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熊本スタートと天草での夜








2006年12月13日 【熊本県】




九州山脈の名峰、阿蘇山の高原は一面黄金色のすすきに覆われて……………いるのだが霧で何ひとつ見えず。


この辺りになってくるともう宮崎にいた頃のテリトリー内だ。

車の免許とりたてのころなんかよく友達たちとドライブに来たもんだったと、懐かしさに胸をしめつけられつつ小国郷に到着した。





熊本は温泉天国。

これでもかってくらい県山間部に無数の温泉が湧いている。


その中でも特に密集しているのがこの小国郷。

黒川、小田、田の原、丘の湯、はげの湯、杖立……………とまぁ全国的に有名どころの温泉街がひしめきあっている。


しかし鄙びた、という雰囲気はなんとなく感じられない。


確かに山の中の緑豊かな川沿いであったり、高原の見晴らしのいいロケーションだったりと、魅かれるには魅かれるが、どこもあまりにも有名でブランド化されているためどうも足が止まらないな。


都会のOLが好きそうな小じゃれた温泉地ってイメージだ。





そんな中でどこに入るかなんだが、とりあえずやっぱり人気ナンバーワンの黒川温泉にしといた。

国道から温泉街の中に入っていく。


うん、意外になかなかいい雰囲気やん。

共同浴場もあるし。




黒川温泉では旅館同士が手を組んで露天めぐりというのをやっており、24軒の旅館で立ち寄り湯を楽しむことが出来る。

どこも1ヶ所500円なんだが、1200円の手形を買えば3ヶ所に入ることが出来るというものだ。


俺は1ヶ所だけ行くことにして旅館『こうの湯』へ。





平日の昼だということでちょうど誰もおらずのんびりくつろぐことができた。


やっぱり冬の露天はいい。


他には『南城園』、『ふもと旅館』、『いこい旅館』なんかが趣向が凝らしてあってオススメかな。


どこも黒川ブランドに恥じない造りの露店風呂で、贅沢な気分を味わえるはず。










さっぱりしたら小国から南下していく。








霧の草原を抜けると、阿蘇周辺の平野部に出てくる。

しゃぶしゃぶ鍋のように真ん中に阿蘇、麓に平野、さらに回りに高原がせりあがっているという何ともダイナミックな地形。


阿蘇の展望はこの高原部分にある大観望からがおすすめだが、やっぱり霧でなんも見えんぞー!!










阿蘇山にも内牧、火の鳥、赤水、地獄、とまぁたくさんの温泉があるが、それはもういいとして先を急ぐ。


湧水の宝庫でもある阿蘇の代表的な水源地、白水水源地で清らかな湧水で喉を潤し、また山に登る。








くそ、ファントム号、上り坂だとマジで今にも止まってしまいそうだ。

ブウンブウン!!といううなり声ばっかりで全然力がない。


そんなファントム号の窓の外には伸びやかな草原の海……………のはずだが、もちろん霧の向こう。




中岳の火口まで登ると本当はモクモクと噴煙を上げる噴火口を覗くことができるのだが、この調子じゃ今日はなんにも見えんだろう。


道路有料だしな。

とっとと山を降りた。








熊本市内に入ってきた。


福岡に次ぐ大都会、熊本市。


とりあえず腹ごしらえに有名な熊本ラーメンの代表『こむらさき本店』へ。


うーん、普通。



もう金がない。

エンジンオイルはいい加減換えないとかなりヤバイところまできているし、昨日の罰金も払わないといけない。


都会の熊本ではおそらく稼げない。


確実に稼ぐために今夜はちょっと下った八代の町で歌うとしよう。






というわけで車を走らせ、八代の飲み屋街に着いた。


忘年会シーズンの今ごろは平日でもかなりの人出だ。

気合いを入れて飲み屋街のアーケードの中で歌う。




でも……………




ヤベェ、全然立ち止まらない……………

嘘だろ?

なんで?


まったくもって手応えゼロ。


この人出とこの飲み屋街の雰囲気でなんでこんなに反応がないんだ?




結局1300円という久しぶりの惨敗。

目の前のお花屋さんのおばちゃんがくれた薔薇一輪がさらに空しさをひきたてる。


うぅ、やっぱ九州は厳しいなぁ。





宮崎が目前にせまり、4年4ヵ月の集大成となる到着ライブが控えているこのごろ、俺は少しは上手くなったのか?と猜疑心に襲われる時がある。


人生経験からにじみ出る人間のオーラ。

それが多少は深くなったことは感じる。


でもそれでもやはり不安になる。

一体俺はどうしたいんだろう?




もうすぐゴール。

俺はどこに行って何をすべきなのか。


その答えはいつまでたってもみつからず、


より遠くなった気がしてならない。








翌日。




天草四郎時貞は16歳にして島原のキリシタンを先導して島原の乱の指揮を執り、原城に散った不思議な男。


彼のルーツを探るべく天草へ向かう。




熊本市から海へ走り橋を渡ると、そこは天草上島。

さらに走って天草下島へ入る。


結構大きな島で、天草市の町、本渡はなかなかひらけている。



町を抜け、湾沿いの妙見浦をのぞみつつ、まずやってきたのは大江天主堂。



小高い丘の上にある真っ白な教会で祈りを捧げ、すぐ近くにあるルルドの聖母像へ。


ルルドとは実在するフランスの小さな村で、その昔ある少女が洞窟にて出現した聖母マリアの言葉を聞く。

その言葉通りに穴を掘ると水が湧き、噂を聞きつけた人がその水を飲んだところ病気がたちまち治ったそうな。


その後も数々の奇跡的な回復例が続き、現在も世界中から訪れる信者が絶えないという。




目隠しをした人に暑い部屋で鉄の焼ける音を聞かせ、その上で鉛筆を腕に押しつけると肌が火傷を起こすらしい。


それほど肉体は精神に支配されている。

この水はマリア様の慈愛の聖水、神の水だと心の底から信じきって飲めば、確かに奇跡的な効果が起こっても不思議じゃないと思う。


宗教とはそういうもんだと思う。




フランスの小さな村か…………

どんなとこなんだろうな。








しんしんと雨が降り続ける中、次に津崎の天主堂へ。




どこにでもある小さな漁村の中、古めかしい民家が並ぶ露地を歩いていると、瓦屋根の向こうに教会の塔が見えた。


近くまで行ってみると、地元のおっちゃんたちがカッパ姿でクリスマスの装飾を飾り付けている。


こんないかつい漁師丸出しのおじさんがクリスマス?




入り江になっている湾を見渡せる丘に登ると、のどかな、いかにも日本的な原風景の中に建っている教会の姿。


クリスマスを祝うイカつい漁師さん。


この神仏の国日本でなんて違和感のある光景なんだろう。

しかし長崎ではごくごく自然な風景なのだ。


こんな小さな集落にもキリストの光は届いているんだな。







天草コレジヨ館では、日本人として始めてヨーロッパを旅した4人の少年使節団の道程を、映像で見ることが出来る。

当時14歳の彼らが8年もの歳月を費やして命がけの大航海を乗り越え、ローマ法王に謁見している。


あー…………なんてロマンに溢れてるんだ。


俺も行きてぇ……………






ガソリンぎりぎりで本渡の町に戻ってきた。

相変わらず雨は止まない。

所持金250円。


歌わんとマジで天草から出られない。


気合い!!とはいっても天草の飲み屋街は狭い。

アーケードがあるのが唯一の救いだが、悲しいくらい人がいない。


静まり返ったアーケードに歌声が響く。






しばらくすると目の前にあったスナックのドアが開いた。



「お兄ちゃん!!ちょっと今日誕生日のお客さんいるから歌ってくれっちゃ!!」


よっしゃ!!

スナック『ピアス』で社長さんたちに5曲歌うといきなり1万円が飛び出した。


やべえええええ!!!


1万ってなんて大金なんだろう………………


長尾建設の社長さんをはじめみなさん、ほんとに助かりました!!






それからも外で歌っていたが猫くらいしか通らないので、そろそろやめようかと片付けているところに板前姿のおじさんがやってきた。



「兄ちゃん飯食ったか?」



「昨日の夜からなにも。」



「よし、来い。」



寿司・割烹『高良寿司』の大将、平野さんと、看板を消した店内で焼酎を飲んだ。


カンパチの刺身、とん汁、おでん、泣きそうなくらいうまい。








「若いもんは頑張らんといかん!!わしゃがいな夢持っちょる若いもんが大好きやけん!!」



そんなふうにふけていく天草の夜。


雨はもうやんだはずだ。



リアルタイムの双子との日常はこちら





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