2004年 7月20日
昨日寄った日本酒専門の酒屋さん『キブネ』で試飲させてもらった『吾妻峰』の蔵を見学してみたくて電話をかけてみた。
蔵人みんな出てるからダメだよと言われるが、なんとかなるかもしれんと、紫波町にある蔵まで行って車の中で人が帰ってくるまで待機。
昼くらいになって男の人が戻ってきた。
よし!!ダッシュ!!
「あー、うちは蔵見学には結構気を遣ってまして、前もって連絡をもらっていろいろと用意してもらってますので。ゴム長とか頭にかぶるものとか、白衣みたいな清潔なものを持参していくのはマナーですからね。そうすると、あ、この人はしっかりした人だなって、普段見れないところまで見せてもらえるかもしれませんし。納豆も食べてきてもらったら困りますし。」
何てこった…………
破けたジーパン、ボロボロのブーツなんかで行っていたのが恥ずかしくて申し訳なくて意識の低さを思い知らされた。
納豆に含まれる納豆菌が日本酒に影響を与えるっていうことも全然理解してなかった。
13代目、佐藤さん、大変勉強になりました。
すみませんでした…………
蔵見学は諦めて盛岡市内にやってきた。
んー、下町情緒漂うアーケード街。
いい感じ。
まずは北山地区の報恩寺へ。
結構立派な本堂。
中に入るが誰もいないのでウロウロしていると、いつのまにか本尊が鎮座しているすぐ真横に出てきた。
こ、これやばいよな…………?
こんなでかい寺の本尊を1メートルくらいの距離で見てる俺。
静寂に包まれた堂内。
やばいやばいと思いながらもこんなとこなかなか来れないので仏像を目に焼き付ける。
「何してるの?」
「え!あ………ちょ………ち、近くで見たく、」
「入らないで下さい。」
やってきたお坊さんに見つかってちょっと怒られてしまった。
怒鳴られなくてよかった……………
でもせっかく優しそうなお坊さんなのでついでにいろいろ聞いてみた。
「曹洞宗の開祖って誰ですか?」
「2人いるんですよ。道元禅師は教えを固めた人。そして世に広めた人が瑩山禅師。だから本山が2箇所あるんです。福井の永平寺と横浜の總持寺。」
とても品のある落ち着いたこのお坊さん。
わかりやすく丁寧に仏教について教えてくれた。
「根本はみんな同じです。仏教ですからね。いがみ合いなんてありませんよ。外国ではやってますけどね。無理に入門を進めたり、お金を取ったりなんてのはただの邪教と思っていただいてもいいですよ。」
お話を聞いていてとても心地の良いお爺さんだった。
すぐ横にある羅漢堂は300円払って見学することができた。
壁中にある羅漢像の数、なんと499体。
羅漢はインドの言葉、アラハトの略称で、人の供養を受けるに相応しい聖者という意味。
499体、みんな違うポーズと表情なんだけど、シェーしてるやつがあって、それはやり過ぎかな。
次に鬼の手形へ。
岩手山が噴火した際にどでかい岩が飛んできてこの地に落ち、3つに割れ、それを祀っているのがこの三ッ石神社。
その昔、この辺りに住んでいた悪さばっかりする鬼をこの岩にくくりつけて、もう二度と村に戻ってこないことを約束させ岩に手形を押させたのだそうだ。
これこそが岩手県や盛岡の別名、不来方の由来。
そしてこのことを祝い、町のみんなが昼夜問わず喜んで踊りまくったのが有名なさんさ踊りの起源なんだそうだ。
鬼ってのは後々の人たちの言い伝えで、それほどヤバい奴だったって表現で、きっとこの悪さばっかりしてたのはこの辺の悪い人間のことだったんだろうなぁ。
昔話や風習は、長い年月の中で形を変えて言い伝えられてるんだろう。
古事記とか、神話の世界もきっとそうなんだろうな。
お腹すいたのでたまにはちゃんとした物食べようと、仙台で知り合った盛岡出身友達に電話して盛岡うまいもんベスト3を教えてもらった。
★1つ目!!
食道園(冷麺)
今日休み!!!
チクショウ!!!
★2つ目!!
柳家(ラーメン)
本日終了!!
チクショウこの野郎!!!!
★3つ目!!
白龍(じゃじゃ麺)
やった!!
開いてる!!
戦時中に中国から伝わったというじゃじゃ麺発祥のこの店。
うどんみたいな麺にネギ、きゅうり、甘辛いミソをからめて食べるという料理。
食べ終わると皿にタマゴスープを入れてくれた。
なかなかうまい。
これで500円なら安いな。
腹ごしらえをしたら、とある人に電話をかけてみることに。
仙台の大盛食堂で知り合ったおじさん、井上さんが、盛岡行ったら訪ねろと言っていた人がいるんだけど、話ではそこは寿司屋さんらしい。
ちょっと緊張しつつも、ケータイに番号を打つ。
「あの、仙台の井上さんに紹介してもらった者ですが…………」
「あー、どうもどうも。お待ちしておりますよ。」
なんて言っていいかわからなくてドギマギしてしまう俺。
いきなり電話かかってきて寿司屋の大将の中田さんもわけがわからんよなぁ。
とりあえず今夜お店に行くことになったんだけど、どうしよう。
たぶんごちそうしてくれるだろうなぁ…………
あー、なんかこれって飯たかりに行くようなもんだよな…………
どうしよ…………
モヤモヤしつつも、行かないのも失礼なので夜になってお店を訪ねてみた。
「こんばんはー。」
「あー、どうぞどうぞ。」
盛岡の中心地のアーケードから一本入った路地にあった中田さんのお店。
マジでテレビで見るような回らない寿司屋さん。
上品な店内に場違いすぎる俺。
クソビビりながらカウンターに座る。
食事はいいです、とか安いもので…………なんて言うと、おごって下さいって言ってるようなもんだし、だからって普通に注文して5万とか言われたら首くくるしかなくなる。
そもそも電話しなきゃよかったのか?
いや、それは紹介してくれた井上さんに失礼になる。
極限の選択に頭をフル回転させながら親指の爪噛みまくってガクガク震えて、腹をくくる。
恐ろしいけど軽く食べることに。
数分後、目の前に恐ろしいものが出てきた。
明らかに3千円はするような握りとお吸い物。
マジかよ…………どうしよう…………
首くくるのにカウンター貸していただけますか?って言わなきゃいけないかもしれない…………
緊張してて写真撮るの忘れてた。
最後の食事になるかもしれないのでゆっくり味わって食べ、ママとしばらく喋ってから、意を決しておあいそ。
「千円でいいよ。」
ギエエエエエエエエエエエエ!!!!
千円なわけねええええええええええええ!!!!!
はぁ…………やっぱりたかりになってしまった…………
中田さん、井上さん、ありがとうございました。
この旅屈指の豪華なご飯でした。
気まずさマックスから開放されて、命拾いしたことだし、ちょこっとだけ歌おうかなと、アーケードの中にやってきた。
30メートルくらい離れた見えるとこに車を停めて、ギターを構える。
路上にいたアクセ売りのイスラエル人、ガビと仲良くなり一緒に歌っていると、いきなり俺を呼ぶ声がした。
「あー!!金丸君ー!!」
偶然現れたのは『キブネ』の村井さん夫妻と飲み仲間のお2人だった。
「今、日本酒の関係者の集まりがあってねー、ちょうど金丸君の話してたとこだったんだわー。面白いお兄ちゃんが店来たんだわーって。」
4人とも日本酒通のツワモノだ。
「なんかやってー。」
このメンバーにはやっぱこれかなー、と『酒と泪と男と女』。
みんな口ずさんで喜んでくれ、おひねりもいただいた。
純子さんありがとうございました。
純子さんたちが帰ったと思ったら、今度はすぐにさっきの寿司屋さんの大将夫婦が通りかかった。
「おー、山谷ブルースやってよ。」
歌い終わると千円を入れてくれる中田さん。
さっき払った千円が返ってきてしまった。
んー、やっぱりタダ飯の運命だったか…………
中田さんありがとうございます!!
そんな楽しい盛岡の路上。
ちょっとだけのつもりが結構長くなっちまったなとチラッと車のほうを見た。
ん?
なんか車のところに人がいる…………?
次の瞬間、全身から血の気が引いた。
「どけますううううううううううううう!!!!!!」
アーケードに響き渡る変態の絶叫。
お巡りさんが地獄行きの切符をファントムにくくりつけている!!!
ガビにギター投げて猿並みのダッシュ!!!
お巡りさんの足元に顔面削りながらヘッドスライディング!!!!
「だめだよー。もうつけちゃったし。」
「そ、そ、そそ、そ、そ、そこをなんとかああああお代官様ああああああああああああああ!!!!!」
……………終了してしまった。
計算では確か残り1点だった。
これで免取り…………
終わったああああああああ!!!!!
さっき寿司屋で命拾いしたのにすぐさま死刑宣告うううううううう!!!!
魂が全て抜け出て、過去の楽しかったことを思い出しながら顔面蒼白で放心状態になりながら泣いていると、さすがに哀れに思ったお巡りさん。
「なんだー、歌ってたのかい。私のこと見えなかった?」
「はい…………何も見えません………涙で………」
「近いうち署に来てもらわないといけないけど、どうする?」
「今から…………行きます…………」
「じゃぁ、そこだから。待ってるから。」
死にそうな顔でギターを片付けていると、ガビが肩を叩いてきた。
「Every things gonna be alright.」
ガビにありがとうと言って、交番に向かった。
「あー?点数がないのかい?まったくー………えっとね……………免停1回だよね、んー、今3点あるはずだから、今回のは12000円の2点の違反だから、いずれー大丈夫だよ。」
よ、よかったー…………
免停ではなかった…………
「で、今いくらくらい持ってるの?」
「2万くらいです…………これがなくなったら死にます…………」
「そうかー…………」
切符を切り終わり、車のワッカを外してもらう。
「どうも……………すみませんでした……………」
「…………気をつけるんだよ。」
「はい…………」
「あー、金丸君。私君の歌聴いたんだよ。うまかったよー。だから、これとっといて。」
自分の財布から3000円を出してきたお巡りさん。
「そ、そんな!!!いいです!!!」
「私は歌を聴いて感動した。だから気持ちを払うんだよ。それだけだから。じゃ、気をつけて。」
う、嘘だろおおおおおおおお……………
マジかよ……………
優しすぎるだろ……………
柔道やってる人なのか、耳がギョーザみたいになっててガタイもすごくて、見た目めっちゃ怖そうなお巡りさんなのに、こんな優しいことしてくれるなんてマジ泣きそうだ。
キブネの村井さんたちも、お寿司の中田さんも、ガビも、お巡りさんも、お昼のお寺のお坊さんも、盛岡で出会う人みんな優しすぎる…………
はあああああ……………でも今は金のことで頭から煙出そうだ…………
点数ももうないからシートベルトで捕まることも許されない。
なんとかしなきゃ…………
でもみんな優しいいいいいい………………
岩手やべーーーーー…………………
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