7月15日 日曜日
ソファの上で目を覚ました。
窓の外は雨が降っている。
そうか、ここはヘルシンキだよな。
ピーターがタバコを巻いてくれた。
北欧のタバコは高い。なので巻きタバコを吸う人が多い。
2人でテラスでタバコをふかす。
森の匂いが雨で際だち、タバコがうまい。
パソコンを貸してもらって彼女とスカイプをした。
ご飯食べてるよーって何食べてるのかと思ったら、マクドナルド。
俺はヘルシンキでマクドナルド。
世界は一つ。
牛乳をかけて食べるドライフルーツと穀物の朝ごはん、あれ名前なんだっけ。出てこない!
ご飯と味噌汁と納豆というわけにはいかないが、朝ご飯をいただく。
すると、食事を終えたピーターが何やら注射器を取り出してお腹に刺した。
注射器がキチキチキチ……と音をたてる。
な、な、何してるの!!って驚く俺に、ピーターはインシュリンだと教えてくれた。
食事をしたら必ずインシュリンを打たないと血糖値が上がって大変なんだと笑った。
このまま一週間くらいここにいたいところだが、そんな図々しいことは言えない。
15時の列車でタンペレに向かおう。
荷物をまとめ、テーモと抱き合い、部屋を出た。
ピーターと2人で森の中の道を歩く。ピーターは毎日この道を通ってるんだよな。
仕事をして、飯を食べて、趣味の絵を描いて、たまに旅に出て。
日本と同じ生活がここにもある。
みんな歳をとって死んでいくまで、生活をしていくんだ。
バイバイ、ピーター。
17時、列車がタンペレの町に着いた。
たくさんの川や湖が町じゅうを流れる、小さいけど綺麗な町。
フィンランドには20万個ともいわれる湖があり、北部に行けば行くほど大きな森といくつもの湖が広がっているそうだ。
想像するだけで神々しい美しさだな。
それにしても寒い。
寒すぎる。
早いとこ上着を手に入れるか南下しないとヤバイことになるな。
まずは町の雰囲気をつかむため、いつものように歩き回る。
どこのカフェもたいがいオープンカフェ。
日本にいる時も思ってたけど、通り過ぎる人たちにごはん食べてるとこ見られて恥ずかしくないのかな。リラックスできんよな。
石造りの大きな教会を見つけ、中に入ってみた。
ガラーンとしたホールに、なにやら警報音みたいなのが鳴り響いている。
あ、パイプオルガンだ。
どうやら調律をしているところみたいで一つ一つの音を確認して微調整している。
ウロウロと見学していたら神父さんかな?おじさんが話しかけてきて、今夜パイプオルガンのコンサートがあるんだよ、と教えてくれた。
見るしかねぇ。
教会の壁に印象的な絵が描かれていた。
薄暗い恐怖。
外の広場で時間まで待っていると、ポツポツと教会に入って行く人たち。
親に連れられてきた子供たちが大声を出しながら走りまわってお母さんに怒られている。
どこにでもある風景。
20時になり、中に入ってみた。お金はとらないみたい。
うお、こいつは圧倒される。
教会内に響き渡る重厚で優美な音色。
幾重にも重なる倍音の波がどんどん大きくなりながら押し寄せる。
パイプオルガンの音って神秘的だ。
そしてそんな神聖な中でも端っこの席でぺちゃくちゃ喋って笑ってる女の子。
これもまたどこにでもある風景。
うねる音波に心地よく身をまかせているとパッと音が途切れた。
演奏が終わると、観客はみな立ち上がって奏者を拍手で讃え、みなそれぞれの家路につく。
俺もその人たちに紛れて教会を後にした。
タンペレの町は22時にもなると人影もまばらになってくる。
ヘルシンキはやっぱり都会だったんだな。
雨が降ってきたので近くのマクドナルドに避難。
真夜中のマクドナルドでは
言葉の通じない人たちが
笑ったり眠ったりしている
僕は孤独の隙間を見つけては
窓の外の雨を眺めている
色んな人が話しかけては去っていく
色んな人が話しかけては去っていく
私は愛を信じている
色んな人が話しかけては去っていく