2003年、4月8日。
将軍塚の駐車場で目を覚ました。
ここは山の上のひと気のないパーキング。
そういうところには大抵ヤンキーがマフラーを改造した車でたむろしにくるもんだ。
でも別に問題はない。
ここに車を止めっぱなしにして、京都を回りまくってやる。
雨の降る中、将軍塚から山道を降り、まずやってきたのは高台寺ってとこ。
今イベント中らしく、園徳院で高台寺にまつわる宝物を見てまわる。
何がすごいって、確かに宝物もすごいけど、それよりも人の数。
平日だってのに、もう、仕事しとけよっ!!
いや、まぁ世の中のほとんどの人が今仕事してるんだろうけど、それでもこんだけの人が日本全国から詰めかけてるんだから日本って人口すごいよなぁ。
そしてそんだけ人が集まる京都はやっぱすげぇ。
抹茶ソフトうまい。
外を歩けば人力車が至る所を走り回っていて、乗りませんかー!ご案内しますー!!と引き手が懸命に客引きしまくっている。
人力車は歩合給なのでみんな必死だ。
二寧坂は石畳の土産物街。
そういえば、中2の修学旅行のとき、確かこの道を通ったような…………
清水寺の舞台ってこんなに小さかったっけ。
中2の時の記憶では、もっと広くて怖かったはずなんだけどなぁ…………
俺も大きくなったんだなぁ。
舞台の手すりにつかまり、持ってきた明珍火箸を鳴らした。
何だ?と目を見張る周りの人々。
甚平と下駄で清水の舞台で明珍火箸の音色を聴く。
あー日本最高。
京都でやりたかったことひとつコンプリート。
ていうか真っ暗な胎内めぐりは、痴漢し放題だと思った。
あと、表参道の豆ナッツ8つ200円はかなりうまい。
八坂の塔の前に伸びるひなびた味のある坂道を歩いていたら、これまた味のある手作り豆腐屋さんがあったのでばあちゃんと話しながら豆腐を一丁(140円)を食べた。
なかやっていうお店。
さすがに1人で豆腐一丁はきつかったけど、これぞ豆腐って感じですごくおいしかった。
目の前の坂の上にそびえる木造の塔と、木造建築の町並み。
京都って街全体が大観光地だけど、当たり前にこうして人の暮らしも営まれてるんだよな。
ホームの将軍塚に戻り、今日も歌おうかねーと円山公園に下りてきた。
雨が降ったせいで人もだいぶ少なくなっており、桜も少し散って減っていた。
でもこんくらいのほうがゆっくり歌えるかなとギターを構えたその時。
ザーーーーーーー。
いきなり雨。
うそだろー!!すぐに片して陰に逃げ込む。
花見客たちも慌てて荷物を片付けている。
このまま雨が激しくなったらファントムのある山の上まで登れなくなってしまう。
仕方なく今日は何もせず、小雨になったのを見計らって急いで山を登り、いつものたこ焼き屋で焼きそばを食べておとなしく寝た。
翌日。
平安神宮の紅桜、すごくきれい。
教科書で習った794ウグイス平安京の中心地、平安神宮。
1100年前に奈良からここに日本の中心が移って以降、明治時代までずっと日本の中心だったんだよなぁ。
真っ赤な神宮が曇天の空に聳え立っている。
ほんとにすごくきれいだ。
この平安神宮、イベント満載。
金・土・日、と紅桜コンサート。
15日に天皇の遣いによるなんちゃらと、それを祝う16日の舞妓さんたちの踊り、などなど。
この時期は京都中でイベントだらけなので日程調整するのが大変なくらいだ。
トロロ蕎麦、美味しい。
それから銀閣寺、永歓寺、南禅寺、とまわる。
銀閣寺は足利義政がお爺ちゃんの作った金閣寺を真似て作って、銀を塗るはずだったんだけど、うまいこといかんでそのまんまになってるってやつ。
苔生した深緑の庭園に浮かぶ古ぼけた観音殿。
これは復旧や改修も施されてない、510年前の当時のままの姿というから半端ない。
そしてこの庭園もまた作られた当時から何一つ変わってないのだという。
成長する草木の発育を止め、同時に殺さない。
育たせず、殺さず、庭師の仕事とは、庭をそのままの姿にとどめることらしい。
銀閣寺から南禅寺まで桜並木の哲学の道が伸びている。
西田幾太郎とかいう哲学者たちがこの道を歩きながら思惟に耽っていたことからこの名がついたのだという。
2kmにも及ぶ桜の大群。
少しずつ散り始め、ピンクの代わりに緑の若葉が春風に逆らう。
途中、「見返り阿弥陀如来像」って書くのが面倒くさくなるような長い名の仏像が奉られている永観堂を見て、南禅寺へ。
レンガ造りの水路を辿って林の奥へ進んでいくと、路線が現れた。
今は使われてなく、緩やかな傾斜にまっすぐレールが伸びている。
周りには桜並木が広がり、すごくきれい。
この道は全然ガイドブックとかには乗ってないけど、観光客だらけの哲学の道より、よっぽどこっちの道の方がいいな。
いやぁ、京都すごすぎるなぁと思いながら歩いていると、いきなり車道から声が聞こえてきた。
「おい!!金丸!!」
え?誰だ?と見るとこの前まで働いていた引っ越し屋さんのワゴンだった。
「お前こんなとこで何しよん!!」
「花見っすよ、花見!!」
「おー!がんばれよー!!」
こんな誰も知らない初めての土地で俺の名前を知ってる人がいるってなんか変な感じだな。
10日ちょっとしかいなかったのに、そんな奴に声かけてくれるなんて嬉しかった。
それから美香に聞いた京都の安くておいしい店情報の一つ、祇園うどん屋「おかる」へ。
舞妓さんにもファンが多いという名物の肉入りカレーうどんを食べたけど、四国のうどんを知っちまってる俺にはどうってことないうどんだった。
今夜も将軍塚で爆睡。
翌日。
今日はバスを利用して回ってみるぞ!!
どこからどこまで行っても220円均一の市バスに乗って、金閣寺前に到着。
うおおおおおおおおおおおお!!!!!
これが金閣寺がああああああああああああああああ!!!!!
金閣寺、マジすごい!!!!
ついこの前まで改修工事をやってたらしいが、もうそれも済んでいて、立派な金色の建物を拝むことができた。
もうめっちゃ綺麗すぎる。
今のところ京都一綺麗だ。
正式名称は鹿苑寺。
1397年建立。
庭園の池に映る金と緑と青。
こんなに綺麗だけどこれは再建されたもの。
1950年に寺の見習い僧侶によって放火され全てが全焼してしまったらしい。
見習いとはいえお坊さんがお寺を燃やしてしまうなんてめちゃくちゃショッキングな事件だったんだろうな。
しかもこんな超国宝の建物を。
そこからボチボチ歩いて龍安寺へ。
龍安寺といえば有名な枯山水式庭園の石庭。
砂利の敷き詰められた30畳くらいの長方形の庭に、大きな石がポツンポツンと浮かんでいる。
パンフレットには「この庭は宇宙の摂理を表しています」とか、「哲学な視点から庭と語り合ってください」とか難しげなことが書いてあって、縁側に観光客のおじぃおばぁたちがズラリと並んで座って、これまた難しげな顔で庭をにらみつけている。
とりあえず俺も座って庭を睨んでみたけど、どうしても1ミリも何も感じない。
いや、確かに綺麗ではあるけども。
こういうのを見ると、前評判を聞いて、これはこういうものだと思い込んで知ったかぶりをしてるようにしか思えない。
実際そういうことあるはずだよ。
昔々の人が、
「はぁめんどくせえぇぇ、ウゼェエエ、もうテキトーでいいやん。はい、ちょちょいのちょい」
と適当に作ったものを、これは素晴らしいものです!という評判で勝手にいいものだと思い込み、現在に至っているものって絶対あると思う。
焼物の本にも、「この茶碗には宇宙がつまっている。」とかある。
ただの茶碗なのに。
年をとっていろんなものを吸収したらそう見えてくるのかなぁ。
でも全然わからないうちから知ったかぶりで「そーですね、素晴らしい。」なんて絶対言いたくねぇな。
次は仁和寺。
ここの桜はすごく遅咲きでまだつぼみの状態だった。
あーもう桜シーズン終わったかなって時にはここに行くべき。
それにしても、重要文化財とか国宝とか世界遺産とかありすぎだよ。
金閣寺、銀閣寺、清水寺、龍安寺、仁和寺…………
全部世界遺産&国宝。
さすが京都。もう、目がまわりそう。
そして全部拝観料が500円くらいするのでお金がすごいスピードで減っていく。
全部見ようと思ったらめちゃくちゃお金かかる。
行くところちゃんと選ばなきゃなぁ、と考えながらいつもの山道を登って将軍塚に帰宅した。
車の後ろで日記を書く。
明日はどこをどんな順番で回ろうかなー。
そんなことを思いながらペンを走らせているその時だった。
車の外で少し人の声が聞こえた。
またカップルがドライブ来てるのかな?と何気なく車の外を見てみた。
真横にセダンが止まっている。
俺の車はデリカなので普通の車よりも車高が高く、セダンを見下ろす角度で見られる。
ふーん、こんな広い駐車場なのにわざわざ真横に止めてるなぁ、ふーん。
ん?
え?
ええええ!?!?
車の中でめっちゃフ◯ラしてる。
カップルがめっちゃフ◯ラしてる。
ちょちょちょちょーーーーー!!!!!!
男が運転席に座ってシートを倒し、女の人が助手席から覆い被さってる!!!!!!
ファントムは黒塗りフルスモーク。
まさか真横の車の中に人がいるなんて思いもよらないカップルたち。
車の距離1メートルもない。
マジの真横でフ◯ラ鑑賞。
外からは見えないので隠れる必要もなくガラス越しにガン見。
ふむふむ、そういうことならばゆっくり見学させていただきましょう。
なるほどなるほど、そういう角度で攻めるわけですなぁ。
と思っていたら、ふとセダンのボンネットあたりに何やら動く影が。
モグラ叩きみたいにヒョコ、ヒョコと黒いものが出たり引っ込んだりしてる。
そしてその黒いものはスタタタタ、と移動して助手席側に移動してきた。
俺とセダンの間。
その影の正体は…………
オッサン。
オッサン登場。
助手席側の窓の外、めっちゃギリギリのラインで目を出して中を覗こうとしている。
おい、オッサン、おのれの後頭部の真後ろに俺がいるのをわかってんのか?
俺とセダンの間で死ぬほど必死にフ◯ラを覗くオッサンの背中がマジで哀愁しかない。
ガラス1枚すぐ外にオッサン、その向こうにフ◯ラ中のカップル。
なにこの図?
この広い駐車場の中で何この4人?
車の中でめちゃくちゃ必死に笑いを堪えながらその面白すぎる光景を眺めていたら、何を思ったらオッサン、助手席側からスタタタタ、と運転席側に移動した。
オッサン攻めたな!!!!!
そう、助手席側からは女の人の背中で肝心な部分が見えないのだ!!!!
カップルは行為に夢中だから気づかないはず、と思ったんだろうけど、それにしてもオッサンの攻める姿勢に敬礼!!!
ていうかオッサンが中腰でコソコソ歩くのとかマジ切ない!!!!
そんなにまでしてフ◯ラが見たいのかよ!!!!
が、しかし、オッサンの不用意な動きがカップルにバレてしまったのか、突然女の人の動きが止まり、周りをキョロキョロし、いそいそと服を着はじめた。
その瞬間、鬼のように焦って一目散に逃げていくオッサン。
そしてセダンもエンジンをかけて走り去っていった。
誰もいなくなった駐車場。
はぁ、面白かった。
また日記の続きを書いた。
リアルタイムの双子との日常はこちらから