11月3日 土曜日
大変なことになった。
スロバキアへの3年間の入国禁止
ヨーロッパ諸国からの強制退去
ヨーロッパ諸国への3ヶ月間の入国禁止
罰金165ユーロ
終わった(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )
首を長くしてトラブルを待っていたみなさん!!
ことの次第を書いていきます…………
寒い朝。
今日も早朝に警察が来て起こされた。
ここはプリエドヴィザの教会の裏の空き地。
もう少ししたら人々がお墓参りに来るから8時までにはテントたたんでね、と優しいお巡りさん。
パスポートの照会だけして、笑顔で去っていった。
あー、寒い寒い、とテントに潜り込んで二度寝ってわけだ。
約束通り8時に起きてテントをたたんだ。
気持ちのいい青空に真っ白な教会が凛と佇んでいる。
教会のおもてに回ってみると、たくさんの人々がお花やロウソクを持って墓地に訪れていた。
普段は寂しげな墓地が花で溢れかえり、ドレスアップしたように華やかに色づいている。
昨日はカトリックの死者の日。
しかしお墓参りは土曜日に行こうってことだな。
死者を祭るということでは、この週末は日本でいうところのお盆にあたるわけか。
てなわけでショッピングストリートに行ってみると、こんなに天気のいい土曜日だというのに、見事なほど人がいなかった。
こいつは歌えねぇ(´Д` )(´Д` )
んー、まずいな。
ひとまずビニールテープを買いにショッピングモールの中へ。
テントの骨の竿が数本、縦に割れはじめているので、それを修理するためだ。
0.8ユーロでビニールのガムテープを購入し、外でパンをかじりながら竿に巻きつける。
これでしばらく大丈夫だろう。
しかし、これからまだまだテントには活躍してもらわないといけない。
頼むから最後までもってくれよ。
よっしゃ!!
さー、稼ぐぞ!!
ってさっきより人がいなくなってる(´Д` )(´Д` )
と、と、とにかくやってみようと、1曲歌ったがあまりにも人がいない。
あ、ショッピングモールが閉まった。
誰もいない町に歌声が虚しく響く。
切なすぎる(´Д` )(´Д` )(´Д` )
こりゃダメだ。
みんな今日はお墓参りと里帰りでもしてるのかな。
もうちょっと都会に行けば人も歩いているだろう。
バイバイ、プリエヴィドザ。
ヒッチハイク開始だ。
1時間かけてようやく止まってくれたのは、英語の喋れない地元のおじちゃん。
本当はここから南にくだった二トラという町に行きたかったんだけど、おじちゃんは西の町、トレンチーンに行くという。
まぁいいや、とトレンチーン行きの車に乗りこんだ。
少しは栄えてるみたいだし、15時には着くはずだから、トレンチーンで歌って夜に電車で首都のブラチスラバに行くとしよう。
しかし、このおじちゃん。
とっても優しいんだけど、英語がからっきしわからない。
ブラチスラバという言葉はかろうじて理解してくれたんだけど、他の言葉はまったく頭に入っておらず、そのせいでトレンチーンの街からけっこう離れたところにある高速の乗り口まで行ってしまった。
ブラチスラバに行くんだったらこの道が1番いいからよ!!
と言っておじちゃんはインターチェンジに俺を降ろして去っていった。
たしかにこの高速は一発でブラチスラバまで繋がってるけど、こんなインターチェンジじゃヒッチしにくいよ。
警察来るかもしれないし。
仕方ないので高速の上ではなく、乗り口のあたりでヒッチ開始。
しかし………。
来てしまった。
パトカー。
お巡りさん
「モーターウェイ、ヒッチ、ダメ。」
まぁいいか。いつものように近くの駅まで送ってもらって、電車でブラチスラバまで行ってしまおう。
そう甘い期待をしながらパトカーに乗りこんだ。
このあとの急展開なんて想像もせずに。
連れていかれたのは駅ではなく、トレンチーンの町の中にある古びたビルだった。
わけもわからずお巡りさん2人に囲まれて、ドアのないリフトだけのエレベーターに乗り、5階のひと気のないフロアーに降りる。
端っこの小さな部屋に連れていかれ、中に入るとお巡りさんはドアの鍵を閉めた。
薄暗い密室。
え?なに?ボコられるの??
ここに座りなさいと椅子を出される。
座っていると、お巡りさんはゴムの手袋をはめはじめた。
え?なに??ボテクリまわされるの??
この世の終わりみたいな顔をしていると、お巡りさんは笑顔でDon’t worryと言い、俺の体を触りはじめた。
え?なに??ホラれるの???
ただのボディチェックでした(^-^)/
そして荷物の中身もすべて細かく調べられた。
ナイフとか持ってなくてよかった。
お巡りさん
「ガンは持ってないよね?」
文武
「あ、あ、あ、当たり前です!!!」
ていうか別にいいんだけど、なんでこんな取り調べにあわなきゃいけないんだ?
悪いことは何もしてないぞ?
高速でヒッチしてたのは悪かったけど、それだけでこんな大袈裟なことするのか?
スロバキアのお巡りさんも暇なんだな。
と、お気楽に思っていたのだが…………
もちろん理由は他にあった。
小学生の時に地元の釣り具屋で重りを万引きしたのがばれたのではなく………
俺は不法滞在者になっていたのだ。
ヨーロッパにはシェンゲン協定というものがある。
イギリス、ユーゴスラビア諸国をのぞくほとんどのヨーロッパの国がこの協定に加盟しているんだけど、加盟国間ならばパスポートなしで行き来ができるという素晴らしい協定だ。
アメリカの州制のようにヨーロッパ自体が1つの国というイメージ。
しかしだ、なんと、
このシェンゲンエリアには3ヶ月間しか滞在してはいけないのだ。
ガーン(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )
俺がシェンゲンエリアに入ったのは北欧のフィンランドから。
そこから移動したすべての国がシェンゲン協定加盟国で、この前のポーランドの時点で3ヶ月が経過。
俺はすでに20日間、不法滞在をしていたのだ。
即刻、シェンゲンエリアから出なければいけないらしい。
終わった、終わった、終わったーーーー!!!!!
え?日本帰らないといけないの?
え?世界一周終わり??
ていうか刑務所??
椅子に座って紙のような顔をしている俺にお巡りさんが、こんなん小さな問題だっぺよぉー、と軽い感じで言ってくる。
しかしこれからどう動けばいいのか、どんなペナルティが待ち受けているのか、頭の中で渦巻いて泥のような顔になる。
部屋の中ではお巡りさん3人がパソコンを叩きながら書類を作っている。
部屋の片隅でボーッと放心する俺。
トイレに行きたくなった。
おしっこしたいですと言うと、トイレに連れていってくれた。
しかし俺は立派な犯罪者。お巡りさんも中に入ってきて便器に構える俺の後ろに立って、逃げないように見張っている。
おしっこ出ない(´Д` )
そんな真後ろにいられたら緊張して出ないよ(´Д` )
無音のトイレの中、俺とお巡りさんの2人きり。
なかなかおしっこを出さない俺を疑ってるかも……
変なプレッシャーで余計に出ない。
たのむー出てくれーーー
………ぷー
かわりにオナラが出た。
静寂のトイレ。
無言のお巡りさん。
は、は、は、恥ずかしすぎる(´Д` )(´Д` )(´Д` )!!!!!
この不法滞在者、俺のことバカにしてやがるのか?
いやー!!!
誤解しないで!!!
しかし、ようやく察してくれたのか、お巡りさんトイレから出ていってくれた。
無事一仕事終えて部屋に戻り、また椅子に座って魚のような顔をしていると、そこに誰かが部屋に入ってきた。
「イヤー、ドウモドウモ、タイヘンデシタネー。エティトイイマス。」
やってきたのは、なんと、日本語の喋れるスロバキア人のお兄さんだった。
通訳のためにわざわざ120kmも離れたブラチスラバからやってきてくれたのだ。
エティさん
「ニホンゴツウヤクノシカクモッテルノボクダケダカラネ、コナキャイケナインデスヨ。」
ところどころ間違ってるけど、でも流暢な日本語を喋れるエティさん。
彼のおかげで取り調べが進む。
お巡りさん
「ペラペラスロスロスロバキア。」
エティさん
「エー、ニホンデノシゴトハナンデスカ?」
文武
「歌手です。」
エティ
「スロスロスロバキア。イヤー、ナゴヤノテバサキサイコウデスヨネ!!」
文武
「うわ!そんなの知ってるんですか?!」
エティさん
「モチロンデス。ヤマチャン、イキスギデスカラ。」
あっはっはー!!
と取り調べ室で2人で大笑い。
山ちゃんとかローカルすぎて面白すぎる(^-^)/
エティのおかげでほのぼのと取り調べは進む。
ほのぼのと供述をとり、ほのぼのと指紋をスキャン。
エティさん
「カネマルサン、ウンガワルカッタヨ。タブンフツウノケイサツナラパスポートノチェックダケデ、オワッテタンダケド、カレラハガイコクジンケイサツナンデス。コクナイノガイコクジンヲトリシマルヒトタチナノデ、センモンカナノデス。」
うわー、そうなんだ………よりによってそんな専門家に捕まってしまうなんて。
たしかにこれまで何度か警察にパスポートを見せてきたけど、滞在日数で突っ込まれることはなかった。
なんてこった。
俺の供述をもとに書類を作っていくんだけど、それをエティさんが読み上げて説明してくれる。
この通訳による説明がなければ正式な手続きにならないらしく、俺の署名だけでなくエティさんもサインを書いていく。
「弁護士を呼ぶことができます。」
「ペナルティに不服があれば控訴する権利があります。」
「知らなかったんです。もうしません。ごめんなさい。」
などのたくさんの書類を承諾し、サインを書いていく。
何枚も何枚も。
エティさん
「ニホントイッショデ、スロバキアモショルイブンカナンデスヨネー。メンドクサイデスヨネー。」
供述の内容が若干変わっていて、警察の都合のいいように変換されていたが、そんなのは日本でもよくあること。
変にこじれないようにわかりやすく取り調べ官が修正するんだろう。
組織の体質はどこの国も一緒だな。
エティさんが言うには、俺が中国人やベトナム人じゃなくて日本人でよかったとのこと。
やつらは国内で悪いことをするし、平気で不法滞在をするので、捕まった際の対応やペナルティが比べものにならないくらいキツイらしい。
取り調べ室で5時間以上ほったらかしにされたり、何年もシェンゲンエリアに入れないようにされたりってのが普通だそう。
俺が日本人であること、運良く優しいお巡りさんだったこと、そしてエティさんの真摯な交渉により、俺への寛容なペナルティがくだされた。
スロバキアへの3年間の入国禁止
シェンゲンエリアからの30日以内の強制退去
シェンゲンエリアへの3ヶ月間の入国禁止
お巡りさん
「30日あれば予定通りスロバキアもハンガリーも回れるっぺよー。それからクロアチアに抜ければいいっぺー。クロアチアはシェンゲンじゃねっがらぁー。クロアチアいいとこ、一度はおいで!!」
エティさん
「イヤー、ヨカッタデスネー。」
文武
「うわー!ありがとうございます!!ジャクエム!!」
お巡りさん
「んで、アフリカとか行って3ヶ月経ってからまた戻ってくればいいっぺー。スロバキアにもまたくればいいがらぁー。」
エティさん
「イヤ、3ネンカンハイレナイデスカラ。」
お巡りさん
「お!そうだったっぺなぁー。あっはっはー!!」
エティさん
「アッハッハ~!!」
文武
「あっはっは~!!」
お巡りさん
「じゃ、罰金165ユーロ。」
なんだとぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁーーーー!!!!!!!!
お巡りさん
「多すぎ?んー、でも法律で決まっでっがらぁー。」
一瞬で絶望に叩き落とされる。
金ないです、って言いたいけど、最初の荷物チェックでバッグの中の各国のお金を見られてる。
ウソつけない。
泣く泣く金を払う。
紙幣を出し、あと小銭で払おうと1枚、2枚と貧乏アピールをしながら数える。
お巡りさん
「あー、もういいっぺー。これだけでいいがらー。当事者は現金をこれだけしか持ってなかったって書類に書くがらー。」
そう言って120ユーロだけを手にとったお巡りさん。
やった!!
っていうか怪しい………
法律で決まってるのにそんなに簡単にまけてくれるもんか?
こっそりエティさんに聞いてみた。
文武
「こういうのって懐に入れたりするんですか?」
エティさん
「ンー、シラナイデス。デモアルデショウネ。ソデノシタデケッコウドウニデモナッタリシマスカラ。」
法律の本見せてくれなんて言えない。
外国で警察に捕まったら彼らの言う通りにしないと面倒くさいことにしかならない。だって俺のペナルティなんて彼らのさじ加減ひとつで決まるらしいんだもん。
国外退去も30日間の猶予を設けてくれたけど、明日出ていけとも言えるらしいし、シェンゲン加盟国自体にも数年間入れないような罰を課すこともできるという。
ここはことを荒立てずおとなしく従うべきか。
お巡りさんたちの書類作りは黙々と続く。
あ、カネムラじゃなくてカネマルか。
あ、ここ誤字があるよ。
おっさんお巡りさんたちの手際の悪いこと。
何度もプリントアウトして、サインしては、間違ってるから破いてまたプリントアウト………
を数時間繰り返す。
ブラチスラバだったらみんな慣れてるので2時間もあれば終わるんですけどねー、とうんざりしてるエティさん。
この前、沖縄に行ってきたばかりで、暖かいところから寒いところに戻ってきたので風邪をひいているそう。
彼の仕事はスロバキアにある日経企業のコンサルタントと貿易。
エティさん
「ニホンノオンナノコチョーカワイイヨネ!!!」
6時間の拘束ののち、ようやく解放されたのが22時。
こうなってはもうこの町、トレンチーンには用はない。
ブラチスラバに帰るエティさんの車に乗せてもらった。
ドライブしながら色んな話をした。
高校生のころに留学で日本にやってきたエティさん。
宮城県で、ある家族にお世話になり、日本が大好きになり、それから日本語を勉強し、日本と関わりのある仕事につき、以来年回に何度も日本を訪れているという。
すごい話を聞いた。
彼のお世話になっている家族は宮城県にいる。
あの震災の時、彼はいてもたってもいられず、福島原発の爆発で大騒ぎしている日本にスロバキアから単身やってきて、レンタカーを借りて食糧と水を買いこんで宮城県に行ったんだそう。
これが震災からわずか1週間後のことだったそう。
なんて人だ。
あなたはすごい人だと言うと、全然すごくない、皆がやらなければいけないことだ、と言った。
あの時、なにもしないでのほほんとテレビ見ながら、あー、ニュースばっかりでつまんねーなー、って言ってただけの人が何割いただろう。
たまらなく恥ずかしかった。
ブラチスラバに着いた。
街の中心部に降ろしてもらい、エティさんを見送った。
エティさん、ホントにありがとう。
あなたのおかげでどれだけ救われたか。そして大きな勇気をもらいました。
小さなことでイラついてないで、もっと人を愛さなければな。
ブラチスラバの旧市街はたくさんのクラブやバーで活気に溢れていた。
石畳と古い建物が並ぶ路地の底で楽しそうに歩く人々。
それに混じって歩く不法滞在者1人。
猶予は30日。それまでにシェンゲン加盟国であるスロバキアとハンガリーを終わらせてクロアチアに抜け、ユーゴスラビアからトルコ、イスラエルを通ってアフリカだ。
まだイタリアにもフランスにも行ってない。
面倒くさいことにこれから数週間後に入る予定だったギリシャもシェンゲン加盟国。
ヨーロッパのメインといっても過言ではないギリシャに3ヶ月間入ることができない。
どうするか…………30日間の猶予があるのでハンガリーから飛行機でギリシャに飛んで先に回ってしまうか。
ぶっちゃけ外国人警察に捕まらなければいいだけなんだけど、もし、見つかったらさらに厳しい罰が下されることになる。
今までほぼパスポートチェックされなかったことだし、わずか10日間くらいなら見つからずに回れるんじゃないか?
いやいや、ここは不幸中の幸いということでおとなしく従うべきか。
いずれにせよこのまますごすごスルーしてたまるか。
必ず戻ってきてやるぞ。
真夜中のドナウ川にかかる橋は静かに手をのばしていた。
彷徨い歩き、暗闇に潜り込んだ。