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満足する旅ってなんだろう


こんにちは!神田です。



きっと旅をしてる人なら必ず誰かに聞かれる質問、どこが一番よかったですか?



私はやっぱりどうしても中国と答えてしまいます。



正直、いい国はたっくさんあるし、それぞれの国に出会いがあって、思いがあって、一口にこの国が一番なんて言えないけど、

なぜか私の口から出る1番の国は中国。

今回、2度目の中国を経験してもやっぱりそこに変わりはありませんでした。




近くて遠い国、中国には、この先の人生でも必ずまた訪れたい国のひとつです。




おわり









2018年3月22日(木曜日)
【韓国】 プサン




満足する旅ってなんだろう。






何をすれば、どこに行けばより良い旅だと言えるんだろう。



行雲流水、風の吹くままに。

いや違う、いつだって思うままに、自分で決めた道を進んできた。


でも大きな目で見れば、様々な流れに身を任せて歳を重ねてきたのかもしれない。



出会いや葛藤、諦めや興奮、

経験して、知識を得て、賢くなるほどに道は広がるようで狭まり、自分らしさの檻を作ってその中で威張ったり、息巻いたり、そしてまた自省して自己嫌悪して。


色んな言い訳をしながら、でもカッコつけて自分を奮い立たせて、命を使い切るために打ち込めるものを探し、他の可能性に対して盲目になって、また自分らしさの檻の格子を増やす。



満足する旅ってなんだろう。


旅の終わりと、その満足する瞬間は、必ずしも重なった点の上にあるのかな。



















「よっしゃあああああああ!!!!歌うぞおおおおおおお!!!」



「いええええええええいいい!!!旅最後の町いいいいいい!!!」



「え!!えええ!?こ、ここ旅最後の町なんですか!!?!?」



「そうでございます。ここは旅最後の町になります。もう日本は目の前です。福岡までの船っていくらくらいなの?」



「えーっと、確か前に乗った時は9000円くらいだった気がするな。あ、あと燃料サーチャージでプラス1000円くらいしたような。ていうか旅最後の町いいいいいいいい!!!!」



「うええええええいいい!!!天気良くて嬉しいよおおおおお!!!!」






宿を出ると昨日の吹雪が嘘みたいな青空が広がっていた。


気温も高くて、ひなたにいるとコートもいらないくらいの陽気。

スマホで天気予報を見ると、もう釜山も九州もほとんど変わらない気温だ。


ここから1週間くらい、ずっと青空マークが続いている。

最後の最後にこんな天気になってくれて本当に嬉しい。

これで心置きなく歌うことができるぞ。








久しぶりに見る釜山の町は相変わらず綺麗だ。








韓国第2の都市らしく大きなビルがそびえ、ショッピングストリートにはたくさんの人々が溢れている。

港のすぐ前に広がるナンポーエリアには、小道が無数に入り組む商店街エリア、オシャレなメインストリート、水揚げされたばかりの魚介類がどっさりと売られるチャガルチ市場など見所が盛りだくさんで、外国人観光客の数もすごい。

















少し北に行けば若者エリアのソミョン、

東に行けば高級リゾート地のヘウンデビーチ、


山に狭められた海沿いにギュッと大都市が作られている様子は神戸や長崎にどことなく似ている。

















都会でありながらローカルの部分を色濃く残し、昔から伝統的な日本との交易の窓口であるこの釜山。

あちこちに日本語の看板が踊り、あちこちから日本語が聞こえてくる。


今までたくさん国境の町に行って人種が行き交う様子を見てきたけど、他国と隣接する国境を持たない島国日本にとっての外国への玄関口は、この釜山だ。






















釜山にはとりあえず1週間くらいいるのかなと漠然と思っている。

日本の家族や友達には、3月の後半か4月の頭あたりに帰るよと伝えていたんだけど、予想外に韓国の移動が早くなってしまい、まだ今日は22日。

時間はゆっくりある。


これから毎日思いっきり路上して、そうして心が決まったらフェリー乗り場に行ってチケットを買う。


その日がいつになるかはまだわからないけど、とにかくここはもう最後の町。


人生ゲームみたいに、ここから10マス下がる、なんてことはもうないはずだ。


あとは思いっきり歌うのみ。









前回の釜山ではこのナンポーで歌っていたので、まずはここで様子を見て、それからヘウンデビーチや他の地域に歌いに行き、いいポイントを探していこう。

釜山もなかなか広いので、きっとどこかにベストスポットがあるはずだ。


今までの経験と路上スキルを総動員して、集大成の路上をしていくぞ。

























































昭和レトロなアーケードがのびる商店街の中をプラプラと散歩していると、美味しそうな匂いのする屋台を見つけたので、ここで食べてみることに。

雑なキンパ、焼き餃子、ネギたっぷりのチヂミ。








全部で7000ウォン(700円)。


人が行き交う道の真ん中で、立ったままそれらを口に運ぶ。

香ばしいチヂミにポン酢のタレがよく合う。


暖かい日差し、活気があるけども静かな町、穏やかな人々の表情。

向こうに見える釜山タワー。


どこかで見たことのあるような風景に、おぼろげな記憶が浮かんでは消える。


ここは俺の故郷ではない。






満足する旅ってなんだろうという疑問が頭に浮かぶ。

横で欧米人の老夫婦が慣れない箸づかいでチヂミを食べている。


















メインストリートの真ん中でギターを鳴らした。





どのお店もスピーカーから音楽を流していて、やれる場所が限られていてここくらいしか生音でいけるポイントがなかったけど、頑張って声を振り絞る。


ギターの弦を弾く。ハーモニカの音を重ねる。

気持ちよく和音になり、昼下がりの釜山の路上に音楽が流れる。




1人のおばさんが足を止めてくれ、ガンバッテネ、と2万ウォン(2000円)を入れてくれる。

韓国人のおじさんがパラパラと1000ウォン札(100円)を数枚入れてくれる。

日本人の観光客は、あ、日本人だ、日本人が歌ってるよとこっちをチラッと見てそのまま通り過ぎていく。




声が出る。

なかなかいい声が出てきて、胸のつかえが取れていく。



俺は歌を歌っている。

旅をするために、今まで歌ってきた。

じゃあこれから旅が終わったら、俺は歌わなくなるのか。

そう思うと、音楽という呪縛から解き放たれる開放感が楽しみでもあり、全てを失ってしまいそうで怖くもある。



俺の芯は旅だったのか、音楽だったのか。

俺という人間は、これまで俺がやってきたことを取っ払った時に何も残らない空っぽの容れ物になってしまうんじゃないか。

旅と音楽を通して出会ってきた人たちと、今後疎遠になってしまうんじゃないか。





声が出る。俺はまだ歌える。


もっともっと、依存するべきなのかな。

もっともっと、狭めるべきなのかな。

ギターのネックを握らなくなったとしたら、俺はこの手に何を握ることができるだろう。





満足する旅ってなんだろう。

目の前に広がるのは、日本とほぼ変わらない町並み。

きっと福岡に渡ってもさほど大きな変化はないはず。

でも今いる場所は、厳然とした外国。

風景だけではない、様々なものが母国にはあるはず。
















メインストリートでの路上を終え、散歩しながら周辺の路上ポイントを探し、それから夕方に裏通りの少し道が広がっているスペースで演奏を再開した。




ここもまた前回の一周中にやった場所。

静かだし、音が響いてすごくやりやすい。


うん、俺やっぱりいい場所選んでるな。






足を止めてくれる人が拍手してくれ、チップがギターケースに入る。


今までたくさんの国で人々がギターケースにお金を入れてくれた。


それで旅が続けてこられた。


太陽が沈んで暗くなってくると、人通りは増し、夜の賑わいが町を覆う。

その中で、丁寧に歌を歌う。










イマジンを歌う。



あなたは僕を夢見がちな男というかもしれない
でも僕は1人じゃない
いつかみんなが手を取り合い
世界はひとつになるよ




世界がひとつになることは難しいかもしれない。


大それたことはできないけど、まずは目の前の人に笑顔を向けられる人間でいよう。


















こう日本に近づくと、国民性も日本人と同じような感覚になり、夜の繁華街でお酒の入った人がたくさんチップを入れてくれるようになってるんじゃないかと思い、夜に備えて先に晩ご飯を食べに行った。

テキトーに入った食堂で、テキトーに食券を買うと、甘辛い豚肉の丼が運ばれてくる。









うん、想像通りの、日本人の口に合う味付け。




そして一緒に出てきたお椀のスープを飲む。



驚いたことに、それは完全なる味噌汁だった。


ここは別に日本料理屋さんじゃない。韓国料理屋さん。

それなのに、日本の味の象徴である味噌汁がついてきたことがすごく衝撃だった。


もうここは、味噌汁が普通に食卓に並ぶ地域なんだ。


その懐かしい味わいが全身に染み渡る。








その時、ふと思った。




あ、帰ろうかな…………って。


もうここはほとんど日本。

そんな場所までたどり着いたというのに、今さらここで足踏みする必要性があるのか?


満足する旅?

何を言ってんだ。

いつだって満足してきたはず。


いつだって、その瞬間その瞬間に満足してきた。

中国も、ヨーロッパも、アフリカも、やれるだけのことはしてきた。


もちろん、完璧に全てを達成してきたわけじゃない。

インドのこともあるし、もっと何か上手くやれたことはあったと思う。


でも、これが今の俺の精一杯だったとも思う。

様々な局面で、あぁ、これで満足だって自分の限界を決めることはなるべくしたくないけど、俺がやりたいこと、やれることにはそれなりに向き合えたと思える。


だったら、俺はもういつだって船に乗ることができるはず。

というか、帰国することに対して、何をそんなに大げさに構えているんだろう?って、味噌汁を飲みながら思った。


ただ単に終わることを恐れているだけだ。

終わりじゃないのに。


目の前にあるのはゴールではなく、スタート地点だ。




「カンちゃん…………もう帰る?」



「…………え?…………帰る…………の?」



「うん、いつまでもここでダラダラ足踏みするんじゃなくて、目の前に日本があるなら早く帰って親を安心させて、次にやるべきことに向かったほうがいいのかなって。カンちゃんはどう思う?」



「私は全然いいよ!!えー!!ウケるー!!いつ帰る?明日?明日帰る?」



「え!!ええええ!?明日帰る!?!?早すぎない!?!?」



「だって早く帰るなら明日帰ろう!?もう今日でもいいよ!!今から帰る?!」



「い、今からはもう船に間に合わないから無理だけど…………えええ!?マジで!?!?」



「よし!!決まり!!明日帰ろう!!!ひゃっふううううう!!!日本帰るならマニキュアしなきゃーーー!!!」




ちょ!!!!

急展開すぎて2人してめっちゃ大騒ぎ!!!

帰ろうって言ったの俺なのに全然心の準備ができてない!!!!



え!?えええ!?!?

ええええええええええええ!!!!

明日帰るの!?そんなあっさりなの!?!?


もっとドラマチックなことがあって、大円団で日本に凱旋的なそんな感じじゃないの!?!?




い、いやそんなもんなのかなぁ。


これは俺たちの旅。

俺たちだけにしか終わらせられない。

誰かに許可をもらうもんでも、スポンサーさんに期限を決められてるもんでも、盛大にお見送りしてもらうようなもんでもない。




昔お遍路をやった時、なかなかキツイ道のりで、45日目に88ヶ所目のお寺にたどり着いた時、達成感でものすごく感動した。

やったよ!!俺はやりきった!!大満足のお遍路をすることができたよ!!ってみんなに思いっきり発表をしたい気持ちでいっぱいになった。


が、そこには何も用意なんかされておらず、それまでの87ヶ寺と同じように、般若心経を唱え、札を奉納し、お寺を出た。



あ、あれ?

労いの言葉は?

表彰状は?

なんかステージの上でお遍路中の素敵エピソードを得意げに大発表するイベントは?



そんなもんなんにもなく、88ヶ所目を出て、あ、あれ?って思いながら歩いて1ヶ所目に戻り、四国一周をつなぎ、それで俺のお遍路道は人知れずアッサリと終わった。




そんなもん。

そんなもんなんだよな。


達成感は自分だけのもの。

賞金なんかない。


そういう道を歩いてきたんだ。

















宿に戻り、まだ自分自身半信半疑のまま、親に電話した。



「あ、お母さん、明日帰るわ。」



「ああそう。………………はああああああ!!?!?!明日ね!?!?あんた今どこね!?!?」



「釜山だよ。明日の夜には到着できると思うからスキヤキ用意しといて。」



「あああ、とうとうやねぇ。今回の旅はナオちゃんと一緒やったから前みたいなめちゃくちゃな旅をせんで良かったわ。わかったわかった。すき焼きね。」



カンちゃんも横で家族に電話して伝えている。

旅の名残りに戸惑う様子もなく、イヤッホイとテンションが上がっているカンちゃん。


切り替えが早いなぁ。

まぁ今の俺たちにとったら、日本に帰るのもまるで次は日本という国を旅しに行くような感覚だけども。




でも次に行く日本って国は、きっとかなりの長期滞在になる。

オーストリアみたいに6ヶ月なんてもんじゃない。


おそらく50年くらい。

そして50年滞在するのに、ビザもなにも申請する必要がないんだ。


新しい国に入る時、必ず様々なルールに縛られていた俺たちだけど、そんな俺たちがなんの許可もなくいつまででも滞在していいという特別な国が、この世界にただひとつだけ存在しているんだ。















いつものようにカンちゃんと一緒にシャワーを浴び、ビールで乾杯し、ほろ酔いで布団に潜り込む。

電気を消して静かになると、窓の外から聞こえてくる酔っ払いたちの賑やかな声が際立つ。


その声は、耳慣れたイントネーションではあるけど、知らない外国語だ。

ここはまだ外国。







満足する旅ってなんだろう?


それはおそらく自分のやりたい道を進むこと。

人に指図されたものではなく、岐路に立った時に自分が本当に進みたいと思った道を選んでいくこと。


でも本当はそこじゃないのかも。



満足する旅かどうかは、旅が終わった後の生きかたで決まるんじゃないか?


どういう生きかたをしていくかで、後から振り返って旅を評価できるんじゃないか。



だとしたらまだわからん。

死ぬ前くらいかもしれん。あぁ、俺は良い旅をしてきたって言えるのって。



それまで熟成させよう。


全ての経験と出会いと見てきた景色と感情は、確実に自分の中に息づいているんだから。






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