2016年3月17日(木曜日)
【インド】 ベロール
また風邪。
顔の奥が痛い。
なんなの?
この前の風邪は治っていた。バッチリ。
やっと治ったと思ったのにまた風邪。
半月で3回病気になるとかもう呪いとか思えないよ…………
前回もだったけど、インドで体調が良かったことがない……………
それもこれもカデルと一緒に寝てる寝室が寒すぎるからだと思う。
カデルは坊っちゃんなので寝る時にエアコンをかける。しかもかなりの勢いで。
部屋に入った瞬間、オヒョウ!ってなるくらい寒い。
しかも俺のベッドはそのエアコンの風が直撃する場所にあるので、いつも毛布をかぶって寝てるんだけど、どう考えてもそれが原因ですよね?
「フミ、違うよ。人間はエアコンの風では風邪はひかないよ。フミはコーラとか冷たいものを飲むからいけないんだよ。」
ゼッテー違う!!!
カデルそれゼッテー違う!!!
もうマジでフミは病弱なやつだってカデルファミリーに思われてるはず。
マジでこの2年風邪ひとつひかなかったんだけどなぁ……………
ちょっと環境が変わっただけでこんなにガタガタになるなんて。
本当、体弱いなぁ。
本当、
焼肉食べたいなぁ。
天満でホルモン食べたいなぁあああああああああああああああああああああいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!
ブリッブリのシマチョウをおろしニンニクたっぷりぶち込んだシャバシャバ系じゃなくてドロドロ系のタレにつけて食べて勢いよく生中あおって気管に入ってブフォォオッ!!ってぶちまけたいなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
そう、出会いは神戸のライブバーで横に座ってたってくらいがいい。
石田さゆり似の少し影のある瞳、肩までのボブで膝丈スカートに丸首ニット。
清楚だけど生活感のある指先のナチュラルな爪。
そんな42歳くらいのメガネロリ巨乳の可愛い奥さんとデートに行って、どこでご飯食べましょうか?僕地元じゃないからあんまりよくわからなくて………とか頼りなさげな雰囲気を最初に醸し出しつつ、東門の丸貴屋でしこたま食べて飲んで、すごい可愛いね、とか小さな声で優しく言いながら髪の毛を少し触って、恥ずかしそうにする奥さんの手を優しくつかんでそのままもっこすラーメンで脂多め食べてから北野のホテル街に行って俺のもっこすをあなたのパイ山で挟んで灘の生一本を飲みながら俺の生一本もメガネフィニッシュ!!!!
よおおおおおし!!!インドの貧しい学校にリコーダー届けに行こおおおおお!!
ボランティア最高!!ヒョウ!!
こんなこと書くから敵が増えるんだよなぁ……………
ボランティア嫌いです。
ボランティアって名前をつけられたらもうボランティアじゃないような気がする。なんか自慢げに聞こえる。
いや、ボランティアするのはいいことだと思うんだけど、なんかその、えーっと、上手く言えないけど、
まぁいいや。
ちょっと早めのお昼ごはんでドーサを3枚だけ食べたら出発。
カデルの家に置いてある大量のリコーダーたちの中から、リコーダーを40本、鍵盤ハーモニカを2つ、タンバリンを1つ、カバンに詰め込む。
ぐおおお………重すぎる……………
20キロ以上あるぞ…………
しかも体調悪いから力が入らなくて持ち上げられない…………
でも頑張って持って行くぞ。
パパとママに少しのお別れの挨拶をして、カデルの車で駅まで送ってもらった。
目的地であるベロールまでは電車で1時間半の距離。
チケットの値段は16ルピー。25円。安すぎウケる。
今日も気温が余裕で35℃を超える灼熱の太陽の下、ボロボロのローカル電車は走り出した。
汗だくになってインド人に混じって椅子に座ると、吹き込む熱風ですぐに汗は乾いた。
14時半に電車はカトパディという駅に着いた。
ここはベロールの中心地から少し北にある駅だ。
ここにカッピーの知り合いの女の子が迎えに来てくれる手はずになっている。
まったく見知らぬローカルな駅で1人段差に座ってボーッとした。
ワイファイなんてありゃしないので、約束通りに女の子が来てくれなかったらここで1人で待ちぼうけだ。
風邪で顔の奥が痛くて、体もダルい。
おまけに40℃近い気温で変な汗がダラダラ流れてくる。
タクシーやオートリキシャーのドライバーがしつこく声をかけてくるのが鬱陶しくて冷たくあしらっていると、少し怒らせてしまった。
いかん、もっとちゃんとフレンドリーに丁寧に対応してあげないと。
でも頭がボーッとしてそんな気にもなれなかった。
約束の17時になり、見つけてもらいやすいように駅の入り口で立って女の子を待つ。
こんなどローカルな駅、アジア人どころか欧米人も1人もいない。
完全にインド人のみで、みんな床に寝転がったりしてる。
こんなエントランスのど真ん中で寝転がって邪魔になるとか思わないのかな。
ほんと迷惑だよなぁ。
ほんとに。
「おじさんー。隣いいですか?いやー、もう疲れちゃって疲れちゃって。」
「あ、あの…………あの……………金丸さんですか?」
立ってるのがしんどくて、あと少しでオッさんたちの仲間入りをしそうになっていたところで、アジア人の女の子が声をかけてきた。
あ、コズエさんだ。
「うふぉう!!いやー、こんなところで寝転がって迷惑だからパツイチ注意カマしちゃうぜ?ってところだったんですよ!!いやー、もうちょっとで俺のタフガイぶりを見せつけちゃうところでしたね!!ヒヤヒヤもんだぜ!!」
「金丸さんだー!よかったー!!」
インドの服に身を包んだその女の子の名前はコズエさん。
なにやら聞いたところ、カッピーの直接の友達ではなく、カッピーの友達の友達って感じみたい。
カンちゃんに似てる感じだから手出したらダメだよ~ってカッピーが言ってたけど、確かに童顔でほんわかした雰囲気の可愛らしい女の子だ。
「それじゃあ金丸さん、早速行きましょうか!!」
「あ、はい、バスで行きます?」
「いや、オートリキシャーで行きましょう。」
「え?でもここから20キロくらいありますよね?」
「そうですけど、この時間はバスもすごく混むし、今荷物がたくさんあるのでオートリキシャーにしましょう。多分400ルピーもあればいけると思います。」
400ルピーか…………700円。
結構するな…………
「心配しないでください。今デリーからの帰りなので出張の経費で落ちますので!」
おお、そういうことか。
ていうかJICAってどんな組織なんだろなぁ。そういう系の団体についてまったく知識がないんだよな。
オートリキシャーに乗り込んでベロールの町を走り抜けていく。
相変わらず交通法規オール無視のドライブでクラクション鳴らしまくりでかなりスリリング。
でもそれももう慣れている。
「金丸さん、泊まるところはどうしますか?学校の中にも泊まれることは泊まれるんですけど、設備も整ってないし、結構汚いので、もし嫌でしたらベロールの町に2500円くらいで泊まれる宿がありますけど。ビジネスホテルくらいのレベルですけど。」
2500円の宿。高すぎる。
インドでこの値段だったら相当ハイレベルのホテルだ。
どうやらコズエさんはそこまでバッグパッカー的な感覚の持ち主ではないみたい。
野宿で世界中を旅していた俺のこともあまりご存知ないようだ。
そりゃそうか。
コズエさんとはこれが初対面。
カッピーから聞いた、リコーダーを持ってきてくれる旅人さんっていうイメージなんだろな。
そして俺自身もコズエさんのことをよく知らない。
この2日間、JICAのことやインドの貧困層の学校の現実について色々と教えてもらおう。
「ペラペラペラペラ~~ペラペラ!」
オートリキシャーはベロールの町の中心地を抜け、田舎のほうへとどんどん走っていき、しばらくしてから現れた小さな村で左の脇道へと入った。
指示を出すコズエさんの言葉はタミル語だ。
「すごいですね。タミル語喋れるんですね。」
「いやー、1年以上住んでますからねー。でも今ので精一杯です。あれ以上は喋れないです。」
こんな謎の言語でも1年いればあれくらい喋れるようになるんだなぁ。
きっとたくさん勉強されてきたんだろう。
オートリキシャーは砂埃を巻き上げながら、さらに村の奥地へと向かっていく。
ヤシの木が空高くのび、草の生い茂る湖が自然のままに広がり、原野がどこまでも続いている。
簡素な民家がポツポツと散らばっており、ヤシの木の葉で作られた原始的なものも多い。
牛とヤギと犬がそこら辺で草を食べており、こいつは相当の田舎だ。
カデルの学校があるアラコナムもかなりの田舎だけど、それよりもはるかに寒村といった雰囲気。
もはや僻地といってもいい。
観光客なんて1ミクロンもいるわけない。
コズエさんはこんなところに1年以上もいるんだな……………
マジで一体どこまで行くんだ?ってちょっと心配になるくらい奥地まで進んでいくオートリキシャー。
民家もなくなり、牛もいなくなり、ガタゴトの土の地面からは石がはみ出し、周りは手つかずの林が広がるのみ。
そんな道の脇に、ポツリとゲートがあった。
こ、これ!?
「ここです、さ、行きましょう。」
コズエさんについて中に入る。
そこはまるで廃村か遺跡かなんかみたいな、人の生命反応とか皆無の寂しげな敷地だった。
奈良とかによくある、飛鳥時代ですか?みたいな土壁のボコボコした建物がいくつかポツポツと散らばっている。
吉野ヶ里遺跡ですか?みたいな木や草で作られた小屋。
ボコボコの土の地面。
マジでタイムスリップ。
ワイファイどころか、ギリ、エレキテルが発明されてるかどうかくらいの雰囲気だ。
失礼なことを言ってるのはわかるけど、日本って国で生まれ育った人間なら誰しもこの感想を持つはず。
カデルの学校から来たせいもあって、あまりの落差にビビることしかできなかった。
「金丸さんに泊まっていただくのはこちらのゲストハウスです。」
ほうほう、どれですかな?
ナイスビルディング。
ドアを開けた瞬間、壁に張りついていたヤモリたちが一斉に動いた。
んー、マジで日本だったら原始体験!!とか言ってファミリー向けの観光施設にでもなってそうな勢いだ。
「や、やっぱりちょっとキツいですか……?ホテルに泊まったほうがいいですよね…………?」
「私は構わん。」
「でも、シャワーとかなくて外の水溜めから汲んできてバケツで浴びないといけないですよ……?」
「私は構わん。」
「ご飯もあるにはありますけど、全部カレーですよ………?」
「私は構わん。」
「でも戦いに爆薬を使用したりしますよ………?」
「私は構わん。」
烈海皇並みに構わないを連発して荷物を降ろした。
今まで何人か日本人のゲストがここに来てるらしいけど、バックパッカーじゃない駐在員さんとかだったら確かにこれはきついだろうな。
でも毎日野宿したり、南米のジャングルの中でインディオたちと生活してた経験からすれば、こんなの全然なんともない。
ヤモリさんお邪魔します!!
「この建物がクラスで、あっちの新しい建物が最近できたクラスです。」
敷地の奥に行くと、2つのそれなりに生命反応のある建物があった。
「ここはプライベートスクールで、チェンナイの大学でヒューマニズムを教えている教授さんがお金を出して作ったんです。学費は完全に無料です。」
先生は現在8人いて、生徒数は150人。
それって先生少ないんじゃないかなぁ。
「そうなんです。人材が全然足りてなくて、それでJICAに要請があって私が来たんですけど、最初は日本語の教師って形で来たんですけど、子供たちは英語が全然喋れないので英語も教えてます。」
そりゃそうだ。
こんなスーパー田舎の貧しい子供たちに日本語を教えるメリットなんかあるわけない。
外国人と触れ合って国際的な感覚を養うってのもJICAみたいな海外での活動をしてる団体の大きな意義かもしれないけど、そんなことよりまずは基本的な国語算数理科社会英語の勉強が先決だ。
「私が派遣された本来の目的は情操教育なんです。青少年の感覚的な部分の教育です。なので音楽を教えようと思ってたんですけど、なにせ楽器なんてまったくなくて…………」
コズエさんも以前に日本からリコーダーを送ってもらえないか試みたことがあったらしいんだけど、あまりに手続きが大変で諦めたんだそう。
そんな時にリコーダーを大量に持ってる俺の存在を聞いて、コンタクトがあったという流れだ。
「はっきり言ってかなり辛いです。この僻地に1人ぼっちで2年滞在しないといけないんです。学校の先生たちは基本いい人なんですけど、私のこと日本語の先生って思ってるからあまり他のことを教えると困惑されてしまうんですよね。」
2年て…………
マジで考えられねぇ……………
よほどのもの好きじゃないとこんな何もないスーパーど田舎の英語もほとんど通じない場所に2年も軟禁状態なんて、俺だったら3ヶ月で発狂して日本に帰って宮崎の爛漫に行ってチキン南蛮食べる。
ムネ肉とモモ肉をハーフハーフにしてください!!とかわがまま言っちゃう。
コーンポタージュつけちゃう。
そしてピンサロ行っちゃう。嘘、それは行かない。
「とにかく、明日学校を見てみてください。私はこれで帰りますので、また明日!!」
コズエさんは朝までデリーにいたそう。
インドに派遣されているJICAメンバーの総会だったようで、久しぶりの日本人たちと会えて楽しい時間を過ごしていたんだそう。
朝から飛行機で移動してきてクタクタになっているはずなのに俺を迎えに来てくださって本当にありがたい。
そんな俺も風邪で体がボロボロで歩くのもしんどいくらい。
早く寝てしまいたいけど、晩ご飯も食べたい。
学校にボランティアで来ていて駐在しているインド人のマテューが案内してくれ、一緒に晩ご飯を食べることに。
マテューはケララという南インドの地域からボランティアでやってきているシティーボーイだ。
彼は英語が喋れて、とてもスマートないいやつ。
2人でケータイの明かりで足元を照らしながら敷地を歩き、キッチンの建物にやってきた。
このキッチンの建物もまたボロボロで、この前のチェンナイのテーマパークで入ったお化け屋敷とほとんど同じクオリティーだ。
「フミ、ここで晩ご飯を食べるからね。ご飯はお昼に料理の女の人が作ったものが残してあるんだ。」
そう言いながらドアを開けると、天井から何かがポトッと落ちた。
明かりを照らすと、それは小さな蛇だった。
でもまだ赤ちゃん蛇で、細いロープくらいの大きさだ。
「あ、マテュー、蛇だよ。」
「あー蛇ね。ふーん、ってウオオオオウウウ!!!!」
猛ダッシュで5メートル後ろに下がるマテュー。
尋常じゃない驚きかた。
「え?そ、そんなに危ない蛇なの!?」
「フミ!!近づいたらいけない!!蛇はスーパーデンジャラスだ!!信じられない!!蛇を見たの人生で2回目だ!!」
「驚きすぎだよ。こんなのまだ赤ちゃんやん。」
そこらへんに落ちてる枝を拾って蛇をつついて向こうに追いやった。
「ノオオオオ!!フミ!!危険だ!!やめるんだ!!!」
「ビビりすぎだって。俺のホームタウンでは蛇なんかそこらへんにいたよ。」
子供の頃から2~3メートルあるようなアオダイショウとか普通に見ていたので、別にこれくらいなんてことない。
猿の横で飯食って、牛の横で寝てるインド人が蛇にビビりまくってるのが逆にめっちゃ面白かった。
「はぁはぁ………フミはすごいな。信じられないよ。」
「マテューはシティーボーイだなぁ。」
2人で笑いながら不衛生そうな食器でご飯を食べた。
「それじゃあ、何か困ったことがあったら呼んでね。俺はここの2階で寝てるから。」
「うんわかった。マテュー!蛇だー!助けてー!!って呼ぶよ。」
「それは勘弁してくれ。」
月光が原野に降り注いで、ヤシの木のシルエットが夜空に浮かび上がっている。
静寂だけがそこにあって、生ぬるい夜風がどこからかふいてくる。
まるで世界の果て。
でもここでも人間が生きている。
夜が何もかもを覆い隠す。貧しさの影すらも。