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石巻でCDを取られた夜







リアルタイムの双子との日常はこちらから






2004年 6月11日



ゆうべ600円でスーパー銭湯に入り、カップラーメンとおにぎりを食べたので残金2000円。


貧乏すぎて泣けてくる…………


食生活マジヤベえよ…………


お母さん、体を丈夫に産んでくれてありがとう…………







1ミリでもガソリン代を使いたくないので歩いて泉中央駅まで行ってみた。


バイトで通勤するのでどれくらいかかるもんか下調べしてみたが、やっぱり早足でも30分はかかった。

まぁしょうがない。


電車代も節約しないとな。



ついでに市内に堤人形という、日本を代表する土人形の工房があると調べていたので仙台駅まで歩いてみることに。







遠い…………





遠すぎるぞ…………





2時間くらいかけてやっとこさ中心部までやってきたころには人形のことなんかどうでもよくなってた。




なんだよ土人形て…………


知るかよそんなの…………





市内をぶらついて地下鉄で290円払って八乙女駅に戻り、ファントムに帰ってきた。







マジで金がない。


今日なんも食べてなくてめっちゃ腹減った…………


このままではホントにまずいぞ。


ユウキか美香に泣きついて2000円でも口座に振り込んでもらうか?


いやいや、そんなこと絶対できない。

なんとかして稼がないと。



仙台はあまりにも都会なので路上で稼ぐのは期待できない。

どこか近くにいい町はないかと地図を見てみると、ちょっと走ったところに石巻というところがあった。



行くぞ!!!!




残金1800円からガソリン1000円を入れて45号線を北上。


だいたい50キロくらいか。


ラジオからは梅雨前線が北上してきてすでに福島は雨が降ってますと流れている。


真っ黒い空の下をハンドルを切る。










リアス式海岸、牡鹿半島を擁するこの石巻市。


屋根のある商店街を見つけて20時に歌い始めた。



しかし全然人が寄ってこない。

全然お金が入らない。



ヤバいよおおおお、雨降ってきたよおおおおお。




やっとこさ何人か人が集まってきたところでケーサツがやってきた。


もう22時だから止めなさいとのこと。





ほう?


死ね、ということですか?





絶望しながらギターを片付けていると1人の兄ちゃんが声をかけてきた。



「僕も路上やってたんですよ。よがっだら明日会いませんが?」



同い年のヒデくん。

知り合いはできたものの今日のアガリは200円。


残金700円。



トボトボと雨に濡れながら車に戻った、そんな22歳の夜。














翌日。


レイチャールズが死んだ。


ていうか金がない。


ていうかレイチャールズ…………






うわああああああああ金がないいいいいいい!!!!






だけども~






問題は~






今日の雨~







金がないいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!









というわけで昨日連絡先を交換していたヒデ君と落ち合い、日中2人でギターを弾いたりしながらブラブラし、20時になって金の亡者丸出しの顔で路上場所に到着!!!!


血ヘド吐くまで歌うぞおおおおおおお!!!!








ヒデ君と交代交代に歌っていく。


ヒデ君のレパートリーは山崎まさよしとかゆずとか。



「石巻は路上やる環境じゃないんだよ。人が止まらないもん。」



それでも気合いで歌いまくる。

今日は喉の調子がいい!!!


おかげでいつの間にか足元には5000円ほどたまった。


イケるじゃん石巻!!!!







23時くらいになったころ、ヒデ君の友達、田中君がやってきた。


ヒデ君いわく、仙台イチギターが上手いって話だったけど、弾いてもらったら確かにめっちゃ上手かった。



「金丸君はプロでやる気はないの?」



「んー、ないかな。」



「そっかー、あるなら色々ノウハウ教えるんだけどねえー。」



なんか上から目線で嫌なヤツだなと思いつつも、彼と一緒に1曲やってみた。

なかなかいい感じ。



「この2人のセッション聞きたかったんだぁ。」



満足げなヒデ君。









「今日ウチきなよ。」


そう言う田中君に甘えて彼の実家にお邪魔すると、お酒やらご飯やらをたくさん出してくれた。


マジで皿まで食うくらいがっついた。


ここのところマジで廃人みたいな食生活だったので胃がビックリしすぎ。


そしてシャワーも貸してもらった。


この梅雨で3日お風呂入ってなかったから最高すぎる。









赤い顔して早々とダウンしたヒデ君の横で、田中君と色んな話をした。


彼は今、世に出るためにボーカルの相方と2人で様々なチャレンジをしてる最中。


何ヵ所かのレコード会社から話が来てるが、そのやり口が気に入らないからって2人でレコード会社立ち上げるぞ!!ってなり、名前を売るために自主制作でCDを1万枚作ろうとしているんだそうだ。



彼の音源を聞かせてもらった。


マジで村治香顔負けのテクニック。

こりゃヨユーでプロだよ。




俺も車からこの前作ったCDを持ってきて聞かせた。



「俺が1年半後に北海道から南下してくる頃には田中君どうなってる?」



「んー、もうバリバリいってるよ。」




外が明るくなっていくのも気にせず語り合った。

音楽のこと、将来のこと。


最初は嫌なヤツだなって思ったけど、なんかすごく打ち解けて魂的な話ができた。



そろそろ寝ようかと彼の機材部屋で寝かせてもらった。

いい夜だった。











しかしこの後変なことがあった。







寝てから何時間経ったのか。


田中君が部屋に入ってきた。


俺を起こさないように、音を立てずにそろりそろりと歩いている。


いいヤツだな。

俺のこと気を遣ってくれて。





そう思いながら薄目を開けると、俺の足元に立って俺のことを見ている。


なんかよくわからなくて寝たふりをしていた。







すると田中君は俺の荷物をあさりだした。


ゆうべ聞かせた俺のCDを手に取り、中のディスクだけを抜いてケースを元の場所に戻し、静かに部屋を出て行った。



え?


なんだ?



録音したかったのか?



だったらそう言えば普通にあげるのに。






それからしばらくして、起きて田中君の家を後にした。


一体あれはなんだったんだろ。


あんな上手い、センスのある奴が俺のCDを取るなんて、なんの意味があったんだろ。


よくわからない出来事だった。






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