2005年12月11日 【関東後半】
………………もう昼前だぞ……………
いつになったら開放してくれるんだよ………………
ゆうべ太田で路上をして、歌い終わってからわんずほうむに顔を出したんだけど、そのまま飲み方が始まった。
アブノーマルジェネレーションのコーラスのミイさんがお店にいたので、マスターと3人でひたすら飲み続ける。
眠くて疲れて倒れそうになってきたところで外が明るくなってきた。
「げはあああ!!!飯食いに行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
夜から飲み始めてすでに朝の10時。
気が狂ったような顔になってるマスター。
ふらっと入った食堂でも大声出して暴れまくっており、昼飯を食いに来ている人たちや店員さんたちがものすごく迷惑そうな顔でこっちを見てる。
「マスター、帰りますよ!!」
「うひゃひゃひゃーーーー!!もうここで暮らすのおおおおおおお!!!!帰るところなんてないのおおおおおおお!!!」
叫びながら味噌汁をかきこんだ瞬間、ブバッ!!とむせて全部吐き出した。
テーブルの上めちゃくちゃ。
鼻から味噌汁出しながらビールを飲んでる。
イカれた人だとは思っていたがまさかここまでフリーマンとは……………
なんとかミイさんと2人でマスターを引きずり出してわんずほうむに戻ったころにはもう15時になっていた。
俺今夜ライブだぞ?
こんな酒癖悪い人初めてだ。
「ごめんね、金ちゃん、げはぁぁ!!」
「もう寝ます!!」
なんとか車の中で布団に潜り込んだものの、2時間しか寝られず、いつもの新島湯にお風呂に入ってから前橋のライブハウス『クールフール』へ向かった。
前橋の飲み屋街の中にある雑居ビルの2階。
そこにお店はあった。
ドアを開けると、すでに2組の演奏が終わっており、ちょうど前回のわんずほうむで観た今井洋一さんが始めるところだった。
手をのばせば演者さんに届くような最前列で観戦。
指の動き、汗、息遣い、表情、すべてが曲を作り上げている。
ほとばしる命の躍動感。
これこそ『ライブ』だ。
ビールとタバコの臭い。
かっこいいプレイが出るとお客さんから歓声が飛ぶ。
そしてこの日最後の出演は…………でた、アブノーマルジェネレーション。
「♪奥さぁぁぁーん……………あんたのバキュームフ◯◯最高だったよおおおおおお!!」
「♪君の彼氏いい………………最近見ないだろおおお……………ひゃひゃああああ……………見ないだろーうひゃひゃあああ………………だってその彼氏僕の家の冷蔵庫の中さぁぁぁぁああああーー!!!ひゃーーーーーハハハはは!!!」
こんな感じのイカれたブルースやファンクが繰り広げられていく。
客大爆笑。
しかもみんなめちゃくちゃ上手いからカッコイイ!!
ボーカルのタマキチさんのセンスやばいわあああ……………
カッコよすぎるライブを見て大満足し、みんなに挨拶してお店を出たのは夜中の1時ごろだった。
あー、俺もあんなバリバリのライブできるようになんないとなぁ。
まだこんなんじゃダメだ。
もっともっと音楽と向き合って深いところに入っていかないと。
今まで軽く上辺なでてただけだったんだなぁって思い知らされたよ。
関東は刺激まみれだ。
いいミュージシャンいっぱいいる。
本気の本気の人たちが。
俺絶対この短期間で腕を上げただろうな。
しかしそれから数日後。
そんな変な自信はコッパ微塵に打ち砕かれた。
この日も太田の町にやってきた。
ゆうべは前橋で歌って19000円。
飛行機代と結婚式のご祝儀と…………まだ結構足りないな。
今日は太田のわんずほうむでライブが入ってるんだけど、前橋のクールフールでもライブをやっている。
今日も勉強させてもらおうと太田の町に戻ってきた。
もう何度目だろう。
新島湯からわんずほうむのコース。
髪の乾かないうちに店のドアを開けると、たくさんの人たちで賑わっていた。
1組目のステージは高校教師2人のユニット『タペストリー』。
宇田多ヒカルを歌ったかと思うとミーアンドボビーマギー。
英語がうまいのは英語の先生だからかな。
ソウルフルな歌声だった。
2組目に俺。
新曲の『神社』を初披露。
まだまだ不安定だけど、これをノリノリでできるようになったらかっこいいだろうな。
3組目にアブノーマルジェネレーション。
メンバーがいつも変わるのはその日その日の共演者に参加してもらうから。
相変わらずボーカルのタマキチさんのMCは最高に面白いし、演奏もカッコ良すぎ。
全組見たかったが今日は前橋にも行く予定。
途中で抜け出しファントムを走らせた。
前橋クールフールのドアを開けると、小さな店内は一癖ありそうな人たちでガヤガヤと混雑していた。
今日も群馬、栃木、そして東京からバリバリ活動しているミュージシャンたちが集結している。
タバコの煙りが充満した店内に流れる、レコードのザリザリとした音楽がたまらなく渋い。
さぁ、ライブが始まった。
1組目『星さん』
小さな体で優しいギターの弾き語り。
心地よい冷たさのあるヴォーカルが印象的だった。
2組目『miti』
この人かっこよかったなー。
スマートな体つきに鋭い目、ミステリアスな雰囲気で嵐のようなストローク。
メロディアスなバラードもいい。
何より苦しそうな表情で歌うルパン三世は最高だったな。
やっぱりノセられる人はリズムがいい。
リズムの鉄骨がビシッと通ってるんだよな。
3組目『ablicapump』
トリはこの店のマスターがやってるバンド。
DJ、エレキギター、ベース、ドラムの4人という構成なんだけど、決まった曲をやるんじゃなくて、ただジャムセッションをやるスタイルらしい。
どこからともなく生まれるリズムにそれぞれかなりイカレた音をのせてくる。
誰が何を仕掛けてくるかわからない中、みんながギリギリの駆け引きをしている。
即興ならではの緊張感が客席に伝わり、ものすごいスリリングなエネルギーが店内に渦巻いている。
そんなジャムが1時間は続いたかな。
ノンストップの演奏が終わり、絶頂に達した開放感とともに店内も和やかなムードになった。
いやー、すごいもん見せてもらった。
こんな表現方法もあるんやな……………
その時、誰かが俺の肩を叩いた。
ん?
振り返るとそこにはこの前のわんずほうむのライブに来ていたお客さんだった。
だいぶ酔ってる。
「おー…………オメー今日はやらねーのか?……………マスター!!マスター!!こいつ歌わせてやってくれねーか?」
「え!!僕今日はいいですよ!!もういい感じで終わったとこなんですから!!」
「大丈夫大丈夫…………マースーター!!こいつすごいんだからー!!!!」
ど派手な演奏が終わりお腹いっぱいムードの店内。
こ、この雰囲気はやばい!!
こんな中で俺なんかが歌えるわけねぇ!!!
マスターも明らかに嫌がってるが、おじさんのあまりの強引さに歌うことになってしまった。
うおおおお……………こんな激ヤバな人ばっかり出てるゴリゴリのライブバーでやるなんて無理だよ……………
ギターを抱えてステージに立つ。
まずい……………
視線が痛い。
なんだこいつ?と品定めするようなみんなの冷たい目。
しかもほとんどプロ顔負けの実力者っていうかプロもいる。
逃げ出したくなるような空気にゲロ吐きそうだ。
mitiさんが優しくセッティングを手伝ってくれているのが唯一の救い。
ま、マジかよ………………
でもやるしかねぇ!!!!!
ここで逃げたらダメだ!!!!!!
もうどうにでもなれ!!!と気合で1曲!!!
……………まばらな拍手。
聞いてない人ばっかり。
みんなつまんなさそうにしてる。
ちょうど居合わせたドラマーのソルティーさんが見かねて入ってくれたのだが、俺のリズムが悪くてガタガタに。
何とか歌い終えたが、途中何組か帰っていくしマジでハリツケの刑だった。
はっきり言って晒し首。
こんな惨敗初めて。
路上で罵声かけられるのよりはるかにきつい。
聞く心構えのある人に伝えられないやりきれなさ。
だめだあああ……………
「今度きちんと飛び入りやってみるか?」
それでもそう言ってくれたクールマスター。
逃げたくなくて、やらせて下さいとは言ったものの、しばらく立ち直れそうにないくらいのダメージを負ってしまった。
朝焼けの空の端。
東京に向かう道を走っていく。
辛すぎて車内には音楽をかけず、呆然とハンドルを握る。
頭の中で流れるトム・ウェイツの『オール’55』。
高速のトラック、ヘッドライト、夜空に逃げ遅れた星がひとつ。
寝不足で顔がむくんでる。
今この瞬間も世界は動いてる。
はぁ…………俺頑張んねぇと。
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