7月13日 金曜日
えーっと、うどんが食べたいなー
あ、ここサンクトペテルブルクだった。
うどんが食べられないという衝撃の事実に改めて驚く。
あー、あと一年以上うどん食べらんないんだよな。
焼肉食べたい。
小雨の中、歩き始めた。
駅に向かう途中、タバコを10箱買った。
300ルーブル。
750円くらい。
安い。
北欧はタバコ高いらしいからな。
雨の中、列車が動く。
これからフィンランドに入る。
ロシアではホテルと列車のチケットを買っていたので時間通りに動けば先に進めていたけど、これからはもう何もない。
宿も、行くあても、もちろん友達も。
金も、情報も、なんにもない。
ヘルシンキに着いたらすぐに路上をやって、友達を作り、そこから広げていく。
そんなアバウトなプラン。
でもロシアでの感じでいけるのならば、結構なんとかなりそうな気もする。
毎日が綱渡り。日本一周なんて比べ物にならないほどの綱渡り。
不安で押しつぶされそうだ。
そんなことを考えていると、車両の中を屈強な男性が歩いてきた。パスポートのチェックだ。
ここからフィンランドになるんだな。
ドキドキしながら俺の番になりパスポートを渡す。
目的は何だ?
どこに泊まるんだ?
金はあるのか?
突っ込まないでくれ。
ハラハラが止まらない(´Д` )
ルーペでパスポートを細かく調べている巨人。
腰には手錠と警棒とピストル。
多分、偽造じゃないと……思います……
………
巨人
「Have a good trip」
何事もなくスタンプが捺され、パスポートが戻ってきた。
そしてフィンランドの首都、ヘルシンキに到着。
列車を降りて駅舎に入る。
そこでは人々が自由に歩いている。
あれ?
入国審査は?
荷物のモニターチェックとかは?
出入国カードの記入は?
あれ?いいの?ってな具合でそこはもうEUだった。
さよならロシア!!
はじめましてヨーロッパ!!
よーし、歌うぞー!!
ってその前にまずは換金だな。
バンク的な窓口で、ルーブルをユーロに換金する。
しかし!なんと!てかやっぱりかぁー。
硬貨の換金が出来ない!
紙幣しか受け付けてないのだ。
できるってな情報聞いてたんだけどなぁ。
コインが200ルーブルくらいあるよー。もったいない!もうロシアに行くつもりもないので、この時点でルーブルはただの鉄くれに。
タバコ結構買えてたなぁ。
仕方なく紙幣を換金し、手に入ったのは24ユーロ。
1ユーロが120円くらいになるのかな。
やっとルーブルの数え方にも慣れてきたところだったのに、もう違うお金に変わってしまった。
まぁしばらくはユーロでやっていくことになるだろう。
よし!歌うぞ!!
ってその前にちょっと街の散策。
さすがに都会!!
そしてロシアのようにゴミゴミしてないし、建物も新しく綺麗だ。
文明国って感じ。
地図もなく、ただ歩き回っていると、美しい港に出た。帆船が並ぶ岸壁になにやらたくさんの人が群がっている。
どうやらそこは市場のようで、たくさんの屋台で新鮮そうな野菜や果物が山盛りになって売られている。
テレビでしか見たことのない外国の屋台。賑やかな人波。
飛び交うウミネコの鳴き声。
魔女の宅急便!!
古めかしい大きな教会に目を奪われながら石造りの街を歩いていたら、ものすごいの発見!!
すごいとしか言いようがない!!
青空に延びるかのような高い階段の上に、眩しいほどの白亜の教会。
なんだこれーーーー!!!!!
ちょっ、これなんなの?
誰か教えてくれ!!
たくさんの人々が階段に座り、その上をウミネコたちがゆうゆうと飛び回っている。
人間はなんてもの造るんだ。
その美しさの一部になりたくてしばらく俺も階段に座って街を眺めていた。
よし!そろそろ歌うぞ!!
ってその前に、
いや、その前にはもういいから。いい加減ビビってないでやらないと。
だって怖いんだもん!
ちょっと国境越えただけでロシア人と明らかに人種が違う。
ロシアでは見なかった黒人さんもたくさんいるし、白人でも骨格がどこか違う。
ファッションも奇抜で、みな垢抜けている。
怖い。怖い!
でもやらないと!!
駅の周りをウロウロしてみると、他にも路上パフォーマンスをしてる人がいる。
アコーディオン弾き、なんか知らんアフリカの木琴みたいなの叩いてる黒人、ギターの弾き語りをしてるヒッピーっぽいおっさんもいる。
みんな、それなりって感じだな。
なんかテキトーに流してる感じ。
やるしかない!!
ヨーロッパ初路上!!
コジキのばあさんの縄張りでギターを鳴らす。
迷惑そうに場所を変えるばあさん。
だっていいポジションにはたいがいコジキがいるんだもん。
ビビりながらもなんとか歌い続ける。
うん、なかなか厳しい。
さすがヨーロッパ。みんな上品。
ここに比べるとロシア人って人懐こかったんだなぁ。
そんな中、近くの屋台の女の子が果物を差し入れてくれた。イチゴみたいなやつとサクランボみたいなやつとエンドウ豆みたいなやつ。
ありがとうー!!
見ていたら、子供が屋台の横を通る時、山盛りになってる果物をパッとくすねたりしている。
微笑ましい光景。
東京から観光に来てる日本人のご夫婦からもホテルのアメニティグッズをもらったりなんかして、少しずつだけどお金も入り、全部で29ユーロになった。
3時間で3500円てとこか。まぁまぁだな。
そこに1人のおっさんが話しかけてきた。
フィンランドでは英語が通じる。
まぁ俺の英語力が低すぎてまだ全然スムーズな会話とはいかないが。
俺が寝るとこないんだよと言うと、そのおっさん、なんとウチに来いという。空いてる部屋があるからそこで寝ていいよ、金なんていらないからって。
やったーー!!!
これを待ってました!!
急いで荷物を片づける。
そしておじさんに着いて歩く。
よかったー。
フィンランドに入っていきなりめちゃ寒くなったからこのままじゃヤバいなぁって思ってたんだよな。
足の悪いおじさん。
かなり辛そうに歩いている。
気づかいながら一緒に歩く。
タクシー乗り場、え?タクシーで行くの?
あ、こっち?
あー、電車で行くのね。
うんうん、地下鉄ね。
え?こっち?
地上に出てきた。
このおっさん、もしかして………
おじさん、どこにむかってるの?って聞くと、こっちこっちって言いながら広場のベンチに戻ってきた。
ふー、と腰掛けるおじさん。
なんかわけのわからんことを言ってる。
こいつ、小綺麗な格好してやがるけどホームレスだな。
文武
「おじさん。どこに行くの?」
おじさん
「アー、アー、I dont know」
何がアイドンノーだコノヤロウ!!
ほったらかしてさっさとベンチを立った。
駅の周りを歩く。
21時を過ぎると、街はまだ明るいけれど夜の雰囲気に変わり始める。
危なそうな若者とナンパ目的の軽そうな女の子たちがたむろし始める。
上品な雰囲気だった街がガラリと危険な空気に変わった。
怯えながら駅を後する。
レストランやバーが並ぶ中心地を抜け、ひと気のない静かな方に向かって歩き続けると、暗くなり始めた空に大きな教会が現れた。
そそりたつ壁のへこみに座る。
寒い。寒すぎる。
手足がかじかむ。
そうだ、とバッグパックの一番下に入ってる寝袋を引きずり出した。
うおー、久しぶりの寝袋。めちゃあったかいやん。
ケータイの電池がなくなってきたので蓄電池で充電する。
これからはこの電池も充電できる場所を探していかないといけない。
真夜中なのに空の色は深い青から変わらない。きっと完全な黒にはならないんだろう。
寂しい。
寂しくて体を縮こませる。
石造りの教会はこんなにも冷たい。
向こうで聞こえる足音に怯える。
明日は何があるだろう。
夜よ、早く明けてくれ。
ウミネコの鳴き声が街にこだましている。
ここで今日は終わりだと思っていたんだが。
ヘイ、
ヘイ、
は!っと目を覚ます。
ウトウトしていたみたいだ。
声の主は見回りの警備員さん。
ここで寝てはいけないという。
勘弁してくれよ。
荷物をまとめ、また夜の街を歩いた。
しかしこの徘徊がよかった。
夜中の1時。
夜が1番深い時間帯なのに空は青いまま。
石畳に夜がうつる。
港のほうにある古い教会に向った。
街灯が街を照らし、海に揺れている。
その向こうに古城のような教会。
おいおい、月が出てるよ。なんだこの劇は?
丘の上から街を見渡した。
風が冷たい。
見たこともない色をした水平線。
まさに渇望したおおいなる冒険の真っ只中だ。