8月31日 金曜日
ポツリ、ポツリと寝袋をうつ雨の音。
もうこれが大嫌いな音として頭に刷り込まれている。
勘弁してくれよ。
この見張り塔は4層で出来ており、俺はその2層目で寝ている。
階層の床はすのこ状になっており、わずかな隙間があいているので雨がそこからしたたってくるのだ。少しくらいの雨なら大丈夫なのだが、どんどん勢いを増す雨。
寒い。
窓跡のくぼみに潜り込んだ。
人1人が体育座りできるだけのスペース。
寝袋にくるまってじっと動かない。
みるみるうちに俺が寝ていた2層目はびしょ濡れになり、滝のような水が流れ落ちてくる。
風がさかまき、この窓のくぼみにも徐々に雨が入ってきた。
濡れる寝袋。
次第に中が冷たくなってきた。防水仕様とはいってもさすがにこれだけびしょ濡れになるとしみてくるようだ。
ウトウトして、寝ちゃダメだ!と目を覚まし、またウトウトして………
目を覚ますたびに寝袋は濡れかたを増し、中の羽毛もへにゃりとなっている。ノーパンのお尻が冷たい。濡れないように奥に奥に逃げるが、もはや無駄のようだ。
できることはただ1つ、止むのを祈ることだけ。
滝のような雨は朝がくるまで降り続いた。
明るくなってくると少し雨足が弱まった。
今しかない。
びしょ濡れの荷物をまとめて朝の町を急ぎ足。
やってきたのはフェリーターミナル。
ここならバッグパッカーも多いはずだから寝袋とか乾かしてても見慣れた光景として扱ってくれるはず。
そして予想通り、スポンジマットを広げ、寝袋をイスにかけていても何も言われない。
ありがたい。早く乾いてくれ。
トイレも無料だし、バッテリーの充電もできる。Wi-Fiがないのが残念だが、雨宿りには最高の場所だ。
でも一応フェリーに乗る気はあるんですよ、と月曜日に乗る予定の船のチケットを買っておいた。
今日はなんにもしなかった。
窓の外は土砂降りの雨。
フェリーの時間がくると賑やかになるターミナル。
そしてまた静かになり、切符売り場のカーテンが閉まる。
お昼には港湾の作業員たちが軽食コーナーに集まり、コインロッカーの前では若いカップルが口喧嘩をしている。
賑わう構内、でも時間がくればまたみんな船に乗りこんで俺1人になる。
ふと、このままあの人ごみと一緒に、船に乗ってしまおうかなと思った。
日曜日にフリーライブがあるとは言っても、俺が行かなくたってメインのミュージシャンは来るんだろうし、誘ったあのおばさんも俺を覚えているか怪しいもんだ。
でも、それでも行かなくっちゃな。
雨は降り続いている。
時間はあっという間にすぎていく。
ゆうべの集会の時に、ステージのテーブルの上にあったチョコのお菓子をごっそりくすねてきたので、それを食べる。
うまい。
チョコが信じられないくらい美味い。
しかし今日これしか食べてない。
ゆうべの晩飯がポテトチップスとパン。
ほんとにヤバイな。
よくこんな食事で俺の体は元気に動いてくれるもんだ。
フェリーターミナルが閉まるというので、雨宿りできる場所を探して港を歩き回る。
するとヨットハーバーに何やら管理事務所みたいな建物を見つけ、その玄関に最高のスペースを発見。
屋根つきのスペースにテーブルとベンチ!!
たぶん管理事務所みたいなもののはずだから土曜日は休みだろう。
この雨ならヨットを出す人もいないだろうし。
そこにバッグとギターを隠して、カッパを着こんで町のスーパーへ。
パンと缶詰を買った。
パンを脇に抱え、濡れた石畳の路地を走る。
カッパの影がマントのように不気味になびく。
街灯の下。
管理事務所のベンチで缶詰を開けた。缶詰安いね!!こんないい物の存在を忘れていたよ。
1つはサバ缶。
マジで激ウマ(^-^)/
もう1つは、なんかよくわからんけど安いから買った。
開けると魚肉の練り物の水煮みたいなのが入ってた。
激マズ(´Д` )
吐きそうなので岸壁から海にばらまいた。
サバ缶とパン。
美味い。
あー、もっとなんか腹一杯食べたい。
金はあるんだよ。レストランで飯食ってホステルに泊まるくらいの金は。
でももしものために節約しておきたいんだよなー。いつか必ず大金が必要になる場面が来るはずだから。
早く先に進みたい。
雨の日のホームレスほど悲しいものはない。