やっとアメーバ、工事が終わったね。
前回からいろいろあったよ!
一気にいってみよう!
8月6日 月曜日
こっちの若者も日本の若者も変わらない。
夜中に乗り回す車はウーファーを効かせており、バイクもマフラーを切ったやかましいもの。
特攻服は着てないけどね。
そんな若者たちの騒音に悩まされながらも、少し南下したせいか若干温かい気温で快適に眠ることができた。
教会の公園にある野外聖歌堂みたいなとこで(^-^)/
こんなとこで寝ていいのか?
キリストさん、ちょいとお邪魔しますね。
さて!フェリー代や昨日の食費で結構お金使ったからな。
頑張って稼ぐぞ!と町にやってきたら、早速ジープスたちが紙コップを前に置いて地面に座ってる。
ヒッチハイクで色々聞いたところによると、ノルウェーはオイルマネーでとても豊かな国な上、入国も簡単、滞在も簡単ということで、貧しい人たちにとってはかっこうの稼ぎ場になっているということらしい。
しかしほとんどがルーマニア人というのはどういうことだろう。
ルーマニアって貧しい国なのかな。
ボーデのメインストリートはわかりやすい。
石畳の小綺麗な通りに小さなお店が並んでいて、デパートもある。
広場にはなにやら野外ステージが組んであり、近いうちここでライブがあるのだろう。
そしてそして、なんと広場から先が植物園みたいな屋根のかかった温室になっているのだ!!
200mくらいのこの温室の中にはたくさんのお店、たくさんの人通り、入り口は自動ドアになっていて風も入ってこない、もちろん雨の心配もない。
ここでやれたら最高だな。
でもこういう場所ってたいがい警備員さんが注意しにくるんだよな。
でもやってみなけりゃわからない。
腹ごしらえをして、温室の真ん中あたりで恐る恐るギターを鳴らした。
そっから先はもう大フィーバー。
たくさんのひとだかり。
チップもめちゃくちゃ入る。
あ、警備員さん!
警備員さんもチップを入れてくれる。
この町最高だ!
するとそこに1人の渋いおじさんが話しかけてきた。
どうやらこの近くでレストランバーを経営してるみたいで、今夜歌いに来なよ、とのこと。
マジですか。
やばい。
今回の旅で初めての店の中での演奏。
ビール瓶投げつけられないかな。
つまらない雰囲気になって気まずくならないかな。
かなり心配しながらも今日も5時間歌い、今までで最高のあがりをゲット。
数えるのが大変なくらいのコインだ。
後で数えたのだが、なんと2280クラウンもあった。日本円で3万円。
19時にもなると温室の人通りは少なくなる。
でも締め出されることもなくいつまでもいていいようだ。
外はさすがにまだ寒い。ほんといい町だな。
レストランバーに行く時間は22時か23時くらい。
何を歌えばいいのか、今までの路上で外人さんにウケの良かった曲を思い出す。
英語でMCなんてまだできるわけない。
あー、コワイ(´Д` )
怖いけどここで逃げるわけにはいかない。
ビクビクしながら22時、お店の前にやってきた。
レストランバー
「ダマンディ」
中に入ると、薄暗い店内にゆったりとしたソファーのボックス席がたくさん並び、中央のカウンターでは10人ほどの人たちが酒を飲んでいた。
一角にはDJブース。ライブもやっているボーデでは有名なこのお店。
俺もビールを買い、オーナーであるベンツさんを探す。
こっちのお店はたとえバーであろうと店内ではタバコを吸えない。
どのカフェにもオープンスペースがあるのは喫煙のためなのだ。
ちなみに1番安いビールが400mlくらいかな、52クラウン。
お店の奥に進み、ビリヤードの部屋を抜けて外に出ると、そこにはテラスがあり、たくさんの人がそこでタバコをくゆらせながらビールを飲んでいた。
「おー!よく来たね!」
路上で声をかけてくれたオーナーのベンツさんは、足が悪いようでステッキをついており、ヒゲと眼鏡、ニットキャップ、それがとてもかっこいい。
たくさんの人たちが声をかけてくれ、その中にはノルウェーでもかなり名のしれたミュージシャンだという人も。
これまた有名なシンガーであるマリタは何度も日本を訪れており、気さくに話しかけてくれる。あの奈良よしともと友達なんだと言っていた。
みんなにお酒をおごってもらい、いい気分になってきた頃にはずいぶん人も増えてきた。
「よし、フミ、そろそろ始めようか。」
きてしまった……
いやいや、歌いに来たんだよ。
テラスから店内に入ると、たくさんの人たちでガヤガヤと盛り上がっていた。
そんな中でギターを抱える。
ステージではなくボックス席で。
マイクなしの生だ。
店内の音楽が消える。
みなの注目が集まる。
どうにでもなれ!!!!
最初の1曲はよかった。新鮮さにみんな聴き入ってくれた。
しかし2曲目、3曲目と進むごとに話し声が大きくなりはじめ、最後のほうではタバコを吸いにテラスに向かう人も。
歌いながらものすごく苦しかった。
最後にニールヤングをやってギターを置いた。
音楽が流れはじめると、またもとの盛り上がりを取り戻した店内。
辛すぎる。
今までの海外の路上で手に入れた手応えがむなしく壊れてしまった。失望を作り笑いでごまかした。
「フミ、フミは日本人なんだから日本の曲をやらなけばいけない。ニールヤングなんてやったらダメだ。フミはいいシンガーなんだから自分を、そして日本語を信じないと。言葉はわからないけど、音楽は感じるものなんだから。」
ベンツさんの言葉が優しく厳しく頭を叩く。
そうだよな。媚びたらいけない。媚びたらいけないんだよ。
今まで何度も何度も、嫌ってほど日本でこのことに立ち向かってきたじゃねぇか。
おんなじなんだよ、人間は。
媚びずに自分のやりたい音楽をやらなければ。
ノリのいい音楽にあわせて人々が踊っている夜中の3時。
俺は隅のボックスでそれに混れずに傍観している。
ベンツさんがパソコンを使ってDJをして、お客さんをあおっている。
そして盛り上がりが最高潮に達した時、音楽がパッと途切れた。
すると蜘蛛の子を散らすようにあっという間に店内の人たちがいなくなった。
閉店の時間。
それからベンツさんの家へ移動。
日本通のマリタ、鍵盤弾きでパンみたいなヒゲをしたエリック、ベンツさんとベンツさんの彼女の5人で、トレンディドラマにでも出てきそうなオシャレなアパートの部屋で、シャンパンを開ける。
みんなでそれぞれの音楽を披露しあった。
マリタの個性的な歌、エリックの本職じゃないけど上手いギター、俺も俺なりの歌を歌った。
「フミ、自分を信じて生きるんだ。もし君がいい人間ならば周りにいい人たちが集まってくる。だから自分を信じることが大事なんだよ。」
大きな大きな言葉をもらった。
打ちひしがれ、辛酸をなめる思いを味わった夜、自分を信じるということの本当の意味が少しだけわかった気がする。
朝6時。
窓の外はあやふやな夜明けの光です。
失望と希望が混じり合った、どっちともつかないあやふやさが、明日を連れてくるのだよ。