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尾道探検と毒ガスの島へ








2006年11月11日 【広島県】





ハナ金の夜に歌えなくて思いっきりフテ寝して10時に目を覚ますとまだ雨が降っていた。


おいおい、今夜も雨じゃねぇだろうな。


とにかくまずは尾道巡りに出発だ。






瀬戸内海に面した山すそに建物が密集する尾道。


泳いで行けそうなほどすぐ目の前に向島、因島があり、海峡を船が行き交っている。


ここから四国に通じる橋、しまなみ街道がいくつもの島を経由しながら伸びている。


岸壁からすぐに山になっているために、町のほとんどが傾斜地に建っており、たくさんの社寺が点在するなんともレトロな町だ。










民家の軒下を通るような細い路地裏の階段を上がっていく。


この尾道にはこうした細い生活路地が傾斜地の中を何本も通っている。


少し上がると蔦に覆われた今にも崩れ落ちそうなボロボロのお城に到着。









息を切らしながら振りかえると、大きな向島との間に流れる瀬戸内海がまるで川のようだ。





何隻ものポンポン船が休むことなく行き交うのんびりとした風景を眺めていると、どこからともなく現れた野良猫が足に擦り寄ってきた。


猫の喉をなでながら座った。

のどかだなぁ。






806年の開基といわれる尾道を代表するお寺、千光寺にやってきた。


町を見下ろす山の中腹にあるため、本堂から素晴らしい眺めを堪能しながら参拝することができる。





瀬戸内海が見たい!!という人はここからの眺望は絶対にはずせないな。




いいところだなぁ、と心おだやかに階段を下っていると、なにやら下から1匹の柴犬がテクテクと上がってきた。


ん?野良かな。



あっ!!

まさか!!


ドビンちゃん!!





そう、このノスタルジックな田舎町、尾道には、地元の人がみんなで面倒を見ている町の案内犬として人気のドビンちゃんという犬がいるのだ。


この千光寺付近から中心部のアーケードまで、いつも自由にスタスタ見回りをしているドビンちゃん。


遭遇できるなんて超ラッキー!!


手を差し出すとクンクン臭いをかいでまたスタスタと境内のほうに歩いていった。


かわいい!!


その後ろを何人かのカメラを持った観光客たちが追いかけていく。


町の人気者だな。








町中に降りていくと、いたるところに古民家を利用したアーティスティックなカフェやギャラリーがある。


このゆったりとした路地裏の町は、なるほど創作に適していると思う。



中央のレトロなアーケードを歩き、新開にやってくると、こいつは確かに迷路だ。


細い路地がいくつもあみだくじのように入り組んでいて、無数のネオン看板が空をさえぎっている。


うー、いい飲み屋街と出会うとムズムズしてくる。


今日こそ歌うぞー。








尾道ラーメンといえば全国的にも有名で、その名をかかげたチェーン店もよく見かける。


本場の味を堪能するべく向かったのは、『宇宙一おいしいラーメン』の看板で地元の人から愛されている店『フレンド』。





が、残念ながらかけこみですでに今日の分が売り切れ。



タクシーの運ちゃんに聞き、オススメという『つたふじ』へ。


おー、さすがに行列。






20分ほど待ってカウンターだけの狭い店内へ。


背油たっぷりの醤油味。


これが尾道ラーメンか。








んー…………………





うまい!!

大好きだこの味!!









今日はまだまだ動くぞー。


紅葉の名所として名高いお寺が近くにあるようだ。


車のエンジンをかけ、少し走ったところにある三原の町から山に登り、一気に谷に下っていった鬱蒼とした森の中にある仏通寺にやってきた。



「うお………………すげすぎる………………」



臨済宗14本山の1つで、全国有数の禅寺として名を馳せるこの寺。


いくつもの風格あるお堂も立派なものだが、それよりもこの紅葉!!









参道からすでにもみじの万華鏡の中にいるようだ。


300円払って本堂につながる木造の橋を渡るのだが、もう鮮やかすぎて目がくらむ!!






「今年はだいぶ人少ないですねー。いつもなら三原の町から3時間はかかるんですよ。」



とおっしゃるお坊さん。


この紅葉シーズン。


毎年すごい渋滞になるらしいが、今日は雨の影響もあってか、わずか30分ほどでスイスイ来れた。










多宝塔のある丘にも登ってみたのだが、こちらはまだ葉っぱは緑のまま。


例年ならば今ごろは3センチものイチョウのまっ黄色な絨毯が出来あがっているそう。


ちょっと早かったのかもしれないが充分すぎるほどの美しさに出会えた。


紅葉のきれいな寺はいくつもあるが、ここは全国屈指だ。


いやー、ほんとすごいわ、ここ。


















近くの昇雲の滝を見てから尾道市内へ戻ってきた。


雨は降っていない。









よーし、今日は歌うぞーと駅裏に車を止め歩いていると、路地裏の暗がりにあわい灯りが見えた。



ん?

なんかのお店かな。



どうやらそこは『Andy』というジャズ喫茶のようだ。


お、タイミング良く今夜はライブって張り紙してあるな。


思わずドアを開けた。






15人も入ればいっぱいの小さな店内に、おじさんとおばさんがギュウギュウに座っている。


奥のステージでは3人組のフォークデュオが歌っていた。

ソルティードッグスというグループらしい。



「みなさん、今日は同窓会みたいなもんですねー。」



MCもすごく和やかなムード。

いいライヴだ。


とりあえずビールを頼んで、カウンターで隣に座っていたお兄さんに話しかけてみた。



「へー、旅してるんだ。俺もフラットマンドリンやってるんだよ。」



「そうなんですかー。そういえば4年前に福山の『ハイダウエイ』ってライブハウスですごいうまいマンドリン奏者いたなー。」



「え?それ俺じゃない?」



「え!?たしかグラミー賞とった外国人さんのツアーで今プレイしてるって言ってた方ですけど……………」



「あー、俺だわそれ。」



「あの時ぼく歌ったんですよ!!そしたらそのマンドリンの方が『九州から来たお兄さんのいい曲でしたね』って言ってくれたんですよ!」



「アーーーー!!!!思いだした!!すごい歌うまい兄さんだ!!あれからずっと旅してたんだ!!」



マジか!!!


超奇跡的な再会を果たしたのは、日本を代表するといっても過言ではないフラットマンドリンプレイヤーのまえどりんさん!!!


4年前の年末、岡山の婆ちゃんちにいる時に兄貴と一緒にふらっと顔を出して飛び入りさせてもらったあのライブハウスで会っていた人!!!


すげぇ!!!


とても優しい方で、俺のことをマスターに話してくれて、ソルティードッグスの後のセッションタイムに飛び入りをさせていただけることに。



うん!!!

プレッシャーでしかない!!!



うぅ………………4年前から少しは成長できているだろうか。


ステージに立ってギターを構えるとみんなの視線がめっちゃ重圧なんですけど……………


ええええい!!!

やったるぞ!!!!





頑張って歌うと気合いは伝わったようで、広島市内のライブハウスを紹介してもらったりした。


マスターも今後ちゃんとライブ企画するよとも言ってくれた。






話は盛りあがり、みんな帰って行った後でもまえどりんさんとマスターと喋りつづけた。


路上には結局行かなかったがこの奇跡の再会はとても金では買えないものだ。


あー、不思議な夜だ。


ゆうべ雨に降られなきゃ今ごろ呉あたりまで行っていただろう。


すべてがこの『Andy』につながっていたんだな。




時間を超え、距離を超えた出会い。


あれから随分遠くまで行ったよな。


ホントに色んなところに行ってきたよ。








翌日。









尾道ラーメンで1番有名で、1番行列の長い店、朱華園はお昼の11時にオープンする。


今日は日曜日。

開店したとたんすごい行列ができるらしい。


早目に行かないとということで、11時の開店と同時に到着。


よし、スッと入れたぞ。




尾道ラーメンのお店は数多くあるけど、Andyのマスターはここでしか食べないらしい。


しかも開店すぐの早い時間だけ。


これが14時、15時とかになるとスープがごてっと煮つまってくるらしい。




そうしてラーメン到着。






うーん、やっぱ尾道ラーメンはちょっとしつこいな。


油の甘みがきつい。


でもうまい。

満腹で尾道出発だ。











瀬戸内海沿いに走り、忠海港に到着。


次の目的地は島だ。


ここから出ているフェリーに乗って、往復420円で瀬戸内の米粒のような小島、大久野島に向かう。


ここは俺のような廃墟好きにはたまらない、ある秘密がある島なのだ。







わずか12分で島に着き、何もないさびしい桟橋に降り立った。


この大久野島は戦時中、地図上から抹消されていた秘密の島。


それはなぜか。


信じられないことだが、世にも恐ろしい殺戮兵器、毒ガスを精製していた工場のあった島だという。


島中に砲台跡や武器庫、弾薬庫、などが手付かずのまま残され、ひっそりと時を超えて現代にいたっている。











南部砲台跡を見てから、毒ガス資料館へ。


ここでは島のことをかなり詳しく勉強することができる。


まじでバイオハザード状態。


タコと呼ばれる完全防護の宇宙服みたいな作業着で、タンクを覗く人の写真なんかが展示してある。


しかしどんなに防護しても隙間から毒素が入りこんできて、皮膚をただれさせるだけでなく、体中の機能に障害をもたらし、作業員のほとんどが死んだという。


雨の日には毒素により島中にもやがかかり、何も見えなくなってしまうほどの死の島だったそう。


何の説明もされないまま作業をしていた人々のほとんどが死に、もしくは生き残ってもみな障害をかかえた。



無差別殺人兵器の毒ガスを、孤島の研究所でもくもくと造り続ける姿は同じ人間には見えない。


外人を殺すことしか頭になかったのがわずか80年前のこと。


すげぇ……………なんてヘビーな島なんだ……………








休暇村と名づけられたテニスコートの横には、壁が真っ黒に焦げた毒ガス貯蔵庫の廃墟がある。





これは戦後、取り壊しが決定し毒素の消毒のために火炎放射器で焼いた跡だ。





北部砲台跡、中部砲台跡、そこから眺める陽光にきらめく瀬戸内海はどこまでもおだやかだ。


これはなんだよ……………ドイツとかの戦争映画か?


要砦と化していた名残をそのままに残している。


























島全体が工場で埋め尽くされていた時代に、島の電力をまかなっていた旧発電所は、森に同化するように蔦で覆われオドロオドロしく静まり返っている。


こっそり中に入ってみると、がらんどうとした冷たいコンクリートの壁。













鉄枠だけになった窓から光が差し込んでいる。


無数の落書きに埋もれた、入り口の『EXIT』の文字。


今の爺ちゃん婆ちゃんたちがここで働いていたんだよなぁ……………








沈んだ気持ちで帰りのフェリーに乗りこみ、島をあとにした。


すげすぎるよこの島。


世界で初めて原子爆弾が落とされたこの広島。


平和記念公園には今日もたくさんの人々が世界中から訪れ平和を祈っている。



被害者であるはずの広島。

しかしその広島にこんなにも恐ろしい戦争の遺跡が残っているなんて。


戦争ははるか昔のことなんかじゃない。


現在も当事者が生きているんだ。








沈んだ気持ちで車を走らせた。


日の沈む瀬戸内海を走り、竹原の町に入った。


竹原は安芸の小京都といわれる町並みの美しい地域で、夜の保存地区を歩く。



これまでたくさんの小京都を見てきたが、ここの町並みはなかなかのものだ。


造り酒屋、土蔵、商家屋敷、連子格子の通りがあみめのように入り組み、まるで迷路だ。


尾道にしてもそうだが、瀬戸内の町はとても風情がある。




全国的に有名な銘酒『竹鶴』の蔵元は見学不可なので町の酒販店へ。


純米を買って、地元の人オススメのお好み焼き屋『御幸』へ。


賑やかな店内でフレンドリーなおっちゃんに広島風お好み焼きの肉たまそばを注文。


うまい!!!


全国で一般的に焼かれているお好みは、ホットケーキのように1つの塊の中に具が全部入っているというものだが、広島風は生地、キャベツ、そば、肉、たまご、とすべての具を分けて何層にも重ね合わせて出てくる。


お皿にとるとボロボロに崩れるのだが、それがまたいい。


うーん、お好み焼きは広島風で決まりだな。





ちなみに竹原は俺の大好きなハマショーが幼少期を過ごした町。


誰に聞いても、あーハマショーはナニナニ高校だよ、と彼のことを知っている。


広島は他にも吉田拓郎、吉川晃司、奥田民夫、エーちゃん、ヒデキ、ポルノグラフィティー、と名だたるミュージシャンの出身地。


そのせいかやたらとライブハウスが多い。


地盤がしっかりしているんだな。


音楽が盛んな町は活気があるもんだ。









呉市の町に入り飲み屋街にやってきた。


んー、やはり日曜はきついな。


店はけっこうあるんだが、どこも閉まっていてピンサロの派手なネオンがところどころ光っているくらいだ。



諦めて車に戻っていると無性にさみしい気分になって、美香に電話してみた。


珍しくまともに会話してくれる美香。



「世界に行きたいということで私をネックに感じてるなら気にすることなんて全然ないから。ていうか、私もう文武とどうかなるなんて考えてないんだから、ネックに感じてるほうが不自然だよ。」



気持ちがうすれていることは知っている。


しかしその言葉に、俺を心置きなく旅立たせたいという気遣いをどうしても感じてしまう。


そんな美香の気持ちを知りながらも、俺の世界を旅したいという気持ちはふくれあがるばかり。


宮崎にいれば、気の合う仲間、家族、行き付けのお店、大好きな海、そして美香に囲まれて、なんの不自由もない平穏な日々が送れる。


いずれやりたいと思っているライブバーも予定より早く実現するかもしれない。






周りの人は、世界に行くのはもうちょっと落ちついてからでもいいんじゃないか?


別に今すぐ行かなくても、という意見をくれる。


しかし映画はインターミッションで区切って分けて観るものではない。


四国のお遍路だって通しで回らなければ本当のありがたみや得がたい感動は手に入らない。


それによって何をなくすか。




なくしたことが過ちだったのか後悔するものなのか。


それはなくなってみないとわからない。


わからないから若さは悲しく、美しい。



「クリスマスイブには必ず帰るから。ご飯食べに行こう。」



「うん。」



電話切り、呉の町からぬけだした。



リアルタイムの双子との日常はこちら





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