目が覚めると誰もいなかった。
静かな家の中。
いつもの部屋の中。
漫画が並ぶ棚。
シールだらけの勉強机。
一階に降りて荷物をまとめる。
雨は相変わらず降っているが、連日の大雨ほどではない。
これならなんとかヒッチハイクできるだろう。
ゆうべは家族でスキヤキを食べた。
旅に出るときと帰って来たときはいつもスキヤキ。
ロールプレイングゲームの好物のとこもスキヤキ。
またナイスタイミングで父の日の贈り物で東京の兄貴から松阪牛が届いたので美味しくいただいた。
ありがとう兄貴。
旅をしていると、必ず、かなりの頻度で聞かれる質問がある。
「なんで旅するの?」
俺はいつもこの質問にうまく答えられない。
みんな納得する答えを欲しがっている。詰問的に「なんで?」と覆いかぶせてくる。
というかなんでそんなこと聞くのか逆に聞きたくなる。
知らない場所に行きたい。
知らないものを見たい。
色んな経験をしてみたい。
こんなに広い世界なのに、ほんの少しのことしか知らないままに死んでいくなんてもったいない。
今ならはっきり言える。
だから行く。
ただそれだけ。
ひとしきり準備を終えてリビングに行くと、テーブルの上に何かを見つけた。
お金だ。
メモ書きがある。
「大切に使いなさい」
メモ書きの下には3万円。
泣きそうになるのをこらえる。
あんなにかたくなに反対していたお母さんが出勤前に置いて行ってくれたんだ。
ありがとうお母さん。
本当にありがとう。
その3万円には手をつけず、バッグとギターを持ち上げて玄関を開けた。
怖い。
今までの出発なんて比じゃないくらい怖い。
でも、たくさんの友達、お世話になってるみんな、今まで路上やライブハウスで歌を聴いてくれた人たちの言葉がひるむ背中を押してくれる。
がんばれ。
行くぞ。
2012年、6月25日、月曜日
世界一周、出発。