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流氷見に行って地元の人にめっちゃ怒られる







リアルタイムの双子との日常はこちらから






2005年 2月28日 【富良野新プリバイト】




コンコン……………




コンコン…………





「…………おい……おい………………大丈夫かー…………!!」






………………………は、はっ!!





目が覚めるとスタンドのおじさんらしき人が車の窓を叩いていた。


よかった。

生きてる。



朝7時。

真っ青な冬晴れの空が、雪の白を眩いほどに輝かせていた。



何て気持ちのいい青空だ。


ファントムにガソリンを入れると元気にエンジン音をたててくれる。

よし、無駄に極寒の車中泊をすることになったけど、こっからスタートだ。










飯も食わずに帯広を駆け抜け、山を越えていくと、道の両側に茶色く枯れた背の低い草が目立ち始める。


これがあの有名なら釧路の湿原ってやつなのかなと思いながら丘を越えた時だった。



「海だ!!」



彼方に広がる青い海に、まだ昇りかけの太陽がキラキラと踊っている。


俺もユウキも数ヶ月ぶりの海だ。


車の中でかけているヴァンヘイレンのボリュームを上げ、かっ飛ばしていく。








北海道の田舎の海沿いはとても寂しげな風景だった。


民家がまばらに散らばり、さっきまでの湿原がどんどん広くなり、ところどころに立ち枯れの木々がある。


潮でボロボロに錆び付いた歩道橋や半壊した小屋が、荒涼とした果ての地という印象を与える。






ふと、そこら辺にあった小さな漁村の港に寄ってみた。








岩手の三陸でたくさん見たような寂れた港の風景は、山と海の国、日本の原風景だ。


バケットいっぱいのヒトデの山、船から降ろされる大量
の魚、特に目立ったのはタコと貝類。


農業もそうだけど、人間が日々口にするものを収穫している人々の姿というのはとても崇高なものがある。























しばらくすると信号が増えてきて、釧路の町に入ってきた。


うん、なかなかの都会。


そんな釧路の町中を通り過ぎ、湿原のあるほうに向かってハンドルを切る。




旅に出た当初、釧路湿原にあるというムツゴロウ王国に潜入する計画を立てていたのだが、なんと王国は今はもうなくなっているらしい。


悔しながりながら標茶方面に走り、脇道に入って坂を登っていく。


湿原を見渡す展望台はいくつかあるみたいだけど、俺が選んだのは細岡展望台っていうところ。






看板のところに車を止め、雪にズボズボ足をとられながら木々の間を進んでいく。


冷気が火照った体に気持ちいい。



そして視界が開けた。



「はんぱじゃねぇぇぇぇえええええええ!!!!」










果てしなく広がる湿原。

蛇行する釧路川。

白く染まった雄大な山並み。



すげすぎる…………空が広すぎる。


こんな景色をすぐに見られる時代に生まれたことを本当に嬉しく思うよ。











車に戻って、キョロキョロしながら湿原の中をゆっくり走った。


探しているのはもち丹頂鶴。


この湿原のどこかであの美しい舞を舞ってるはずだ。




当然だが丹頂鶴は教え込まれた芸であんな風に踊っているわけではない。


自然の中で子孫を残すための求愛として羽を広げるのだ。

自然のものが最も美しい。






が、残念ながら丹頂鶴の姿はどこにもなかった。


まぁそうだよな。

そう簡単には見られないか。


エゾシカは無限にいたけど。















湿原を抜け摩周の町に入った頃にはもう陽も傾き、青い空を焦がす太陽が山に隠れようとしていた。





道の駅で魚を干しているおじさんに話しかけて、このあたりのことを聞かせてもらった。


今の時期にしか獲れない氷下魚という魚に塩をまぶしているおじさん。


宮崎に何度か行ったことあるよーということで盛り上がり、かたわらにあった七輪でその魚を炙って食べさせてくれた。


ものすごく美味しかった。









道東観光で絶対外せないのが、屈斜路、摩周湖、阿寒湖の3つの湖。

いずれもカルデラ湖で、山の中に窪むように形成している。


マリモで有名な阿寒湖は距離的に厳しいのでパスするとして、陽のあるうちに摩周湖を目指した。



布施明の『霧の摩周湖』で有名なこの湖は、歌の通りほとんどが霧に覆われていてその湖面を見ることも難しいといわれている。



まぁ、どうせ見れんだろうと思いつつ、峠の頂上にあるレストハウスに車を止め展望台に登った。








もう言葉が出らんかった。





霧はまったく出てなく、湖を囲う断崖絶壁の隅々まで見渡せた。


凍りついた湖面、出来すぎた風景画みたいな山々が夕日でピンクに染まっている。



「日本にもこんな景色あるんや…………」



2人で立ち尽くして呆然と眺めた。


目の前の光景が合成じゃないかと錯覚するほどのスケール。


神々しさまで覚える、あまりにも荘厳な自然。


マジ震えたわ。








湖観光の拠点、川湯温泉はなかなかの大きさだった。


だがこの道東は無料露天のメッカ。


わざわざ金を払って入るほどの風情なら東北にはかなわない。


ようやく今日1食目のご飯を寂れた喫茶店ですませ、夜の屈斜路湖に向かう。







カルデラ湖としては世界で3番目という大きさのこの屈斜路湖。


東側の湖岸を走っているといくつもの24時間露天風呂が点在している。


夜空に広がる星屑。


冷え込む夜にだけ発生する霧が林に立ち込め、視界が悪いところにいきなり鹿が道路に飛び出してくるからかなり危ない。





無料露天風呂の中でも1番狙っていた『コタンの湯』の前に車を停めた。


湖岸に湯船だけが放置されてるだけのマジの野天風呂なんだけど、ここに朝起きてソッコーで飛び込んでやろうという計画だ。


今日もシートを倒して1枚の毛布にくるまる。




あああ、今夜はほんとに冷えこむぞ。


星が出れば放射冷却、霧が立ち込めれば−20℃を越える予兆だ。



「死ぬなよ。」



「おう、死ぬなよ。おやすみ。」



覚悟を決めてエンジンを切った。















翌朝。






さ、さ、さ、寒かった……………


当たり前だけど死ぬほど寒かった…………


エンジンを切って1時間ほどで凍えて目を覚まし、またエンジンをかけて暖めて、また切って…………を一晩中繰り返してほとんど眠れなかった。



いやぁ、真冬の北海道で車中泊はマジでオススメできんわ…………


誰もせんだろうけど…………







ほの明るくなった外を見ると、やはり霧でびっしりと樹氷が発生していた。


全てが真っ白く氷に包まれている。



ユウキと2人、気合いを入れていっせーの!!でドアを開け、ダッシュで水辺に走った。





さみいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!


ていうか痛えええええええええええええええ!!!!



針を突き刺すような痛みが皮膚を襲う!!!




目の前にある露天風呂まで行き、凍りついたスノコの上で猛スピードで丸裸になり、岩風呂に駆け込む!!


石の上を走ると足の裏に凍った石が張り付いてきて走りづらい!!


死ぬうううううう!!!と湯に飛び込むと、温度差で手足の端部にひびが入りそうだ。








はあああああああああああ……………


最高………………



起きてソッコーの極寒露天風呂。


これは夢か?


目の前に広がる凍りついた屈斜路湖は霧に煙っていて、その向こうから、ヒギャー!!ヒギャー!!と白鳥の鳴き声がする。


湯に頭まで浸かると、髪が一瞬にしてバキバキに凍りついた。


滴ろうとする水滴が毛先で固まって、まるで線香花火。



そろそろ上がろうかとお湯から出て急いで服を着ようとするが、服が脱ぎ捨てた形のままで固まっていてなかなか袖が通らない。


いやああ!!!耳がちぎれそう!






ほんとに凍え死にそうになりながらエンジンをかけて暖気!!!


ああああ…………暖房あったかいいいいい……………




寒いけど川霧が綺麗なのでカッコつけて写真撮っといた。

























しばらくすると朝日が昇ってきて、太陽の光で霧がかき消され、驚くほどに青い空が現れた。


輝く樹氷のトンネルを潜り抜けていく。






藻琴山を越える峠は奇怪な光景の連続で、立ち枯れの木々がとても怪しげな景観を作っている。


そんな峠を走っていると、視界が開けたところで山の中に広がる屈斜路を見下ろすことができた。



美しい湖、それを取り囲む山岳の雄々しい姿、朝日にもやがかかり優しく大地を照らす。


まるで風の谷のナウシカ。

この世のものとは思えない絶景に夢中でシャッターを切った。






深い雪に埋もれきった原野をとばすこと1時間。

とにかく移動時間が長い!!

でもその分、待ち構えているもののスケールがでかい。


道東の自然のスケール、マジですげぇ。





ようやく見えてきたのは今までの人生で見てきた太平洋や日本海ではくて、オホーツク海だ。



「流氷!!リュウヒョー!!」



やっとここまで来たぞーー!!と浮かれまくりながらウキウキで網走市内を目指してアクセルを踏み込む。


と、その時だった。



海岸沿いを走っていると、海の上にゴツゴツしたものが見えた。



ん?あんなところにテトラポッド…………?



なんであんな中途半端なところにあるんだ?





…………………






………え!!!





違う!!!

あれは氷だ!!!


ゴツゴツとした氷が波打ち際に打ち寄せられ固まっている!!!



「うおおおおおお!!!これかあああああああ!!!」





岸から100メートルはあっただろう。


氷が海の上に広がってる!!!


流氷の陸が出来てる!!



「ヒョッホー!!」





大興奮で車を止め、氷に飛び乗った。






が、迂闊なまねはしない。


中田のおじさんから厳しい注意を受けていたからだ。


薄い部分を踏んで氷を踏み抜いてしまうってだけでも大変なのに、ヘタすると氷が回転扉のようにクルリンとひっくり返って下に閉じ込められたりするんだそうだ。


それはさすがにヤバいので、慎重に走っていく。



うん、慎重なんだけど走っていく。



「ウヒョオオオオオオオオオオ!!!」



全然慎重じゃねぇ…………




ユウキはちゃんと中田さんの言いつけを守ってそろりそろりと薄青い部分を避けて歩いている。


タッタタッタと走っていき、流氷の端っこのあたりまでやってきて流氷すげーと思っていると、ユウキが後ろから叫んだ。



「文武ー!!揺れてるぞおおおおお!!!」



え?揺れてる?


どういうこと?



ふと、横を見てみると…………おいおい、グワングワン波打ってる!!!


氷が割れてて、それが波で揺れて浮き沈みしていた。


や、ヤベェ!!!



「こらあああああ!!!お前ら氷に乗るなああああああああああ!!!!」



小船の上で、木でできた水中メガネを持って漁をしていた地元のおじさんがこっちに向かって叫んでいる。


あー、俺らみたいなうかれぽんちが落っこって死んで町の人に迷惑かけるんだろうな。


おじさんすみませんでした。







いやぁ、流氷見られたなぁ、ここまで来た甲斐があったなぁと喜んでいたんだけど、しかしこんなもんはまだ序の口に過ぎなかった。



網走の町を抜け、半島の先っちょの能取岬にたどり着いた。


枯れ草が風になびき、曇ってきた空に灯台が寂しげに佇む。


かなりの強風に凍りつきそうになりながら端の手すりまでやって来て目に飛び込んできたもの。




「なんだこりゃ…………」




目を疑った。

見渡せる限りどこまでも全て氷。


動かない海。


ひび割れたり小山になったり平らだったり。



海が白黒のぽたぽた焼きみたいだ!!





沖縄ではエメラルドブルーと緑のサンゴ礁の海だった。


同じ日本でここまで変わるのか…………


とにかく、これで冬の北海道のメインのひとつだった流氷ミッションはクリアーだ!!!







あ、そうそう、せっかくここまで来たんだからやっぱりアレも見ておきたい。

アレと流氷はセットみたいなもん。



でもそう簡単には見られないよなぁ。


どこ行ったらいるんだろ。





ダイヤモンドダストが空気中を埋め尽くす中、ファントムは網走の駅に到着。


観光案内所でおばさんに尋ねてみた。



「すみません、クリオネってどこにいますか?やっぱ流氷の下にいるんですよね?そんな簡単に見られないですよね。いやぁ、さっき地元の漁師さんにめっちゃ怒られたんですけど、あのまま氷の隙間に落っこちてたら見れてたかもしんないですね!!なんつって!!」



「そこにいますよ。」



振り返ると、小さな水槽の中でバタバタ泳いでる5~6匹のクリオネ。


こんなとこおるんかい!!!







いやー、これほんと天使の姿だな。

こんな可愛いのが流氷の下にいるなんてめっちゃメルヘンチックだわ。


でもこいつら餌食うときは寄生獣みたいに頭がガパって割れてムシャムシャやるというとんでもないグロい奴らなんだそう。


ギャップすごすぎ。





とりあえずクリオネグミとクリオネチョコを中田さんたちのお土産に買った。





さ、富良野に戻るか。


満足だー!!





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