8月30日 木曜日
通勤路である城壁のあぜ道をメインストリートに向かって歩く。
今日もいい天気。
せっかくだからそろそろ服を洗濯しようかな。
メインストリートの脇にパーキングスペースがあるんだけど、そこに無料の公衆トイレがある。
決して綺麗とは言えないが、スーパーのトイレは5クラウンする。
贅沢は言えない。
トイレの水道でジャバジャバと服をもみ洗い。日本で買った小袋の洗剤が大活躍だ。
パンツとシャツをバッグやギターにひっかけて町を歩く。
気持ちいい風にパンツがはためく。
腹ごしらえにスーパーへ。
こっちのスーパーではレジでベルトコンベヤーの上に自分で商品を置かないといけない。
前や後ろの人の物と混じらないように棒を置いて仕切るのがマナーだ。
レジの人はバーコードを読んだら向こう側に商品を投げる、転がす。その激しさに最初はかなりびっくりする。怒ってるの?ってくらいポイポイ投げる。日本だったら一瞬でバイトクビだ。
そろそろバッテリーの充電がヤバイので、マクドナルドで充電させてもらう。
コンセントの形はロシアから変わらず2つの丸い棒を差し込むタイプ。
ここでも日本で買った世界対応コンセントプラグが大活躍している。
要るだろうと思って持ってきた数少ない道具が活躍してくれるととても嬉しい。
あれば便利なものとか他にもいろいろあるだろうけど、今のところ40リットルのバッグで充分間に合ってる。
マクドナルドにバッテリーを放置したまま路上開始。
今日もたくさんの人出。
目の前でおじさんが露店を出して花を売っている。ちょっと迷惑かなぁと思っていると、こっちに近づいてきた。うわ、よそでやってくれって言われるかな……と思ったら20クラウンを入れてくれてウィンク。
外国人のウィンクはいかす。
今日もお兄さんが話しかけてきて、イベントで歌ってくれと誘ってきた。
夜の19時から近くの公園で集会があるらしい。
美しい水と森を守るためのちょっとしたデモ集会みたいなものかと理解した。
面白そうだ。行ってみよう。
しばらく歌っていると、またもや今度は姉さんが話しかけてきた。
今からそこで集会をするから、こっちに来て歌ってくれと言う。
わけのわからないまま移動し、指示された場所で歌う。
すると、周りにいた同じTシャツを着たそれっぽい人たちがビラ配りを始めた。
看板が設置され、プラカードを持った人々が集まる。
さらに車が入ってきて、積んでいた木の枝を運んできて道の真ん中にぶっ立てた。
意味不明な中で歌うアジア人。
するとさっき俺に話しかけてきたリーダー的な女の人が拡声器を使って民衆に訴えはじめる。
俺もギターを置いて後ろに下がった。
たくさんの人だかりができ、みんな熱心に聞き入っている。
リーダー的女の人の話は熱を帯びていき、観衆から拍手や指笛が巻き起こる。
一体なんなんだぁぁぁーーーー!
!!!!
女傑と呼ぶに相応しいこの女の人。
熱い訴えは彼女の叫びとともに終わった。
大歓声が上がる。
そして人々は横にいた兄さんの元に流れ、そこでTシャツを購入している。
おそらく森を自然を守ろう、このゴットランドの美しい自然を!!
みたいな集会なんだろうな。
さっきの兄さんにしてもそうだけど、ゴットランドでは熱い自然保護が叫ばれているんだな。
それからも人がはけるまでそこで歌い続けた。
しかしそんな状況だったのであまり金は入らず、今日の稼ぎは330クラウン止まり。
しかしその分、色んな人と仲良くなった。
「夜も近くの公園で集会をするの。よかったら来て、また歌って。あなたの声は美しいわ。そうね、イマジンなんかどうかしら。あなたの声に合ってるわ。」
そう言う女傑。
なーんだ、さっきの兄さんの言ってたのと同じ集まりか。
どうやらこのゴットランド島の北部で、地下からセメントを採掘する工事が進められているらしいとのこと。
木は切り倒され、水は濁る。
これを止めようという活動なのだそう。
うーん、日本でもそうだったけど、俺こういうのに縁があるよなぁ。
活動メンバーの1人である女の子が声をかけてきて、この曲のギターあなた弾ける?と歌詞とコードが書いた紙を見せてきた。
原曲も知らないが、彼女の歌うスウェーデン語のメロディにギターをあわせる。
よくわからないがなんとなく曲になった。喜んでる彼女。
原曲を知らないわけだ。彼女の作った歌なんだもん。
どうやら今回の集会のために作った森をテーマにした曲らしい。
これを夜の集会で歌いたいらしい。
彼女自身まだ歌いこなせていないし、曲としての完成度も低いが、まぁそんなに大きな集会でもないだろうし、なんとかなるだろう。
それからマクドナルドでイマジンの歌詞を書き出した。
俺もついにイマジンをレパートリーに加えてしまったか………バッグパッカーがイマジン、なんてちょっとありきたりすぎるけど、やっぱりいい曲だし、俺の声にも合ってるし、何よりみんな知ってるので色んな場面で歌えるしな。
そして夕方になり、集会があるという海沿いの公園へ移動した。
どこかなー、とキョロキョロしていると………
おいおい、まさかあれか?
公園の野外ステージにスピーカーなどの音響設備がセッティングしてあり、たくさんの人たちが集まっている。
19時が近づくと、どんどん人が増え、公園を埋め尽くすほどの人垣が出来上がった。数百人はいるぞ。
マジでここで歌うのか?
司会進行のおじさんの軽快な挨拶で集会は始まった。
ステージ上にいる人たちがかわるがわる話をするたびに拍手が起こる。
何を話しているかはさっぱりわからない。
何話してるのかなー、どうやって歌おうかなー、と考えていると、さっきの女の子、カロリーナが俺を見つけて駆け寄ってきた。
「ハイ!あなたに会えてよかったわ!ここでこの曲を歌えるんだもん!ふふふ!」
あんたマジでさっきの完成度の低い曲をここでヤル気ですか?(´Д` )
道連れってやつですね(´Д` )
日が落ちてうす暗くなったステージ上ではなおも人々の話が続いている。
カロリーナが訳してくれる。
ステージ上にいる彼らは地元ゴットランド島の代表であり、工事を請け負っている会社の代表であり、議員さんであるそうだ。
公園に集まっている人々はほとんどがアゲインスト、反対派の人間なので、反対派の人の話が終わると、大歓声が上がる。テレビで見るアメリカの大統領選挙の演説みたいに派手な大歓声。
そして会社側の人間の話が終わるとわかりやすい大ブーイング。怒号が飛び交う。
彼ら会社側の人間を護衛するために島の警官だけでは足りず、ストックホルムからも応援の警官がやってきており、公園を取り囲んでいる。
日本では公共工事があると国が地元民に金をばらまき、それを受け取らない人々と地域を二分した対立を生み出すが、この島でも、金をばらまいてるかはわからないが、やはり地域内で確執が出来ているようだ。
少数ながらも会社側の人間の話に呼応する歓声も見られる。
ひととおり話が終わると、今度は会場の一般市民たちとのディスカッションが始まる。
人々は待ってましたとばかりにマイクを奪いあって質問を投げかけ、ステージ上の有識者たちが答弁する。
素晴らしい質問には大歓声が湧き上がる。
おそらく知的で、政治的で、そして人情的な、白熱した議論が繰り広げられているのだろうが、スウェーデン語なので一切わからない(´Д` )
訳してくれよ、と隣のカロリーナを見ると、なんだかソワソワしている彼女。
「よし!フミ行くよ!!」
はぁ?!(´Д` )
(´Д` )(´Д` )
(´Д` )(´Д` )
はぁ!?(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )(´Д` )!!!
突然ステージに飛び出したカロリーナ!!
わけもわからずギターを抱えてそれについていく!!
歓声が上がる!!
え?え?いいの?
やるの?
あのリズムもよくわかってない曲を?
彼女の持つ紙を見ながらギターを弾く。
歌いはじめるカロリーナ。
あ、あ、案外いけるかも!!
5秒で止められた(´Д` )(´Д` )(´Д` )
司会
「熱い訴えでしたー!ありがとうー。」(推測)
たぶんそんな感じでうまくまとめられてステージを降ろされた。
ここはディスカッションの場であって音楽はダメなんだそう。
見事道連れ(´Д` )
あれだね、熱くなって調子に乗っちゃったバカなヒッピーみたいな感じだったよ。モロに。
俺としたことが………
それから少しして集会はお開きとなった。
変なヒッピーの乱入はあったが、地元ゴットランドにとって有意義な集会であったことには間違いない。
夜の中、帰っていく人々。
ていうか、集会来て歌ってよ!って俺を誘ったあいつらーーー!!
このイマジンをどうしてくれるんだ(´Д` )
カロリーナは少しだが歌えたことに興奮しているようだ。
あの恐れ知らずな演奏に呼応したヒッピーたちがたくさん話しかけてくる。
こういう無鉄砲な情熱も改革には必要なことなんだろうな。
残っていたヒッピーたちもみんなそれぞれのキャンプサイトに帰って行き、俺も1人、いつもの見張り塔に向かって歩いた。
君は俺を夢ばっか見てるやつと言うかもしれない
でも俺は1人じゃない
かー。
イマジン歌えず、今夜も野宿のアジアジン。