8月26日 日曜日
屋根のないところで眠ると、夜露が見えない雨のように降り注ぎ、びしょ濡れになる。
でも朝になればいつも乾いているので気にはしないが。
しかし本物の雨が降ってしまえば逃げるしかない。
いきなりの土砂降りで飛び起きるが、慌ててしまって寝袋から出られない。
びしょ濡れになりながら猛ダッシュで荷物をまとめる。
岩を打つ大きな雨粒がどんどん激しさを増していく。
あー!!こんなときにオシッコ漏れそうーー!!
ずぶ濡れで立ちション。
ギターもトロールももう濡れまくっている。
あれ!!帽子がない!どこだ!!
あ!あんな岩の下に落ちてる!!
朝っぱらから濡れねずみで走り、やっとの思いでcoopの軒下までたどり着いた。
あー、こんなんで風邪が治るわけねぇ。肺炎になるぞ。
そういえば日曜日か。
スーパーマーケット休みか。
ご飯どうしよう。
きついー。
落ち着ける場所はどこにある。
しばらくするとスーパーマーケットが開いた。
スウェーデンのスーパーは日曜日も営業するんだ。
トイレで歯を磨き頭と顔を洗い、足も洗い、オープン前のカフェでケータイを勝手に充電。
やりたい放題。
昨日調べたところによると、安いフェリーは毎日、朝8時に出ているみたい。
なんとか今日歌って稼ぎ、明日の朝のフェリーに乗りたかったのだが、この雨ではとても無理そうだ。
ノルウェーでは余裕こいてしてなかったんだけど、ついに初めて、空きボトルの換金をしてみた。
昨日のビールのペットボトルをスーパーの入り口にある機械に投入する。
重さかバーコードを調べているのか、クルクルと中で回り、奥に消えた。
すると1クラウンと書かれたレシートが出てくる。これを買い物の時にレジに渡せば、差し引いてくれるわけだ。
金だけくれ、ってのはなんとなく出来ないよな。
今まではホームレスの稼ぐ手段ってイメージだったけれど、そうでもなく、車で乗りつけたファミリーが、空きボトルでパンパンになった袋を抱えてきて子供と一緒にポイポイ放り込んでる光景がたくさん見られた。
あれだけあったら100クラウンにはなるはず。
子供たちも慣れた手つきでもくもくと放りこんでる。
お菓子代になるんだろうな。
ゆうべと同じチキンを食べ終わったところで、少し雨足が弱まったので、中心部の方に行ってみた。
スーパーは開いているが、やっぱり商店街の小さいお店はどこも休み。港の広場も閑散としている。
やっぱり日曜はきついなぁ。
また雨が強くなり始めた。
ものすごい勢い。
建物の下に逃げ込む。寒い。
昼間なのにぶ厚い雨雲のせいで暗い空。
人はほとんどいない。
日曜日の上にこんな雨じゃ誰も歩かないよな。
ずっと雨を眺めていた。
雨が弱まってきたのを見計らって、フェリーターミナルに移動した。
もうバッテリーの充電がやばい。
ターミナルならコンセントがあるだろう。
フェリーターミナルの中にはたくさんの人たちがいた。
この港はゴットランド島行きだけではなく、他にもたくさんのフェリーが発着するみたいだ。
中にはフィンランドと表示したバスもいた。
待合所でコンセントを見つけ、充電していると、1人のアラビア男性が話しかけてきた。
なぜか話が盛り上がり、一緒にタバコを吸いに行ったりして仲良くなった。
ゴットランド島に住んでいるというアラブ人のイハさんは35歳。
閉ざされた国、日本の感覚ではあまりわからないけど、どの国にもたくさんの人種が普通に生活している。
そんな彼が、いい場所を教えてやる、とゴットランド島の町、ビスビューにある安宿を教えてくれた。
「20クラウンで泊まれるんだぜ。」
うっそだー!!信じられない!!
って表情丸出しにしていると、信じてないようだな、とニヤリ。
詳しく聞くと、教会が補助している施設らしく、家のない人たちを受け入れているような場所らしい。
それってマジで20クラウンなら俺永住してしまうぞ?
話の中で、それにしてもフェリー代300クラウンは高いよねと言うと、俺のは安いよ、とイハさん。
193クラウンらしい。
なんで!!
どうやら島に住んでる人は割引価格で乗れるらしいのだ。日本でもあるよな、そういうの。
あー、そういうことかと思っていると、何やら考えてるイハさん。
「よし、ちょっとチャレンジしてみよう。何か聞かれても必ずハイと答えるんだぜ。」
俺が切符売り場で話をしてやるからゴットランド島に住んでることにして割引切符を手に入れようと言う。
「え!そんな嘘つけないよ!」
「大丈夫、俺が話すから。もし聞かれたらイエスって言いなよ。ちゃんとフォローしてやるから。」
そして2人で切符売り場へ。
怖そうなおばさんとにこやかに話しているイハ。
もちろんスウェーデン語なのでわからない。
お、これは、いけるんじゃねえの?
おばさん
「Are you live in the Gotland?」
ききききき聞かれてしまった!!
イ、イ、イ、イ、イ、イハ、助けて(´Д` )
おばさん
「I tolking to you.」
文武
「あばばばばばばばばば、サムライ、ハラキリ、フジヤマ(´Д` )」
おばさん
「Hey, you live in the Gotland?」
文武
「No.」
あえなく終了。ごめん、イハ。
せっかく頑張ってくれたのに。俺嘘つけないよ。
肩を叩いてくれるイハ。
「仕方ないさ。俺もなんとか力になりたいんだけど、ごめんな。島に来たらうちに泊まりなよ。」
背が低くてゴツくって毛深いイハ。スマホとアイパッドを使いこなす最先端な優しい男。
彼のフェリーが来るまでずっとお互いの写真を見せあったりして話をしていた。
島で会おう!
さて、今夜こそ屋根のある寝床を見つけないと。
体の調子はなかなかいい。
この分だと明日には元気になってそうだ。
そして火曜日に島に渡るからとイハと約束しているので、なんとしても明日のうちに金を作らないといけない。
頼むから雨降らないでくれよ。
って言ってるそばから、また降り出した。
昼間に目をつけておいた団地の庭にある小屋に逃げこむ。
こんなとこで寝ていいのか?最近どんどん図々しくなってるな。
夕闇迫る小屋の中、ポテトチップスとパンを頬張る。胃袋につめこむ。空腹が癒えていく。力になるのがわかる。
俺は生きてるぞ。
臭かろうが、痩せこけようが、命の炎は燃えているぞ。