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昭和町ってとこでの謎のバイト







リアルタイムの双子との日常はこちらから






2004年 4月3日






ファントムの中、暑くて目を覚ました。


後ろの布団で寝てる俺。


ユウキは助手席で寝ている。



カーテンを開けて窓の外を見ると最高の天気だ。






昨日宮崎県を出発したわけだけど、3時間交代で運転を代われるのでやっぱり2人だと助かる。


ゆうべは山口県で力尽きて国道2号線沿いのスーパー銭湯の駐車場で爆睡。


よっしゃーーー!!!

今日もかっ飛ばすぞおおおおお!!!!










そしてソッコーでネズミ捕りに捕獲完了!!!




キエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!




「はい、19キロオーバーねー。」


12000円と減点1。


か、悲しすぎる…………





まぁそんなこんなありつつも、ユウキとの2人旅はすごく楽しかった。


大阪ではホスト時代のエムさんと再会したり、信楽で「武蔵」っていう美味しい串カツ屋さんに行ったり、恐怖の石クエ峠を越えたり、愛知の一色町にいる地元の友達に会いに行ったりしながら北上。






















真夜中の暗闇の山道でこんなブロック現れたらマジ怖いから…………


















一色町名物のイカ。





箱根峠、マジ濃霧。









そうして4日かけて光ちゃんのいる川崎の元住吉に到着。


さああああああああああ!!!!


さっさと残りのCD製作を終わらせて完成させて旅に戻るぞおおおおおおお!!!と気合いでとりかかりたいところなんだけど、





仕事のある光ちゃんが結構忙しくてなかなか作業を始められない。


光ちゃんの休日に合わせないといけない。


無駄な時間を過ごしたくないので、仕方なく俺とユウキもこっちでバイトして少しでも金を貯めておくことにした。









ギターとコードとCDが散乱している床でみんなで雑魚寝し、早速次の日に電車を乗り継いで錦糸町にやって来た。


「おー!金丸君ー!久しぶりじゃーん!!



前にちょこっとだけバイトしてたこのアイワ建設。


事務のアナイさんは相変わらず声がデカイし話が早い。



「え?何日か働きたい?いいよいいよおおおお!!!いつでもいいよおおおお!!え?明日入れる?」



「アナイさんありがとうございます。助かります。」



「いやー、え?彼北海道行くの?何?宮崎の人ってそんな人ばっかなの?」



そんなアナイさんのおかげでスムーズにバイト開始。



アナイさんの気遣いで俺とユウキはだいたいいつも同じ現場にしてもらえた。










派遣バイトで色んなことをやったんだけど、その中でもめちゃくちゃ印象に残ったのが、キウイで指ボロボロバイトだった。




朝6時に部屋を出て、元住吉駅から郊外の鶴見線昭和駅へ向かう。

路線図を見ると、海沿いの端っこのほうにのびてる行き止まりの路線だ。



車窓の外を眺めていると、民家がなくなっていき、どんどん灰色の工場地帯になっていく。


『昭和の高度成長』みたいなフィルムに出てきそうな、うらさびれた無機質なコンクリートと汚れたボロい窓ガラス。


時が止まったような風景だけど、ここで日本の大事なものが長年作られてきてるんだろうな。






駅に着きホームの階段を降りていくと、いきなり警備員に呼び止められた。


「おいおい!ここからは会社だよ!」


は?どういうこと?と驚いてる俺たちの横を、夢も希望もないような男たちががっくりと肩を落とし、死人のようにゾロゾロとゲートの向こうに消えていく。


どうやらこの出口がそのまま会社の入り口になってるみたいだった。


なんだそれ。

その会社のためだけに作られた出口だなんて、めちゃくちゃ違和感だ。





別の出口から出てコンビニを探すが、そんなものどこにもない。


何十年も前からこの辺りの労働者たちに朝ごはんを売ってきたであろう角の古い商店でカップラーメンを買い200円を出すと、前もって山にして分けてあった10円玉でお釣りをもらった。

みんな買うものがだいたい決まってるからお釣り用の10円玉を積んでるんだ。


すげぇ。







背の高いコンクリ塀に囲まれた刑務所みたいな道を歩き、ゲートをくぐると『エルム街の悪夢』的な巨大な工場に突入。


ぶおんぶおん!スゴーーー!!と轟音の吹き抜ける構内を歩き、事務所へ。



汚いヘルメットを渡され連れて行かれると、海が広がる岸壁に無数のパレットが並んでいた。


パレットに積み上げられているのはキウイが入ったダンボール。



「えー、よく聞いてねー!はい、ここの穴に指を突っ込んで中のビニールを引っ張りだす!はいやってー!」



一体何のための作業なんだろう?


それさえもわからないまま、2本指がギリギリ入るようなダンボールの穴に指を突っ込んでビニールを引きずり出す。


10センチくらい引っ張り出すだけ。


それだけ。


1パレットに150箱くらい積んであって、数人のグループでビニールを引っ張り出し、終わったらフォークリフトが新しいパレットを運んでくる。



無限にあるキウイ。

それに群がり、指を突っ込み続ける男たち。




「はい!15分休憩ー!」



突っ込む時にダンボールに擦れて指の皮がどんどんむけてきた。

指にテーピングを巻きつける。


周りのやつらはどいつこいつも口もきかずに無表情でジュースを飲んでる。



おいおい、マジかよ?

これでいいのかよお前ら?

マジで人間に見えない。


まぁ、俺も同じように見られてるか。







臭い350円の弁当を食べ、作業を続け、終わったのは19時半。

すっかり暗くなっていて、工場内で帰り道を間違え、絶対立ち入り禁止区域のような真っ暗な構内を、ユウキと2人迷子になってさまよった。



不気味に入り組んだジトジトした工場。

鉄管やハシゴ、何かの光。


ちょっと怖くなりながら出口を探して歩いていると、それまでの轟音をかき消すほどの爆音が空気をぶらしはじめた。



「なんだ!なんだ!」



おそるおそる歩を進めていると、屋根が切れた瞬間、信じられない光景が目に飛び込んだ。


目の前にそそり立つとてつもなくデカい煙突。


その先っぽから吹き上がる、今まで見たこともないほど巨大な火柱。



「なんだこれ…………」



しばらく呆然と立ち尽くしていた。


人間は何てことやってんだろう。



この炎はこの工場の中のほんの1部。

この工場も日本の工場の中のほんの1部。

日本のそれは世界のそれのごくごく1部。



今も信じられない量の炎が世界中でこの空に吹き上げられ、酸素を消し、大気を熱し続けている。

海を汚し、大地を削り、大気を汚染している。



しかし今の俺の生活はこの罪の上に成り立っている。


あの死人のような男たちの手によって支えられている舞台の上で生きているんだよな。


人間が地球を壊しながら生きてるんだってのを目の当たりにして、人間があんな風に生気なく働けるんだったのを目の当たりにして、すごく怖い気持ちになった日だった。





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