7月24日 火曜日
ガレージの中にある部屋で目を覚ました。外国の家によくある、半地下みたいなガレージだ。
ティモさんはかつてレーシングドライバーだったらしく、ガレージにはたくさんのステッカーが貼られた車が停めてある。
ラップランドレースという大会がどれほどのレベルのものか知らないけど、その大会の優勝経験もあるティモさん。
部屋にもズラリとトロフィーやメダルが並んでいた。
ガレージを出るとまぶしいほどの原色の世界が広がった。
晴れ渡る空にはプカプカと低い雲。それをうつす美しい川。刈り込まれた芝生の緑、白樺の白、
なんかの公共施設ですか?ってくらい清潔感にあふれている。
しかし北欧ではこれがよく見る一戸建てなんだよな。
リンダ
「Hi,fumi. Did you sleep well?」
北欧というかロシアでもそうだったけど、朝ごはんはもちろんパン。
テーブルにたくさんのキュウリやトマトなどのスライスされた野菜と、ハムやサラミ、チーズが並び、それらをパンの上にのせて食べるというスタイルだ。
紅茶を飲みながらゆったりと味わう。
食事が終わるとリンダが外に行こうと言う。
庭に出るとそこにはトランポリン。
庭にトランポリンて!
リンダがお手本を見せてくれる。
子供のころからやってるんだろう。華麗に飛び回っている。
一見簡単そう。
よーし、人生初トランポリンに挑戦!!
おら!!
見事に首と腰を痛める。
トランポリンって難しい。色んな筋肉を使うんだ。
これやってたら、体引き締まるだろうな。
すっかり仲良くなったリンダとティナと遊んでいたが、楽しい時間もいつまでも続くわけじゃない。
そろそろ送って行くよとティモさんが言う。
荷物をまとめて車に乗る。
ママ、リンダ、ティナ、ティモさん、ほんとにありがとう。
これぞ北欧って生活を垣間見させてもらった。
出来るならばこうやって世界中の家族の暮らしを体験したいな。
町の中心にあるデパートの前で下ろしてもらう。
走り去るティモさんの車を見送り、俺はいつものオープンカフェでコーヒーを飲む。
広場のベンチにはホームレスかな、それともただの暇な人なのか、いつもの顔ぶれのおじさんたちが座っている。
ロヴァニエミ、いい町だな。
路上をはじめると少ししてオンニがやってきた。
「Fumi!I find good place!」
どうやら昨日、俺のために歌う場所を探してくれていたようで、しかもゆうべのうちに交渉して許可までもらってたらしい。
そうともしらずに酔っ払ってて、ゴメン、オンニ。
オンニについて行くと、大きなデパートの中に入って行き、一角にあるスペースにたどり着いた。
仮設のスペースで、ガランとした広場。
絵が飾ってある。
メタルのアルバムのジャケットによくある感じの不吉なやつだ。
人はいない。
と思ったら端っこの方に1人ポツンと座っている。
どうやら2週間後にこの町でSIME Rockっていうロックフェスが行われるようで、この仮設スペースはそのイベントの情報基地のようだった。
この中で歌っていいよ!!
じゃ!!がんばって!!
って、オンニ、お、おい!
オンニーーー………
どっか行ってしまった。
静まり返る室内。
端っこに座ってる女の人がチラッとこっちを見る。
え?ここで歌うの?
この状況で?
人まったくいないんだけど………
全然入って来ないし………
とにかく、せっかくオンニががんばってくれたんだ。
一応歌おう。
ギターを構える。
目の前の壁にはメタルなサンタクロースが怖い顔をしている。
そのメタルサンタに上を向いて歩こうを歌う。
歌い終わると、端っこの女の人がパチパチとお愛想の拍手をしてくれた。
………
切なすぎる。
何曲かやったが、あまりの気まずさに耐えきれなくなり、やっぱり外でやりますと言うと、あー日本人でも気まずいという感情がわかるんだなみたいな感じでどうぞどうぞと送りだしてくれた。
いつものオープンカフェに戻ると、そこではミニライブをやっていて路上が出来ない状況だった。
どうしようかなーと、とりあえず広場で日記を書いていたら、サブウェイのパンを持ったオンニがやってきた。
どうだい?稼げた?
いや、全然ダメだった。
チクショウ!!なんてこった!!
悔しがってくれるオンニ。
今日はもうやめとくよと言うと、一緒に買い物に行こうと誘ってくれた。
2人で町のショッピングモールをブラブラ歩く。
今フィンランドではアングリーバーズが大ブレイク中。
アングリーバーズとはケータイのゲームアプリで、いまや世界中でダウンロードされている超人気ゲーム。もちろん俺もやっている。
文房具屋さん、本屋さん、食料品売り場、あらゆるところでコラボ商品が売っていた。
日本には大きな都市にしかないH&Mがフィンランドにはとてもたくさんある。
もちろんこの小さなロヴァニエミの町にも。
初めて行ってみたけど、H&M、いいね。
洒落とるわ。
こんなの着てたらそりゃ外国人オシャレになるわ。
あー、欲しいのがめちゃくちゃいっぱいある。しかも安いし。
日本だったら衝動買いしてしまいそうなほど気に入ってしまうが、旅の途中だ。我慢我慢と思っていると、オシャレなニットを発見してしまう。10ユーロ。
迷わず購入。
買っちゃったー!
だってシャレてんだもん。これから寒くなるしね。
フィンランドの小さな男の子と2人、お互いの国の話をしながら色んな売り物を見て回ってる状況が不思議で仕方なかった。
町にたむろしている不良少年たちは悪ぶってはいるが、そこらの柱や壁によじ登って、ニンジャ!!と言って飛び降りたりする幼さを見せる。
田舎の夏休みは町にたむろしてタバコを吸うくらいしか刺激を得られないんだろうな。
フミ!今夜こそうちに泊まりに来なよ!!
そう言うオンニの後をついていき、林に囲まれた湖のほとりにあるきれいなアパートにやってきた。
フィンランドの住宅はたいてい自然の中にある。
日本みたいに、住宅地を作るときまず山全部を削りとってそこに新しい町を作るってやり方じゃない。そんなんで自然との調和なんてあったもんじゃないよな。
いつも思ってたけど、日本によくある郊外の山にへばりついたような新興住宅地の不気味さったらないよ。
その夜は眠くなるまでオンニと一緒にYouTubeをサーフィンした。