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鼻からおかきが飛び出して泣く



2017年5月21日(日曜日)
【オーストリア】 シュピッツ ~ シュタイアー












「フミ、ナオ、これを持って行って。」




出発のために荷物をまとめていると、イングリッドおばちゃんが何か小さなプレートを持ってきた。


そこには天使の絵が描いてあり、裏にペンでメモがしてあった。




ラルフ、と書いてある。




「これ、ラルフのために飾っているものなの。ラルフが平和でいられるように。でも2人が持って行って。安全にまた帰ってきてね。」



「ええ!?そんな大事なもの、ダメだよ!!」



「いいの!!ホラホラー!忘れ物はない!?」




すでに目に涙をいっぱい溜めているイングリッドおばちゃん。


いっつも俺たちと別れる時はこうだ。


涙もろいおばちゃんを見ていると、俺たちも胸がしめつけられる。





こんなに愛に溢れた人を悲しませたらいけない。


少しでもイングリッドおばちゃんとの時間を大切にして、労ろう。


おばちゃん、ラルフのお守り大事にするね。













また3ヶ月してシェンゲンが切れた時点でオーストリアに戻ってくるので、シートなんかのいらない荷物を家に置かせてもらい、こざっぱりした車に乗り込んだ。



するとレイモンドパパがニコニコしながらセラーからワインボトルを持ってきて俺たちに渡してきた。



これが必要だろ?って感じでニコニコしている。

そしてカンちゃんのほっぺたをむにむにと触る。



カンちゃんの可愛がりかたが定着してきてるなぁ。







あーもう!!本当にありがとう!!



ここは俺たちにとってヨーロッパの故郷だよ!!



また南ヨーロッパをめぐって元気に帰ってくるね!!


キッスのライブ楽しんでね!!!



























シュピッツの町を出発したらドナウ沿いに走り、メルク大聖堂を見上げながらバッハウを抜け出す。


走りなれたこの道。


田園風景と、その中にぽつぽつと飛び出る教会の塔。



あぁ、オーストリアだなぁ。

パッチワーク柄になった畑の緑が本当に綺麗だ。














そうして走ること2時間。


これまた大好きなシュタイアーの町に到着した。



日曜日の町は閑散としており、人の姿もほとんどない中をゆっくりと走り、丘の上のお城にやってきた。








周りの公園では小鳥がさえずり、緑が揺れ、温かい風がふわりと吹き抜け、これ以上ないほどに平和な空気が流れている。



あぁ、この空気が似合うあのご家族に会いに来たけど、今日は家にいるかなぁ。




























静かなお城の中庭に入り、豪壮なドアの横にあるインターフォンを押す。



するとドイツ語の返事が返ってきた。




「シュニッツェルシュニッツェル、ドナウ?」



「あ、あー、えーっと、日本人の2人です。」



「キャアアアアアア!!!フミ!!ナオ!!カモン!!!」




インターフォンから叫び声が聞こえ、ドアの鍵があいた。





お城の中に入り、広々とした階段を上がっていくと、ドアの外にエヴァさんとティムさんが顔を出していた。




「キャアアアアアア!!!なんてこと!!元気にしてた!!よく来てくれたわ!!」



「2人が来てくれるなんて今日は素晴らしい日だよ!!さぁ入って入って!!」




前回、シュタイアーで路上をしている時に出会ったティムさんファミリー。


家に泊めていただき、ティムさんがリーダーを務めるカトリックグループのミサに参加させてもらったりと本当にお世話になった。



それからも何度もお会いして親交を深めてきたけど、こうやって挨拶に来るたびに喜んでもらえて本当に嬉しいな。








「はい、これみんなにお土産です。」



「ワオオ!!アフリカのお土産ね!!なんてこと!!ありがとう!!キリンが可愛いわー!!」



「アフリカでは車を運転していたらキリンが道を横切ってましたよ。」



「オーマイガッ!!写真を見せてちょうだい!!」















興奮すると体全身を使ってもだえる可愛いエヴァママ、これぞ人格者といった、もはや聖なるオーラすらほとばしる素晴らしいお父さんのティムさん、そして好奇心旺盛でいつかフミたちみたいに世界を旅したい!と言っている高校生のカタリーナ。



よかったー、日曜日で出かけてなくて。



息子のクリスチャンとデイビッドも最高にいい奴らなんだけど、残念ながら今日は離れたところにいるみたいでこっちに来ることはできないみたいだった。





「いやぁ、グレートブリテンはどうだった?人はみんな優しかった?アフリカでは危険なことはなかった?」



「アフリカは危険なところでしたけど、僕らは運よく何もなくて、病気も下痢と風邪をひいたくらいでした。」



「それはよかった。僕も昔モロッコで下痢になったことがあってね、キツくてキツくて、それからローカルフードを避けて2週間モロッコで毎日パンだけ食べていたんだ。そしたらおかげで逆に体を壊したんだ。ハッハッハッハ!!」




紅茶をいただきながら、この半年間にあった色んなお話を沢山した。


この幸せオーラ全開のご家族と一緒にいると、人間ってやつがいかに美しいものか見せてもらえる。



あぁ、平和だー……………












「またオーストリアに帰ってきたらいつでもウチに泊まりに来てね!!私たちは2人が最初に泊まりにきてくれた日のことをいっつも話してるんだから!!あれは最高に素晴らしい日々だったの!!」



「困ったことがあったらいつでも連絡するんだよ。安全に行ってきてね。」




いつまでも話していたいところだったんだけど、この後も予定があるので1時間くらいでおいとまさせてもらった。



もうティムさんファミリー、マジで奇跡!!!

優しさが鬼レベル!!!



また会いに来ます!!みんなも元気で!!!























さぁ、今日の予定はもう1件。


大好きな大好きなオーストリアには会いたい人たちがたくさんだ。




シュタイアーの町を背に山のほうへと走っていき、田園風景の広がる田舎道を奥へ奥へと入っていく。


緑豊かな細い道の両側にはぽつぽつと大きな民家が並んでいて、日本の農村の風景だ。



大きな丸太が積み上げられた製材所に、使い込まれた重機がとまっている。




窓から牛の匂いが入ってくる。


懐かしい牛糞の匂い。






俺の故郷の美々津は本当に田舎の港町だけど、国道沿いは畜産農家の牛の匂いがする。


若いころはよく宮崎市の人とかから、あのあたりを走ると田舎の匂いがするよねー!!って笑われたりしたけど、それが俺の自慢の故郷の匂いだ。














しばらく走ると、1軒の大きな家の前に着いた。


よく手入れされた庭とオシャレなこの家。



あぁ、また来ることができたなぁ。




庭のところで白髪のおじさんが作業してるのが見えた。




「池田さんー!!お久しぶりですー!!」



「おー、来たかー。入れ入れー。車はそこに止めればええからな。いやー、今回は最低2泊はせんとアカンからな。」




シュタイアーの路上で出会った日本人のおじさん、池田さん。


このシュタイアーの田舎に40年住んでるオーストリア暮らしの大ベテランさんだ。



前回お泊りさせていただいた時、マジで半殺しにされてしまったんだけど、今度は全殺しされたくて戻ってきた。





いや、前回も全殺しだったな………………





「今回もこの部屋に泊まってな。布団は後で持ってくるから。まぁゆっくりしとき。あ、茶淹れたるわ。」















お土産の南アフリカワインをお渡しし、荷物を池田さん手作りの和室に置かせていただいた。



このオーストリアでこんなに完璧な和室があるか?



畳の部屋、縁側、その向こうには紅葉の日本庭園。



マジで博物館できるし!!!










ていうか緑茶が死ぬほど美味いのなんでですか?










むせて鼻からおかき発射しそうになったわ。



















前回オーストリアを出てからイギリス、アフリカと回っている間、池田さんとずっと連絡を取らせていただいていたんだけど、次回来た時は家族扱いなので遠慮はナシやからな!と言ってもらえたのは本当に嬉しかった。



頼りになるおじちゃん、日本人らしく黙々と働く勤勉なところ、少しシャイで暖かい笑顔。


本当に大好きな人。










そして奥さんのラウラさんもとっても可愛らしい素敵な人。


オーストリア人で、きれい好きで、インテリアなんかにセンスが光りまくってて、2人の作り出す空間はどっかのギャラリーみたいに洗練されまくってる。
























あああああ…………アフリカにいる時からどれほどこの日を待ち焦がれたことか……………




南アフリカにいる時なんか、運転しながら車の中でずっと池田さんの話してたもん。



カンちゃんキリンだよ!!!あ!!シマウマだよ!!ていうか池田さんの家行きたくて気絶しそう!!って話してた。




主にアレの話を!!!!!!











池田さん!!!!










いただきます!!!!!!!























後頭部から頭が破裂しました。






アフリカの日々が消し飛ぶ美味さ。



タコの酢味噌和えとか死ぬかと思った!!!!!



天ぷら食べた瞬間、マジで走馬灯見えた。
























なにこのチラシ寿司。


このチラシ寿司より美しい朝日、マラウィでしか見たことない。
















マジで、マジでここからまた旅できる。


それくらいパワーある。


池田さんの作る料理はマジで奇跡。


こんなに美味しい日本食を海外で食べることは僕の知る限り不可能です。














この日は池田さんの息子さんも遊びに来てみんなでお食事させてもらい、それからワインを飲みながら遅くまでお話しした。




「アフリカでなんかに変な病気にはならんかったか?」



「大丈夫でした!!あ、でもカンちゃんがちょっと不安なことがあって。」




マラウィで熱を出したカンちゃん。


あの時に生理の調子が少し悪くなり、少し違和感があるということなんだけど、それがマラウィ湖にいる寄生虫の影響じゃないのか?と不安になっていた。


痛みがあるとか生理不順とかいうわけではないんだけどなんか不安なので、病院に行くべきなのかどうなのか迷っていたんだよな。



そうか、ちょっと待ってなと色んなところに電話をかけて詳しい人に話を聞いてくれる池田さんとラウラさん。


今日はもう遅いからまた明日ちゃんと聞いてあげるよと言ってくださった。




本当優しい。


外国で言葉が通じ、こんなにも信頼できる人がいることの心強さ。


マジでなんでも相談したくなる。



でも頼りすぎるのもいけないけど。




「アフリカ帰りやからな。不安があるなら病院に行ったほうがいいわや。まぁ明日ちゃんと聞いたるから。専門医が知り合いにいるから。」



池田さん、本当に本当にありがとうございます。












この夜は結構ふらふらになるくらいまでワインを飲み、布団に倒れると一瞬で眠りに落ちた。




ああ、アフリカきつかったなぁ……………


あの過酷な日々が吹っ飛んでいくよ。



心の底から安心できる場所で眠れて、こんなにも安らげる。



オーストリア最高だー………………



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