10月6日 土曜日
静かな森の中で目を覚ました。
やっぱりテントはいいねー。
落ち着く。
ペルテンの町は土曜日ということもあってか、すごい賑わい。
あちこちにアトラクションが特設されており、家族連れやカップルが幸せそうに遊んでいる。
そんな光景を見ながら歩いていると、バッグ屋さんを発見。
お、なかなか安いアウトレットのお店だな。
最近ではバッグ屋さんがあると、いつも足を止めている。
テントを購入したことで、40リットルのバッグはもはや完全にパンクして、入りきらないものは外にぶら下げまくるという状態だし、何より重い。
色んなものが取り出しにくい。
そして内側の生地がボロボロになっており、黒いクズが剥がれ出て中のものを汚している。
もう少し大きく、キャリー付きで、さらにバッグのように背負える。
そんなバッグが欲しいんだけど、なかなか全部の条件を満たしてるのってないんだよなー。
しかし!!
このお店にはそれがあった!!
Eastpakってメーカーのキャリーバッグで、かなりいいやつ。
だが、値段が………180ユーロもする………
「25%引きですよ。ニコリ。」
おばさん店員が営業スマイル全開ですすめてくる。
割り引いても140ユーロか………
悩む、
ひたすら悩む、
するとおばさん店員、もう少し安いやつを持ってきてくれた。
どれもかろうじて条件は満たしてる。
しかし、やっぱり耐久性や機能性を考えたら、どう考えてもイーストパックがいいんだよなぁ。
でもなぁ、あんまりカッコいいやつ持ってたら金持ってそうに見えて強盗や置き引きに狙われるんじゃないかなぁ。
今のバッグでもやれないことはないんだよなぁ。
でも重いんだよなーーーー!!!
悩む、
悩む
ひたすら悩む、
ずっと横で見ていたおばさん店員、いい加減しびれを切らして奥に消えていった。
すると代わってやって来たのは可愛らしい若い女の子店員。
ほぅ、色仕掛けで俺を落とそうってわけかい?
ソウワいくか(´Д` )(´Д` )(´Д` )!!!
文武
「これ下さい。」
女の子店員
「ダンケシェーン。」
140ユーロ、お支払い完了。
べべべべべべ、べつに、いろ、いろ、色仕掛けに引っかかったわけぢゃないもん!!!!!
でもおばさん店員からしたら、ほらね、って感じだろうな。
あー、簡単な日本人(´Д` )
お店の中で荷物の入れ替えをさせてもらった。
このノースフェイスのバッグ。
3ヶ月間、一緒に旅した、いや、日本一周の時に大阪で買ったやつだもんな。
富士山もこいつで登ったし、黒部ダムと立山もこいつと探検したし、日本海側のほとんどの島もこいつを担いで行った。
いっぱい色んなとこ行ったな…………
大事な戦友だけど、ゴメン!!
女房とバッグは新しい方がいいんだ!!
女房いないけど!!
新しいバッグは容量70リットル。
中にすべてが入った。
そして収納ポケットがたくさんついているので、きれいに小分けして入れることができる。
うおーーー!!!!
キャリーって楽チンチンーーーーーーー!!!!!!
感動的な機能性。
これならどこまででも歩いて行けそうな気がするぜ!!
テントにしてもキャリーバッグにしても、このドイツ語圏で一気に旅の装備がグレードアップした。
海外の旅に適した装備になっていってるんだ。
さて、ウキウキでペルテンの中央駅へ。
この町でも歌いたいところだけど、今日はこれからある人とデートの約束をしている。
ある人とはゆうべのライブで知り合った上品なマダム。襲われたらどうしよう!!
彼女との待ち合わせ場所に向かうべく、オーストリア最後の街、首都ウィーンへの電車に乗りこんだ。
そうしてやってきたのが、ここだ。
ウィーン国立歌劇場!!!
そう!!!世界のオペラの中心!!!
音楽の都、ウィーンの象徴!!!
感動!!!
ここで18時に待ち合わせしていたんだけど、建物自体がでかいのでどこにいるのかわからない。
ていうか昨日の女の子みたいにすっぽかされたらどうしよう。
いや、あんな上品なマダムが約束を破るようなことはしないだろう。
歌劇場の周りには今夜の公演を待つ観光客が溢れかえっている。
世界中からここのオペラを観るために人が集まるんだろうな。
そんな人ごみの中でキョロキョロと立ち尽くす。
うーん、口約束だからなぁ。やっぱり来ないかなぁ。
「Fumi!!」
振り返ると手をあげて近づいてくるマダムライラの姿。
たぶん、俺のお母さんくらいの歳なんだろうけど美しく、知的で、これぞゲルマンレディーって品のある女の人だ。
ハグで再会を喜び、まずはチケットをゲットすべく彼女に着いて歩く。
すりと彼女は慣れた様子で、そこら辺にいるあやしげな男に声をかけた。
その怪しい男はポケットの中からチケットを取り出した。
なりほど、ダフ屋だ。
気づけば歌劇場の周りには、たくさんのダフ屋の姿。貴族っぽい服を着ているので一目でわかる。
マダムライラの交渉の結果、手に入ったチケットは3階のシート席。11ユーロ。
しかし彼女はダフ屋に30ユーロを渡した。
なぜ?と聞くと、これは彼らの仕事だから、と言う。
彼らは安くチケットを手に入れるため2ヶ月前にこの日のチケットを購入している。その手数料を上乗せした金額を払うのだ。
俺1人だったら確実にボラれてるな。
お金を払おうとしたらマダムライラはそれを止めた。
これは私からのプレゼントよ、と笑った。
会場時間になり劇場の中に入ると、そこはまるでお城のようなきらびやかな世界。
1869年に建てられたこの歌劇場。客席2000席。
こけら落としはやっぱりこの人、オーストリア出身のモーツァルトの作品。
由緒正しいって感じ!!!
第二次世界大戦では空襲によりかなりの部分を焼失したが、エントランスや階段、喫茶室は被害をまぬがれ、美しく優雅な姿をとどめている。
あ、そしてウィーンの歴史的建造物とか地区とかそんなくくりで世界遺産に登録されてるよ!!アジア人のみんな!!
「毎日毎日、満席なのよ。今日は特に世界的な有名な歌手だからチケットが手に入れにくいの。」
オペラ好きな生粋のオーストリアレディ、マダムライラ。
ブロンドの髪と上品な立ち居振る舞いが、この歌劇場によく合う。
You are beautiful and elegant lady.
オペラ好きの人たちはみな、自分のお気に入りの上演作があり、お気に入りの歌手がいるんだそう。
喫茶室では正装した人々が優雅に開演前のひと時をすごしている。
ここではビールやシャンパンなどのアルコールを飲むこともできる。
日本だったら100%ダメだな。
みな紳士なので自分の酒量をわきまえているんだな。
俺もわきまえつつモーツァルトに乾杯。
しかし劇場内ということでめちゃ高いのであんまり飲みまくることはできない。
荷物をクロークに預け、いざ、観覧席へ。
小さなドアが並ぶ中、ひとつの部屋に入る。
う、う、うおー…………
こ、こいつはマジで感激だ………
映画で観たことある、貴族が楽しんでいるようなあのオペラハウスそのまま。
きらびやかな世界。
まるで自分も貴族になったかのようなブルジョワな気分。
あ、あの、僕普段、橋の下とか、墓場のベンチとかで寝てるんですけど(´Д` )
まるでタイタニックのディカプリオ!
Make it count!!!!
客席の明かりが落ちた。
ステージ前の楽団が音を出すのをやめる。
館内放送が流れる。
もちろんドイツ語で。
携帯電話の使用はお控え下さい、みたいなこと言ってるんだろうな。
次にその英語バージョンが流れた。
うんうん、親切だね。
「ご来場の皆様にお知らせします。上演中の写真撮影、録音………」
なにーー!!!今度は日本語だ!!
なんかせっかくヨーロッパの気分に浸ってるのにこの日本語の放送は一気に萎える。
そんだけ日本人がいっぱい来るってことだろうな。
そして注意しないと写真撮りまくるんだろうな。
指揮者が入ってくると、拍手が巻き起こる。
一礼をして、振り返り、指揮棒を振った。
会場に響き渡る音楽。
すげえ!!!
クラシックまったくわからない俺でもこのクオリティのすごさはわかる!!
そうだよな、世界トップ3に入る楽団だもんな。
ジェフベックみたいなもんか。
指揮棒がいっそう激しく振られた瞬間、ステージの幕が開かれた!!
ステージの上には古い田舎の町が作り上げられていた!!
そして………会場の隅々にまで届く美しくハリのある歌!!
あわわわわわわわわわわわわ
すげすぎすげすぎすげすぎすげすぎすげすぎ(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )
マジでちょーすげえすげえすげえすげえすげえすげえすげえ
それぞれのクオリティももちろんなんだけど、このシチュエーションだよ。
ウィーンの美しい歌劇場で本物のオペラを観るという、日本人が憧れるステータストップ5に入るであろうシチュエーション。
ど田舎者の俺にはたまらなく感動的。
日向にはない!!
美々津にはもちろんない!!
それから2時間30分。
繰り広げられる歌劇。
内容はイタリア語だと思うのですさっぱりわからないが、席ごとに翻訳モニターがついているので英語でセリフを追うことができる。
そう、歌詞ではないんだよな。
セリフを歌い上げている。
ほぼ想像だけど、田舎の青年が村1番の美女に想いを寄せているが、そこに軍隊がやってきてそこの隊長も美女に惚れ、さらに旅のお医者さんも美女に惚れてしまう。1人の美女をとりあって繰り広げられる涙あり笑ありのドタバタストーリーってな感じ。
内容は吉本新喜劇と一緒だな。
なんてすげー歌うたうんだこの人たち。
人間の声か?
客席からたまらずブラボー!!と声があがる。
大円団で幕が降り、拍手が降り注ぐ。
主演の歌手たちが出てきてその拍手に応える。
鳴り止まない拍手。
歌手はそれに応えないといけない。
何度も何度も、ほんとにしつこいから!!ってくらい何度も出てきてお辞儀をしている。
それでも拍手は鳴り止まない。
ついに作曲者も出てきて賞賛に応える。
人々の拍手は10分は続いた。
いやー、もう満足だよ、オーストリア。
もう、いい。
もうヨーロッパかなり満足です。
充実感に包まれてウィーンのメインストリートを歩く。
土曜日の22時はものすごい大混雑。どのカフェでも人々はビールを飲んでおり、観光客その賑やかな街の写真を撮りながら歩いている。
こんな大きな街なんだなウィーンって。
軽く圧倒されながら、お腹空いたので適当にケバブ屋さんを覗いてみた。
「OK!! Come on!!」
おっさんが観光客相手の英語でまくしたててくる。
「ピザ!!?ケバブ?!!」
「えーっとねー……どれにしようかなー。」
「ピッツァ!!!!OK!!!」
「うーん、悩むなぁ。」
「ヘイ!!!ピッツァ!!!!ヘイ!!!!」
いきなり怒鳴りながら乱雑にピザを差し出してきた。
は?なんだこいつ?
完全にアジア人なめてるよな?
かなりムカついたからピザを受け取らず、何も言わずにそいつの顔を見続けた。
5秒くらい無言で睨んでいると、おっさん急に腰が低くなった。
おっさん
「ピザです。どうぞ。」
文武
「ピザじゃなくてドゥルムください。」
おっさん
「おーう、OK。どこから来ましたか?」
文武
「日本。」
アジア人なんて雑に扱ってもオドオドして言いなりになると思ってんかな。
なめてんじゃねぇぞ。
少なくともこのおっさんには、日本人は礼儀正しく接しないと怒る、というイメージを与えられたかな。
町外れに歩き、静かな公園を見つけ、そこのベンチに横になった。
世界中の人々の憧れであるウィーンのオペラを観て、その足で公園のベンチで眠る。
なんていい旅だ。