たちとお話したんだけど、その中の学生グループのみんなと仲良くなり一緒にカフェへ。
みんな俺の荷物を持ってくれる優しい奴ら。
やってきたのは中心部からほんの少し歩いたアパート通りにあるカフェ「JB」。
オシャレすぎず、ボロすぎず、親しみやすいこのカフェにはたくさんの若者たちが集っており、彼らの溜まり場となっているようだ。
「路上で歌ってたの?!えー!!歌って歌って!!」
フレンドリーな彼らが見守る中、数曲歌った。
「フミ、今夜はウチに泊まればいいから。ずっとここに居ていいし。歌いに行きたいなら荷物もここに置いておいていいから。紅茶飲む?」
というわけで「JB」のスタッフたちの部屋に泊まれることになった。
興味しんしんで俺に日本のことを聞いてくるみんな。
全然知らない人もいれば、ものすごく日本について詳しいやつもいる。
ヤクザ、の語源って知ってる?
俺は知らなかった……
トルコ人に教えてもらうとは!!
荷物を置かせてもらい、それからもう一度路上に出かけた。
みんながゾロゾロとついてきてショッピングストリートへ。
さて始めようかなというところで警察に見つかってしまった。
みんながトルコ語で交渉してくれている。
が、みんなの健闘むなしくやっぱり大通りでの演奏は無理みたい。
「フミ、この大通りでは演奏はダメみたいだ。でも細い路地ならいいらしい。だからここでやろう。ここなら大丈夫。」
そう言って彼らは目の前にある脇道の入り口を指差す。
ほんとに脇道の入り口。
大通りから一歩だけ路地に入っただけで、完全に大通りと変わらない。
「だってほら、ここからは大通り、ここからは路地だろ?大丈夫、何か言ってきたら俺たちが守るから。心配しないで歌って。」
いやいや、完全に屁理屈もいいところなんだけどさ、それも面白いかなと、ギターを構えた。
歌い始めると、またたくさんの人だかりが出来上がり細い路地を埋めつくす。
みんなが物珍しそうに写真を撮りまくっている。
でも嫌な気分はしない。
拍手が巻き起こり、若者も老人も無神論者も敬虔なムスリムも、みんな笑ってる。
周りのカフェから運ばれてくる何杯もの紅茶。
足元にはたくさんのお金。
あがりは120トルコリラ。
やったぞ。これでまた飯が食える。
「フミ、面白い言葉教えてあげるよ。」
路上を終え、みんなでご飯を食べに行った。地元の人しか知らないような小さなお店に行けるのってすごく嬉しい。
「セキテルゲツ キュチュキュヤラムって言ってみて。」
「セキテルゲツ キュチュキュヤラム?」
「イヤアアアッハッハッハッ!!!!!」
「ウッヒョオオオオオオ!!!!!」
ファックユー短小め、という意味だった。
JBカフェに戻り、トルコのイケイケな若者たちに囲まれてたくさん話した。
英語をしゃべれるのは店員のジャネルとバイランだけなんだけど、彼らが通訳してくれすごく盛り上がる。
可愛い女の子が俺の横に座って頭をナデナデしてくる。
「フミ!!トルコ語はなにか知ってる?」
「セキテルゲツ キュチュキュヤラム。」
「ブーーーーーーー!!!!!」
「ギャハハハハハーーー!!!」
「フミ最高!!紅茶飲んで!!」
夜22時にお店を閉め、彼らのアパートへ。
途中でビールを買ったんだけど、彼らがお金を払い、俺のお金を受け取ってくれない。
「だってフミはゲストなんだよ?僕らはここに住んでるんだからもてなすのが当たり前じゃないか。ほら、バッグかして、重いだろ?俺たちは日本を愛してるんだ。日本が世界で1番素晴らしい国だと思ってるんだよ。」
うおお………
マジか………
今朝までの荒んだ心に彼らの優しさが染み渡る。
みんな何も期待せずに心から接してくれる。
これが親日国、トルコの本当の姿なんだよな。
色んな人がいるこの世の中では、心を開くのはとても難しいこと。
でもこうした人たちと接していると、心を閉じていることが本当にバカらしくなってしまう。
彼らに嘘はない。
下心もない。
あるのは遠い国からやってきた友達に、目一杯のおもてなしをしたいという思い。
アパートに行き、夜中まで大騒ぎ。
飲みすぎてバタンキューした俺に毛布をかけてくれる彼ら。
やっぱり言いたい。
トルコ最高。
今夜のコンヤに乾杯。