8月4日 土曜日
夜中に人の話し声で目を覚まして、寝袋の口を少し開けて外を覗いてみたら、すぐ真横で飲酒検問をやっていた。
ここは町外れのバス停。
眠れねぇ(´Д` )
通る車すべてを止めて呼気検査をしてる。
しばらくその様子を見ていたがいつのまにか眠っていた。
寝袋の中から色んなものを覗きこむ毎日。
さぁ今日からロフォーテン諸島、攻略開始!!ってこの日に限ってすっごい晴天ーーーーーー!!!!!
スカンジナビア半島の夏は、一ヶ月に3~4日しか晴れないといわれてるほど雨の多い土地なんだが、ほんとに俺はついてる。
なぜなら!今日の目標はここから70~80km先にあるバルスタッドの町でムンカンという山に登ることだからだ。
晴れていれば素晴らしい景色が望めるということだが、今日の快晴ならきっと最高の眺望が待っているはず!!
早速ヒッチハイク!!
わずか5台目でストップ。
調子よすぎるぞー!!
カナダからバイトでやってきてる兄さんに乗せてもらい、20kmほどゲット。
もう、景色がすごすぎるんですけど、ロフォーテン………
まるで悟空とフリーザが戦った後のナメック星みたいにボコボコのギザギザだ。
真っ青な空にそびえる荒々しい岩山。その下にはエメラルドグリーンの海。まばらに散らばる赤い家々にはノルウェーの国旗がはためいている。
そして10分も待たずに2台目ゲット。
優しそうなおばさん。
行く先は………私も観光だからバルスタッドまで乗せてってあげる。
なんでこんなに上手くいくんですか?
しかもこのおばちゃん、スィンニカおばちゃんも写真が趣味なので、ロケーションのいい場所があったらすぐに車を止めて撮影タイムを設けてくれる。
「ほら、あそこ、羊がいるわよ。メェェェェ~~~。」
そう言って羊の顔真似をしている。
小太りで陽気なスィンニカおばちゃんがすぐに大好きになった。
「私の今日の目的は絵の描かれた古い家なのよねー。でもどこにあるかわからないから人にたずねないといけないのよ。」
「えっ!!それってもしかして女の子の絵のやつですか!?」
「え?知ってるの?」
「僕も見たかったんです!!一緒に探しませんか?」
「もちろんよ。さぁ、じゃあまずは腹ごしらえね。」
ラッキーにもほどがある!
ロフォーテンに行くなら必ず見るべきと言われていた、
「絵の描かれた古い家」
無理なら別にとばしてもいっかなーって思ってたんだけど、こんな展開が待っているとは!!
ロフォーテンはその美しい自然と穏やかな田舎であることから、たくさんの芸術家が移り住み創作活動をしており、いたるところにギャラリーや美術館があるアートの拠点としても知られており、中でもその絵の描かれた古い家はとても素晴らしいものだという。
スウェーデンのおばちゃんと古い家を探す不思議な旅の始まり。
スパーがあったので、まずそこでご飯買いましょうと駐車場に車を止める。
えーっと、何買おうか………
あ!!!
「スィンニカ!!ルックルック!!」
「オー!アメイジング!!」
なんとスパーの道路向かいに目当ての、絵の描かれた古い家を発見!!
雑草が生い茂り、ガラスの割れた廃墟の家の壁に、見事な絵が描かれている!!
キノコを採ろうとしている少女の絵。
そのキノコはなんとも毒々しい色と形をしており、対して少女はモノクロで、しかもシルエットのみ。
その現代的で深みのある表現と、のどかな田舎の廃屋というミスマッチが不思議な空間を作り出していた。
すごい!
スィンニカおばちゃんと2人、夢中になってシャッターをきった。
スィンニカおばちゃんは俺の目的地であるバルスタッドの手前で方向転換し、違う道に行くはずだったのだが、急ぎでもないからと、バルスタッドへ向かってくれる。
すると、おいおい、なんかデカイ山が見えてきたんだけど、まさかあれじゃないよな?
あんなヤバそうな山なのか?ムンカンって。
バルスタッドの小さな港町に入り、その険しくそそり立った山のふもとにあるカフェへ。
スィンニカおばちゃんがお店のおばちゃんにムンカンの登り方を聞いてくれる。
どうやら、あのヤバそうな山の稜線つたいにある高い山がムンカンみたいだ。
時間は14時。
ちょっと厳しいかなぁ。
店のおばちゃん
「何言ってんの。45分もあれば頂上まで行けるよ。」
えっ!!うっそだー!!
店のおばちゃん
「行ける行ける!あんた若いんだから大丈夫よ!」
スィンニカおばちゃん
「やったじゃないフミ。荷物もここに置かせてもらえばいいじゃない。」
店のおばちゃん
「もちろんよ。問題ないわ。」
スィンニカおばちゃん
「今日会ったロフォーテンの女はいい人で良かったわね!アッハッハッハー!!」
カフェに荷物を置かせてもらい、スィンニカおばちゃんに車で登山口まで送ってもらう。
「いつか日本に写真撮りにいくから。」
ニコッと笑うおばちゃんとハグして別れた。
山を登りはじめてしばらくして振り返ると、素晴らしい景色の中でパンくずみたいに小さくなったスィンニカおばちゃんが手を振っていた。
大好きなスィンニカおばちゃん。
ありがとう。どうかお元気で。
1人、ひたすら登っていく。
毎日重い荷物を担いで歩いてるせいか、これくらいの急登、なんてことなく感じる。
しかしなかなか先に進めないのは10歩のぼるごとにため息の出るような美しい景色が足を止めさせるから。
さっきまでいたバルスタッドの町並み、その後ろに広がるロフォーテンのダイナミックな自然、はるかにかすんでいるのは内陸部のフィヨルドだ。
強く、凍りつくような風の吹き荒れる草原をひたすら歩き続け、ほんとに1時間くらいで頂上に来てしまった。
まぁ、たった450mくらいの山だけどね。
それでも広がる眺望は果てしなく美しい。
ひとしきり写真を撮ってから、タバコをふかしのんびり……といいたいところだが、服装がナメすぎてて凍え死ぬからさっさと山を降りた。
カフェに戻り、せっかくお世話になったしということで、ここで思い切ってみることにした。
海外に来て初めてのレストランでの食事!!
メニューは……
魚のスープ!
そう、ノルウェーといえば魚料理!
125クラウン!
た、高い………3回分の食費が飛んでしまう。
しかし、一度くらいはちゃんとレストランでその国の料理を食べておきたい。
というわけで出て来たのがこれ。
少ない……
けどゲロうまーーー!!!!
魚のエキスが効いた塩味のスープ。白身の魚もコクがあって美味しい。
そしてやっぱりパンが美味い。
ノルウェーはパンが美味い。
高かったけど満足!!
お世話になりましたと挨拶し、お店を後にし、田舎道を1人歩く。
あー、いい一日だったなあー、のんびり北へ向かっていると、先の方に止まっていた車のドライバーが声をかけてきた。
「どこまで行くの、乗せてってあげるよ。」
でた。
秘技、ヒッチしてないんだけどヒッチ成功
おじさんに明日向かう場所への分かれ道のとこにあるバス停まで乗せてもらう。
この場所ならおそらくすぐにつかまるはずだ。
最高の天気
最高のヒッチハイク
プラスアルファも含めての目標達成
こんなに上手く行っていいのか?
いやいや、気をひきしめないと。
いやいや、外国ってこんなもんなのかもよ?
人間ってだれもが深い優しさを持ってるのかもよ?
おそらくそうではないのだろうが、今のところ人間は素晴らしい。
はためく国旗の模様は違うが、ここも同じ地球の上だ。
よし!!明日はロフォーテン諸島の先っちょ、オーの町まで探検だ!